成都/中国 ~「天府の国」四川省の省都・成都~

アジア・オセアニア

2017年05月12日

住友商事(中国)有限公司 成都事務所
赤間 亀久雄

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市内中心にある天府広場・毛沢東像(筆者撮影)
市内中心にある天府広場・毛沢東像(筆者撮影)

 広義では中国が後漢(紀元25~220年前後)であった紀元184年から三国時代(220~280年)にかけ、広大な中国は「魏・呉・蜀」の三国(三国志の時代)が支配していました。成都を中心とする四川省一帯は「蜀」の国と呼ばれ、初代皇帝の劉備玄徳、軍師・政治家として有名な諸葛亮(孔明)がいました。劉備が諸葛孔明を軍師として迎え入れるため、礼をつくし三度足を運んだことで知られる「三顧の礼」は中国でも有名です。また「魏」の国には「魏の武帝」と呼ばれた曹操がおり、呉の国は孫権皇帝とその下に都督(元帥)として周瑜がいました。映画『レッドクリフ』で有名な「赤壁の戦い」は紀元208年に、長江(揚子江)沿いの赤壁(現在の湖北省)で起こった曹操軍と孫権・劉備の連合軍の間の戦いを指します。現在の四川省の面積は日本の約1.5倍あり、人口は約9,000万人、その省都が成都です。なぜ、この四川省が昔から「天府の国」と呼ばれていたのか、それは外敵からの攻撃を防ぎやすい地形で、作物がよくできる肥えた土地が多くあったからです。「天府」とは人の手が加えられておらず、自然にできた場所を指します。この言葉通り、今の四川省は食料、油類、綿、麻、サトウキビ、桑、茶、果物、タバコ、酒の多くが中国でも農産物生産高のトップクラスです。四川盆地に位置し、西には龍門山脈(その西がチベット山脈)、南は巴山山脈、そして周囲を峻険な山並みに囲まれ、東には長江が流れる成都は、三国志の時代から「守るに易く攻めるに難しい国」でした。成都人は2,000年前から外敵から守られ、作物の豊かさを享受し、「宵越しの金を持たない」と言われる気風が醸成され今日に繋がっています。中国でも一度訪れると離れたくない街として情緒豊かな都市です。

 

 

• 世界文化遺産「都江堰」

世界遺産・龍門山脈から成都盆地に流れる運河「宝瓶口付近」(筆者撮影)
世界遺産・龍門山脈から成都盆地に流れる運河「宝瓶口付近」(筆者撮影)

 四川一帯は昔から豊かな土地でしたが、三国時代より前の紀元前3世紀の秦の時代からこの地域は度々洪水に悩まされてきました。春の雪解け水が山脈を抜けて成都平原に集まり、岷江(河)に流れ込むためです。ここに紀元前251年に建設された現在世界遺産に指定されている「都江堰(とこうえん)」、古代の灌漑水利施設があります。上流にダムを造ることも検討したと言われますが、軍事水路として維持する必要があったことから当時の四川省の太守(知事)李冰はここに水利施設を建設することに決めました。

世界遺産・人工的に作られた中洲、川が分水される「魚嘴」(筆者撮影)
世界遺産・人工的に作られた中洲、川が分水される「魚嘴」(筆者撮影)

構造は、北から南に流れる岷江に中州を造り、西側を本流、東側を農業用水として活用するというもので、堰(せき)は川を分水する「魚嘴」、土砂を排出する「飛砂堰」、川の水を運河に導入する「宝瓶口」の堤防状の構造物からなります。四川省が豊かな土地であるのも2,000年以上前に建設されたこの都江堰が整備されたからです。三国時代、時の諸葛孔明も何度もこの都江堰を訪れ治水工事を指揮したと言われています。今でも成都平原の5,300キロメートルに及ぶ広大な農地の灌漑に活用され、古代の優れた土木技術を現在に残しています。

 

 

• 中国パンダ保護研究センター

成都中心部・国際金融センター付近 パンダ一色の街(筆者撮影)
成都中心部・国際金融センター付近 パンダ一色の街(筆者撮影)

 四川省・成都のパンダ(正式にはジャイアントパンダ、中国語では"大熊猫")はあまりにも有名です。今でも絶滅の恐れが高い哺乳類の一種に指定されています。野生のパンダの生息数は1970年代には約1,000頭とされていましたが、現在は約1,600頭前後と言われ、標高1,500~4,000メートルの森に生息しています。四川省には国が定めたパンダの生息と保護を目的とした大規模な自然保護区が設立されています。中国のパンダは日本でいう"戸籍"のように血統、名称などが厳格に国によって管理されています。1972年に日中国交回復を記念して、中国政府からパンダの"カンカン"と"ランラン"が上野公園に来園した事は記憶にあると思います。パンダは現在でも日中友好の懸け橋となっているのです。

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