2025年11月6日 (木)
[ブラジル]
ブラジル中央銀行(BCB)の金融政策決定理事会は、事前の予想通り政策金利(セリック金利)を15.00%に据え置いた。これは3回連続の据え置きであり、全会一致で決定された。
理事会は米国の経済政策や先行きに対する不確実性が依然として高いと指摘し、特に地政学的緊張が高まる中で、新興国市場への影響に注意を払う必要があると強調している。
国内経済については、経済活動は緩やかな成長であるものの、労働市場は依然として需要が強いと評価されている。インフレ率は改善傾向にあり、BCBの予測では2025年第2四半期のインフレ率が前年同月比で3.4%から3.3%へと下方修正された。ただし、これは依然として目標レンジ(3%±1.5ポイント)の中心値を30ベーシスポイント上回っている。
BCBのモデルによれば、インフレ率を目標の3.0%に収束させるためには、現在の高水準の金利をより長期間維持するか、予想よりも緩やかなペースで引き下げる必要があるとされている。ただし、この見通しは為替レート、一次産品価格、経済成長などの外部要因に大きく左右される。
また、米国による対ブラジル関税や、国内財政政策の動向など、貿易や財政に関する不確実性も金融政策に影響を与える要因として注目されている。BCBはこれらのリスクに対して慎重な姿勢を維持している。
理事会は、インフレ率が目標に向かって収束していることへの信頼が高まっているとし、従来のように「金利維持が十分かどうかを評価する」とは述べず、「非常に長期間維持すれば十分である」との見解を示した。さらに、必要に応じて利上げサイクルを再開する可能性も排除していない。
市場では、2026年に向けて緩やかな利下げサイクルが始まるとの予測があり、セリック金利は2026年3月に初めて引き下げられ、同年第3四半期までに12.75%になると見込まれている。
[EU/中米]
欧州連合(EU)の首脳らは、トランプ米大統領がコロンビアに対して制裁を課し、軍事行動を承認したことを受け、ラテンアメリカ・カリブ海諸国との首脳会談を欠席する方針を示した。もともとは、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長、ドイツのメルツ首相、フランスのマクロン大統領が、EU-ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)首脳会議へ出席を予定していた。
この決定は、トランプ大統領がコロンビアのペトロ大統領を「違法麻薬売人」と非難し、麻薬密輸に関与しているとされる船舶への米軍攻撃を承認したことが背景にある。首脳会議は11月9日と10日にコロンビアのサンタマルタ市で開催予定であったが、欧州側の主要首脳が欠席することで、参加者数は大幅に減少する見込みである。
ペトロ大統領は、米国が首脳会議の妨害を企図していると非難した。また、ペトロ大統領の専用機がカーボベルデで給油を拒否された事例も報告されており、米国の制裁が外交面に影響を及ぼしていることがうかがえる。
EU側は、今夏に締結された貿易協定の破綻を懸念しており、米国を刺激することを避ける姿勢を見せている。ウクライナへの支援において米国の軍事情報と武器供給に依存していることも、慎重な対応の背景にある。
欧州委員会は、フォン・デア・ライエン氏の欠席について「現在の政治的状況と他国首脳の参加率の低さを考慮した結果」と説明している。ドイツとフランスも同様の理由で首脳の欠席を発表したが、フランス側は詳細な理由を明かしていない。
一方で、欧州理事会のコスタ議長はコロンビアを訪問し、サミットの共同議長を務める予定である。これは、EU加盟国を代表する形での参加であり、出席者数の少なさを補う意図があると見られている。
コロンビア外務省は、「首脳会議は予定通り開催される」と述べ、キャンセルは米国の影響ではなく、スケジュールの都合によるものだと強調した。コロンビアが国際的に孤立しているわけではないとする立場を示している。
なお、ブラジルのルーラ大統領やスペインのサンチェス首相は、地域の緊張が高まる中でもサミットへの出席を予定しており、ラテンアメリカ諸国とEUとの関係強化を重視する姿勢を示している。
トランプ政権の対コロンビア・ベネズエラ政策が国際的な首脳会議に影響を与えており、地域外交における緊張が高まっている。
[タンザニア]
11月5日、アフリカ連合(AU)選挙監視団は、10月29日にタンザニアで実施された大統領選について、「AUの原則、規範的枠組み、民主的選挙に関する国際的基準に準拠していなかった」との声明を発表した。5年ぶりに実施された同選挙では、主要野党候補らの立候補が排除されたことを受け、野党支持者や抑圧的な政治に不満を持つ若者らが大規模な反政府抗議デモを実施(2025年10月31日デイリー・アップデート参照)。政府は治安当局による抗議の抑え込みのほか、インターネットの遮断や、夜間外出禁止令を発するなどの対応をとった。国連は「少なくとも10名が死亡した」と選挙後の混乱について懸念を示し、グテーレス事務総長は「徹底的で公平な調査を求める」と発言している(10月31日)。最大野党チャマ・チャ・デモクラシア・ナ・メンデレオ(CHADEMA)はCNNに対して、約2,000人が死亡したと主張しているが、タンザニア政府は死者数を公表していない。CHADEMAの主張が事実であれば、選挙後の死者数としては2010年のコートジボワール大統領選後の混乱で生じた約3,000人の規模に匹敵することとなる。タンザニアではこれまで大規模な反政府抗議活動は行われていなかったことから(小規模な抗議活動は政府によって封じ込みが行われていた)、国際社会にも大きな反響を及ぼしている。
タンザニア選挙管理委員会(INEC)は11月1日、現職のサミア・スルフ・ハッサン大統領が得票率97.7%で勝利したと発表。投票率は87%だったとしている。これは2020年の故ジョン・マグフリ前大統領が勝利した際の得票率84.4%を大きく上回っている。選挙監視団を派遣したAUや、南部アフリカ開発共同体(SADC)などは選挙監視の暫定報告書において、多くの投票所では投票率が低かったと指摘していることから、INECが発表した数字に大きな疑義が生じている。11月3日にサミア氏は大統領宣誓式を実施したが、同席したアフリカの国家首脳級はザンビア、モザンビーク、ソマリア、ブルンジに限られ、米国は欠席するなど、国際的な信任は得られていない状況にある。
アフリカ各国のガバナンスの評価を行い、「アフリカのノーベル平和賞」ともいわれるモ・イブラヒム賞を制定したモ・イブラヒム財団は今回の選挙について、「容認できない(unacceptable)」と非難しており、「国民の97.7%から支持さえているのであれば、どうしてリラックスして公正な選挙を行わないのか?」とサミア氏を痛烈に批判している(11月5日、米CNN紙)。南アフリカに拠点を置くシンクタンク・ISSアフリカは、「主に若者からなる抗議者たちの主な主張は、選挙不正への懸念、権威主義の台頭、汚職や国家機関の掌握といった統治問題である。これはカメルーン、マダガスカル、モロッコ、ケニアで最近起きた若者主導の抗議活動と共通する」と指摘。これらのデモは、人口の半数を占める若者の影響力が増大していることを示しており、2024年のケニアの増税反対デモや、2025年10月のマダガスカルでの政変のように、若者らが政府に実質的な改革の実施を迫る可能性があるとの見解を示している。
現実的には、タンザニアでやり直し選挙が実施される可能性は極めて低く、サミア氏政権による野党の弾圧や権威主義的な政権運営が継続するとの見方が多い。一方で、米・危機監視団体ACLEDは、サミア氏が率いる与党チャマ・チャ・マピンディ(CCM)内でも相当な反サミア氏派による反発があり、サミア氏は野党への対応と同様に強権的な抑え込みを図っていることから、今後CCM内の分裂とサミア氏の求心力低下が起こる可能性がある点を指摘している(10月15日付、ACLED)。
[ロシア/米国]
11月5日、プーチン大統領は核兵器実験実施を可能にする提案を起草するよう政府高官に指示した。同日、開いた国家安全保障会議では、米国が核実験を実施した場合、ロシアも追随する必要があるとの考えを示し、国防省など関係省庁に準備を指示した。トランプ米大統領は、10月に「核兵器実験」を国防総省に指示したと明らかにしており、米国をけん制する狙いがあるとみられる。会議では、ベロウソフ国防相が、米国が核戦力を増強してロシアへの脅威が高まっているとして、「本格的な核実験の準備を直ちに始めるのが適切だ」と主張。ゲラシモフ参謀総長も、トランプ氏の発言は「米国の核実験実施への意欲を示している」として、核実験の準備開始を支持した。一方、ボルトニコフ連邦保安庁(FSB)長官は米国の動きに対し、「具体的な決定を下すには多くの疑問が残る。すべてを徹底的に理解し、適切な提案を準備する」時間を与えるよう求めた。
ロシアは、ソ連時代の1990年に爆発を伴う核実験を実施したが、翌91年のソ連崩壊後は実施していない。
[日本]
厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、9月の実質賃金は前年同月比▲1.4%だった。下落幅は8月(▲1.7%)から縮小したものの、9か月連続でマイナスが続いている。名目賃金(現金給与総額)は+1.9%となり、8月(+1.3%)から上昇率を拡大させた一方で、消費者物価指数(除く持家の帰属家賃)が+3.4%と、8月(+3.1%)から拡大したため、実質賃金はマイナスになった。
名目賃金の内訳を見ると、基本給(所定内給与)が+1.9%となり、8月から横ばい、4月以降2%前後で推移している。そのうち、フルタイム(一般)労働者(+2.3%)が8月(+2.4%)並みを維持した一方で、パートタイム労働者の時間給(+2.8%)が8月(+3.6%)から縮小した。また、残業代(所定外給与)は+0.6%と、8月(+0.4%)から上昇率を拡大させた。残業時間(所定外労働時間)が▲4.0%と8月(▲3.3%)から減少幅を拡大させていたため、残業代の単価が上昇したとみられる。変動が比較的大きいボーナス等(特別に支払われた給与)は4.5%となり、8月(▲7.8%)からプラスに転じたことで、名目賃金を押し上げた。なお、共通事業所ベースの名目賃金は+2.4%であり、8月(+1.9%)から拡大し、2%超の賃金上昇傾向が継続している。
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