2025年10月31日 (金)
[タンザニア]
10月29日に5年ぶりの大統領選が行われたタンザニアでは、政府による「見せかけの(sham)選挙」に対する抗議デモが過熱している。最大都市ダルエスサラームのほか、アルーシャ、ムワンザなど地方都市でも抗議が拡大しており、国際人権団体・アムネスティ・インターナショナルは一般市民と警察官が1人ずつ死亡したと報道。警察による過剰な暴力行使を非難している。選挙当日には急遽、夜間外出禁止令が発表され、インターネットも遮断されたことから、抗議活動や被害の全容は明らかになっていない。抗議を行う若者らはトランシーバー・アプリ「Zello」を利用してデモを呼びかけているとも報じられている。現地の米国大使館は、国際便は欠航が続き、空港までの道路も封鎖されている恐れがあることから、屋内待機(Shelter in place)を呼びかけている。
タンザニアでこうした全国規模の抗議デモが起こることは極めて稀だが、背景には1961年の独立以来、一党支配を続ける与党「革命党(CCM)」への強い反発がある。今回の選挙で政府は、最大野党「民主進歩党(チャデマ)」のトゥンドゥ・リッス党首を国家反逆罪の容疑で拘束し、また野党第二党「変革と透明性のための同盟(ACT-ワザレンド)」のルハガ・ムピナ党首の立候補資格を停止(2025年8月28日デイリー・アップデート参照)するなど、徹底した野党排除を行った。その結果、現職のサミア・ハッサン大統領は、16の少数野党候補に対して圧勝することが事前に予想されており、これを民主主義の破壊だと非難する声が国内外からあがっていた。10月29日、欧州議会は共同声明で、「抑圧、脅迫などがみられた今回の総選挙は、自由かつ公正なものとは見なせない」との見解を示すとともに、半年にもわたり拘束されているリッス氏の早期釈放を求めている。
「ブルドーザー大統領」の異名を持っていた故ジョン・マグフリ大統領の急逝を受けて2021年に大統領に就任したサミア氏は、2023年には、政治集会禁止の解除や野党との対話の再開など、一時的に姿勢の軟化がみられた。しかし、その後は野党幹部のほか、宗教指導者、ジャーナリストなどに対する拉致や攻撃などが散発しており、政府による組織的関与が広く疑われている(10月23日付、英・チャタムハウス)。
今後の情勢の見通しが難しい中、抗議デモ参加者の一部が、軍による政権掌握(クーデター)と民主的な選挙の実施を求めているとの報道もある(10月30日付、英FT紙)。隣国ケニアでも2024年、2025年と「G世代」による大規模な反政府抗議デモが発生し、またマダガスカルにおいても10月にZ世代らの抗議活動が発展し、軍が一時的に権力を掌握する状況が続いていることから、今後のタンザニアの動向にも注視が必要だ。
[オランダ/欧州]
オランダにおける2025年の議会選挙は、極右勢力の後退と中道・リベラル勢力の再浮上という重要な政治的転換点となった。特に、中道左派の民主66(D66)党を率いるロブ・ジェッテン氏が予想を上回る成果を収めたことで、次期首相候補としての可能性が高まっている。これは、極右が主導し短期間で崩壊した政権運営に対する有権者の拒否反応が明確に表れた結果である。
ただし、単独過半数を得る政党はなく、複数の中道政党との連携が不可欠であり、リベラル保守派のVVD、緑の党・労働党同盟、キリスト教民主党との協力が考えられるが、交渉には、過去の例から見ても合意形成には数か月以上かかる可能性が高いとされている。
また、極右の自由党を率いるゲルト・ワイルダース氏の議会内での影響力は依然として強く、今後も政策決定に対して一定の圧力をかける存在であり続けるとみられる。
それでも、オランダの選挙結果は、極右ポピュリズムに対する有権者の明確な拒否を示すものであり、欧州全体におけるリベラル・中道勢力の再評価につながる可能性がある。
近年、欧州では移民問題や経済格差、EUへの懐疑的な姿勢などを背景に、極右政党が台頭してきた。特にフランス、イタリア、ドイツ、スウェーデンなどでは、反移民・反グローバリズムを掲げる政党が支持を集めており、政治の右傾化が進んでいる。しかし、オランダにおいて極右勢力が後退したことは、こうした流れに対する一つの反動として注目されている。このオランダの動きが欧州全体に波及するかどうかは、各国の政治状況や有権者の意識に左右される。欧州は一枚岩ではなく、歴史的背景や経済状況、移民の受け入れ規模などが国によって大きく異なるため、オランダの事例がそのまま他国に当てはまるとは限らないものの、他国の有権者や政党に対して一定の影響を与える可能性はあり注目される。
[パナマ]
カナダのファースト・クォンタム・ミネラルズ(FQM)は、パナマのコブレ鉱山の再開に向けて、国が銅資源を所有する形態を受け入れる意向を示した。パナマ最大の銅鉱山であるコブレ鉱山は、FQMが主導して開発・運営してきた。当初は、パナマ政府との間でコンセッション契約に基づいて運営されていたが、この契約の合法性や透明性に対する疑問が国内で高まり、2022年には、パナマ最高裁判所が旧契約を違憲と判断し、鉱山の操業は停止されている。しかし、鉱山はパナマの経済にとって重要な資源であり、輸出収入や雇用創出に大きく貢献してきており、政府は鉱山の再開を目指し、長年にわたり交渉を続けてきていた。2024年に就任したホセ・ラウル・ムリーノ大統領は、鉱山問題の解決を優先課題と位置づけていた。
報道によると、鉱山のコンセッション(採掘権)を国家が保有し、FQMが運営を担うという方式が示されており、鉱山開発に対する国民の根強い反対が和らぐ可能性がある。ムリーノ大統領も、記者会見でこの展開を歓迎する姿勢を示している。ただし、世論調査によれば、鉱山再開への支持率は2025年6月の33.1%から、9月には39.5%まで上昇しているものの、依然として過半数には達しておらず、国民の懸念が根強いことを示している。
一方で、ムリーノ大統領自身の支持率はわずか17.7%にとどまっており、鉱山問題のような社会的に敏感な課題に取り組むための政治的な安定性にも疑問が残る。このような状況下で、政府とFQMがどのように国民の理解を得ながら合意形成を進めていくかが、今後の大きな課題となる。今後の展開は、パナマ国内だけでなく、国際的な資源政策や企業の責任ある投資のあり方にも影響を与える可能性がある。
[ロシア/シリア]
10月30日、ブルームバーグは、ロシア軍用機がシリア北西部ヘメイミームの空軍基地への飛行を約6か月ぶりに再開したと報じた。ロシアは2024年12月に崩壊したシリアのアサド前政権を支援してきたが、アサド前大統領をロシア亡命に追い込んだシリア暫定政権の下でも基地使用を目指し交渉を続けていた。報道によると、10月下旬にロシア軍機が数回、ヘメイミーム空軍基地があるラタキアに飛行したことが航空機の飛行追跡サイト「フライトレーダー24」で確認されていた。ロシア大統領府に近い筋も同基地への飛行再開を認めた。
ロシア大統領府によると、10月15日のプーチン大統領とシリアのシャラア暫定大統領の会談でも基地問題が協議テーマに上っていた。シャラア氏は会談で、「両国がこれまで締結した全ての合意を尊重する」と述べ、シリア国内での2基地におけるロシア軍の駐留容認を示唆していた。
[イスラエル/パレスチナ]
10月30日、ハマスは赤十字を通じて新たに2体の遺体をイスラエル側に引き渡した。これらの遺体が人質のものであると判断された場合、ガザに残る遺体は11体となる。遺体の引き渡しをめぐり、ハマスは「多くの遺体がイスラエルの空爆で破壊された建物の瓦礫(がれき)やトンネル内に埋もれており、捜索に時間を要している」と主張しているが、イスラエル側は「ハマスによる返還があまりに遅い」と強く非難している。
停戦合意に基づいて10月18日にイスラエル南部で新設された「軍民調整センター(CMCC)」は24日までにフル稼働状態に達しており、現在14か国および20の非政府組織(NGO)の代表が集まり、停戦合意下での人道支援や後方支援の調整を行っている。ガザでの人質遺体の捜索・回収にあたり、最近エジプトがチームをガザに派遣したが、その調整にもCMCCが関与したとされる。
次の段階として、ガザへの「国際安定化部隊(ISF)」の導入が検討されており、現在その協議が進行中である。関係筋によれば、インドネシア、アゼルバイジャン、エジプト、トルコなどが部隊派遣の意思を示しているという。イスラエル軍は依然としてガザ地区の約53%に駐留を続けているが、ISFの展開がイスラエル軍のさらなる撤退の条件となる見通しである。
[ECB]
10月30日、欧州中央銀行(ECB)は理事会を開催、政策金利(中銀預金金利)を2%に据え置くことを決定した。据え置きは3会合連続。 ラガルドECB総裁は「米中貿易交渉の進展によって、経済成長への下振れリスクは一部和らいだ」と評価した。経済成長について「それほど不満はない」、物価見通しについて「おおむね変化がない」とした上で、成長リスクが後退した一方で物価リスクは後退しておらず、「均衡した状態」と評価した。また、金融政策の上で、「我々は良い立ち位置にいる」とつつも、「固定的な位置ではない」として、「必要な措置は何でも実施する」という慎重な姿勢を維持している。
声明文で示された金融政策の姿勢は前回から変更はなかった。「適切な金融政策姿勢を決める際には、データ依存で会合ごとのアプローチに従う。特に、政策金利の決定は、基調的な物価動向、金融政策の伝達力とともに、入手する経済・金融指標に基づく物価見通しとそのリスクの評価に基づく。理事会は、特定の金利経路をあらかじめ約束していない」と記された。
市場の関心は、利下げ打ち止めに移っている。次回12月の理事会に合わせて、ECBスタッフの見通しが改定・公表される。今度の見通しでは、2028年の実質GDP成長率と物価上昇率予想も加わる予定。ラガルド総裁は物価見通しについて、「例年よりも不透明」と前回同様の表現を繰り返していることもあり、より長い期間にわたって2%の物価上昇率が維持されるかが注目されている。
[米国/中国/商品]
10月30日、韓国・釜山で行われた米中首脳会談について、トランプ米大統領は「10点満点中12点」と評価。米国は中国に対するいわゆる「フェンタニル関税」を20%から10%に即時引き下げるのに対し、中国はレアアースに対する規制を1年停止し、米国産大豆やエネルギーの購入を再開、双方とも船舶入港料を1年停止することなどで合意したと報じられている。
金融市場は米中緊張緩和を好感。一方、商品市場の受け止めは複雑。大豆については、中国が2026年1月までに1,200万トンの米国産大豆を購入し、今後3年間は年間2,500万トンずつ購入することで合意したもよう。中国は米国産新穀大豆のボイコットを続け、会談直前にようやく約18万トンを購入したとされる。短期間で1,200万トンの購入が履行されるなら、既に織り込まれている米国大豆輸出予測の実現可能性が高まるため、米国大豆先物の期近限月は値上がりした。しかし、次年度以降の2,500万トンは2024年以前の数年間の平均とほぼ変わらず、履行するかどうかも不明なため、期先限月は冷ややかな反応にとどまった。
エネルギーに関して、トランプ大統領は「中国は米国産エネルギー購入プロセスに着手する」「中国がアラスカ州からの石油ガス購入に関して非常に大きな取引が行われる可能性がある」と述べたが、実際に取引増加につながるか、大規模かどうか、には懐疑的な見方が残る。
レアアースについても、中国が10月9日に発表した新たな規制は延期でも、既に導入している規制については継続するものとみられる。
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