2025年10月29日 (水)
[日本/米国]
10月28日、日米両政府は、「日米間の投資に関するファクトシート」を発表した。これは、7月の日米貿易合意で、総額5,500億ドル規模の投資が盛り込まれており、それに対応したものと言える。今回示された金額は、合計で4,000億ドル相当だった。
ただし、事業規模の総額の中身は「投資、売上等」とあいまいな点があり、これらの事業が全て日米合意の5,500億ドルの対象になるかは必ずしも明らかではない。また、日本企業の関与を検討という記載もあり、これらの記載が必ずしも実行されるわけではない。実際、赤沢経産相も、記載がある企業も必ず参画するわけではないし、記載がない企業が今後参画することもあると述べた。今後、日本企業が参画する場合は、日米の協議委員会などが内容を協議した上で、トランプ大統領に推薦、参画が決定されることになっている。
[アルミニウム]
アルミニウム アルミニウム指標価格(LME3か月先物)の10月28日終値は2,889ドル/トン。年初来の上昇率は13%とLME銅の半分程度だが、10月の上昇率は銅より高い。2024年以降のレンジの上限を超え、価格上昇を加速している。
アルミに対する強気論調は増えている。中国は2017年に国内の電解アルミ生産能力に年間4,500万トンの上限を設けたが、現在の生産量はこの上限に到達しつつある。製錬所を新設するのに必要な電力供給を競争力ある価格で確保するのは中国以外では困難な情勢で、アルミ市場は長年続いた供給過剰フェーズを脱するとの見方がある。
South32はこれまでに、Mozal製錬所(モザンビーク)について、現行の電力供給契約が2026年3月に満了した後の新たな契約で合意に至らず、操業停止となる見通しを示している。10月21日には、Century AluminumのGrundartangi製錬所(アイルランド)で電気機器故障による生産障害が発生し、低炭素アルミニウムの欧州向け供給が減少する懸念が浮上している。また、10月28日にはRio Tintoも、Tomago製錬所(オーストラリア)について、現行の電力供給契約満了後の2028年以降の操業継続のめどが立たず、従業員との協議プロセスを開始したと発表した。米国はアルミ輸入に50%の高関税を課しているが、米国内ではAI(人工知能)データセンターとの電力争奪戦となり、低コスト電力の供給確保が難しい。
一方で、インドネシアでは中国企業による投資でアルミ生産・輸出が急拡大している。またインドでもVedantaなどがアルミ生産能力の増強を進めている。ナイジェリアでは国産ガスを使用して2013年から停止中のアルミ製錬所を復活する取り組みが進められている。アジアやアフリカなどで新規供給が増加すれば、必ずしも供給は逼迫しないとの見方もある。
[中国/ASEAN]
10月8日、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は、クアラルンプールで李強首相とマレーシアのアンワル・イブラヒム首相の立ち会いの下、「中国・ASEAN自由貿易圏(FTA)3.0アップグレード議定書」に署名した。デジタル経済、グリーン経済、サプライチェーン連結、中小企業支援、競争・消費者保護の5つの新分野を含む本協定は、地域経済統合の新たな節目とされた。
今回のFTA3.0は、2005年発効の初期協定(1.0)、2015年の改訂版(2.0)を基礎に、より高度な市場開放と制度協力を組み合わせた「次世代型経済連携」と位置づけられる。FTA1.0は主に物品貿易の自由化、FTA2.0はサービス・投資を含む経済連携拡大が特徴であったが、今回の3.0では特にデジタル経済とグリーン転換が重視されている。ASEAN諸国の新成長領域として、中国との技術・産業協力を通じ、サプライチェーンの強靱化や新興企業支援の拡充が進むことが期待されており、マレーシア首相アンワル氏は署名式で「ASEANと中国の戦略的パートナーシップの新章が始まった」と述べた。
一方で、シンガポール紙『ビジネスタイムズ』は、統合深化の「もう一つの側面」に警鐘を鳴らしており、中国経済への依存度が高まることで、一国・一地域の経済ショックが域内全体に波及する「過度依存リスク」が懸念されるとしている。同紙は「中国一本ではなく、多様な貿易・投資パートナーとの関係を並行して拡充することが真のリスク分散につながる」と論じている。
実際、ASEAN各国ではFTA3.0の歓迎と同時に、米国や日本、EU、インドなどとの経済連携も維持・拡大する動きが見られる。フィリピンのマルコス大統領は「協力は強制と並存できない」と述べ、中国との関係深化に慎重な姿勢も示した。ベトナムやマレーシアは新協定を経済機会と捉えつつも、サプライチェーン多元化と自国産業の競争力強化を戦略課題として位置付けている。
FTA3.0は、米国の保護主義的政策が広がる中で、アジア主導の多国間自由貿易体制を支える重要な枠組みとなる。同時に、ASEANにとっては「中国との一体化」と「経済的自律性」のバランスをいかに取るかという課題も存在する。
[米国]
アイオワ州の畜産農家はここ数年赤字続きだったが、2025年は牛の飼育で利益が出るものと期待していた。しかし、トランプ大統領を強く支持するアルゼンチン・ミレイ大統領が週末に実施された中間選挙で大きな勝利を収めたことを受け、アルゼンチンからの無関税割り当てとなる牛肉を今の4倍となる8万トンに増やす方針であることをホワイトハウスが明らかにした。このことは、農家の黒字への期待を遠のかせ、新たな不満を増幅しかねない。
そもそも、中国との対立で大豆輸出が低迷してきたことで、農家は満杯となったサイロと価格下落に苦しんでいる状況にある。政府は農家支援として30億ドルの資金を投入する方針を示したが、そこに政府機関の閉鎖が重なり実施が遅れている状況だ。
今回さらにかねてから牛肉の輸出強化を図ってきたアルゼンチンからの牛肉供給の増加であり、これが米国内での食肉の需給バランスを崩しかねないとの指摘は当然だ。実際、シカゴ商品取引所に上場されている肥育牛先物価格は、こうした思惑を織り込みながら、10月中旬の高値から14%も下落した。
他方で、牛肉価格は干ばつなどの影響により飼料価格が上昇していることもあって生産コストは増加し、販売価格も上昇基調となっていることに消費者は不満を募らせている。
ただし、一部の専門家はアルゼンチンからの牛肉輸入は米国消費量の2%程度であることから、輸入が増えたとしても中長期的には価格への影響は小さいのではないか、といった指摘もある。価格上昇の本質的な問題として、アメリカの畜産農家が大きく減少していることや、牛肉から豚肉や鶏肉への消費シフトなども影響している可能性も挙げられており、原因は複雑かつ多岐にわたるようだ。
記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。
レポート・コラム
SCGRランキング
- 2025年10月22日(水)
『日本経済新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2025年10月15日(水)
『日経ヴェリタス』に、当社シニアアナリスト 鈴木 直美が寄稿しました。 - 2025年10月14日(火)
『日刊産業新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2025年10月9日(木)
『日刊産業新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2025年10月6日(月)
『日刊産業新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。
