デイリー・アップデート

2025年11月18日 (火)

[チリ] 

大統領選の第1回投票では、左派連合「ウニダッド・ポル・チリ」の候補ジャネット・ハラ氏は27%の得票率で首位に立ち、右派のホセ・アントニオ・カスト氏は24%を獲得した。過半数を得た候補者がいなかったことから、両者が12月14日に予定される決選投票に進出した。

 

その他の候補の動向は、中道右派で反体制的な言動で知られるフランコ・パリジ氏が約20%を獲得し、リバタリアンのヨハネス・カイザー氏は14%、中道右派のエヴリン・マッテイ氏が13%を獲得した。なお、今回の選挙では義務投票制度が導入され、投票率は85%に達した。

 

今回敗れたカイザー氏、マッティ氏ら右派候補者がカスト氏の支持を表明していることもあり、右派のカスト氏が優勢との見方が強く、「継続」よりも「変化」を求める有権者の意向が示されている。

 

議会構成を見ると、右派連合は上院で25議席、下院では76議席となった。それぞれ過半数には1議席、2議席足りないものの、カスト政権が成立すれば、財政調整や法人税の段階的引き下げ、投資促進策などの政策の実行も可能になるとみられる。

 

マクロ経済の見通しについては、国民の関心事項が、以前の年金や教育から犯罪、移民、失業対策といった問題へと移行しており、これらへの対応が長期的な成長にとって重要となる。

 

2021年に当選した左派のボリッチ大統領は、新自由主義からの脱却を公約に掲げ、社会保障の強化、税制改革、労働者の権利保護などを進める姿勢を示したものの、議会の反発にあい改革は実現しなかった。現在でも新自由主義的な政策への反発は残っているが、財政規律や市場の安定性を重視する声は強くなっている。

 

現在チリの財政状況は比較的健全で、総債務比率はGDPの42%となっている。 経済成長の見通しも堅調で、2025年は約3%の成長が見込まれている。新政権が段階的な財政再建を進め、市民の支持を得られれば、投資促進につながる可能性が高い。

 

信用格付けは依然として「A」水準を維持しており、選挙結果がこの評価を裏付ける形となったことで、今後の経済運営に対する信頼感が高まっている。

[南アフリカ(南ア)/イスラエル/パレスチナ] 

11月17日、ロナルド・ラモラ外相は、南ア政府の事前承認なしに153人のパレスチナ人がチャーター機でヨハネスブルグ空港に到着したことに関し、懸念を表明した(11月17日付、IOL紙など)。11月13日に到着した同機には、主にガザ地区から非難したとみられるパレスチナ人家族らが搭乗していた。しかし、搭乗者らは難民申請をしておらず、イスラエルの出国スタンプも有していないことから、南ア側で入国の手続きができず、到着後10時間以上にわたり機内で待機を強いられていた。南ア政府側としても「寝耳に水」となったが、南アの慈善団体ギフト・オブ・ジ・ギバーズが搭乗者全員の保証人を引き受けたことにより、ラマポーザ大統領が入国を許可した。うち、23人はカナダやオーストラリア便に乗り継ぎ、出国したと報じられている。10月28日にも176人のパレスチナ人がチャーター機で到着しており、大部分は南ア国内のイスラム教徒コミュニティらの支援を受けているとみられる。南アでは、パレスチナ人は90日間、ビザなし観光滞在が可能だ。

 

ラモラ外相は、「パレスチナ人をパレスチナから世界各地へ移送する広範な計画の一環であり、明らかに組織的な作戦であるように見える」と述べ、パレスチナ人の輸送にイスラエル政府が関与していることを暗に批判した。報道では、ロンドン在住のエストニア系イスラエル人が率いる「アル・マジュド・ヨーロッパ」がガザからの輸送を手配しており、イスラエル政府と共謀しているとみられている(11月17日付、アルジャジーラ紙)。搭乗者は一人あたり1,400~2,000ドルを同社に支払う見返りに「第三国」への渡航を約束されたが、その多くは行き先について知らなかったとみられている。

 

本件に関して、イスラエル政府は公式な見解を発表していないが、8月に政府はガザ地区からのパレスチナ人の強制移住の受け入れを探るため、アフリカ数か国と接触したとの報道もあることから(8月14日付、トルコAA紙)、その試みの一環である可能性はある。また、南アフリカは11月22~23日にG20サミットの開催を控え、世界中の注目が集まっているタイミングのため、南アが受け入れに関して寛容な態度を示すか(イスラエル側が)反応を探ったものと見る向きもある(11月16日付、南アCity Press紙)。

 

南アフリカとイスラエル関係は、2023年にガザ地区でパレスチナ人らへの攻撃を続けるイスラエルがジェノサイド条約に違反しているとして、国際司法裁判所(ICJ)に提訴したことを受け、過去最悪の状況となっている。2025年1月のトランプ氏就任後は、イスラエル支援を行う米国と南アの関係も悪化し、トランプ氏は南アに対する相互関税(30%)の発動や、G20サミットへの米政府のボイコットなどを表明している(11月8日デイリー・アップデート参照)。南アフリカのパレスチナ支援の姿勢は、人種隔離政策(アパルトヘイト)撤廃を求めて反政府活動を行った、現在の最大政党「アフリカ民族会議(ANC)」らのイデオロギーの中心をなす「民族自決」に基づく連帯意識が基になっている。ANCの中心メンバーで、アパルトヘイト政権下で27年間にわたり投獄されていた故・ネルソン・マンデラ元大統領が、1990年の釈放後、わずか16日後に当時のパレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長と熱い抱擁を行ったことは、ANCとパレスチナの連帯姿勢を国際社会に印象付けた。ICJの提訴に関しても、ベテランANC党員でイスラム教徒のナレディ・パンドール前外相がイスラエルのガザ攻撃直後にハマス幹部と電話会談を行うなどパレスチナ側との関係が深かったことが行動に影響している。ICJ提訴の事務手続きを行ったのは当時法相を務めており、ANCユースリーグ(青年組織)にも所属していたラモラ外相その人だ。

 

他方でイスラエル・米国関係の悪化を招いてまでもパレスチナとの連帯姿勢を示すANCに対して南ア国内でも批判の声はある。白人有権者を政権基盤とし、親ビジネス派でANCよりも西側諸国寄りの第二党「民主同盟(DA)」は、2024年の連立政権入り前からANCの対パレスチナ外交に異を唱えていた。また、南ア国内にはサブサハラ・アフリカで最大となるユダヤ人コミュニティがある。ユダヤ人の人口は7~8万人と多くはないが、鉱業、金融分野など南ア経済界で大きなプレゼンスを示している。こうしたユダヤ系コミュニティのほか、人口の8割以上を占めるキリスト教徒らもイスラエルに対して共感的であることが少なくない。また、アフリカ各国を含め移民が多く、その一方で国内の失業問題も大きい南アでは、これまでもたびたび大規模な外国人排斥運動(ゼノフォビア)が起きていることから、今回のパレスチナ人受け入れに関して国全体として寛容な姿勢を示すことは期待できない。

[ユーロ圏] 

欧州委員会は11月17日、秋季経済見通しを発表した。ユーロ圏のGDP成長率は2025年に1.3%、2026年に1.2%へ減速した後、2027年に1.4%に加速する見通し。なお、2026年からユーロ圏にブルガリアが加わり、21か国になる。

 

2025年当初は、米国の関税引き上げを見越した輸出の急増に、経済成長が後押しされた。その一方で、これまでの緩やかながら着実な成長は、域内経済の強靭性を表していると評価された。労働市場は底堅く、賃金上昇も物価上昇を上回り、実質的な購買力の回復を通じて個人消費を下支えしている。それに加えて復興基金などEU基金が、財政健全化を進める国への影響を和らげている。住宅投資や設備投資も2026年にかけて持ち直す見通し。労働力人口の減少などから、潜在成長率は2024年の1.4%から2027年の1.2%へ低下する計算だった。

 

また、物価上昇率は2025年の2.1%から2026年の1.9%へ欧州中央銀行(ECB)の中期目標の2%を一旦下回った後、2027年に2.2%に拡大すると予想された。物価上昇率は、ECBの中期目標に近付いており、資金調達環境は改善していると分析された。

 

ただし、財政赤字GDP比は2024年の3.1%から2027年の3.4%へ拡大する見通し。

[米国/イスラエル/パレスチナ] 

11月17日、国連安全保障理事会は、トランプ大統領が提唱するガザに関する「20項目の計画」を支持する、米国主導の決議案を賛成多数で採択した。理事15か国のうち13か国が賛成し、反対はゼロで、中国とロシアは棄権した。決議には、国境警備や人道支援回廊の確保、ハマスの武装解除を促進してガザの治安を安定化させるための国際安定化部隊(ISF)の派遣、さらにトランプ大統領を議長とする「平和委員会」の設立などが含まれる。委員会と部隊の派遣は2年間で、2027年末に失効する予定である。また、ガザ再建資金は世界銀行支援の信託基金から拠出される。

 

決議採択後、トランプ大統領は自身のSNSに「国連安全保障理事会が、私が議長を務める『平和委員会』を承認し支持する素晴らしい決議を採択したことを祝福する。これは国連史上最大級の承認の一つとして記録され、世界にさらなる平和をもたらすだろう」と投稿し、安保理理事国に加え、この取り組みを強く支持したとしてカタール、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、インドネシア、トルコ、ヨルダンへの感謝を表明した。

 

米国のウォルツ国連大使も声明で、「本日の決議は、繁栄し安定したガザ、そしてイスラエルが安全に暮らせる環境に向けた重要な一歩である」と述べ、トランプ大統領同様、安保理理事国やアラブ・イスラム諸国への謝意を示した。

 

なお、決議案にはパレスチナ国家建設への道筋に関する言及も盛り込まれており、この点についてイスラエル国内ではネタニヤフ首相をはじめ多くの政治家が強く反発している。決議採択前日の11月16日、ネタニヤフ首相は「ヨルダン川以西のいかなる地域でもパレスチナ国家に反対するという立場は変わっていない。私は数十年にわたり国内外の圧力に抗してきた。誰からの説教も必要ない」と述べた。また、カッツ国防相もXで「パレスチナ国家は決して樹立されない」と投稿。さらに、連立与党の極右政治家であるベン・グビール国家安全保障相は、国連がパレスチナ国家承認を支持した場合、パレスチナ自治政府高官の暗殺を呼びかけた。

[EU/中国] 

欧州連合(EU)は、中国によるレアアース輸出規制と、オランダ政府が中国系半導体メーカー・ネクスペリアを欧州事業から切り離したことで生じた供給混乱を受け、対中姿勢を大きく調整していると香港紙『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』が報じている。ブリュッセルは現在、中欧の緊張を緩和すべく、公的な対中批判を控える一方で、依存低減(デリスキング)政策は強化するという二重戦略をとっている。目的は、欧州産業が依存するレアアースと自動車部品向け半導体の供給確保である。

 

EUと中国は現在、レアアース輸出に関する一般ライセンス制度の創設に向けて最終調整中である。エンドユーザーと用途が同一で、かつ軍事利用でない場合に限り、1年間のライセンスを発給するという条件を成立させようと交渉している。現在は3か月ごとの更新となっており、企業への負担が大きい。2025年4月に中国が新規制を導入して以降の混乱を緩和する狙いがある。

 

また、9月にオランダがネクスペリアの欧州部門を親会社から遮断したことで、中国が同社製品への追加輸出規制を発動し、欧州自動車産業が再び供給危機に陥ったことも緊張緩和を進める背景にある。

 

このためEUは、交渉の妨げになる「メガホン外交」を避け、中国との協調ムードを演出している。他方で、対中依存を縮小する制度面の取り組みは加速している。中国国有企業の中国中車(CRRC)への外国補助金規制調査の開始をはじめ、2025年末までに複数のデリスキング関連新法を提出する予定である。他に、5Gネットワークからのファーウェイ(Huawei)排除の徹底や、中国発の低額EC配送への免税優遇を2026年に廃止することも決まった。さらに、EVサプライチェーン分野で中国企業のEU投資に技術移転を求める「産業加速法」案や、レアアース依存脱却に向けた「リソースEU」計画についても準備を進めているとしている。

[ロシア/インド] 

11月17日、ロシアのラブロフ外相は首都モスクワでインドのジャイシャンカル外相と会談した。ラブロフ氏は、11月5日、14日に開かれた安全保障会議や、12日のカザフスタンとの首脳会談など、通常であれば出席する重要行事などを相次いで欠席。モスクワの外交関係者の間で体調不良との臆測が浮上していたものの、表舞台復帰で健在を示した。ラブロフ氏の対面での会談が確認されたのは、10月28日に隣国ベラルーシでハンガリーやミャンマーの外相とそれぞれ会談して以来。

 

ラブロフ氏とジャイシャンカル外相は、12月5日から予定されるプーチン大統領の4年ぶりのインド訪問を中心に協議した。2025年9月以来となるプーチン氏とモディ首相の首脳会談では、ロシア産原油の購入を続けるインドに高関税を課したトランプ米国政権への対応や、経済協力などが議題になるとみられる。

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