夏休みの課題図書 ~ SFが描いた未来をこえて

昨年8月のコラムでは「夏休みの自由研究」と題して、生成AIを取り上げました。[*1] その中で、映画『2001年宇宙の旅』に登場する人工知能HAL9000にも触れましたが、実は何度観てもストーリーを100%理解できていないという「宿題」が残っていました。そこで今年の夏休み、アーサー・C・クラークの原作[*2]を「課題図書」にしました。映像美を追求し、セリフを極限まで省いたキューブリック監督の映画版と違い、科学者でもあるクラークの小説版には、映画では謎だったモノリスやHALの行動、そして人類の進化を巡る物語がより具体的に描かれ、ようやくすべてが腑に落ちました。さらに『2001年宇宙の旅』には『2010年』『2061年』『3001年』という三つの続編があることを知り、これらも一気に読んでしまいました。
1968年から順次発表されてきたシリーズですが、数十年、さらに千年先まで人類と技術の行方を描く著者の想像力には、改めて圧倒されます。1982年刊の『2010年宇宙の旅』の中で、米ソ合同の宇宙船を出し抜いて、中国独自の宇宙船が木星の衛星エウロパに先着するストーリーが描かれていたことには特に驚きました。当時、中国はまだ宇宙大国ではなく、現在につながる有人宇宙飛行計画も始まっていませんでしたが、クラークは既に進んでいた中国のロケット開発などから、その先の未来を想像したのでしょうか。SF作家は未来を「予言」するというより、足元に芽生えた小さな変化を誰よりも早く見つけ、それを遠くまで伸ばしてみせるのかもしれません。
その結果、SF作品はまだ存在しない技術や社会に姿を与え、「そんな未来もあり得る」と読者に想像させてくれます。人工知能やメタバース、宇宙旅行などが、社会に広く浸透するより前にSFの中で具体的に描かれていたことを発見するのも、読書の楽しみです。
さて、休み明けに中国へ出張し、北京で「世界ロボット大会」を見る機会がありました。既に関連報道も溢れているので詳述は割愛しますが、300社を超える企業が出展する会場で多くのロボットを生で見ることで、記事や動画配信だけでは得られない現場を体感し、改めて「百聞は一見に如かず」を痛感しました。半日ではとてもすべてを見ることはできませんでしたが、二足歩行のヒューマノイドだけでなく、四足型、脚先に車輪を備えたハイブリッド型、ロボットハンド、パワースーツ(外骨格型)の支援機器、ペット型など、多様なロボットが実働する場には大勢の観衆が集まっていました。今年を人型ロボットの「量産元年」とする報道や専門家の見解も見受けられますが、まだそこまでは行っていないというのが率直な印象です。生成AIにおける「ChatGPT」登場に相当するような転換点には、もう少し時間が必要に思えました。キックボクシングやカンフーの対決、卓球のラリーなどの実演には感嘆しましたが、それだけではどこまで自律制御なのかも判別できません。一方で、四足型や車輪型、物流ラインなどで使う上半身モデルには、既に実用段階に近いと感じるものもありました。
なお、最も印象に残ったのは、ロボットそのものではなく、会場を埋め尽くす若い人たちの熱気でした。エンジニアや学生と思しき人々がブースを取り囲み、機械を食い入るように眺め、説明員に次々と質問を浴びせる。その光景を見て、ふと1970~80年代の秋葉原を思い出しました。電子部品や無線機、やがて登場したマイコンを求め、「何か面白いものを自分で作ってみたい」という子どもたちや若者が集まっていた時代です。
中国のロボットやAI開発というと、資金力や国家の産業政策に注目が集まりがちですが、現場で感じたのは、それだけではないということでした。多くの企業が参入し、層の厚い技術者たちが、試して、失敗して、また作り直す。その試行錯誤の量とスピードが技術を押し上げていくのでしょう。EVなど他の新興産業でも見られたように、今後は激しい淘汰と再編が進む可能性があります。それでも競争を勝ち抜いた企業は、フィジカルAIが人間と共生する時代に大きな存在感を持つかもしれません。
夏休みの課題図書で、クラークが40年以上前に想像した中国の未来に驚き、休み明けの北京では、その先の未来を自分たちの手でつくろうとする若者たちの熱気に圧倒されました。そして未来を生み出すのは技術だけではなく、まだ存在しないものを想像する人と、その想像に触れて「自分もつくってみたい」と動き出す人たちの化学反応の繰り返しなのではないか。そんなことを考えながら、今年の「課題図書」の読書感想文を練っています。
[*1]「夏休みの自由研究『生成AI~汎用人工知能、そして超知能』」2025年8月20日https://www.scgr.co.jp/report/president/2025082076180/
[*2] 映画と小説は、アーサー・C・クラークとスタンリー・キューブリックが基本構想を共有しながら並行して制作したため、厳密には一般的な意味での「原作を映画化した」という関係ではなく、また「映画のノベライゼーション」という関係でもありません。

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