デイリー・アップデート

2025年10月2日 (木)

[メキシコ] 

財務省によると、2025年1月から8月までの税収は3兆6,900億ペソ(約2,073億ドル)に達し、前年同期比で6.5%増加した。これは予算を886億ペソ(約50億ドル)上回る。

 

税収増加の主な要因は、所得税と付加価値税の徴収強化にある。一方で、石油関連の収入は大幅に減少した。石油税による歳入は前年同期比で15.8%減の5,986億ペソ(約336億ドル)となり、予測を2,299億ペソ(約129億ドル)下回った。この減少は、原油価格が上昇しているにもかかわらず、原油生産量が減少したことに起因している。

 

歳入の総額は5兆3,800億ペソ(約3,020億ドル)で、予測を1,180億ペソ(約66億ドル)下回ったものの、歳出の抑制が財政の安定に寄与した。財政赤字は5,810億ペソ(約326億ドル)に縮小した。

 

ただし、公共投資は大きく落ち込み、前年比で33.7%減少した。これは過去30年間で最も急激な縮小であり、エネルギー、水、教育、保健への投資が大幅に削減されたことが背景にある。ただし、交通インフラへの支出は71.8%増加しており、全体の投資減少を部分的に相殺している。

 

今後は、関税法など新たな税制措置の導入により、税収の増加が見込まれている。政府は引き続き財政健全化に向けた方針を堅持する姿勢を示している。

[米国/サブサハラ・アフリカ] 

9月30日、米国で2000年に施行された「アフリカ成長機会法(AGOA)」が失効し、25年の歴史に幕を閉じた。失効以前にはサブサハラ・アフリカの32か国が受益国として、米国向けの輸出は原則として無税だったが、10月1日以降は8月に米政府が発表した修正版相互関税に従って、10~30%の相互関税が課されることとなる。

 

冷戦後の米国の対アフリカ政策が「援助から貿易へ」とシフトし、アフリカ諸国における民主主義の強化と経済成長を促す目的でAGOAは、民主党のビル・クリントン政権時代に誕生したが、その後も超党派で支持を受け、延長を重ねてきた。米国のアフリカからの輸入額はリーマンショック前の2008年に861億ドル(うちAGOAによる輸入額は663億ドル、うち原油が594億ドル)でピークを迎えた。しかし、その後の世界的な経済の減速と、2010年代の米国のシェールガス・オイル開発の進展によりアフリカからの輸入は減少。2023年の米国のアフリカからの輸入額は180億ドル(うちAGOAによる輸入額は97億ドル、うち原油は42億ドル)と、ピーク時の4分の1以下に落ち込んでいる。

 

米国にとってアフリカからの輸入は世界全体の1%程度にとどまるため、AGOAの失効による影響は小さいが、AGOAを通じて米国向けの輸出産業を成長させてきたアフリカの小国に与えるダメージは大きい。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、南部アフリカの内陸国・レソトは、AGOAを利用した米国向けの縫製品が総輸出額の約3分の1を占め、縫製産業は国内で3~4万人の雇用を創出している。AGOAの失効によりこれまで無税だった米国向け輸出は、相互関税によって15%が課税されることとなる。15%とはいえレソトの縫製産業に与える影響は甚大との声があがっている。ナイジェリアと並んでAGOAの最大の受益国の一つである南アフリカ(南ア)は、2023年の米国のAGOAによる輸入全体の約37%を占めている。南アはトランプ2.0において「米国にとっての安全保障上の脅威」とみなされ、サブサハラで最も高い30%の相互関税が課されていることから、これまで米国向けに無税で輸出してきた自動車や柑橘類、ワイン等の輸出産業は大打撃を受ける見込みだ。国連機関の国際貿易センター(ITC)の試算によると、AGOAの失効により、32の受益国からの米国向け輸出は2029年までに8.7%減少するとの見通しを示している。

 

こうした米国による一方的な対応に、アフリカ諸国も固唾をのんで状況を見守っているだけではない。南ア政府はこれまで米国の液化天然ガス(LNG)の購入と引き換えに、関税引き下げの交渉を続けており、9月にもタウ貿易産業競争相は、米通商代表部(USTR)のグリア代表と交渉を行っている。9月30日、タウ大臣はAGOAの1~3年の延長が米議会で承認されるとの楽観的な見方を示したと報じられている。また、相互関税は10%と最低水準なるも米国向けにスーツなどの縫製品を輸出しているケニアは、前バイデン政権下で進めてきた「米国ケニア戦略的貿易・投資パートナーシップ(STIP)」を年内にまとめたいとの意向を示している。

 

他方で、「米・ホワイトハウスは、AGOAの1年間の延長を支持している」と、英ロイター紙や英BBCなど、複数のメディアが報じている。しかし、AGOA失効と同日の9月30日に、10月からの新会計年度の財政資金を確保するための「つなぎ予算」が否決され、政府機関の一部閉鎖が始まるなど米国の情勢は混沌としている。こうした中で、失効したAGOAの優先順位は低いとみられ、延長の決定には時間を要する可能性が高い。

[ロシア/エネルギー] 

10月1日、主要7か国(G7)はオンライン形式で財務相会合を開き、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの圧力を強める姿勢を共有した。ロシアの歳入を断つ取り組みとして、関税や禁輸を含む貿易措置の重要性について合意した。

 

また同日、エネルギー・クリーンエア研究センター(CREA)は、台湾がロシア産ナフサの輸入を増やしており、世界最大の輸入国になったとする報告書を発表。石炭については、国営台湾電力や民間の台湾セメント社こそロシアからの輸入を削減したが、購入を続ける民間企業もあり、ロシアの歳入源になっていると指摘している。

 

ロシア産石炭の主な買い手は中国・インドのほか、トルコ・韓国など。韓国は2025年8月にロシアからの石炭輸入を増やしたと各種メディアは報じている。猛暑による電力消費の増加と古里原発4号機の運転停止により石炭需要が増えたのに対し、オーストラリアは豪雨などの影響で積み出し作業が遅れており、オーストラリア炭は価格も相対的に高いことが、安価で納期が早いロシア炭の調達増加を促したとみられる。

[EU] 

ドラギ報告書の発表から1年が経過した。ドラギ報告書とは、2024年9月にイタリア前首相であり欧州中央銀行(ECB)前総裁でもあるドラギ氏が発表した、EUの競争力強化に向けた政策提言書。

 

報告書は、EUは米国や中国に比べて産業競争力が低下しており、特にテクノロジー分野では後れを取っているとの問題意識から作成され、EUが直面する課題を明確化し、即座に実行可能な政策を提示することを目的としていた。課題としては、生産性の停滞、AIなどの先端技術分野での競争力不足、クリーン技術の事業化の遅れ、エネルギー集約型産業の競争力低下が指摘された。

 

しかし、1年が経過しても、改革の進展は限定的で、欧州委員会は年初に複数の改革案を打ち出したが、加盟国の政治的事情が足かせとなっており、ドラギ報告書の勧告383項目のうち採用されたのはわずか11%にとどまっている。そもそも、EUの政策決定プロセスは複雑であり、加盟国の拒否権が改革の障害となっており、資本市場の統合や銀行同盟の進展は依然として見通しが立たず、欧州預金保険制度や証券市場の障壁撤廃といった核心的な改革も進んでいない。EUの次期予算案でも、加盟国間の利害対立により、実質的な投資拡大は難しい状況だ。

 

一方で、グリーン移行に関しては一定の進展が見られる。EUは脱炭素化への投資を継続しており、将来的にはエネルギーコストの削減や化石燃料依存の低下が期待される。しかし、これも国内外での政治的反発が強まっており、長期的には政策が後退する可能性がある。また、2035年の内燃機関廃止目標の見直しでは、各国政府に裁量の余地が与えられる見込みで、自動車分野での電動化の遅れや中国企業との競争力低下につながる懸念もある。

 

今後のEU政策の焦点は、調達規則の改革と企業向けの超国家的な法制度の創設に移り、特定の産業において国内サプライヤーを優先する新たな調達ルールをつくる見通し。また、EU共通の法人法制度の議論も進んでおり、国境を越えた事業展開や資本誘致を促進する。一方、地政学的な緊張が続く中、防衛や経済安全保障が優先され、年金や税制、労働市場など加盟国の主権に関わる分野の改革は後回しにされる見通しで、これにより商業分野のイノベーションが阻害される恐れがある。

 

ロシアによる脅威や世界的な貿易摩擦を背景に、税制や社会保障など国家主権に関わる分野の権限移譲は、ポピュリズムの台頭もあり実現が難しい状況が続いているが、政治的な障害や制度的な複雑さを乗り越えられるかどうかが、EUの競争力と持続的な成長の鍵となる。

[米国/韓国] 

9月30日、米財務省と韓国企画財政部は声明を発表し、競争上の優位を目的とした為替介入を行わないことを確認した。また透明性ある為替政策の重要性に鑑み、外貨準備とその通貨構成などに関わるデータの公開も約束した。9月11日に日米両国の財務大臣が発表したものと同内容。9月29日には米国とスイス政府の間でも、為替介入はあくまで過度の相場変動に対処するための手段であることを確認する声明が発出されている。日本、韓国、スイスは、いずれも米国政府が年2回発表する為替報告書の監視対象リストに挙げられることが多く、今後、同様の声明が他国政府との間でも合意されるのかどうかが注目される。

[ユーロ圏] 

EU統計局(Eurostat)によると、9月のユーロ圏の消費者物価指数(HICP)は前年同月比+2.2%になった。市場予想通りの結果だった。上昇率は5月に+1.9%にまで縮小した後、8月まで3か月連続で+2.0%とECBの中期目標と同じだった。物価の基調を表す食品とエネルギーを除くコア指数は+2.3%だった。5月以降、5か月連続で+2.3%と2%台前半で安定している。

 

内訳を見ると、食品は+3.0%で、8月(+3.2%)から縮小、4月(+3.0%)以来の低い伸びになった。エネルギーは▲0.4%と下落が継続したものの、下落率は8月(▲2.0%)から縮小した。この下落幅の縮小が、物価上昇の主因だった。実際、エネルギー以外の工業財は+0.8%で、7月から3か月連続で同じ伸び率になった。サービスも+3.2%と、8月(+3.1%)からやや拡大したものの、7月と同じであり、5月以降+3.1~+3.3%のレンジを推移してきた。

 

国別に見ると、域内で最も上昇率が低いキプロスは2か月連続で0.0%と、横ばいだった。フランスは+1.1%と、8月(+0.8%)から拡大した。その他の主要国では、ドイツは+2.4%、8月から0.3pt拡大、イタリアは1.8%、8月から0.2pt拡大した。スペインはやや高めの+3.0%で、8月から0.3pt拡大した。一方で、高めの上昇率だったエストニアは5.2%で、8月から▲1.0pt縮小した。クロアチアは横ばいの+4.6%であり、ラトビアは▲0.1ptの縮小で+4.1%になった。全体として、2%に収れんする動きが見られた。

 

欧州中央銀行(ECB)スタッフの経済見通しでは、物価上昇率は2026年にかけて2%をやや下回ると予想されている。その見通しと足元までの物価動向を踏まえて、ECBは9月の理事会で政策金利(中銀預金金利)を2.0%に2会合連続で据え置いた。ラガルドECB総裁は当面利下げを休止する可能性を示唆していた。9月の物価上昇率はやや拡大したものの、ECBの見通しを大きくか変えるような材料にはならなかったと考えられる。

[ロシア/EU] 

ロシアはEUが経済制裁で凍結しているロシア資産の活用に踏み切った場合、報復措置として、ロシア国内における外資企業の資産差し押さえを検討していると、一部の海外メディアが報じた。9月30日、プーチン大統領は特別な手続きの下で外国資本の資産を国有化し、迅速に売却することを認める措置に署名した。この大統領令は、事前販売の評価期間を10日間に縮小し、所有権の国家登録を迅速化するものであり、EUがロシア資産の没収・活用を始めれば、ロシアは相応の措置をとる可能性がある。

 

10月1日、EU首脳らは10月23~24日のEU首脳会議に先立ち、北欧デンマークで会合を開き、凍結中のロシア中銀資産を原資とする1,400億ユーロ(約24兆1,500億円)の対ウクライナ融資計画を全面的に支持すると表明した。10月1日以降の3週間でさらなる協議を重ね、法的な課題に対応する計画とされている。

[米国/カタール] 

9月29日、トランプ米大統領は、米国がカタールの安全と領土保全を保障する大統領令を発令し、その内容がホワイトハウスの公式ウェブサイトで公開された。同大統領令は、「カタールの領土、主権、または重要インフラに対するいかなる武力攻撃も、米国の平和と安全に対する脅威とみなす」と規定し、「このような攻撃が発生した場合、米国は必要に応じて軍事的手段を含むあらゆる合法的かつ適切な措置を講じる」と明記している。

 

この措置は、9月9日にイスラエルがカタールの首都ドーハでハマス幹部を標的とした攻撃を実施したことを受けてのものである。カタールは同攻撃を「主権侵害」、「国際法違反」として強く非難。トランプ米大統領も不満を表明し、攻撃直後にはカタールのタミーム首長と電話会談を行い、自身のSNSで「ルビオ国務長官にカタールとの防衛協力協定を完成させるよう要請した」と投稿した。ルビオ国務長官は、9月16日にカタールを訪問している。

 

米国が単一の国に対し安全保障を直接保証するのは異例である。同大統領令が発令された9月29日は、イスラエルのネタニヤフ首相がホワイトハウスを訪問しており、同首相はトランプ大統領立ち会いのもと、ホワイトハウスからの電話会談でカタールのムハンマド首相に対し攻撃への謝罪を行ったと報じられている。

 

サウジアラビアなどは、まさにこのような米国との安全保障協定を望み、長年にわたり交渉を続けてきた。ただし、今回の約束は「大統領令」という形で示されたものであり、法的拘束力を持つ「条約」ではない点に留意する必要がある(条約の締結には米上院の承認が必要である)。

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