デイリー・アップデート

2025年11月17日 (月)

[ロシア/ベネズエラ] 

ロシアは(ベネズエラの)マドゥロ政権の維持を望むが、もし米国がベネズエラに軍事介入したら、ロシアがそれを積極的に阻止する可能性は低い。米ワシントン・ポストが報じた米政府の内部文書によれば、マドゥロ大統領はロシアに対し、Su-30MK2(スホーイSu-30MK2)戦闘機の修理、約14基のミサイルユニットの供与、エンジンやレーダーシステムの大規模改修を要請したという。ロシアのラブロフ外相はベネズエラからの軍事支援の要請を「受けていない」と否定しているが、友好国である南米ベネズエラの船に対するここ数か月間の米国の攻撃を「無法国家のふるまいであり容認できない」と非難している。ロシアとベネズエラは2025年5月にエネルギー、武器、外交協調を柱とする包括的な戦略的パートナーシップ協定に署名した。両国は西側諸国による制裁に対抗するかたちで、軍備管理や貿易など複数分野での連携強化に合意した。この協定が、今回の軍事支援要請とロシアの前向きな対応の土台となっているが、ロシアはウクライナ戦争でリソースがひっ迫しており、ベネズエラへの本格的な軍事介入は困難である。ロシアからの支援は象徴的なものに留まる可能性が高いと思われる。

[米国/サウジアラビア] 

サウジアラビアのムハンマド皇太子兼首相の訪米が予定されている。11月18日にはホワイトハウスでトランプ大統領との会談が行われ、翌19日には米・サウジ・ビジネスフォーラムが開催される予定である。ムハンマド皇太子によるワシントン公式訪問は2018年3月以来、約7年半ぶり。当時もトランプ政権1期目での訪問であり、バイデン政権時には両者の関係悪化によりホワイトハウス訪問は実現しなかった。今回の訪米には、ほぼすべての閣僚を含む約1,000人の代表団が同行すると報じられている。

 

トランプ大統領は11月14日、記者団に対し、サウジアラビアが「F-35ステルス戦闘機を大量に購入したいと考えている」と延べ、同戦闘機の販売契約を検討していることを示唆した。一方で、一部専門家は、米国がF-35売却に関して運用面での制限を課す方針に対し、サウジ側が難色を示していると指摘している。過去には、UAEもF-35購入を検討したものの、厳しい運用制限を理由に最終的に購入を断念した経緯がある。また、イスラエルのメディアでは、F-35のサウジアラビアへの売却が、米国が長年維持してきたイスラエルの「質的軍事優位性(QME)」を損なう可能性についての議論も注目されている。

 

防衛協力に関しては、米国が同じ湾岸諸国であるカタールに提供したような防衛協定の締結を、サウジ側が目指しているとの報道もある。

 

そのほか、これまで継続されてきた民生用原子力協力に関する協議や、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化をめぐる協議も行われる見通しである。さらに、5月のトランプ大統領によるサウジ訪問時に大きな注目を集めた、両国企業間のAI分野における協力についても協議が進められるとみられる。

[米国/大豆/穀物] 

シカゴ大豆・穀物先物は2020年以来の安値圏で低迷していたが、10月半ば以降、大豆を中心に反発。11月14日には、シカゴ大豆先物価格は1ブッシェル=11.5ドル台と1年5か月ぶり高値、トウモロコシ先物も1ブッシェル=4.5ドル台と5月以来の高値に達していた。しかし、同日、米国農務省から関連統計が発表されると、相場は反落した。

 

9月末時点で、米国産トウモロコシは輸出が好調な割に在庫が多い状態で新穀収穫を迎えること、新穀作物の一部に病害が生じたこと、中国が米国産新穀大豆を一切購入していないこと、まではわかっていた。しかし、10月1日からの政府機関閉鎖により、収穫期かつ米中間で貿易を巡る駆け引きが繰り広げられている時期に、作物の状況や輸出成約、先物建玉報告などに関する定量的な情報が得られなくなった。市場は定性的な情報に頼らざるを得ず、米中関税休戦の1年延長を好感して値上がり。米国政府は中国が2025年最後の2か月で米国大豆1,200万トン、2026~28年は年間2,500万トンを購入すると発表したが、中国側からこの内容は公式には確認できず、実際の取引データが待たれる状況だった。

 

10月1日から11月12日まで続いた米国政府機関の閉鎖が終了し、休止していた統計発表が再開。米国農務省の統計では10月2日から11月12日までの米国産大豆の対中販売はわずか33万2,000トン(+仕向地不明61万7,000トン)。2か月ぶりに発表された月例需給報告では、米国大豆の対中輸出が増えても、値上がりで他市場向け輸出が減少するとして、米国大豆輸出量の見通しが下方修正された。トウモロコシは、記録的な単収を記録した州、病害で収量が低下した州とまちまちで、全米平均の単収予測は小幅な引き下げにとどまった。輸出はメキシコ、アジア向けなどを中心に好調だが、2025/26年度の期末在庫は大幅に増加する見通しが示された。

[南アフリカ(南ア)/サブサハラ/格付け] 

11月14日、格付け大手・S&Pグローバルは、南アフリカの外貨建て長期国債の格付けを「BB-」から「BB」へ、自国通貨建て同格付けを「BB」から「BB+」に引き上げた。見通しは「ポジティブ」で据え置かれた。格上げの理由についてS&Pは、南アの経済成長と財政の軌道が改善していること、電力公社エスコムの経営改善により同社向けの偶発債務の政府負担が減少しているためとした。

 

南ア財務省は11月12日に発表した「中期予算政策(MTBPS)」において、予想を上回る付加価値税(VAT)と法人所得税収入により、3年連続で基礎的財政収支の黒字を達成する見込みを示した。財政赤字も対GDP比79%でピークに達した後、2028年度までに77%程度に小幅に低下していく見通しも示された。また、MTBPSでは、20年ぶりにインフレ目標値が1~3%に引き下げられ、中長期的には経済成長を促す施策だとして市場は好意的な反応を示していた。S&PはMTBPSで示された一連の南アのマクロ経済環境の改善と財政政策、エスコムなどの国営インフラ企業の改革断行を評価し、格上げに踏み切ったとみられている。

 

S&Pの発表後、南ア政府は「S&Pによる格上げを歓迎する」との声明を発表。大手格付け機関による南ア国債の格上げは2009年以来、16年ぶりとなった点にも言及している。2009年はジェイコブ・ズマ前大統領が就任した年である。同氏はその後、大統領辞任に追い込まれた2018年まで、エスコムをはじめとする国営企業や国家機関を汚職や腐敗の巣とし、自身や側近を縁故主義で利益誘導した「国家収奪(state capture)」を行い、南ア経済の停滞や電力供給の不安定化を招いた人物だ。ズマ氏辞任直前の2017年には、S&Pは南ア国債を「投資不適格級(ジャンク債)に格下げ。ムーディーズも2020年にジャンク債への格下げを実施し、格付け大手3社が2001年以来維持してきた「投資適格級」をすべて失った。

 

S&Pによる南アの格付けは、依然として「投資適格級」ラインよりも長期国債で2ノッチ、短期国債で1ノッチ低い状況だが、サブサハラではボツワナ(BBB)、モーリシャス(BBB-)に次いで高い格付けとなる。信用回復の背景には、ズマ氏から国家運営を引き継ぎ、立て直しを進めてきたラマポーザ大統領の経済運営の成果が表れ始めたことがある。1994年に初めて行われた全人種参加型選挙実施後、黒人支持層を基盤とする「アフリカ民族会議(ANC)」が30年にわたり単独与党で政権を運営してきたが、経済の疲弊や格差の拡大を受けて、2024年の総選挙ではANCの得票率が40.2%に留まるなど大敗。その後、白人支持層を基盤とし、クリーンなビジネスを掲げる「民主同盟(DA)」ら10党の連立政権(GNU)が発足したが、このDAらの関与が経済政策にポジティブな影響をもたらしているとS&Pも評価している。

 

S&Pが南アの格上げを発表した同日、同社はナイジェリアもティヌブ大統領による経済改革に進展がみられることを受けて、見通しを「ポジティブ」に引き上げた(外貨建て国債格付けは「B-」で据え置き)。11月7日には2022年にデフォルトに陥ったガーナの国債も「B-(外貨建て)」、「B(自国通貨建て)」に格上げするなど、政府の汚職やコロナ禍により財政赤字が拡大した国々も、一部の国々は信用が回復していることを示している。他方で、S&Pは11月4日、「非開示債務」の発覚からセネガルの外貨建て長期国債を「CCC+」に格下げ。9月には天然ダイヤモンド価格の低迷により、財政状況が悪化しているボツワナ国債を「BBB」に格下げし、10月にも軍主導の政権が発足したマダガスカルを「ネガティブ・ウォッチ」に指定するなど、ネガティブな評価も並行して行っている。S&Pの格付けでは債務危機を経験したザンビア(外貨建て)、エチオピア(外貨建て)、モザンビーク(国通貨建て)の国債格付けを「SD(選択的デフォルト)」で維持している。サブサハラの中でも信用の回復に苦戦している国、また紛争や政変、権威主義的な政権に対する抗議デモ等により、信用の低下が起こっている国も少なくない。

[日本] 

内閣府によると、25年第3四半期(Q3)の実質GDP成長率は前期比▲0.4%(前期比年率▲1.8%)だった。マイナス成長になったのは、24年Q1以来6四半期ぶり。内訳を見ると、マイナス成長の主因は、民間住宅と輸出の減少だった。

 

民間住宅(前期比▲9.4%)は、3四半期ぶりに減少した。2025年3月に建築物省エネ法や建築基準法が改正されて、駆け込み着工が生じていた。人手不足などもあって、その進捗がQ2まで続き、反動減がQ3に表れた。また、輸出(▲1.2%)は、2四半期ぶりに減少した。自動車など財輸出(▲0.8%)が5四半期ぶりに減少した。一方、産業財産権等使用料や香港などから訪日客が減少したことで、サービス輸出(▲2.1%)も2四半期ぶりに減少した。

 

個人消費(+0.1%)はQ2(+0.4%)から減速。途中横ばい(0.0%)を含めて6四半期連続のプラスになった。耐久財(▲1.3%)が2四半期ぶりに減少、半耐久財(▲0.1%)も3四半期ぶりに減少した。

 

その一方で、非耐久財(+0.2%)は2四半期ぶりに増加、サービス(+0.1%)は5四半期連続で増加した。企業設備投資(+1.0%)はQ2(+0.8%)から加速し、4四半期連続のプラスだった。

 

輸入(▲0.1%)は、3四半期ぶりに減少した。財輸入(▲0.4%)が3四半期ぶりに減少した一方で、サービス輸入(+0.7%)が3四半期連続で増加した。

 

GDPデフレーターは前年同期比+2.8%で、Q2(+2.9%)並みとなり12四半期連続のプラスを記録した。名目雇用者報酬は前年同期比+3.8%とQ2(+3.9%)並みの上昇率を維持した。単位労働費用(ULC)は+2.7%となり、Q2(+1.9%)から拡大し、10四半期連続のプラスになった。

 

なお、名目GDPは前期比+0.1%の小幅増と、Q2(+1.6%)から減速したものの、6四半期連続で増加した。年率換算の名目GDPは635.8兆円であり、Q2(635.0兆円)から0.8兆円増加した。600兆円台は、2024年Q2から6四半期連続となった。

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