2025年10月16日 (木)
[インド]
10月15日、インドルピーが対ドルで急反発した。インドルピーは2025年の「最弱通貨」のひとつであり、米印貿易交渉の難航などが嫌気され、9月30日には1ドル=88.805ルピーと過去最安値を付けていた。中央銀行は為替介入による通貨防衛を図っており、10月15日にも大規模な介入が行われたもよう。
この通貨安の背景には、経常収支悪化の懸念もある。トランプ米政権がH-1Bビザ制度を改訂したことでインドから米国への人材移動が減れば、インド国内ビジネスにも悪影響となり、送金減少につながる。また、10月15日にインド商工省が発表した9月の貿易収支は321億5,000万ドルの赤字。この赤字幅は過去13か月で最大で、市場予想も大きく上回った。対米輸出の減少だけでなく、貴金属・肥料輸入の増加が影響。金・銀の価格高騰と、銀輸入量の急増で輸入額が大きく膨らんだ。
トランプ米大統領は、10月15日にモディ首相と電話会談を行い、モディ首相がロシア原油の輸入停止を約束したと述べた。在米インド大使館はコメントしていないが、米印貿易交渉進展の見通しはいく分改善している。Kplerのデータによると、インドは2025年1~8月にロシアからの原油輸入は▲10%と削減しているが、国営製油所が大幅に輸入を減らす一方、民間製油所のロシア原油輸入はむしろ増えている。9月時点でインドの原油輸入の34%がロシアからで、依然として最大の輸入先となっている。
[アルゼンチン/米国]
10月14日、米国のトランプ大統領は、アルゼンチンのミレイ大統領との会談の後、アルゼンチンに対する200億ドル規模の金融支援について、ミレイ大統領が10月26日の中間選挙で成功することが条件であると発言した。この発言が、為替市場に新たな懸念をもたらしている。また、トランプ大統領は、両国間で自由貿易協定の可能性についても協議する意向も示し、貿易を通じてアルゼンチンを助けたいと述べた。
ミレイ大統領の政府支出の削減と緊縮政策に加えて、最近のスキャンダルが不支持率の上昇につながっているが、米国からの財政支援を受けても、ミレイ大統領の支持率向上には直結していない。この中間選挙において、与党が35~40%以上の票を得れば勝利とみなされる一方、30%を下回れば市場の大幅な売りが予想されている。
トランプ大統領は、中国との軍事関係を深めるアルゼンチンに対して懸念を表明した。米国は、支援がアルゼンチンと中国の通貨スワップ終了を前提としていないとしたものの、アルゼンチン国内に建設された港や軍事基地、観測施設などを挙げ、中国の影響力として懸念し、中国との過度な関係構築をけん制した。
アルゼンチンの為替制度に関しては、ミレイ大統領が当初掲げた「ドル化」政策について、米国は現在のバンド内での変動為替制で満足しているとの見解を示した。アルゼンチン側もミレイ大統領の側近のスターツェネッガー氏が、アルゼンチンが間もなく変動為替レートに移行すると発言したものの、変動為替レートへの移行は最終的なものとして説明を修正している。ただし、バンド制においても、アルゼンチンは為替レートを維持するため頻繁に介入しており、変動幅は日々拡大している。米国財務省も先週、ペソの下落を食い止めるために直接介入し、一旦はペソ安の流れは反転したものの、会談を受けて再びペソが売られており不安定な動きが続いている。
さらに、米国の金融支援についても懸念がある。この支援が米国の「アメリカ・ファースト」政策と矛盾するとして、米国内の民主党議員の一部から批判が出ている。また、通貨スワップは、アルゼンチンが中国に大豆を売却した直後に実施されたものであり、米国の農業関係者の不満も招いている。
[EU/中国/米国]
EUは中国による希少鉱物の輸出規制に対し、より厳しい対応を取る姿勢を示している。EUの通商担当委員は、G7諸国と連携して対応する方針を明らかにし、新たに提案されている「産業加速法(Industrial Accelerator Act)」では、EU域内に投資する中国企業に対して、現地企業への技術移転を義務づける可能性も示唆した。
先日、オランダ政府はEUの経済安全保障の観点から、中国資本の半導体企業ネクスペリア社の経営権を掌握し、中国人CEOを解任したが、これは米国からの圧力が影響していたことが明らかになっている。
EUが米国との貿易政策や対中政策で足並みを揃えることは、現在米欧間の摩擦が高まる中で、米国との協調を強化する重要な手段となり得る。今後、EU域内の戦略的分野における中国企業や投資家に対する監視は一層厳しくなる見通しであり、中国の輸出規制に対して強力な対応を取るための基盤が整いつつある。
また、EUと米国の政策の連携が進めば、今後予定されている米中首脳会談に向けて、米国が中国に対してさらなる交渉力を持つことにもつながる。
[ケニア]
10月15日、ケニア最大野党「オレンジ民主運動(ODM)」のライラ・オディンガ党首が療養中のインド・ケララ州で急逝した。散歩中に心臓発作を起こしたと報じられている。享年80歳だった。訃報を受けて、インドのモディ首相は「(オディンガ氏は)傑出した政治家であり、インドの大切な友人だった」と弔意を示し、南アフリカのラマポーザ大統領は「ケニア国民と我々アフリカ大陸は愛国心にあふれ、私利私欲のない指導者を失った」と同氏の死を悼むなど世界中の指導者から追悼のメッセージが寄せられている。ケニア政府は10月17日に国葬を実施すると発表している。
ケニア独立時に副大統領を務めていた父を持つ政治エリート一家に生まれたオディンガ氏だが、その政治人生は波乱に満ちたものだった。父・オギンガ・オディンガ氏は当時のジョモ・ケニヤッタ初代大統領との意見の相違から対立し、野党に転身。息子のライラ・オディンガ氏も野党政治家として独立以来続いていた「ケニア・アフリカ民族同盟(KANU)」による一党独裁制への抗議活動を実施。1982年には当時のダニエル・モイ大統領に対するクーデター容疑で逮捕され、計9年間にわたり拘留された(うち6年間は独房)。しかし、オディンガ氏の熱意がケニアの民主化の波を動かし、1991年に憲法改正を経て、複数政党制が導入された。オディンガ氏もこの年に釈放された。オディンガ氏らの反政府活動がなければ、ケニアも周辺のエチオピア、ウガンダ、ルワンダ、タンザニアのように政治的自由が大幅に制限された国になっていたと評価する声もある(10月15日付、英FT紙) 。
国内で4番目に人口が多いルオ族出身のオディンガ氏は、ルオ族が集中する西部のヴィクトリア湖周辺や、首都ナイロビ最大の低所得者居住地域「キベラ」に岩盤支持層を有しており、1992年に国会議員に初当選した。1997年、2007年、2013年、2017年、2022年と5回大統領選に挑戦したが敗退。特にムワイ・キバキ大統領と争った2007年の大統領選では、キバキ陣営が不正投票で勝利したと激しく抗議。キバキ氏を支援する国内最大の民族グループであるキクユ族と、オディンガ氏を支援するルオ族との間の緊張が高まり、1,000人以上が死亡する惨事となった。この結果、当時のコフィ・アナン国連事務総長が仲介・融和を進める形で、キバキ大統領とオディンガ氏を首相とする統一政府が発足した。この一件もあり、オディンガ氏は2010年の総選挙結果をめぐって内戦に発展したコートジボワールでの仲介役をアフリカ連合(AU)から委嘱された。
オディンガ氏は、2013年以降の選挙でも敗退のたびに与党側に不正があったとの主張を続けてきたが、そのたびに与党単独では政治的資本が不足している状況を戦略的に利用。野党でありながら「同盟関係」を結び、与党による政治の安定に協力しつつ、自身や家族のビジネスへの利益誘導を図っていた点もたびたび指摘されている。
オディンガ氏は、2022年の大統領選で、僅差でウィリアム・ルト大統領に敗れた後も、当初はルト氏の選挙不正を強く抗議していた。しかし、2024年6月に政府の増税に反対する「Z世代」を中心とする抗議デモの激化により支持を落としたルト氏に接近。低所得者層および民族横断的に支持を持つODMの政治関与により、事態収束に向けた協力を行う見返りに、ODMの議員4人を主要閣僚ポストに配置させ、事実上の与野党連携と自身の影響力の強化を実現させた。また、オディンガ氏は2025年のアフリカ連合(AU)委員長選に出馬し、結果的に敗れたが、ルト氏がオディンガ氏の勝利を支援していたと広く報じられている。
しかし、ODMの幹部からは、2027年の大統領選を控え、国民からの支持を落としているルト大統領率いる与党連合「ケニア・クワンザ」にODMの命運を託しているオディンガ氏に対し、否定的な意見も多く出ていた。同氏の支持者らも野党でありながら、常に機会主義的に与党と連携を図る同氏に対する失望の声もあがっていた(オディンガ氏は「現実主義」と反論)。とはいえ、ODMのみならずケニア政界において圧倒的なカリスマ性を持っていたオディンガ氏の急逝は、明確な後継者格がいないODMの内部分裂をもたらすのみならず、ルト大統領政権の基盤をゆるがすものにもなりうる。2027年の大統領選を前に、ケニアで「大きな政治的空白」が生まれた中、今後の政党間の駆け引きと国内の政治の安定性に注目が集まる。
[米国]
共和党議員の一部が、州政府による外国人トラック運転手への商業運転免許(CDL)発給を認める法案を策定中と報じられている。
移民がアメリカ国内で大型商用車(18輪トラックなど)を運転する免許を各州が出すことを可能にする仕組みを提案している。その際安全確保と英語能力の強化を求めており、英語の読み・会話能力を商業運転に必須とし、英語が不十分な運転手は免許停止とすることを提案している。オバマ政権時代に緩和された基準を再強化する意向が含まれている。
カリフォルニア州が英語要件を十分に実施していないとして、連邦政府が4,000万ドルの道路補助金を差し止める意向を示したとの報道もある。カリフォルニア州政府は反論しているが、安全性への懸念も高まっている。
テキサス州やフロリダ州では運転中に事故を起こした移民や不法滞在中の運転手による事故が報じられており、法案への支持が高まっている。トラック運送の業界団体は、州によるCDL発給は外国人ドライバーが不法にラインセンスを取得することになり市場価値を下落させると批判している。一方で、労働力としての外国人活用と安全性のバランスをとる必要性があるとも指摘されている。
[米国]
10月15日、連邦準備理事会(FRB)は、「地区連銀経済報告(ベージュブック)」を公表した。経済活動は、前回報告から「ほとんど変化していない」と総括された。内訳を見ると、ボストン、フィラデルフィア、リッチモンドの3地区が「わずかから控えめな成長」、クリーブランド、アトランタ、シカゴ、セントルイス、ダラスの5地区が「変わらず」、NY、ミネアポリス、カンザスシティ、サンフランシスコの4地区が「わずかに軟化」と回答した。
個人消費は、やや低下した。EV補助金が9月末で期限を迎えたこともあり、その駆け込みの動きが見られた。高所得者層の旅行・宿泊支出は力強かった一方で、低中所得者層は、物価の上昇や経済の不確実性の高まりなどから、割引や販促などを求め続けていると報告された。製造業の活動は地区によって異なっていた。ただし、大半の地区から、高関税による厳しい状況や需要の弱含みなどが報告された。
先行きの見通しは、地区や部門によって異なっている。企業や家計のマインドは2~3の地区で改善しており、向こう半年から1年で需要が上向くと期待されている。しかし、多くは不確実性の高まりが活動の重荷になると予想され続けている。先行きの力強い成長という姿は想定されていない。
また、雇用水準はおおむね安定している。労働需要は多くの地区・部門で低調だった。大半の地区で、雇用主の多くは、レイオフや自然減で従業員数を減少させていると報告している。賃金上昇は、全ての地区で緩慢から緩やかなペースで進んでいる。
物価はさらに上昇している。複数の地区は輸入コストや保険料などのコスト上昇などから、さらに早いペースで上昇している。関税による原材料費用の上昇は、多くの地区で報告されているものの、販売価格への転嫁の範囲は異なっている。完全に転嫁できる企業もあれば、顧客や需要動向を踏まえて、転嫁をちゅうちょしている企業もあった。
[ロシア/シリア]
10月15日、ロシアのプーチン大統領は、首都モスクワを訪問したシリアのシャラア暫定大統領とクレムリンで会談した。会談の冒頭でプーチン大統領は「ロシアはシリアとの関係を政治情勢に結びつけたことはない」と主張し、両国の長年にわたる友好関係を強調した。ロシアは2011年からのシリア内戦でアサド前政権を支えてきたが、今回は暫定政府との関係構築を目指しているもよう。シャラア暫定大統領は「関係を再構築し、新しいシリアを示せるよう努力する」と応じた。ほか、今回の会議では、ロシアがシリアに保有する軍事基地や、ロシアに亡命したアサド前大統領の扱いについて協議したとみられる。そして、ロシアのノワク副首相によると、会談ではシリアの石油開発を含むエネルギー協力についても議論した。シリアへの小麦や医薬品の供給も協議した。
ドイツ週刊紙ツァイトによると、2024年末にロシアに亡命したシリアのアサド前大統領はモスクワ中心部の高層ビル群「モスクワ・シティ」にある高級マンション3戸で家族とともに居住。マンション下のショッピングセンターを訪れる以外はオンラインゲームで時間を過ごしていると伝えた。
[韓国/カンボジア]
カンボジアで韓国人が犯罪組織に誘拐・拘束される事件が相次いで発生しており、韓国政府は国民の保護を最優先課題として対応を強化している。発端は、カンボジアで就職詐欺に巻き込まれた韓国人大学生が監禁・拷問の末に死亡したとされる事件であり、韓国社会に大きな衝撃を与えた。政府はこれを「海外における組織的な人身被害」と位置づけ、緊急対応体制を敷いた。
李在明(イ・ジェミョン)大統領は10月14日の閣議で、「国民の生命と安全を守ることは国家の最優先責務だ」と強調し、外交通商部、警察庁、国家情報院などに対し、現地調査と被害者救出の徹底を指示した。外務省は直ちにカンボジア大使を呼び出し、韓国人を標的とした就職詐欺・監禁事件の急増に強く抗議するとともに、被害者の所在確認と安全確保に向けて、両国間の常設協議体「韓国デスク」の設置を要請した。
韓国政府はまた、詐欺組織の拠点が集中するカンボジア西部のポイペトやボコール山地などを「旅行禁止地域」に指定し、渡航警報を最高レベルに引き上げた。外交部は在外公館に特別対策班を設置し、現地警察との情報共有を強化したほか、警察庁は被害者救出や証拠収集のため、特別捜査官の派遣を検討している。
政府関係者によれば、現在カンボジアで拘束・行方不明となっている韓国人は少なくとも80人に上り、一部は帰国を拒否しているという。韓国側は現地での法的手続きを経て、段階的な帰還支援を進める方針だ。与野党からは「政府の対応が遅れた」との批判もあるが、李大統領は「外交・警察・情報機関が一体となって被害者を救出し、再発を防ぐ」と述べた。
韓国政府は今後、ASEAN諸国とも連携し、東南アジア全体でのサイバー詐欺および人身取引対策の強化に取り組む姿勢を示している。
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