デイリー・アップデート

2025年10月30日 (木)

[ブラジル] 

10月28日、リオデジャネイロで発生した警察による大規模な犯罪組織掃討作戦では、少なくとも64人が死亡し、81人が逮捕された。この作戦は、麻薬や武器の密売を行う「赤い司令部(CV)」と呼ばれる犯罪組織を対象としたもので、リオ北部のファヴェーラ(スラム街)を中心に約2,500人の警察官が動員された。今回の死者数は、2021年の27人を大きく上回り、同市史上最悪の犠牲者数となった。

 

CVは1970年代後半にリオの刑務所内で誕生した組織で、現在ではサンパウロを拠点とする「第一首都司令部(PCC)」に次ぐ規模を誇る犯罪組織である。今回の警察の動きに対し、CVは市内の道路封鎖やドローンによる手榴弾攻撃などで反撃し、学校や企業の多くが一時閉鎖を余儀なくされた。CVやPCCは近年、麻薬・武器取引以外の活動にも手を広げており、両組織は現在、約5,000万人が居住するとされるファヴェーラの広範囲を支配するなどブラジルの主要都市に深く根を張っており、今回の事件は、同国が抱える治安上の深刻な課題を改めて浮き彫りにした。

 

右派のリオのクラウディオ・カストロ州知事は軍の支援を要請したが、軍がこれを拒否したとして連邦政府の対応不足を非難した。一方、連邦政府は州知事から正式な支援要請はなかったと反論しており、今後この問題を協議するため臨時閣僚会議を招集した。

 

治安問題はルーラ政権にとって大きな懸念事項となっている。世論調査でも、有権者の約30%が治安を最も懸念しており、主要な社会問題の中でも最上位となっている。左派出身のルーラ大統領は、過去の軍事政権時代における警察の人権侵害や暴力的な取り締まりへの反省から、治安機関の権限強化に対して慎重な立場を取ってきた。しかし、こうし法執行機関の機能強化をためらう姿勢は、国民の不安を増幅させる要因となっている。野党は選挙が近づくにつれ、この治安問題を連邦政府の責任と結びつけようとする可能性が高く、ルーラ大統領の再選にとって大きな障害となり、現在の高い支持率を部分的に相殺する可能性がある。

 

今後、CVやPCCに対する取り締まりはさらに激化する可能性があるが、治安部隊による封じ込めは困難を極めると見られる。特にPCCは、ブラジル国内にとどまらず、周辺諸国への影響力を拡大しつつある。

 

このような状況は都市部の治安不安を一層深刻化させる要因となっており、国際社会からは迅速かつ効果的な調査の実施を求める声が上がっている。

[オランダ] 

10月29日夜に発表された出口調査によると、オランダの議会選挙ではリベラル系のD66党が勝利し、極右の自由党(PVV)は2位に後退する見込みとなった。

 

オランダの下院(第二院)は全150議席で構成されているが、今回の出口調査では、D66党が27議席を獲得し、PVVは25議席、中道右派の自由民主党(VVD)は23議席を得るとされている。社会党と緑の党の共同リストは20議席、中道右派のキリスト教民主党(CDA)は19議席を獲得する見通し。

 

2025年6月にPVV主導の連立政権が崩壊した後、オランダの政治が右寄りから中道へと回帰しつつあることは予想されていたが、PVVは第一党を確保するとみられていた。D66党のロブ・ジェッテン氏は、極右やポピュリズムに対抗する姿勢を強調し、「Yes, we can」というスローガンを掲げて、悲観的な国内世論に対抗する前向きなキャンペーンを展開した。

 

ジェッテン氏は、今後、連立政権を構築するためのパートナー探しを担うことになるが、「極右運動に打ち勝つことが可能であることを世界に示した」と述べ、他党との協力による迅速な政権樹立に意欲を示している。

 

一方、PVVの党首ゲルト・ワイルダース氏は、同党が依然として第2党であることに言及し、今後の展開に含みを持たせた。ワイルダース氏は2023年の選挙で勝利したものの、連立交渉の末に首相の座は断念していた。ワイルダース氏は、今回の選挙に勝利することで、再び首相の座を狙っていた。

 

今回の選挙結果は、PVVにとって2023年の議席数からの大幅な後退を意味する。今後、連立交渉は数週間から数か月にわたって続くとみられており、D66党を中心とした新政権の構築が注目される。D66党は、親EU派、環境重視の中道左派に位置付けられ、ジェッテン氏が、オランダの政治的安定と国際的信頼の回復に向けてどのような舵取りを行うかが焦点となる。

[米国/中央アジア] 

11月6日、トランプ米大統領は「C5+1」形式で旧ソ連の中央アジア5か国の首脳と米ワシントンで会談する予定である。米国は各首脳に招待状を送り、カザフスタンのトカエフ大統領は招待に感謝し、会談への参加を表明した。今回の首脳会議では、双方は貿易、投資、安全保障、教育や人的交流などさまざまな協力関係の強化について議論するもようである。

 

事情を知る関係者によると、カザフスタンとウズベキスタンの当局者は数か月にわたり、トランプ大統領を、中央アジアを訪問する初めての米国大統領にしようと画策してきたが、トランプ大統領は、米国での優位性を確保したいという考えから、今回の会議は米国で開催することになった。トランプ大統領は、中央アジアの豊富な重要鉱物資源への米国の広範なアクセスを確保し、同地域におけるロシアと中国の影響力をけん制するねらいがあるもよう。

 

米国のトップ外交官2人、セルジオ・ゴア南アジア・中央アジア担当特使とクリストファー・ランドー国務副長官は、カザフスタンとウズベキスタンの当局者らと会談するため、10月26日から30日まで同地域を訪問し、来る首脳会談の議題設定に動いている。

[イスラエル/パレスチナ] 

10月27日、イスラエル政府は、2023年10月7日以来発令されていた国家非常事態宣言を、約2年ぶりに全面解除した。10月27日は、イスラエル軍がハマス掃討を目的としてガザへ地上侵攻を開始してからちょうど2年となる日である。

 

同日、ハマスはイスラエル側に1体の遺体を返還したが、分析の結果、それは新たに返還されたものではなく、以前に返還された遺体の一部であることが判明した。現時点でガザに残る遺体は13体とされる。また、同日、ガザ地区内のイエローラインより東側に駐留していたイスラエル軍部隊に対して発砲があり、兵士1人が死亡した。イスラエル側はこれをハマスによる攻撃と断定しているが、ハマスは関与を否定している。

 

これらの事件や、遺体返還がいまだに完了していない状況などを理由に、ネタニヤフ首相は10月28日夜、ガザ市への大規模空爆を命じた。この空爆により、子ども46人を含む少なくとも104人が死亡したと報告されており、10月10日の停戦発表以降では、最大の死者数を伴う攻撃となった。イスラエル軍は10月29日朝、停戦を再実施すると発表している。

 

一方、記者から「停戦は崩壊したのか」と問われたトランプ米大統領は、「依然として停戦は有効である」と述べ、「イスラエル兵が殺害されたため、イスラエルが反撃したのであり、それは当然の行動だ」と発言した。なお、10月26日にもハマスによるとされる攻撃への報復としてイスラエルが空爆を実施し、ガザで数十人が死亡している。今後も停戦状態を維持しつつも、断続的な攻撃と報復の応酬が続く可能性が高い。

[米国] 

10月28~29日、連邦準備制度理事会(FRB)は連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利(FF金利)を0.25%引き下げた。利下げは前回9月から2会合連続であり、政策金利の誘導目標レンジは3.75~4.0%になった。政策金利は直近ピークの5.25~5.5%から3.75~4.0%へ1.5%引き下げられた計算だ。

 

今回の0.25%利下げは10対2で決まった。前回同様にミラン理事が0.5%利下げを主張した。また、シュミッド・カンザスシティー地区連銀総裁が据え置きを主張したことが、市場で注目された。パウエルFRB議長が12月利下げについて、大きな意見の相違があったことを明らかにした上、規定路線ではなく、あらかじめ決められた軌道に乗っているわけではないと述べたことで、市場は12月の利下げ観測をやや後退させた。前回9月時点のFOMC参加者の経済見通し(中央値)で2025年末まであと1回の0.25%利下げが予想されていたことより、これまでは12月利下げが確実視されていた。

 

また、今回のFOMCでは、12月に量的引き締め(QT)を停止することも決めた。国債について、これまで毎月最大50億ドルの満期償還を再投資していなかったが、12月からは再投資にあてる。一方、毎月最大350億ドルの住宅ローン担保証券(MBS)の償還については継続し、その償還資金を短期国債の再投資にあてることで、バランスシートの金額を維持する方針になった。

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