メキシコ:物価上昇に腐心する大統領

2022年05月16日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
小橋 啓

2022年5月11日執筆

 

 5月4日、ロペス・オブラドール大統領は、高騰するインフレを抑制するための新たな政策として、低所得者層の消費が多い米やジャガイモなどの食料品を中心とした24の商品について価格上昇を抑制するため、大手民間企業と連携すると発表した。民間企業の価格抑制への参加は任意であるものの、すでにウォルマートなど大手企業とは合意している。最新のデータによると、4月前半のインフレ率は前年比7.72%に達し、過去21年間で最高となっていた。

 

 今回の政策は強制力のある価格統制ではなく、また補助金などにより政府が歳出を拡大するものでもない。エネルギー価格の高騰を受け、燃料税への補助を拡大させ歳出を増やしているものはあるが、これはメキシコ石油公社(Pemex)の石油生産拡大と原油価格上昇による歳入拡大が見込めることと、Pemex自体への財政支援の減少を見越していることが考えられる。大統領は、あくまで財政健全化を維持する方針だ。

 

 しかし、民間企業との合意だけでインフレに歯止めがかかると考えるのは難しい。価格抑制に合意した大企業は、合意した品目以外に価格転嫁を行う可能性もあり、インフレ傾向自体は変わらないとの指摘もある。また、インフレ高進に大きく寄与している食料品価格については、輸入を通じて国際価格の高騰の影響を受けているものが多い。メキシコでは、以前から食料自給率の向上を政策目標に掲げ、国内供給を増やそうとしているものの、貧困や治安、また不十分なインフラや肥料不足など多くの課題に直面しており、生産拡大への道筋は見えていない。その肥料でさえも、メキシコは国内消費量の60%を輸入しており、そのうち3割弱をロシアから輸入している。

 

 大統領は、今後の状況次第で、強制力のある価格統制に踏み込む可能性にも言及している。連邦経済競争法では、価格統制は大統領令で実施できると定められているが、それは独占的な行為がみられた場合に限られていることから、価格統制を実施するハードルは高いと考えられる。仮に価格統制を実施できたとしても、その副作用に大きな懸念が残る。なぜなら、南米では1970-80年代において、インフレ対策として価格統制が実施されたが、供給不足によりインフレは収束せずに、結果的には政府の財政状況を悪化させたという経緯があるからだ。

 

 インフレが進む中、中央銀行が政策金利を引き上げてはいるものの、インフレ圧力は依然強い。ロペス・オブラドール大統領は、ロシア・ウクライナ問題など国際情勢の不確実性が高まる中で、副作用が発生するリスクを取ってまで価格統制に踏み込むのか、それとも財政の健全化を犠牲にして補助金政策をとるのか、インフレ圧力抑制に腐心する状況が続きそうだ。

 

【図:メキシコ隔週CPI推移】(出所:メキシコ国家統計地理情報局)

以上

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