デイリー・アップデート

2025年10月10日 (金)

[ロシア/アゼルバイジャン] 

10月9日、ロシアのプーチン大統領はアゼルバイジャンのアリエフ大統領と訪問先の中央アジア・タジキスタンで会談した。2024年12月に起きたアゼルバイジャン航空機の墜落について、ロシア軍が発射したミサイルが旅客機の損傷につながったと述べ、ロシアの誤射を事実上認めた。ロシア側が補償を実施し、関係者の法的な責任を問うとも表明した。同墜落事故では38人が死亡した。一方、当時、上空ではウクライナ軍の無人機が飛行しており、これらが根本の原因だと強調した。

 

そのほか、両首脳は今回の首脳会談で両国の関係回復についても協議された。プーチン氏は、二国間の貿易額が2024年に前年比6%増えたとして、「利益が多くの分野で一致する」と述べた。アリエフ氏は事故について会談で取り上げたことに謝意を示し、関係が「あらゆる分野で順調に発展している」と応じた。

 

ロシアの治安当局は2025年6月末、20年以上前に起きた殺人事件を巡り、アゼルバイジャン系の約50人を拘束し、うち2人が死亡した。アゼルバイジャン側は報復としてロシア国営メディアの記者らを拘束し、外交摩擦が激化した。アゼルバイジャン国営テレビは、ロシアの「帝国主義」を公然と批判し始めていた。今回、ロシア側が誤射を事実上認めたことで、関係の修復に向けて動き出したもようである。

[銀] 

スポット銀価格が45年ぶりに史上最高値を更新した。ブルームバーグのデータによると、スポット銀価格の10月9日高値は1トロイオンス=51.235ドル。NY先物ベースではまだ50ドルの大台に届かず、1980年1月に記録した既往高値の50.35ドルを上回っていない。スポット・先物もいずれも、日中高値からは反落している。

 

今回の銀価格高騰は、金と同様のマクロ的背景と、相対的な割安感から、銀も投資人気が高まっていることが主因。しかし、足元のスポット主導の急騰は、ロンドン市場で現物供給が極度にひっ迫したことに起因する。

 

2025年初来の価格上昇率は約70%に達し、金の51%をはるかにしのぐ。銀価格は2025年を迎えた時点で1トロイオンス30ドル前後と、2015~24年までの10年平均(20.1ドル)に比べて1.5倍に値上がりしていたが、金銀比価(金1オンスで買える銀の数量に相当)は10年平均の80倍に対し2025年4月には一時100倍を超えるなど、相対的には銀が割安になっていた。世界の銀ETF(上場投資信託)の残高は年初来で約3,300トン増加。8月には米国証券取引委員会への報告書類でサウジアラビア中央銀行が銀関連ETFを取得したのが明らかになったことも、市場の一部で注目された。最近では、インドで銀ETFの投資人気が高まっている。

 

銀は太陽光パネルや自動車などの分野で需要を拡大している。銀の需給バランスは5年連続で供給不足が続いているとされ、地上在庫が取り崩されている。また、銀ETFに紐づく銀現物は市場から吸い上げられて流通しない。さらに、米国の関税導入観測から、ニューヨーク先物市場の指定倉庫へと銀在庫が移動し、ロンドンの在庫が減少。インドの銀輸入は、2025年上期は高水準だった前年からの反動減となっていたが、8月・9月は輸入急増が伝えられる。これらのことから、ロンドン市場で銀現物の供給が逼迫し、借入コスト(リースレート)が極端に高騰したことが、スポット価格の高騰につながった。

 

10月に入り、既に銀ETFには利益確定売りが出ている。ロンドンの銀在庫も2025年3月の水準よりは高い。米国の関税については、2025年版の米国重要鉱物リストへの銀の新規追加をめぐる最終判断と、関税の合法性判断などの動向も注目される。

[アルゼンチン/米国] 

米国は、アルゼンチンへの支援策を発表した。米国がアルゼンチンを支援する意向は国連総会時に発表されていたが、具体策は示されずアルゼンチンの中間選挙後になるとの見方もあった。

 

しかしここ数日、アルゼンチンでは、ミレイ政権下で通貨ペソの切り下げが現実味を帯びてきており、10月26日に予定されている中間選挙後の為替体制の変更を見越してペソ売りの動きが続いていた。政府は通貨防衛のために、7回連続で市場に介入し、推定18億米ドルを売却した結果、外貨準備を大量に消費していた。政府による介入や、為替管理の一部復活は、現在の為替レートが持続不可能であることを市場に示す結果となり、逆にペソへの不信感を高める結果になっていた。中間選挙では議会の半数の議席が争われるため、ミレイ大統領は経済改革を進めるためにも多くの議席を獲得する必要がある。しかし、9月初旬のブエノスアイレス地方選挙では敗北を喫し、経済の悪化や汚職スキャンダルが政権の信頼を揺るがしている。国連総会での米国からの支援表明は、一時的に市場の売り圧力を抑えたに過ぎず、ラニーニャ現象の予報も加わり、アルゼンチン経済への逆風が強まっていた。

 

そんな中、米国財務省はアルゼンチンの為替市場に初めて介入した。財務省はペソを押し上げるために、アルゼンチンペソを直接購入したと発表し、米国がアルゼンチン中央銀行と200億ドルの通貨スワップの枠組みを最終決定し、米国財務省として、市場に安定をもたらすために必要なあらゆる例外的な措置を直ちに講じる用意があるとベッセント長官は述べている。

 

このニュースを受けてアルゼンチンのドル債は急騰、アルゼンチンペソも0.6%上昇し、1週間ぶりの高水準に達した。 ミレイ氏はペソを固定為替レート帯内に抑え、月末の重要な選挙前にペソが急激に切り下げられるのを防ごうと努めてきたが、米国の支援を受けなければ外貨準備をほぼ使い果たしていたとみられる。

 

米国財務省が運営する緊急基金である米国為替安定化基金は、1994年12月のメキシコのテキーラショック時に200億ドルを貸し出したことや、東日本大震災後の2011年に米国とG7で円に協調介入したことで知られている。

 

なお、ミレイ大統領は10月14日にホワイトハウスでトランプ氏と会談する予定となっている。

[フランス] 

マクロン大統領が政治的混乱に直面する中で、一貫して支持を伸ばしているのがルペン氏率いる極右政党「国民連合(RN)」。マクロン大統領が任命したルコルニュ首相が辞任した直後、ルペン氏はRNがフランスの安定を取り戻す能力を持つ政党であると主張し、議会選挙の実施を求めた。

 

ルペン氏は、RNが選挙を求めるのは政権奪取のためではなく、国を混乱から救い、政府の方向性を明確にするためだと述べた。しかし、マクロン氏が新たな首相を指名する予定であることから、早期の議会選挙実施の可能性は後退している。

 

RNは現在、世論調査で約3分の1の支持を得て、強固な基盤を築いている。ただし、EU資金不正使用疑惑などでルペン氏は有罪判決を受け現在は控訴中だが、議会選挙への立候補を目指している。

 

マクロン大統領の政治的失敗が、RNの支持率向上に寄与している。2022年の議会選挙ではRNが過去最多の120議席を獲得し、マクロン氏は過半数を得られなかった。その後、首相の交代を繰り返したが、予算の可決にも苦戦し、政権の安定性は揺らいでいる。

 

世論調査会社によれば、RNに反対票を投じた有権者の約3分の1が、今後は反対しないと回答しており、RNへの拒否感が薄れていることが明らかになった。RNは次回選挙でも議席を増やす可能性が高く、左派勢力が結束できるかどうかが鍵となる。

 

RN幹部らは、マクロン大統領が再び早期選挙を実施せざるを得なくなった場合、完全過半数を獲得する準備が整っていると述べている。その場合、党首バルデラ氏が首相に任命される可能性が高い。ルペン氏の法的問題は今のところ同氏の人気に大きな影響を与えておらず、2027年の大統領選挙への出馬が禁じられた場合は、バルデラ氏が代役となる見通しである。最新の世論調査では、ルペン氏とバルデラ氏がともに約34%の支持を得る一方、マクロン陣営の候補者は12?15%にとどまっている。RNは市場の不安を和らげるため、急進的な経済政策の一部を緩和し、財政規律の強化を訴えている。これにより、伝統的な保守政党「共和党(LR)」との違いが曖昧になりつつあり、一部の中道派議員は「右派の大同盟」が形成されることを懸念している。

 

このように、フランスの政治情勢は不安定であり、RNが政権獲得に向けて着実に準備を進めていることがうかがえる。今後の展開次第では、フランスの政治地図が大きく塗り替えられる可能性がある。

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