デイリー・アップデート

2025年10月15日 (水)

[鉄鋼] 

10月13日に世界鉄鋼協会(WSA)が発表した短期鉄鋼需要予測によると、世界の鉄鋼需要は2024年が前年比▲1.6%減の17億4,940万トンと推定されるのに対し、2025年は17億4,920万トンで底を打ち、2026年は17億7,250万トンと前年比+1.3%の増加に転じる見通し。世界貿易戦争が激化し、不確実性はあるが、世界経済が示した回復力、主要国における公共インフラ投資、資金調達環境の緩和などを理由に慎重ながらも楽観的な見通しを示している。2026年はインド・ベトナム・エジプト・サウジアラビアなど新興国の高い伸びを見込んでおり、中国の需要減少ペースは緩み、欧州の需要増加は加速する。

 

中国は2021年以降、需要縮小傾向が続き、2025年は▲2.0%減の8億3,950万トン、2026年は▲1.0%減の8億3,110万トンを想定。インドは2025年、2026年ともに9%近い伸びとなり、2026年の需要量は1億7,570万トンと2020年比で7,500万トン増となる見通し。先進国では、EUと米国の需要が2025年で下げ止まり、2026年は持ち直す一方、日本・韓国の需要は2026年まで低迷が続くとしている。

 

WSAは、アフリカについて、2010年代なかばから10年近く、需要が3,500~4,000万トンでほぼ横ばいで推移していたが、過去3年で状況が大きく変化していると指摘。2023年以降はアフリカ北部・東部地域を中心に需要は年平均+5.5%増加したという。アフリカの主要経済国の多くはインフレと為替のボラティリティが低下したのに加え、複数の国が野心的な経済多角化アジェンダを推進しており、需要増加が続く可能性があるとしている。

[マダガスカル] 

10月14日、軍の精鋭部隊「CAPSAT」のランドリアニリナ大佐は国営ラジオで「我々は権力を掌握した」と宣言した。CAPSATは、10月11日に首都アンタナナリボで発生した若者ら「Z世代」を中心とする大規模な反政府抗議デモに加勢し、翌10月12日に「マダガスカルの陸海空・全軍を掌握した」と宣言していた(2025年10月14日デイリー・アップデート参照)。ランドリアニリナ大佐は「軍が国民議会(下院)を除く、全ての国家機関を解散させる」と発表。これにより、上院、高等憲法裁判所、国家選挙管理委員会、高等裁判所などが機能停止に追い込まれる見込み。また、同氏は、「軍主導の委員会が最大2年間、暫定政府と共に国家を統治した後、新たな選挙を実施する」と述べたと報じられている(10月15日付、英ロイター紙)。

 

抗議デモの過熱化と軍の出動を受けて、ラジョエリナ大統領はフランス政府の支援を得て(同氏は2014年にフランス国籍も取得)国外の「安全な場所」に避難しているものの、いまだに辞任を拒否。事実上のクーデターを起こしている軍への批判を続けている。ラジョエリナ大統領は下院議会で自身の弾劾裁判が行われることを見越し、10月14日に下院議会の解散を発表。その後、下院議会は賛成130票、棄権1票でラジョエリナ大統領の弾劾を決議した。同氏が率いる与党「決意したマダガスカルの青年(TGV)」の議員らも賛成にまわった形だ。ラジョエリナ大統領は「下院議会解散後の会議の招集は違憲である」とし、弾劾裁判の無効を主張しているが、下院議会は「議会解散の発令自体が違憲」であると反論しており、両者の意見は食い違っている。

 

弾劾決議と、軍による「権力掌握」の発表を受けて、高等憲法裁判所は「大統領の空席」を発表。その上で、ラジョエリナ大統領が大統領職を放棄したとみなし、権力掌握を発表したランドリアニリナ大佐に(暫定)大統領に就任するよう要請。同氏に対して憲法に沿って60日以内の選挙の実施を求めた。しかし、ここでも「最大2年間の政権移行期間」と言及している軍の意向との相違がみられるほか、軍はこの判断を下した高等憲法裁判所の解散・停止の発表をしていることから、既存の憲法解釈どおりに履行されない可能性が高い。

 

マダガスカルでは、2009年にラジョエリナ氏とCAPSATが率いたクーデターの後、暫定軍事政権が発足。2013年に民主的な総選挙が実施されるまでの4年間で、アフリカ連合(AU)、南部アフリカ開発共同体(SADC)の参加資格停止や、米国の「アフリカ成長機会法(AGOA)」の適用資格停止の処分を受けるなどし、国際社会から孤立した。国民の4分の3が貧困層とみなされている国の経済はさらに疲弊した。今回も軍による政権掌握期間が長引けば、国際機関等からの援助の減少などの影響も起こりうる。すでにAUや、SADC、国連などもマダガスカルでの「違憲」な政権交代の動きに対して深刻な懸念を表明している。

 

なお、マダガスカル国内では、ラジョエリナ大統領に対するフランス国籍付与や国外退避を支援したとみられる旧宗主国のフランスへの反感が高まる動きもみられている。こうした中、マクロン大統領は「憲法秩序の維持は極めて重要。軍の勢力や外国の干渉に乗っ取られてはならない」とマダガスカル国民に対して自制を呼びかけている。一部のメディアは、マクロン大統領がほのめかした「外国」はアフリカの旧フランス植民地で起こる一連の反仏運動を扇動しているとみられる「ロシア」を指していると指摘している(10月14日付、仏ル・モンド紙)。

[イスラエル/パレスチナ] 

10月10日にイスラエルとハマスが停戦合意に至った。合意では72時間以内にハマスが生存している人質20人と28体の遺体をイスラエル側に返還することが定められていた。しかし、期限までに返還された遺体は4体にとどまり、生存する20人は全員解放されたものの、遺体返還の履行は大きく遅れた。その後、10月14日に追加で4体の遺体が返還され、15日にもさらに4体を返還する予定とされたが、期限を過ぎてもすべての遺体が返還されなかったことに対し、イスラエル側は強く反発している。イスラエルは、予定していたラファハ検問所の封鎖解除を延期し、ガザへの支援物資搬入量を当初予定の半分に制限する方針を決定した。ラファハ検問所はガザ地区とエジプトをつなぐ主要な出入口であり、人道支援物資の搬入経路として極めて重要な拠点である。

 

ハマス側は、交渉段階ですでに28体すべての遺体の所在を完全に把握しているわけではないと説明しており、瓦礫(がれき)の中に埋もれている可能性があるため、72時間以内に全遺体を返還することは困難であると主張していた。人質交換および遺体返還を仲介する国際赤十字委員会(ICRC)の担当者も、遺体返還は生存者の解放以上に複雑で困難な作業であり、数日から数週間を要する可能性があると指摘している。また、遺体の一部は発見されない恐れもあると警告している。

 

10月14日には、イスラエル軍の発砲によりガザで複数のパレスチナ人が死亡したとの報道があるほか、イスラエル軍が撤退した地域ではハマスと地元部族の間で衝突が発生し、数十人が死亡したとの情報もある。停戦合意の第1段階の履行段階ですでに多くの難題が顕在化しており、今後さらに複雑で困難な問題を伴う第2段階に移行できるのか、それともこれまでの一時停戦と同様に戦闘が再開してしまうのか、引き続き注視する必要がある。

[IMF] 

10月14日、IMFは世界経済見通し(WEO)を発表した。2025年の世界経済成長率は3.2%と予想され、前回7月時点(3.0%)から上方修正された。また、4月時点の見通しでは2.8%であり、2回連続で上方修正されたことになる。その一方で、2026年の世界経済成長率は3.1%に据え置かれた。急激な落ち込みを回避できるとは言え、2024年の3.3%から緩やかに減速する姿が予想されている。当初の予想よりも低い関税率に加えて、輸入の駆け込みによる前倒し、供給網の迅速な迂回などが世界経済の成長を下支えしている。その他にもドル安や、ドイツなど欧州や中国の財政刺激策、AI投資ブームも成長につながったと指摘された。これまでのところ、関税が経済や物価に及ぼす影響は限定的であるものの、今後、価格転嫁の動きが進めば、高めの物価上昇率が継続する可能性もある。

 

ただし、トランプ大統領が10月10日に中国に対する100%追加関税を表明したことなどは、今回の見通しの前提条件になっていない。そのため、仮にそれらが実現すれば、経済成長の重大な下振れリスクになることには注意が必要だ。

 

2025年の日本の経済成長率は1.1%と、前回から0.4pt上方修正された一方、2026年は0.6%へ▲0.1ptと小幅に下方修正された。実質賃金が上向くことで個人消費が持ち直し、低調な外需の逆風を相殺する姿が想定されている。また、中立水準とみられる1.5%に向けて政策金利が徐々に引き上げられる見通しになっている。

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