中東フラッシュレポート(2022年1月下旬号)

2022年02月10日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2022年2月4日執筆

1. UAE:2023年6月以降に法人税を導入

 1月31日、UAE財務省はUAE国内で活動する企業に対し法人税を導入することを発表した。適用は2023年6月以降で、法人税率は9%となる。なお、フリーゾーン内で活動する企業や、利益が37.5万ディルハム(約1,170万円)以下の企業については課税対象外となる(小企業やスタートアップに配慮)。2021年10月にOECD加盟国など130か国以上が、多国籍企業に対し最低15%の法人税を課すことに合意した動きに歩調を合わせるもので、国際基準に対応すると同時に、資金の流れに関して透明性を上げ、政府の非石油収入増にも貢献する。なお、個人の給与や不動産・投資収入には引き続き税金は掛からない。

 法人税導入を機にUAEから外資系企業が流出してしまうのではないかという懸念はそれほど強くなさそうだ。理由としては、まず9%という諸外国より低めの税率を設定している事(サウジアラビア20%、オマーン15%、カタール10%)、そしてビジネス・生活環境改善のためにUAE政府が諸政策を打ち出している事(外資100%出資を容認、週末を土日に変更、ビザ要件緩和)などが挙げられる。

 

2. 韓国大統領の中東訪問

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が1月16~22日の期間でUAE、サウジアラビア、エジプトの3か国を訪問した。

 UAEではドバイ万博を訪問し、地対空迎撃ミサイルシステム「天弓2」の売却契約を締結した。サウジとは水素や医療関連など14の覚書を締結、また韓国GCC・FTA交渉を再開することでも合意した。

 

3. UAEに対する度重なる無人機およびミサイルによる攻撃

 1月17日にイエメンの武装勢力フーシ派によるアブダビへの無人機およびミサイルによる攻撃で3人が死亡したが、その後、24日および31日にもフーシ派が犯行声明を出した攻撃が発生した。どちらの攻撃もUAE側が迎撃し、負傷者などは報告されていない。また、2月2日の早朝には不審な無人機3機がUAE領空に侵入してきたとして撃墜したが、本件に関してはイラクの武装組織「正義の約束旅団」が犯行声明を出しており、声明の中で、UAEがイエメンやイラクなどの地域諸国への干渉を止めないのであれば今後もUAEを攻撃すると警告した。2月1日、米国防総省はUAEを支援するため、ミサイル駆逐艦や戦闘機などを同国に派遣することを発表した。

 

4. 米国、カタールを「非NATOの主要同盟国(MNNA)」に格上げ

 1月31日、カタールのタミーム首長はバイデン大統領と会談し、同大統領はカタールを「非NATOの主要同盟国」に格上げする手続きを取ると発表した。バイデン政権下でホワイトハウスに招待されたのは、ペルシャ湾岸諸国のリーダーでは初めて。2021年8月のアフガニスタンからの米軍撤退時のカタールによる支援やその後のタリバン政権とのパイプ役としてのカタールの存在をバイデン政権は高く評価している。またイランとの特別な関係性やLNG輸出大国としても、カタールの重要性は日増しに高まっている。

 

5. 30年の期間を経てサウジアラビアとタイの外交関係が正常化

 1月25日、タイのプラユット首相がサウジを訪問し、ムハンマド皇太子との会談を実施、両国が外交関係を正常化し互いに大使を任命することで合意した。両国は、1989年にタイ人の使用人がサウジ王子の宮殿から2,000万ドル相当の宝石を盗んだ事件および1990年にバンコクでサウジ人外交官3人が殺害された事件などを発端に関係が悪化し、外交関係が格下げされていた。2022年5月にサウジ航空がタイに直行便を就航させる予定で、今後タイを訪れるサウジ人旅行者やサウジにおけるタイ人労働者の増加、経済関係の強化などが期待される。

 

6. リビア情勢

  • 1月24日、代表議会(HoR)のロードマップ委員会(延期された選挙の今後の実施プロセスを策定)は、治安を維持し不正のない選挙を実施するにはあと9か月は必要であると報告した。ウィリアムズ国連事務総長特使は2022年6月までの選挙実施を促しているが、サーイエ高等国家選挙委員会(HNEC)議長も選挙実施には6~8か月が必要と報告しており、選挙の実施は早くても2022年後半になりそうだ。
  • 1月31日、サーレハHoR議長は、2月8日に新首相をHoRが独自で選出すると発表した(その後2月10日に延期)。ドゥベイバ首相率いる国民統一政府(GNU)は2021年12月の選挙までの暫定政権として発足したため、選挙は延期されたものの、同議長はドゥベイバ暫定政権の任期は切れたとして、新首相の擁立を画策している。それに対して、ドゥベイバ首相は続投を希望しており、国連や欧米諸国も同首相の立場を支持している。仮にHoRが一方的に別の新首相を擁立するとなると、東西2政府の混乱状態に戻りかねずリビアの内政不安定化が懸念される。
  • リビアは韓国中古車の最大輸入国であり、2021年は11.2万台の中古車を輸入した(同年の韓国の中古車輸出43.3万台のうち26%)。2020年は10.2万台で全体の28%。韓国中古車はヨルダンにも多く輸出されている。
  • リビア民営化・投資庁(PIB)はAGエナジー社に対して、同国西部のガダメスに容量200MWの太陽光発電所を建設する許可を出した。民間企業による再生可能エネルギーの発電所建設は同国初となる。

 

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:BloombergよりSCGR作成)

以上

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