デイリー・アップデート

2025年11月12日 (水)

[ウクライナ] 

11月10日、ウクライナ国家汚職対策局(NABU)は、国営原子力企業エネルゴアトムに絡む大規模な汚職の捜査を進めていると明らかにした。実業家が主導し、エネルギー相の元顧問やエネルゴアトムの幹部と従業員らが関与する犯罪組織が背後にあり、事業契約を通じて1億ドル(約150億円)の資金を不正に環流する仕組みが構築されていたという。ウクライナ地元メディアによると、ゼレンスキー大統領の旧友や現職司法大臣が家宅捜索を受けたとのこと。また、NABUがチェルニショフ元副首相兼国民統合相を捜査対象にしているとも報じた。職権を乱用して多額の不正資金を得て、マネーロンダリング(資金洗浄)をした疑いが持たれているという。ゼレンスキー大統領は「不正を働いた者は法的な責任を負う」と演説した。一方、野党指導者のポロシェンコ前大統領は、今回の汚職スキャンダルを背景に、議会における内閣に対する不信任手続きの開始を発表した。

 

今回のゼレンスキー大統領側近を巡る汚職疑惑は、ロシア軍によるエネルギー施設への攻撃が激化して冬期のガスや電気の供給に国民の不安が高まる中、政権に打撃となりそうである。

[ドイツ] 

欧州経済研究センター(ZEW)によると、11月の景気期待指数は38.5(▲0.8pt)へ低下した。市場予想(41.0)に反しての低下になった。内訳をみると、「改善」の回答割合は49.4%(▲0.8pt)へ低下した一方で、「悪化」が10.9%の横ばいにとどまった。

 

また、現在の状況を表す現況指数は▲78.7(+1.3pt)へやや改善した。 「良い」の回答割合は0.6%(▲1.1pt)へ低下したのに対して、「悪い」も79.3%(▲2.4pt)へ低下した。相対的に「悪い」が減少したことで、指数のマイナス幅が縮小した。しかし、「悪い」が大半を占めている状況であるため、現状が悪く、先行きの改善を期待する構図に大きな変化はなかった。

 

バンバッハZEW所長は、「経済センチメントは、依然として安定している」としたものの、「全体的なムードは、課題に取り組むドイツの経済政策能力に対する信頼の低下に特徴づけられている」と総括した。また、特に化学や金属部門で見通しが悪化したことが指摘された。

 

この点について、Ifo経済研究所の調査によると、10月の化学業界の景況感指数は▲19.4(▲7.7pt)へ低下した。特に、化学業界の受注残指数は▲68.9となり、9月(▲57.2%)から低下、1990年代以降で最低水準を記録した。産業用電気代など原材料コストが上昇している一方で、中国メーカーなどとの価格競争に陥り、受注残も減少するという厳しい環境にドイツの化学業界は置かれている。

[ギニア] 

11月11日、首都コナクリ近郊のモレバヤ港で「シマンドゥ鉄鉱石プロジェクト」の操業開始式典が行われた。同式典にはギニアのママディ・ドゥンブヤ暫定大統領のほか、ルワンダのポール・カガメ大統領、ガボンのオリギ・ンゲマ大統領、中国の劉国中・副首相が出席したと報じられている(11月11日付、仏RFI)。総事業費200億ドル強の同プロジェクトはギニアの内陸部4鉱区において年間約1億2,000万トンの高品位の鉄鉱石を生産し、約700kmの鉄道輸送を通じてモレバヤ港から世界に輸出するギニア史上最大の大型プロジェクトだ。鉄鉱石の権益は第1・2鉱区を中国系企業とギニア政府が、第3・4鉱区は英豪・リオ・ティントと中国系企業が有しており(注)、鉄道・港湾開発のインフラも中国系企業、リオ・ティント、ギニア政府によって進められてきた。ギニア政府はシマンドゥ鉄鉱石プロジェクト開発を軸とする向こう15年の国家開発計画として「シマンドゥ2040」を掲げ、高速道路、製油所、工業団地、農業開発などに総額2,000億ドルを投じ、一人当たりGDP約1,700ドルの同国の成長を加速させようとしている。ギニア政府は2021年のクーデター後初となる民政移管のための選挙を12月28日に実施する予定としており、かねてから選挙前にシマンドゥの操業を開始させると公約していた(5月14日デイリー・アップデート参照)。国際通貨基金(IMF)は同プロジェクトの本格的な開始により、2026~29年の同国の平均実質GDP成長率を10%台と世界で最も高成長を遂げる国の一つと予測している。

 

11月11日付けの英FT紙によると、シマンドゥ鉱山の操業開始により、すでに供給過剰状態の鉄鉱石市場にさらに供給が追加されることになると指摘。しかし、世界最大の鉄鋼生産国で、鉄鉱石輸入量の4分の3を占める中国はこれまで、豪・BHP、リオ・ティント、伯・ヴァーレなどの少数寡占の資源会社からの供給に依存し、価格の受容者となっていたが、シマンドゥからの輸入開始により力の均衡を中国に傾けることになるとの見方を示している。また、鉄鉱石の供給が過剰になれば、鉄鉱石価格は現在の1トン100ドルから今後2年間で70~80ドルまで低下し、シマンドゥに出資する中国企業が巨額の投下資本を回収するには時間がかかる恐れはあるとしたうえで、平均鉄分含有量が65%と高品位なシマンドゥの鉄鉱石は石炭を用いない新型電気炉にも適していることから「グリーン鋼」の需要を捉えることができ、一定の需要を確保できる(値崩れが起きない)との見解を示している。

 

2021年にアルファ・コンデ大統領を追放したクーデターを率いたドゥンブヤ元大佐(現・暫定大統領)は、民政移管のために暫定国民委員会(CNT)を設置し、当初は2024年内の選挙実施を公約していた。この間、暫定政権はボーキサイトや鉄鉱石などの国内の豊富な資源を「国益」に還流させることを重視し、ボーキサイトでは外国企業による国内でのアルミナ精錬の奨励や、国営鉱山企業の設立などに注力し、「強い政府」として国民の納得感を高めてきた。また、クーデター当時は、ドゥンブヤ氏自身は大統領選に出馬しない意向を表明していたが、9月に実施された憲法改正の国民投票では89.38%の賛成票を持って軍人の出馬を可能とする憲法改正案が承認され、ドゥンブヤ氏自身の立候補が可能となった。大方の予想通り、11月3日にドゥンブヤ氏は無所属で大統領選への立候補を表明。11月8日に最高裁が発表した暫定候補者リストではドゥンブヤ氏以外は知名度の低い8人の対立候補しかいないことから、同氏の圧勝は確実とみられる。

 

このように国民の支持を集めながら、自らの権力基盤の確立を進めてきたドゥンブヤ氏は、強権的支配と批判されつつも改革の実行力を持つルワンダのカガメ大統領をモデルとしているとみられている。また、同じく旧フランス植民地で、56年にわたるボンゴ家支配をクーデターで覆したガボンのンゲマ大統領も、ドゥンブヤ氏の「前例」として、憲法改正、形式上の民主的選挙を実施し、自らの大統領就任の道を築いた手本であることから、両氏らとの関係からシマンドゥ操業式典にも招待したとみられる。

 

2020年以降、それぞれ事情は異なるものの、旧フランス植民地ではほかにもニジェール、マリ、ブルキナファソ、チャドでクーデター・軍事政権が発足し、また直近ではマダガスカルでも反政府抗議デモを受けて軍主導の暫定政権が誕生している。コートジボワールとカメルーンでは野党弾圧に対する非難もある中で、83歳のワタラ大統領が4期目、92歳のビヤ大統領が8期目の当選を果たした。英語圏のタンザニアの選挙では多数の野党支持者らが犠牲になったとみられており、アフリカ全体で民主主義の後退、瓦解が目立ってきている。

 

(注)第1・2鉱区:星・中国・ギニア合弁企業・WCS(51%)、中・宝武(49%)、第3・4鉱区:Simfer SA:85%(リオ・ティント:53%、中国?業(CIOH):47%)、ギニア政府(15%)、インフラ開発(CTG):Simfer SA:42.5%、WCS:42.5%、ギニア政府:15%

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