デイリー・アップデート

2025年7月17日 (木)

[フランス] 

7月16日、フランソワ・バイルー首相は来年度の財政赤字をGDPの5.4%から4.6%に削減することを目標とした、約440億ユーロ(510億ドル)の歳出削減案を発表した。この提案には、二つの祝日の廃止、医療費の引き上げ、年金や手当の凍結、などが含まれている。バイルー首相は2029年までに財政赤字を2.8%にまで削減することを公約していた。バイルー首相が予算を通過させるためには、社会党(PS)または極右の国民連合(RN)の黙認が必要であるが、両党ともこれに強く反対している。

 

この予算案は、9月に議会で議論される予定だが、特別な憲法上の権限を行使して議会の投票なしに成立することもできる。しかし、議会を無視して予算を通過させると、不信任投票を引き起こし、PSとRMがこれに賛成するとみられている。

 

バイルー首相は2024年12月に首相に就任して以来、5回の問責動議を乗り越えてきたが、6回目の問責動議を乗り越える可能性は低く、マクロン大統領が彼の後任を選出するとみられている。次期首相の有力候補は、セバスチャン・ルコルニュ国防相と中道寄りの社会党のベルナール・カズヌーブ元首相の可能性が高い。しかし、新しい首相も緊縮予算の成立には苦労するとみられ、2026年の1月か2月までに2026年の予算を成立させられなければ、マクロン大統領は再び選挙を招集して行き詰まりを解消する必要がでてくる。

[ハンガリー] 

2010年からオルバン政権が続くハンガリーは2026年4月に総選挙を控えており、政権を強く批判する新興野党「ティサ(尊重と自由)」への支持が急伸し、政党支持率で首位に立った。ティサの党首であり、2024年に活動を開始したばかりの新人政治家ペテル・マジャル氏(44)はソーシャルメディアを舞台にオルバン政権の汚職体質などに抗議し、人気を高めている。マジャル氏は、オルバン氏に近い一部の企業経営者が入札などで優遇を受けていると指摘される政権を「腐敗している」と批判し、汚職対策の不備などで凍結中のEUの資金を、必要な改革を進めて取り戻し、医療改革や住宅・鉄道の整備などに充当する「ニューディール」政策を実施し、国民生活を改善させると主張している。背景には、長期に続くオルバン政権の強権的な政治姿勢や経済低迷などへの国民の不満があり、同国は来春(2026年4月)、16年ぶりの政権交代となるか注目されている。

[シリア/イスラエル] 

7月13日以降、シリア南部スワイダにおいて地元のイスラム教スンニ派部族と少数派のドルーズ派コミュニティとの衝突が発生しており、シリア政府は同地に治安部隊を派遣したが、隣国イスラエルは、少数派のドルーズ派がシリア政府による虐殺に遭っていると主張して介入し、シリアへの攻撃を強めている。一連の衝突で既に260人以上が死亡しているとの報告もある。7月16日には、イスラエルはシリアの首都ダマスカスの大統領官邸とシリア軍司令部を爆撃した。この空爆で1人が死亡、28人が負傷した。また、イスラエルに住むドルーズ派数百人が、シリア国内のドルーズ派を助けるために、国境を越えてシリアに入国した。

 

トランプ政権は、シリアの内戦からの復興を後押しするため対シリア制裁の解除を進めてきており、シリア情勢悪化の懸念から、イスラエルに対してシリア政府を標的とした攻撃を中止しシリア政府と対話するよう求めている。

 

2024年12月にアサド政権が崩壊して以降、それまで反体制派勢力を率いてきたシャラア氏が新たな暫定大統領に就任して国を率いているが、イスラエルは元イスラム過激派のシャラア氏が率いる新生シリアに対する警戒を緩めていない。シリアでは、2025年に入って以降、少数派のアラウィー派やキリスト教会に対する攻撃などが発生しており、シリア新体制の少数派保護に対する姿勢が注目されている。

[ブラジル] 

7月16日、Genial/Quaesが発表した世論調査によると、ルーラ大統領の支持率は6月の40%から43%に上昇している。一方、不支持率は57%から53%に低下した。また、7月15日に発表された別の世論調査でもルーラ大統領の支持率は50%近くまで回復している。

 

Genial/Quaestによると、回答者の72%が、ボルソナロ元大統領に対する政治的迫害の疑いを理由に、トランプ大統領がブラジルに関税を課すのは間違っていると考えている。また53%が、ブラジルが米国に報復することに賛成している。これらのことから、トランプ大統領の干渉が、ルーラ大統領の支持率を上げる効果があったようだ。それ以前にも食料インフレ率の低下や、富裕層への増税を訴える政策により、支持率は上昇傾向にあった。政治的には、ルーラ大統領の支持率の上昇により、議会での影響力が高まり、2025年後半の財政リスクが軽減されるとみられている。

 

一方、野党については混乱がみられ、7月12日、サンパウロ州知事のタルシシオ・デ・フリータス氏は、米国がブラジルからの輸出に課すと発表した50%の関税について、税率を削減するための交渉を呼びかけた。ジャイル・ボルソナロ前大統領の息子らが、議会に対して父親の免責を承認させることで関税軽減を求めている主張と対立している。ルーラ大統領がトランプ大統領に関税削減を要請する兆候を示さない中、関税対立がさらに激化するリスクが高まっている。

 

フリータス氏とボルソナロ前大統領の息子は、どちらがボルソナロ大統領の後継者として2025年の大統領選に出馬するかが注目されていたが、この動きは右派陣営の亀裂を拡大している。

 

ボルソナロ前大統領の支持者らは、2023年1月8日のクーデター未遂事件で起訴された者に対する恩赦法案が承認されれば、米国が関税を撤廃すると主張している。フリータス氏が恩赦ではなく、交渉を主張したことで、ボルソナロ前大統領も自身の後継者としてフリータス氏を推さず、2026年の大統領選で自身の息子を選ぶ可能性が高まった。

[米国] 

連邦準備理事会(FRB)の「地区連銀経済報告(ベージュブック)」によると、経済活動は、5月末から7月初めにかけてわずかに拡大したと総括された。12地区のうちリッチモンドやシカゴなど5地区がわずか、または緩慢に(modest)拡大した。その一方で、アトランタやセントルイスなど5地区が横ばい、ニューヨークとフィラデルフィアの2地区が緩慢に縮小した。前回5月時点では「わずかに低下した」という表現であり、約半数の地区がわずかな縮小を報告していた。そのため、前回時点よりも経済状況は上方修正されたと言える。

 

また、「関税(tariff)」への言及は計75回となり、前回の122回から減少した。ただし、全12地区で言及があり、依然として経済の重石になっていることがうかがえる。関税が販売価格に転嫁されている一方で、想定よりも限定的という報告もあった。ただし、関税政策自体がまだ固まっていないため、企業が様子見姿勢を維持しているようだ。また、消費者は値上げのタイミングを見計らっており、売上の変動が大きくなっているという声もあった。需要の低迷から、採用活動を控えるという企業の声も少なくなかった。

[米国] 

7月16日、トランプ大統領はSNSで、コカ・コーラ社が米国市場向けコーラに人工甘味料でなくサトウキビ糖を使うことで同社が合意したと述べた。トランプ政権で厚生長官を務めるロバート・ケネディ・ジュニア氏は「米国を再び健康に(MAHA)」をスローガンに掲げ、5月に公表した報告書では加工食品や食品添加物による健康への悪影響に言及していた。コカ・コーラ社は大統領の自社製品への熱意に感謝すると述べ、新たな革新的な製品の詳細について近日中に公表するとしているが、サトウキビ糖に切り替えるかは明言していない。

 

コカ・コーラ社はコスト削減の取り組みとして、1980年代から米国市場向けコカ・コーラには主にトウモロコシ由来の高果糖コーンシロップを使用しているが、メキシコなど他国では砂糖を使っている。トウモロコシ精製業者団体は、コーンシロップと砂糖は栄養的に同等だとする科学的研究に言及し、砂糖に変えても栄養上の利点がなく、砂糖輸入が増え、米国食品製造業の雇用と農家の収入が失われる、トランプ政権のアジェンダに反する、と主張している。清涼飲料メーカーは、鉄鋼・アルミ関税にともなう缶材コストの上昇への対処も必要な状況だった。

 

コーンシロップの生産拠点はイリノイ・アイオワ・ネブラスカなど、2024年選挙でトランプ氏を支持した中西部の農業州。米国のサトウキビは主にフロリダ州・ルイジアナ州で栽培され、不足分は関税割当制度のもとで輸入される。サトウキビの世界最大の生産国はブラジルだが、トランプ政権は8月1日付でブラジルからの輸入品に50%の関税発動を通知している。

 

なお、トランプ大統領はダイエットコークの愛飲者で知られ、ホワイトハウスの執務室にはコーラ発注ボタンも備え付けられているという。

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