重要鉱物の国内回帰を急ぐ米国 ~ 関税からポリシーミックスへ

2026年08月18日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

概要

  •  トランプ米政権は1期目(2017~21年)から、通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミ関税など、関税を通商政策手段や交渉のレバレッジとして多用してきた。2期目も「フェンタニル関税」や「解放の日」関税を相次いで導入。最高裁がIEEPAによる関税賦課を否定した後も、122条、301条へ根拠法を切り替えて関税措置を継続している。
  • 一方、重要原材料では輸入関税だけでなく、企業への直接支援、友好国との供給網構築、最低価格、国内投資に応じた関税軽減、原材料の国内供給義務・輸出規制など、政策手段が多様化している。保護貿易的な輸入抑制にとどまらず、国内の採掘・製錬・加工・再資源化能力を構築する産業政策としての性格が強まっている。

 

 

 

1.金属輸入依存は国家安全保障上の脅威

 米国は鉱物資源に恵まれた国だ。かつては鉱山だけでなく、製錬・加工においても相応の生産基盤を有していた。しかし、米国では厳格な環境規制や住民の反対、複雑な連邦・州の許認可手続きなどにより、新規鉱山開発には非常に長い時間がかかる。また、過去数十年で国内の製錬・加工能力は縮小し、現在では多くの金属・鉱物を輸入に依存する。

 

 こうした状況を転換する取り組みの一つの起点となったのが、2018年の鉄鋼・アルミ関税だ。第1次トランプ政権は発足から3か月後の2017年4月、1962年通商拡大法232条に基づき、鉄鋼・アルミの調査を開始した。この法律は、特定品目の輸入が米国の国家安全保障を脅かすと判断した場合、大統領が追加関税や輸入制限を発動できると定めている。しかし、同法に基づく調査は2001年以来行われておらず、当時としては異例の措置だった。翌2018年3月、米国政府は鉄鋼・アルミ輸入が国家安全保障を損なう恐れがあると判断し、鉄鋼・アルミに追加関税措置を導入した。また、希土類・重要鉱物の国内生産強化の方針が打ち出されたのもトランプ政権1期目のことだ。

 

 米中対立や地政学リスクの高まりを背景に、重要物資の海外依存を低下させ、国内生産能力を強化する方向性は超党派で共通している。政策手段や重点には政権ごとの差があるが、バイデン政権(2021~25)も232条措置を基本的に維持する一方、インフレ削減法(IRA、2022)等による補助金・税額控除を通じて重要鉱物や電池などの国内・友好国サプライチェーンへの投資を促した。

 

 第2次トランプ政権(2025年~)では、米中関係の緊張がさらに高まったこともあり、金属製錬や重要鉱物の対中依存脱却の取り組みが加速している。また、関税を中心に始まった措置は、国内供給能力や川下産業への影響を踏まえた修正を重ね、結果として、品目ごとの供給構造に応じた政策へと変化している。

図表1 米国の重要材料を巡る最近の主な政策調整

 

2. 一次金属(鉄鋼・アルミ・銅):関税から投資誘致・負担調整へ

◇鉄鋼・アルミ関税を巡る経緯

 2018年3月23日に発動された鉄鋼・アルミへの232条関税は、当初、鉄鋼25%、アルミ10%の追加関税として開始された。その後、各国との個別交渉を経て、一部の国に対しては一時的な適用除外や関税割当(TRQ)、完全免除などの措置が段階的に設けられた。また、国内で必要な品質や数量が確保できない特定の品目に関しては、国内企業からの申請ベースで製品別の適用除外措置が多数適用された。

 

 バイデン政権においてもこの関税枠組み自体は維持されたが、欧州連合(EU)や日本などの同盟国に対してはTRQの導入による実質的な緩和措置を取る一方、中国やロシアには厳格な措置を維持・強化するなど、相手国によって対応を分けた。EUとは、気候変動対策と過剰生産問題に共同で対処する「持続可能な鉄鋼・アルミに関するグローバルアレンジメント」の創設も検討された。

 とはいえ、アルミ業界では競争力ある安定した電力供給の確保が大きな課題となり、一次製錬は伸び悩んだ。バイデン前政権下ではインフレ削減法(IRA)・インフラ投資法による政策支援を背景に、Century Aluminumの新規製錬所計画(Project Horizon)が45年ぶりの新設案件として浮上したが、昨今のデータセンター建設ラッシュがクリーン電力の確保を難しくしている。

 

 こうした中、第2次トランプ政権は2025年3月、既存の適用除外やTRQを原則撤廃して鉄鋼・アルミともに関税率をほぼ一律25%とし、同年6月には50%まで一気に引き上げた。ただし、アルミスクラップは関税対象外とし、二次精錬の原料となるスクラップの流入を促した。この関税引き上げに伴う国内価格の高騰も追い風となり、少なくとも2件の既存アルミ製錬所の拡張・再稼働計画(Mt Holly、New Madrid)が具体化している。

 また、トランプ政権は、対米直接投資の誘致も進めている。その象徴が日本製鉄によるUS Steel買収案件だろう。2023年12月の発表以降、米国内では激しい政治的議論が巻き起こり、バイデン政権は退任直前に国家安全保障上の懸念を理由に取引禁止命令を下した。一方、トランプ政権は2025年6月、国家安全保障協定(NSA)の締結と約110億ドルの対米投資を条件に、同計画を承認した。アルミ分野でも、保護主義的関税と外資誘致を組み合わせた国内生産能力の増強が進められており、アラブ首長国連邦(UAE)のEmirates Global AluminiumがCenturyと共同でオクラホマ州で一次アルミ製錬所建設計画を進めている。大規模な新設計画である一方、本件に関しても、UAE国有企業が過半を出資することに加え、電力・水需要や大気質への影響を問題視する声が州内で上がり、州知事選の争点の一つとなるなど、政治的摩擦は生じている。

 

◇銅関税の現況

 鉄鋼・アルミに端を発する関税政策は、電動化やインフラ刷新、新技術において重要性を増す銅へと波及した。第2次トランプ政権は2025年2月、大統領令により銅に対する232条調査を開始。同年6月に商務省から大統領への報告書が提出され、7月末には大統領布告が下される異例のスピードで手続きが進められた。

 調査段階のパブリックコメントでは、米国の精錬銅の主な輸入元が主にチリ・カナダ・メキシコ・ペルーなど米州諸国で、国内で稼働中の銅製錬所はわずか2か所にとどまることから、精錬銅への輸入関税には反対意見も多かった。むしろ、業界からは、休止中の製錬所の再稼働を促す規制緩和や、銅原料への輸出制限、半加工品への関税を求める声が目立った。

 

 2025年8月1日から発動された措置は、まずは限定的な内容となった。具体的には、銅管や銅線、銅板といった「銅半製品」および銅ケーブルなど「派生品」には50%の関税を課す一方、川上原料である精錬銅への輸入関税(2027年から15%、2028年から30%)の判断は保留された。また、トランプ大統領は商務長官に対し、国防生産法(DPA)に基づく措置を講じる権限を付与し、国産銅原料や高品質スクラップの一部について、国内販売義務等を検討する枠組みを提示した。これらについては、2026年6月末までに商務長官に追加報告を求め、措置導入の要否を判断するとした。

 既にこの期限は過ぎているが、これまでのところ新たな情報はない。しかし、実際に精錬銅への関税発動がなくとも、思惑先行で米国の銅価格は独歩高となり、対米輸出の増加と国内在庫の構築を誘発している。構造的な銅逼迫への懸念が強い状況下で、政府があえて地金流入を逆流させるインセンティブが乏しいとも考えられる。今後、次項で述べる重要鉱物のように、複合的な国内生産促進策が導入される可能性があり、続報が待たれる。

 

◇企業・国内経済への配慮

 一連の関税措置は、米国内の製造業や川下産業に大きな負担と混乱をもたらした。2026年4月以降、トランプ政権は国内産業の関税負担や企業の事務負担にも配慮し、鉄鋼・アルミ・銅派生品の232条関税の運用方法を修正した。従来の「金属含有量に対する一律50%課税」から、「品目をカテゴライズしたうえで、カテゴリごとに異なる税率」を「製品価値全体に」適用する方式に変更した。さらに6月には、一部の農業機器や住宅設備等の税率を引き下げた。

加えて、国産品の国内消費を促すため、「米国産」素材の認定基準も緩和した。続く7月には、米国内で製錬所を新設・増設・改修する企業に対し、一次アルミ輸入関税を一定条件下で半減する措置を導入した。

 このように、232条関税は単なる国境での輸入抑制から、川下産業への影響を調整しつつ、国内投資を直接誘導する政策手段としての色を強めている。一方、こうした調整を重ねた結果、制度は複雑化している。

 

3. 重要鉱物関連:関税からポリシーミックスへ

301条調査と重要鉱物の重要性への認識の強まり

 2017年8月、第1次トランプ政権は、中国の知的財産・技術移転政策を問題視して301条調査を開始した。これとは別に、2017年12月には重要鉱物の安定供給確保に関する大統領令(EO 13817)を発出し、重要鉱物リストの作成を指示。2018年5月に公表された最初の35鉱種にはレアアースも含まれた。

 対中301条関税は2018年7月に発動し、報復合戦の様相を呈した。同月に公表された対中関税第3弾の対象品目リスト案には当初、「レアアース金属・酸化物・化合物」などが含まれていたが、高い対中依存を背景に、9月の最終リストからは外された。レアアースは防衛・ハイテク産業に不可欠な素材だが、当時、米国唯一のMountain Pass鉱山で生産される精鉱の分離・精製は中国に大きく依存していた。一方、中国が対米報復関税の対象に米国産レアアース精鉱を含めたことで、その非対称性と、中流工程を海外に依存することの脆弱性が浮き彫りとなった。

 2019年7月には、1950年国防生産法303条に基づき、希土類金属及び合金の国内生産能力を国家防衛に不可欠と認定し、国内生産能力の強化に乗り出している。バイデン政権下でも、重要鉱物・レアアースのサプライチェーン強化策は継続した。2024年5月には、対中301条関税強化策のなかで、永久磁石について、2026年1月から中国原産品に25%の追加関税を適用することを決定し、トランプ政権下で実際に発動している。

 

◇重要鉱物232条調査

 2025年4月、第2次トランプ政権は重要鉱物の232条調査も開始。同年10月、商務省は重要鉱物・派生品の高い対外依存、国内生産の弱体化、市場価格の変動性の高さ等が国家安全保障を損なうおそれがあると認定した。

 しかし、2026年1月、トランプ大統領はひとまず追加関税を見送り、貿易相手国との協定交渉を指示。交渉を通じて、重要鉱物の最低価格設定や貿易制限措置などを検討し、そのうえで必要な場合に関税措置を導入する可能性があるとした。重要鉱物製錬は中国が圧倒的シェアを有しており、いきなり関税を課してもそれだけで国内生産能力が増強される可能性は低いため、現実的対応を取ったともいえる。

 2月には国務省が重要鉱物閣僚会合を開催。重要鉱物の安定供給に向けた国際協調を目指して、鉱物資源安全保障パートナーシップ(MSP)の後継となるFORGE(資源地政学的関与フォーラム)を立ち上げた。「貿易圏」構想、最低価格設定、備蓄制度などを提唱し、友好国と連携した供給網構築を進めている。

 

◇ポリシリコン・派生品輸入規制:関税・最低価格・生産回帰インセンティブ

 8月6日、トランプ大統領はポリシリコンおよびその派生品の輸入が米国の国家安全保障を脅かしているとして、232条に基づく輸入調整措置を発表した。ポリシリコンは半導体と太陽光発電の双方の基礎材料であり、防衛・AIにも不可欠な素材だが、海外の過剰生産が国内産業を圧迫したとしている。今回の措置は、最低輸入価格(MIP)制度と従価関税・違反時のペナルティを組み合わせているのに加えて、米国内に工場を新設・増設する企業に対しては、一定程度の関税免除などのインセンティブを設ける。低価格品の流入を抑制し、国内で投資可能な価格環境を作り出す狙いが明確に示されている。但し、国内に生産能力が立ち上がるまでは、信頼できる海外供給の確保も課題となってくる。

 

 

◇国内廃材の再資源化

 7月20日、トランプ大統領は、国防調達における重要材料の国産・同盟国調達義務を強化する大統領令を発布した。2027年1月1日以降、国防省は非友好国由来の重要材料を使用する際の適用除外発行を厳格化するほか、防衛請負企業に対しては原料・部材・サプサプライヤーを含めたサプライチェーン全体のマッピングも義務化する。

 

 これに続き、7月30日には1950年国防生産法(DPA)第101条に基づき、回収可能な重要原材料に関する大統領令に署名。ブラックマス、使用済み希土類永久磁石、その他製造工程を完了した製品・切削くず、重要鉱物・材料を含む廃棄物やスクラップ(上述した232条調査の対象となっている銅スクラップを除く)の国内生産能力拡大を商務長官に指示した。8月5日、商務省産業安全保障局(BIS)は、8月27日から1年間、タングステン廃材・スクラップと、廃リチウムイオン電池を破砕したブラックマスについて、米国事業者の月間販売量の100%を米国内の買い手に割り当てることを決定した。対象品は原則として米国内に物理的に留める必要があり、実質的に輸出を禁止する(例外規定有り)。BISは今後、必要に応じて対象となる回収可能な重要鉱物・材料を追加できるとしており、今後対象品目が拡大する可能性がある。

 

4. まとめ

 トランプ大統領はかつて、「私にとって、辞書の中で最も美しい言葉は関税(Tariff)だ」と述べた。しかし、232条を根拠に鉄鋼・アルミに対して開始した金属資源に対する関税政策は、国内産業への副作用や、短期的には代替困難な中国依存といった現実にも直面することとなった。実際、国内で確保できる資源、製錬・加工能力の不足する資源、海外依存が避けられない資源では、必要な政策も異なる。足元の米国の政策は、関税に加え、許認可迅速化、最低価格、国内投資支援、国内販売義務、輸出規制、友好国との供給網構築など、対象品目の供給構造に応じて政策手段を組み合わせる方向へと変化している。

 

 この複雑化は、重要原材料の供給網再構築が、単純な「国内回帰」では実現できないことの裏返しでもある。重要原材料の国内回帰には、関税による価格上昇や川下産業への負担増に加え、電力・水資源の確保、環境規制、許認可手続き、外国資本の受入れなどさまざまな課題が伴う。信頼できる供給網構築という方向性は変わらずとも、今後も制度設計の修正や政治的議論が続く可能性がある。

 

 米国による一連の措置はその影響の大きさで際立つが、資源安全保障を理由に市場への政策介入を強めているのは米国だけではない。こうした政策の影響は、国内生産能力だけにとどまらず、国際的な商品貿易フローや価格形成にも及び始めている。同じ商品であっても、地域間で価格差が大きく拡大する例は珍しくなくなっている。

 銅やアルミは典型的なコモディティであり、その価格は長年、世界全体の経済動向や需給・在庫、投資家の資金フローなどを反映して形成されてきた。しかし、資源安全保障への危機感が強まるなか、今後のコモディティ市場を見る上では、政策動向の変化と、それが価格に及ぼす影響をこれまで以上に意識する必要がある。

以上

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