デイリー・アップデート

2025年7月16日 (水)

[イスラエル] 

7月14日、イスラエルのネタニヤフ連立政権に参加しているユダヤ教超正統派政党「ユダヤ・トーラ連合(UTJ)」が、ユダヤ教神学生の徴兵問題を巡って連立からの離脱を発表した。ユダヤ教超正統派は、イスラエル建国以来、厳しい戒律を厳格に守り宗教の勉学に専念するため、徴兵を免除されてきた歴史がある。

 

ネタニヤフ連立政権は、これまでイスラエル国会120議席中68議席を保有していたが、UTJに所属する7議席が政権から離脱することで、過半数ぎりぎりの61議席となる。今後注目されるのは、連立政権を支えるもう一つのユダヤ教超正統派政党「シャス」の動向であり、仮に同政党も政権から離脱すれば、現ネタニヤフ政権が崩壊し早期選挙が実施される可能性が高まる。

 

また、超正統派政党以外で連立政権を支えているのが極右政党であるが、極右政党はガザでの停戦に強く反対しており、2025年1月の停戦合意に際しては極右政党のうち1党が連立政権から離脱した(ガザでの戦闘を再開した3月に連立政権に復帰)。ネタニヤフ首相は連立政党各方面からの圧力を受けており、脆弱な政権基盤のもとで自身の政治生命をかけた綱渡りの政治運営を続けている。

[米国] 

労働省によると、6月の消費者物価指数(CPI)は前月比+0.3%となり、5月(+0.1%)から加速した。市場予想(+0.3%)に一致したものの、1月以来の大幅な上昇率になった。また、前年同月比の上昇率は+2.7%であり、5月(+2.4%)から拡大した。これは、市場予想(+2.6%)を小幅に上回った。

 

物価の基調を見る上で重視される食品とエネルギーを除く、いわゆるコア指数は前月比+0.2%となり、5月(+0.1%)から小幅に加速したものの、市場予想(+0.3%)を下回った。前年同月比の上昇率は+2.9%であり、5月(+2.8%)から小幅に拡大したものの、市場予想(+3.0%)を下回った。物価の基調は5月からやや強まったものの、市場予想ほどではなかったと言える。

 

内訳を見ると、食品(前年同月比+3.0%)が上昇した一方で、エネルギー(▲0.8%)は下落した。特にガソリン(▲8.3%)が下落した影響が大きかった。その他の財(+0.7%)は上昇し、特に新車(+0.2%)と中古車・トラック(+2.8%)も上昇した。サービス(+3.6%)は、家賃(+3.8%)がけん引役となった。

 

物価上昇率が拡大する兆しが見えつつあるものの、関税の物価への影響はまだ明確に見えていない。そのため、7月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利が据え置かれる公算が大きいと市場では予想されている。

 

ただし、今後の物価上昇についての警戒感は残っている。実際、前月比でみると、新車(▲0.3%)は2か月連続で低下し、中古車・トラック(▲0.7%)も4か月連続で低下した。日本からの自動車価格が低下していたことなども影響したのだろう。 しかし、足元では販売価格を引き上げる動きも見られており、このまま低下するとは限らない。さらに、米政府の関税収入が4月以降大幅に増加したように、高い関税がかかった輸入品が足元にかけて店頭に並びつつある。販売価格に関税が転嫁されつつあり、物価上昇率が拡大しやすくなっている。パウエルFRB議長が話すように、夏ごろの物価上昇がどこまで拡大するのかが注目される。

[ウクライナ/米国] 

7月14日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、シュミハリ首相を国防相に指名し、ロシアによる侵攻が続く中、「シュミハリ氏の豊富な経験が、国防相として生かされる」と述べた。議会承認が順調に進めば、新首相に指名されたスビリデンコ第1副首相兼経済相による新内閣が17日にも発足する見通し。スビリデンコ氏は1985年生まれ。2020年から大統領府副長官を務め、2021年から現職。同氏は2025年4月に米国と結んだウクライナの鉱物資源権益に関する協定で交渉役を務め、米国政権ともパイプを持つ。2024年12月にはウクライナの復興支援を検討する会議に出席するため、来日もした。一方、ウメロフ現国防相は駐米大使に転出する可能性があり、これより先、トランプ米大統領周辺から民主党寄りと批判されていたマルカロワ駐米大使を退任させる政権の方針も伝えられている。

[中国] 

7月15日、商務部は科学技術部と共同で「中国輸出禁止・制限技術目録」を発表した。電気自動車(EV)用バッテリー技術の輸出管理を強化する内容で、EV産業における世界的な優位性をさらに確立しようとする意図がある。2025年7月、中国政府はバッテリーの正極材や非鉄金属加工技術など、EVバッテリー関連の重要技術を輸出規制リストに追加した。これにより、外国企業が中国の先端技術を取得するには当局の承認が必要となり、技術移転のハードルが高まることとなった。

 

この措置は、中国がリチウムの精製からバッテリー製造までEVバッテリー供給網を支配している状況を背景としている。中国は世界のリチウム精製能力の約65%を占めており、CATLなどの大手バッテリーメーカーは、米国企業のテスラやフォードにも供給している。2024年には中国企業が世界のEVバッテリー市場の約70%を占めた。

 

今回の規制には、安全性とコスト面で優れるLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーの正極材技術や、次世代の全固体電池にも不可欠なリチウム抽出・加工技術が含まれている。

 

一方、米国や欧州では中国への依存に対する懸念が高まっており、特にレアアースの供給制限によるEVモーターの生産停止リスクが問題視されている。今回の規制は、米中間の貿易交渉が進む中で発表されたものであり、中国商務省は「国家経済安全と発展利益の保護、国際的な経済・技術協力の促進」を目的としていると説明している。

 

中国はこれまでもドローン技術(2020年)やレアアース関連技術(2023年)などを輸出規制対象に追加しており、EVバッテリー技術の管理強化はその延長線上にある。

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