2025年10月7日 (火)
[ジョージア]
10月4日、旧ソ連構成国ジョージア(グルジア)では、首都トビリシなど各自治体の市長や地方議員を選出する統一地方選が行われた。中央選挙局によると、親ロシア色を強める与党「ジョージアの夢」は全自治体で議会の過半数を確保し、得票率は80%を超えたと発表している。市長選でも与党候補が全都市で圧勝した。一方、多くの野党は、政権の圧力や活動家の拘束などを理由に今回の選挙をボイコットし、選挙当日には、首都トビリシで数万人規模の抗議デモが発生した。抗議者は大統領府への突入を試み、警察は催涙ガスや放水銃で対応した。一部ではバリケードに火を放つなどの激しい衝突も起きた。内務省によると、デモ隊による投石などで警察官32人が重軽傷を負ったと発表した。また、国家転覆容疑や暴力的なデモを組織した容疑などで、デモを主導した野党勢力の5人を拘束した。10月5日、コバヒゼ氏首相は野党がデモで権力を不当に乗っ取ろうとしたと主張し、鎮圧を正当化した。
欧州連合(EU)加盟を目指してきたジョージアでは近年、親ロシア・強権色を強める政党「ジョージアの夢」と、親欧米路線への回帰を訴える野党勢力の対立が激化している。2024年には与党が成立させた複数の強権的な法律を巡って野党側の大規模抗議デモが起きた。野党側は、与党の勝利が発表された2024年10月の議会選の結果も承認していない。
[アルゼンチン/中国/米国]
アルゼンチン政府は、中国向け輸出の拡大を目指し、ソルガムきびの輸出基準を強化した。10月3日にアルゼンチン農業事務局が発表した新たな決定では、粒の重量や不純物の割合などの基準が厳格化され、72・70・67キログラム/ヘクトリットルの最低基準を下回る貨物は輸出認証を受けられないと定められた。これは1994年以来の大幅な基準改定であり、中国の輸入要件に合わせた品質規格を導入することで、荷受け拒否を防ぎ、供給の信頼性を高める狙いがある。
発表では、「国内流通の円滑化と品質向上、主要市場への適応を目的とする」と記されており、中国市場を意識した措置であることが示されている。2025年1~8月のアルゼンチンからの輸出量123万トンのうち、122万トンが中国向けであった。
一方、この動きは米国との摩擦を引き起こす可能性がある。トランプ政権が関税を引き上げて以降、中国は米国産ソルガムの代替として南米産を重視しており、今回の基準強化はアルゼンチンの対中依存をさらに強めることになる。ベッセント米財務長官が国連総会中に、「(米国がアルゼンチンへの)200億ドルの支援を発表した直後に、アルゼンチンが穀物輸出税を撤廃し、中国向けの価格を下げた」とする米農務長官の批判的なメッセージを読んでいたことが報じられ、ワシントン内部では、対アルゼンチン支援と対中けん制のバランスが問題となっている。トランプ政権はミレイ政権に対し、米国からの200億ドル支援の条件として、中国とのスワップ協定を破棄するよう求めていると報じられている。
南米では、ブラジルも同様に対中輸出を拡大しており、中国の農産物輸入先の米国からのシフトが鮮明になっている。トランプ政権は、米国農家からの批判や強い要望という圧力を受けるようになっており、米中対立の影響が中南米諸国にも及ぶ状況となっている。
[コートジボワール]
10月2日、国家安全保障会議(CNS)は、9月8日に憲法評議会が決定した大統領選の立候補者(2025年9月10日デイリー・アップデート参照)に対する抗議活動を禁止すると発表した。
10月25日に5年ぶりに実施される大統領選では、憲法評議会の決定により最大野党・コートジボワール民主党(PDCI)のティジャネ・ティアム党首や、コートジボワール・アフリカ人民党(PPA-CI)のローラン・バグボ前大統領など主要対立候補の立候補資格が剥奪された。これに対し両党は10月4日に合同で大規模な抗議活動を行うと宣言していた中でのCNSの発表となった。
CNSは声明で、「(野党)政治指導者を含む複数の個人が、外国人排斥的・憎悪的・破壊的な発言を行い、公共秩序を乱す恐れのある虚偽情報を拡散している」と主張し、安全で平和な選挙を実施するため4万4,000人の治安部隊を動員していると述べた(10月3日、仏RFI紙)。PDCI、PPA-CIは当初予定していた抗議デモを10月11日に延期すると発表している。
大統領選は10月10日に開始され、10月23日まで実施される。10月25日が初回投票日で、暫定結果は独立選挙委員会(CEI)により10月26日~30日の間に発表される予定。憲法評議会は現職のアラサン・ウワタラ大統領(83歳)のほか、4名の候補者の立候補を承認している。しかし、PDCI、PPI-CAはいずれも党代表候補の擁立に失敗したうえ、4名の候補も知名度は高くない。そのため、ウワタラ大統領が初回投票で投票総数の絶対過半数を獲得し、物議を醸す「4期目」の大統領職を務めるとの見方が強い(注)。
しかし、コートジボワールでは2000年以降、大統領選をめぐる混乱がたびたび発生しているだけに、今回の選挙も注意深くみるべきとの見解も多い。2000年の選挙ではバグボ前大統領の勝利に反対した軍の一部が北部・西部を掌握し、内戦状態に陥った。2010年の選挙ではウワタラ大統領の勝利に反対したバグボ前大統領支持者との衝突で3,000以上が死亡。直近2020年の選挙でも60名以上が死亡している。
他方で、経済面でコートジボワールは、国際通貨基金(IMF)アフリカ局長、西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)の総裁を歴任した経済通のウワタラ大統領の指揮のもと、内戦終結後の2012年~24年までの平均実質GDP成長率が6.7%の成長を実現。西アフリカで最も高成長を遂げている国の一つであり、地域における影響力を拡大させている。周辺のサヘル諸国などがロシアの影響も受けて「反仏」を掲げ、軍事政権を維持する中でもコートジボワールは旧宗主国のフランスとも緊密な関係を維持している。西アフリカ全体の民主主義の動向や、治安・経済の安定をうらなう上でも、今回の選挙が平和裏に実施されるか注目が集まる。
(注)ウワタラ大統領2期目の2016年に大統領の3選を禁止する憲法改正を実施。その後に実施された2020年の総選挙は同氏にとって憲法改正後「1期目」であることから、2025年選挙は「2期目」であるとの憲法解釈が行われている。野党陣営はこれは違憲だと反対・抗議している。
[日本]
総務省「家計調査」によると、8月の実質消費支出(2人以上の世帯)は前年同月比+2.3%となった。上昇率は4か月連続プラスで、7月(+1.4%)から拡大した。
内訳を見ると、食料が実質で前年同月比▲1.2%と減少。名目では+5.9%と増加したので、物価上昇の影響の大きさが確認できる。その一方で、被服及び履物(同+5.4%)や交通・通信(同+13.5%)、教育(同+16.9%)、教養娯楽(同+12.2%)などは増加した。品目別では、自動車購入や外国パック旅行費、国内パック旅行費などが増加した。2024年には、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)や台風など災害があった。当時、備蓄需要が増加したのに対して、観光・行楽などの需要が減少した。また、台風などで一部自動車販売店が休業するなど、店舗側の対応も結果的に消費の下押しにつながった。2025年には、それらの反動が表れた一面がある。大阪・関西万博も開催されており、観光などの反動増を押し上げた。
8月の実質実収入は前年同月比+2.8%となり、3か月ぶりに増加した。内訳を見ると、世帯主収入(同▲0.2%)が3か月連続で減少した一方で、配偶者の収入(同+6.9%)が2か月連続で増加した。高い物価上昇率が継続しており、実質賃金の回復が遅れており、個人消費の重石になっている。
[オーストラリア/資源/エネルギー]
10月7日、オーストラリア政府の産業科学資源省が資源エネルギー四季報(2025年9月)を発表した。同国の資源エネルギー輸出の見通しを中心にまとめられている。2026/27年度までの2年間において、オーストラリアの一次産品輸出量が緩やかに増加しても、単価下落により輸出額は減少するが、例外的に金は価格高騰により輸出額も増えて他の落ち込みを一部相殺する見通し。今回のハイライトは、2025/26年度には金が液化天然ガス(LNG)を抜いて同国第2位の輸出品目に浮上するという予測だ。
今回の予測では、資源・エネルギー輸出額は2023/24年度の4,150億豪ドル、2024/25年度の3,854億ドルから、2025/26年度は3,694億豪ドル、2026/27年度は3,541億ドルと減少していく。特にエネルギー輸出額は2023/24年度の1,800億豪ドルから2026/27年度は1,265億豪ドルに減少。一方、金属鉱物資源は同期間に2,348億豪ドルから2,277億豪ドルへの減少にとどまる。
最大の輸出品目は鉄鉱石で、2025/26年度は1,130億豪ドルと全体の4分の1以上を占める。しかし、鉄鉱石は今後値下がりが予想され、輸出額も減少する見通し。金輸出額は600億豪ドル、LNGは540億豪ドルと予想されている。アルミナは2024年の価格高騰が収束し、輸出額は減少する一方、リチウムは近年の大幅下落から価格が回復し、輸出額は持ち直す見通し。マンガンやレアアースなど「その他重要鉱物」の輸出は2024/25年度の20億豪ドルから2026/27年度は50億豪ドルに増加するとしている。
[ペルー]
2026年4月12日に予定されている大統領選挙は、依然として行方が定まっていない。9月30日に発表されたイプソスの世論調査によれば、リマ市長ラファエル・ロペス・アリアガ氏が有権者の支持を最も集めているものの、その支持率はわずか10%にとどまっている。アリアガ氏は、保守系の極右に分類され、ペルーのボルソナロとも呼ばれている人物。アリアガ氏以外の他有力候補としては、過去に3度大統領選に出馬した中道右派のケイコ・フジモリ氏と、元大統領マルティン・ビスカラ氏の弟である中道左派のマリオ・ビスカラ氏がそれぞれ7%の支持を得ている。さらに、コメディアンのカルロス・アルバレス氏が4%、テレビ司会者のフィリップ・バターズ氏が3%の支持を集めている。その他の候補者は2%未満の支持にとどまっている。
今回の選挙は、現職の中道左派ボルアルテ大統領の支持率がわずか3%であること、そして約40の政党・団体が出馬登録を行っていることから、国民の政治への不満と分断が顕著に表れる選挙になると予想される。武装集団による事件や恐喝が頻発し、リマでは非常事態宣言が出されるなど、治安問題が深刻化していることから、有権者の最大の関心事は「犯罪対策」となっている。また、経済面では、物価高と金利高の影響が後退しつつあるが、依然として格差や貧困層への支援が課題となっている。さらに、次期選挙から一院制が二院制に移行予定となっており、政治制度の見直しも争点の一つ。
なお、大統領候補者の登録期限は12月23日である。ペルーでは投票が義務化されており、棄権には罰金が科される。現在、国民の約半数(49%)は、投票先を決めていないか、白票または無効票を投じる意向を示しており、有権者の動向は今後大きく変化する可能性がある。南米全体では、ピンクタイド(左派政権)からの揺り戻しの動きも一部出ているが、ペルーの次期大統領選は、右派・左派のイデオロギー対立だけでなく、国民の政治不信、治安不安、経済格差といった複合的な問題が絡み合っていることから、候補者の支持率は分散しており、今後の情勢次第で、泡沫候補が台頭する可能性もある。
[フランス]
フランスのセバスチャン・ルコンヌ首相が辞任を表明した。辞任は6日に発表され、エマニュエル・マクロン大統領によって首相に任命されてからわずか1か月足らずしか持たなかった。ルコンヌ氏は、財政赤字削減を目指す予算案への議会の反発により解任されたバイルー氏の後任として首相に就任していた。
ルコンヌ氏は、少数与党の立場で2026年度予算を成立させるため、社会党(PS)との妥協を模索したが、交渉は不調に終わった。2024年7月の総選挙以降、議会は過半数政党がなく、政治的な分断が深刻化している。今回の辞任は、過去1年間で4人目の首相交代となり、政権の不安定さをさらに浮き彫りにした。
マクロン大統領には、次の首相を任命するか、総選挙を再び実施するか、あるいは自身が辞任して大統領選挙を前倒しするという選択肢がある。大統領は新たな首相の任命を望んでいるが、議会の機能不全を受けて、早期の総選挙や自身の辞任を求める声が高まる可能性がある。とはいえ、首相交代や総選挙では議会の行き詰まりを解消できない可能性が高く、実質的に政策を実行できる体制を築くには、大統領選挙の実施が最も効果的と考えられる。ただし、大統領選の前倒しは現時点では最も可能性が低いとみられている。
ルコンヌ氏の辞任は、フランス経済の方向性に対する投資家の不安をさらにあおることになる。
[米国/イスラエル/パレスチナ]
イスラエルのネタニヤフ首相がホワイトハウスを訪問した際、トランプ米大統領が発表したガザ停戦提案「20項目の計画」について、ハマスが大枠で合意する姿勢を示したことを受け、その詳細を詰めるためのイスラエルとハマスの間接協議が、10月6日からエジプトで始まった。協議は今後数日間続く見通しである。米国からはウィトコフ中東担当特使に加え、トランプ大統領の娘婿であり第1期政権時に中東和平問題を主導したクシュナー元大統領上級顧問も参加する予定となっている。
「20項目の計画」には、双方の合意後、戦争を即時終結すること、ガザに拘束されている人質48人(生死を問わず)を合意から72時間以内にイスラエルへ返還することが盛り込まれている。その見返りとして、イスラエルはパレスチナ人の終身刑受刑者250人に加え、2023年10月7日以降に拘束したガザ住民1,700人を釈放する。また、イスラエル軍がガザから段階的に撤退すること、国連などによる人道支援物資の搬入を妨げないこと、さらに戦後のガザを非政治的なパレスチナ人と国際専門家で構成される委員会が運営することなども明記されている。
今回の協議では、人質返還の具体的な時期、イスラエルが釈放する受刑者の選定とそのタイミング、イスラエル軍の撤退範囲およびスケジュールなど、まずは停戦および人質交換に関する短期的な合意内容の詳細調整が行われる予定である。トランプ政権は、この協議に長時間を費やすつもりはないと明言しており、戦後のガザ復興や統治に関する協議は後段階に回される見込みである。
10月7日で、ハマスによるイスラエル奇襲を発端としたガザ紛争の勃発から丸2年を迎える。これまでにガザでは人口の約3%にあたる6万7,000人のパレスチナ人が死亡し、数千人が行方不明となっているとされる。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリ氏らが乗船したことで注目を集めたガザ支援船団が、10月1日にガザ沖でイスラエル軍に阻止された映像が世界中に拡散し、各国でイスラエルを非難しガザ停戦を求める抗議活動が激化している。こうした中で始まった今回の停戦協議への国際的な期待は、一段と高まっている。
[米国]
10月4日、トランプ大統領はイリノイ州兵の連邦化を図り、同州シカゴ市に部隊300名を派遣した。10月6日、イリノイ州のプリツカー知事は、州兵の派遣は憲法違反であるとして連邦裁判所に提訴した。トランプ政権は、テキサス州知事の同意を得て、テキサス州兵のシカゴ市への派遣も命じた。トランプ政権は、イリノイ州やシカゴ市における治安悪化と連邦庁舎や職員の保護を名目に派遣するとしている。なお、9月末にはオレゴン州ポートランド市への派兵も行ったが、連邦地方裁判所から派兵の一時差し止め命令が出たため、トランプ政権は即時控訴した。通常、州兵は州知事の指揮下にあるが、トランプ政権は緊急事態を理由に、州知事の同意が無くても州兵を連邦化し、派兵している。
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