2025年11月14日 (金)
[メキシコ]
メキシコ政府は、中国などFTA(自由貿易協定)を結んでいない国からの輸入品に対する関税導入に関して、国内企業への影響を慎重に評価している。下院経済委員会は、関税対象となる製品や税率の決定に時間を要するとして、2027年8月までの手続き延長を要請した。与党は、関税改革自体は今議会中に承認される予定であると強調しているが、民間企業との交渉が続いており、制度導入は長期化する可能性がある。
2024年通年で中国からの輸入はメキシコの総輸入額の20.8%を占めており、主な輸入品は、自動車(7%)、携帯電話(6.3%)、部品・機械付属品(5.8%)、電子集積回路(4.1%)、データ処理機(3.8%)など。これらの製品が、関税の対象となる可能性が高い。
関税は最大50%に達する可能性があり、中国以外にも、インドネシア、トルコ、ベトナムなど他の国々にも影響を及ぼす可能性がある。メキシコ企業は、関税がサプライチェーン全体に与える影響やインフレの加速を懸念し、関税導入の回避を求めるロビー活動を積極的に行っている。
シェインバウム大統領は、米国との貿易統合を重視しており、特にワシントンが懸念する中国の投資や、メキシコ経由で米国に再輸出されるリスクへの対応として、非FTA諸国への関税導入を推進している。これは、トランプ大統領の移民政策や安全保障への関心に配慮した結果であり、すでに電気自動車の関税を0%から15~20%に引き上げている。
メキシコの実効関税率は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)による免除措置により10%未満に抑えられているが、シェインバウム大統領はUSMCAの維持と、中国の経済的影響力の抑制を目的とした新たな協定の早期成立を目指している。新たな関税制度は、2026年の関税収入を2025年比で約68%増加させ、2,540億ペソ(約145億ドル)に達する見込みであり、財政戦略の一環としても位置づけられている。
[オランダ]
10月29日、オランダの総選挙では、中道リベラルのD66党が極右の自由党(PVV)を僅差で上回り、政権形成の主導権を握ることとなった。しかし、議会の議席数は極めて細分化されており、連立政権の形成には最低でも4党の協力が必要となっている。D66は中道右派のキリスト教民主アピール(CDA)、自由民主党(VVD)と連携する見通しであるが、それでも過半数に届かないため、緑の左派連合(GL-PvdA)または右派のJA21を加える必要がある。
最も安定した選択肢は、D66・VVD・CDA・GL-PvdAによる中道連立である。この構成であれば下院で過半数を確保し、上院でもGL-PvdAが最多議席を持つため、法案成立の可能性が高まる。一方で、VVDがGL-PvdAではなくJA21との連立を望んでいるため、交渉は難航する可能性がある。JA21を加えた場合、議席数は75と過半数に届かず、法案通過には都度、野党との交渉が必要となり、立法面での不安定さが残る。
極右政党PVVは、党首ウィルダースが2025年6月の政権崩壊を招いたとして議席を減らしたが、依然としてD66と同数の26議席を保持している。また、PVVの支持層はJA21やフォーラム・フォー・デモクラシー(FvD)に分散し、極右・右派ポピュリスト勢力というくくりでは全体の議席数がむしろ41から42へと微増しており、極右思想の支持が根強く残っていることを示している。
D66主導の政権が成立すれば、EUとの関係改善が期待される。また、経済政策は企業寄りの姿勢を取っており、所得税やエネルギー税の引き下げ、育児支援の拡充、行政手続きの簡素化、スタートアップ支援のための国家投資銀行設立などを目指している。ただし、高所得者への課税強化や気候変動対策の規制の追加へは意見が分かれ、連立政権内での政策調整が課題となる。
オランダの連立交渉は複雑かつ長期化する可能性が高く、移民政策、環境対策、EUとの関係など、政党間の立場の違いが顕著であるため、妥協と調整の行方が注目される。
[アフリカ/ロシア/ウクライナ]
11月13日、ケニアのムダバディ外相は約200人のケニア人がウクライナ紛争でロシア側として戦っており、さらに多くの国民が徴用される可能性があると述べた、と英・BBCなどが報じている。9月に「ロシアでの仕事がある」との偽りの誘いで、実際にはウクライナ紛争にケニア人20名を送り込もうとした人身売買組織をケニア警察が逮捕している。11月7日にもケニアのルト大統領はウクライナのゼレンスキ-大統領と電話会談を実施し、ウクライナ紛争に違法で徴兵され、ウクライナ側で拘束されているケニア人らの解放を求めていた。ムダバディ外相はケニア国内で依然として(ロシアとつながりがある)募集機関が積極的に活動していると指摘。ケニア外相の調べによると、ロシアへのビザ・渡航・宿泊費として、ひとり最大1万8,000ドルの支払いが約束されたケニア国民もいたことから、高額報酬に騙され、結果的には戦場の最前線に送り込まれているとみられる。南アフリカの大統領府も11月6日、ウクライナ東部のドンバス地域に閉じ込められた17人の南ア国民から帰国支援を求める緊急連絡を受けたとの声明を発表。ケニアと同様に高収入の雇用契約を口実に傭兵活動に参加したとみられることから、南ア政府はその経緯について調査を進めている。南ア政府は戦闘に参加した自国民らがどちら側の戦闘に加担していたかを明らかにしていないが、米・政治誌Politicoは「ロシア側として戦ったことは明らかだ」と報じている(11月8日付)。
ウクライナのシビハ外相は11月7日、アフリカ36カ国から集められた1,436人がロシア側として戦争に参加していると発表。ロシアがアフリカに対して「死刑宣告に等しい」契約への署名を迫っていると述べ、ロシアを避難するとともにアフリカ各国に警鐘を鳴らした(11月7日付、英Reuter紙)。同氏によると参加したアフリカ人は、ロシアに金銭を提示されたり、騙されて署名をしたり、何に署名をしているか理解していないものもいるが、十分な訓練も受けないまま戦場に送り込まれることから、瞬時に命を落とすと述べている。また、ロシアによる勧誘は男性のみならず、ケータリングやホスピタリティ分野での仕事を約束するSNS上の募集に応じたアフリカ人女性らが、実際にはロシアのドローン工場で働かされているとの報道もある(11月8日付、アルジャジーラ紙)。ロシア軍に所属する外国人戦闘員の大半はキューバ出身者と見られているが、長期化するロシア・ウクライナ間の紛争とアフリカの若者らの失業・貧困問題があわさって、人道的な問題を引き起こしている。
[ウクライナ/EU] 11月12日、先進7か国(G7)外相会合は、ロシアの侵攻が続くウクライナへの「揺るぎない支援を再確認する」との共同声明を発表した。ただ、対ロシア制裁強化は「検討する」との表現にとどまり、具体策に言及しなかった。また、ドイツのワーデフール外相は「ウクライナに対する西側の支持を確実なものにするためには、腐敗と断固として闘うことが必要である」とG7外相会談後にコメントを残した。11月13日にウクライナのゼレンスキー大統領はドイツのメルツ首相との電話会談を行い、ウクライナの汚職スキャンダルは、その話題の一つだった。対話の中でメルツ首相は、ドイツがゼレンスキー政権に対し、腐敗との闘いにおいてより断固とした行動を取ること、さらに法の支配の分野でも進展を期待していると述べた。また、メルツ首相はゼレンスキー大統領に対し、ウクライナの若い男性がドイツに難民として避難するのを抑制すべきだと述べた。メルツ首相はまた、間もなくウクライナ難民への給付金を減額し、「就労のインセンティブを高める」とも述べた。
[中国]
中国の信用拡大が急減速するなか、銀行現場では”見せかけの融資”が拡大し、実体経済の低迷と政策目標の乖離(かいり)が鮮明になっている。
中国人民銀行が発表した10月の社会融資総量は8,150億元と1年3か月ぶりの低水準に沈み、予想の1兆2,000億元を大きく下回った。政府債の発行ペースが鈍化したことに加え、企業・家計の需要が冷え込んだことが主因である。企業向け中長期融資はわずか310億元増にとどまり、前年同期の2割以下であった。住宅市況の低迷を受けて住宅ローンも再び純減し、家計の追加借入額は2008年の世界金融危機以来の低さとなった。9月に導入された消費ローン補助も効果は限定的で、民間部門の慎重姿勢が鮮明になっている。
このような状況下、銀行はかつてないプレッシャーに直面している。銀行側が企業や個人に短期の融資を持ち掛け、利息は銀行や担当者個人が負担し、すぐに返済してもらう事例が各地で横行しているとブルームバーグ紙は報じている。監査報告では、2023年に6つの国有金融機関が、評価期間直前に総額5,167億元の融資を実行し、直後に引き揚げていたことが発覚している。
背景には、(1)貸出需要の低迷、(2)銀行の利ざや縮小、(3)不良債権の増加リスク、(4)地方政府融資平台(LGFV)への締め付け強化、など複数の問題がある。特に、過去は信用拡大けん牽引したLGFVが、債務規制の強化により借入を縮小し、銀行は大口の貸し先を失っている。中央銀行による金融緩和の継続にもかかわらず、「資金はあるが、借りる主体がいない」状態が固定化しつつある。
専門家の間では、今年中の追加利下げは見送りになるとの見方が強い一方、2026年に向けて政府債発行の加速が信用を押し上げるとの期待もある。しかし、実体経済の需要が回復しなければ、信用統計上の改善は”数字上の回復”にとどまるリスクがある。
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