「トルコ大統領・議会選挙は5月14日実施、野党連合が選挙公約発表」中東フラッシュレポート(2023年1月後半号)
調査レポート
2023年02月09日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
2023年2月6日執筆
1.イスラエル/パレスチナ:双方の暴力の応酬が激化
1月26日、イスラエルの治安部隊がパレスチナ自治区ヨルダン川西岸のジェニンにおいて軍事作戦を実施し、61歳の女性を含む9人のパレスチナ人が死亡、20人以上が負傷した。同日、エルサレム近郊でもパレスチナ人の若者がイスラエル兵によって射殺されており、同日のパレスチナ人の死者数は10人に上った。翌27日には、東エルサレムのユダヤ人入植地内にあるシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)の前で、パレスチナ人の若者が銃を乱射し、イスラエル人7人が死亡。また、1月28日には、エルサレム旧市街の近くの路上で、13歳のパレスチナ人の少年がイスラエル人に対して発砲し、イスラエル人父子2人が負傷した。ガザからもイスラエルに対してミサイルが撃ち込まれ、その報復としてイスラエルはガザを空爆した。
イスラエルでは2022年末に極右政党も含めたこれまでで最も右寄りの連立政権が発足し、2023年に入りまだ1か月しか経っていないにも関わらず、ヨルダン川西岸およびエルサレムにおいて既に30人以上のパレスチナ人が亡くなっている。1月26日の事件を受けて、パレスチナ自治政府はイスラエルとの治安協力の停止を発表。また、1月27~28日の事件を受けて、ネタニヤフ政権はイスラエル人の銃の携行許可の取得を容易にし、国民に自衛を呼びかけた。サリバン大統領補佐官、バーンズCIA長官、ブリンケン国務長官などのバイデン政権高官も次々に同地を訪問して緊張緩和を呼びかけているが、暴力の応酬は激化している。
2.トルコ:大統領・議会選挙を前倒しして5月14日に実施予定、野党連合が選挙公約を発表
エルドアン大統領は1月19日および21日のイベントで、大統領・議会選挙を前倒しして5月14日に実施する意向を示した。同氏は既に、再選を目指して大統領選挙への立候補を発表している。1月30日には、エルドアン大統領と与党連合に対抗すべく組まれたトルコの野党6党による「国民連合(Nation Alliance)」が、240ページにわたる選挙公約を発表した(9つのテーマの下に2,300以上の具体的な政策や目標が記されている)。今回の選挙における「国民連合」の最大の主張は、エルドアン政権下で導入された実権型大統領制の廃止と議院内閣制の復活である。実権型大統領制では大統領個人にあまりに多くの国家権力が集中してしまうため、以前の議院内閣制に戻すべきだと主張している。なお、「国民連合」は大統領選に向けた統一候補の選出に手間取ってきたが、2月13日の会合で統一候補を発表する予定。
3.スウェーデン:トルコ大使館前でコーランが燃やされトルコ政府が抗議
1月21日、ストックホルムにあるトルコ大使館前で、反イスラムや移民排斥などを訴える極右政治家が集会を開催し、イスラム教の聖典コーランの写しに火をつけて燃やした。同氏の集会を許可しないようスウェーデン政府に事前に求めてきたトルコ政府は、集会が開催されたことを強く非難し、1月27日に予定されていたスウェーデン国防相のトルコ訪問をキャンセルした。ロシアによるウクライナ侵略を受けて、スウェーデンはこれまでの軍事的非同盟の立場を転換し、2022年フィンランドとともにNATOへの加盟を申請した。加盟にはNATO加盟国のトルコの承認が必要となるが、エルドアン大統領は今回の事件でますます態度を硬化させており、スウェーデンのNATO加盟に否定的な発言を繰り返している。
4.サウジアラビア:無料でトランジット・ビザの発給を開始
1月30日、サウジアラビア政府は乗り継ぎ旅行者のために、最長4日間(96時間)のトランジット・ビザの発給を開始した。同ビザは、サウジ国内の観光や巡礼目的(大巡礼ハッジの時期以外)に利用でき、サウジ航空やFlynas(サウジのLCC)のウェブサイトでの航空券予約時に電子ビザを同時に申請できるようになった。サウジアラビアは現在、石油依存型経済からの脱却を目指し経済の多角化を進めている。観光セクターの拡大にも力を入れており、2019年には観光ビザの発給も開始。政府は、年間1億人の観光客誘致を目標に掲げている。
5.イラク情勢
- 内政・外交
- 1月25日、首都バグダッドの中央銀行前で、対ドルでのイラク・ディナール(IQD)下落に抗議するデモが発生した(数百人が参加)。IQDの下落は2022年11月以降に顕著になり、2月2日には市場レートで1ドル=1,750IQDの過去最安値を付けた(公定レートは1ドル=1,450IQD)。IQD下落の原因は、イラクからイランやテロリストなどに米ドルの現金が流れることを防ぐために、米政府がイラクへの米ドル送金にこれまでより厳しい条件を課したせいで、イラク国内における米ドル供給が減り需要が高まったこと。この問題を受けて、スーダーニ首相は中央銀行総裁を解任した。2月8日にフセイン外相が訪米し、米ドル送金で新たに課された条件に関して6か月間の猶予を要請するなどの協議を行うとのこと。
- 1月26日、スーダーニ首相がフランスのパリを訪問し、マクロン大統領と包括的戦略パートナーシップ合意書に署名した。
- 1月28日、モロッコのブリタ外相がバグダッドを訪問し、スーダーニ首相やフセイン外相などと会談を実施。モロッコ政府高官がイラクを訪問するのは約20年ぶり。ブリタ外相はモロッコ大使館の開所式にも参加した。2005年にイラクでモロッコ人大使館職員2人の誘拐・殺人事件が発生し、モロッコ政府は在イラク大使館を閉鎖。その後再開されるも、イスラム国の台頭に伴う治安懸念から、2016年に大使館はヨルダンに移されていた。
- 1月31日、国際NGOのトランスペアレンシー・インターナショナルが2022年版の腐敗認識指数を発表。イラクは前年と変わらず180か国中157位で、ミャンマーやジンバブエと同じ順位。
- 治安・その他
- 1月19日、南部バスラで開催されていたアラビアン・ガルフ・カップ(湾岸諸国など8か国が参加するサッカー大会)の決勝戦に開催国であるイラクが進出したことで、試合を観戦するためにチケットを持たない大勢のイラク人がスタジアムに押し寄せた。そのため、入り口で将棋倒しによる事故が発生し、4人が死亡、80人が負傷した。試合はそのまま開催され、イラクが優勝した。
- 2月1日、イラク北部にあるトルコ軍基地が、親イラン・イラク民兵組織によるロケット攻撃(少なくとも8発)を受けた。2発は基地内に着弾したとのことだが、トルコ側は、損傷は無かったと発表。トルコ政府がテロ組織指定しているクルディスタン労働者党(PKK)のイラク領内の拠点を攻撃するため、トルコはイラクの許可を得ずにイラク領内に軍隊を駐留させている。
- 石油・経済
- 2023年1月度原油輸出速報:輸出額 76.9億ドル、輸出量 日量326.6万バレル(bpd)、平均単価 1バレル75.96ドル。
- 中国のGezhouba Group(国有企業が主要株主となっている武漢に拠点を置く建設会社)が、北部クルディスタン地域の道路や鉄道、電力インフラやダム建設のために100億ドルの投資を提案しているとのこと。現在、クルディスタン投資委員会がこの提案を受け入れるかどうかを検討するために専門委員会を立ち上げ、提案内容を精査中。
6.リビア情勢
- 1月18日、在リビア米大使館公使と米空軍・欧ア地域副司令官がリビア国民軍(LNA)のハフタル司令官と会談し、治安協力などについて話し合った。1月12日にはバーンズ米CIA長官もリビアを訪問。米政府はリビアでのロシアの影響力拡大を懸念しており、ハフタル司令官にロシアの民間軍事会社「ワグネル」との関係断絶を要請したもよう。
- 1月22日、首都トリポリでアラブ連盟外相会合が開催されたが、サウジアラビア、UAE、エジプトなど主要アラブ諸国の外相はトリポリを拠点とする国民統一政府(GNU)に対する不支持を表明するため、会合を欠席した。エジプト人のアラブ連盟事務局長も、同様に会合を欠席。GNUのマングーシュ外相はこれを非難したが、GNUに対立する国家安定政府(GNS)のバシャガ首相は、主要アラブ諸国の会合ボイコットに謝意を表明した。
- 1月28日、リビア国営石油会社(NOC)とイタリアの石油・ガス会社Eniが、2つの海洋ガス田の開発に80億ドルを投資し日量8.5億立方フィートのガスを生産する合意書に署名した。ドゥベイバGNU首相とリビアを訪問中のイタリアのメローニ首相が署名式に出席。イタリアはガス輸入の4割を依存してきたロシア産ガスの輸入を停止するため、他国からのガス・LNG購入を進めている。しかし、GNUのアウン石油・ガス相は、同合意は同省の事前承認を得ていないため「違法」であると発表した。
- リビアのガソリン代は1リットル当たり0.155ディナール(約4.2円)で、ベネズエラに次いで世界で2番目に安い。
- 1月31日、国際NGOのトランスペアレンシー・インターナショナルが2022年版の腐敗認識指数を発表。リビアは前年と変わらず180か国中171位で、ハイチや北朝鮮と同じ順位。

以上
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