2025年11月27日 (木)
[ギニアビサウ]
11月26日、軍将校らは国営放送を通じてエンバロ大統領の解任と、ギニアビサウの軍による「完全な支配権」の掌握、選挙プロセスの中止、国境の封鎖を行うと発表した(11月26日付、仏ジュンヌ・アフリック紙等)。事実上のクーデターとみられている。
ギニアビサウでは11月23日に6年ぶりとなる大統領選が実施され、11月27日に選挙管理委員会が結果を発表する予定だった。今回の選挙戦は、現職で二期目を目指すエンバロ大統領と、最大政党「カーボベルデ・ギニア独立党(PAIGC)」の支持を受けた独立系候補のディアス氏との一騎打ちだった。接戦となったとみられる選挙の投票終了直後から、根拠もなく両氏はそれぞれに自身の勝利を主張していたが、突然の軍の介入は、驚きを持って受け止められている。
軍将校らは「国内の麻薬王が関与した、国家の不安定化を図る計画を発見した」と述べ、「憲法秩序を改変するために武器が国内に持ち込まれたことを確認した」として、国家の安全を確保し、秩序を回復するために行動したと正統性を主張している。報道によると、エンバロ大統領のほか、ディアス氏を支持していたPAIGC党首のペレイラ元首相も逮捕・拘束されたとみられている(11月26日、France24等)。前回2019年の選挙では決選投票でエンバロ氏がペレイラ氏を破ったが、ペレイラ陣営は結果が不正に操作されたと主張し、数か月にわたり混乱が続いていた。その後も、2023年12月にエンバロ氏は「クーデター未遂が発生した」と主張し、それを理由にPAIGCが過半数を占めていた国民議会を一方的に解散。今回の選挙でもPAIGCやペレイラ氏の立候補を禁じるなど与野党間の緊張が続いていた中での軍による「喧嘩両成敗」となったとみられる。ギニアビサウは1973年のポルトガルからの独立以来、9回にわたるクーデターおよびクーデター未遂が発生しており、不安定な情勢が続いている。人口約200万の国民の大半は絶対的貧困状態にあり、ギニア湾沿いの無人島は中南米から欧州へのコカイン密輸の中継地となっている。2008年に国連はギニアビサウを「麻薬国家(Narco-state)」と指定しており、エンバロ政権下でコカインの取引が急拡大していると指摘する声もある(11月26日、英Reuters紙)。エンバロ氏含め麻薬業者が政治家の資金源となっていること、また、エンバロ氏の近年の強硬的な態度が、政治の「最終仲介者」としての役割を担ってきた軍部との摩擦を生じさせ、今回の軍の発言や行動に表れたとみられる(11月26日付、仏Africa Report紙)。
軍による権力の掌握の発表を受けて、選挙監視団を派遣していたアフリカ連合(AU)と西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は共同声明で、深刻な懸念を表明している。特に同監視団を率いていたモザンビークのニュシ前大統領とナイジェリアのジョナサン元大統領がエンバロ氏、ディアス氏を交えた会談を行った直後にクーデターが発生したことは遺憾だと表明している。
ギニアビサウの近隣のギニアや、マリといったサヘル地域では2020年以降、クーデターがたびたび発生し、軍政が続いている。ギニアでは、クーデターを率いたドゥンブヤ暫定大統領自らが12月に行われる大統領選への出馬を表明しており、圧勝が予想されている。クーデターが宣言されたギニアビサウも同様に「形式的な民政移管」の軌跡をたどるのか注目が集まる。
[米国/ガソリン]
米国は感謝祭シーズンを迎えている。米国自動車協会(AAA)は2025年のこの時期、昨年(2024年)より160万人多い8,180万人が50マイル以上移動すると予想している。このうち、自動車で移動する人は昨年より130万人多い7,300万人に上る見込み。一方、米国エネルギー情報局(EIA)によると、11月24日時点のガソリン小売価格は全米平均で1ガロン3.06ドル。前年同時期とほぼ同水準にとどまっている。
2025年は、ガソリン価格の約半分を占める原油の価格が低位安定しており、ハリケーンによる製油所の混乱もなかったため、米国ガソリン小売価格は比較的変動が少なかった。季節的には、需要期であり、製造コストの高い夏仕様ガソリンが環境規制で義務付けられる夏場に価格が高くなる傾向があり、2025年も夏の終わり以降は緩やかに値下がりしている。
ただし、米国のガソリン価格は地域の需給状況、燃料仕様、州税などにより、地域によって大きく異なる。最も高いのは西海岸で、11月24日時点の小売価格は平均4.07ドルと前年同期比で+5%高。ロサンゼルスの製油所閉鎖により地域の供給が減り、ガソリン輸入が増加している。最も安いのは製油所が集積し、ガソリン税が全米平均より低いメキシコ湾岸地域で2.64ドル。米国のガソリン価格情報サイトGasBuddyの報告によると、全米最安値はオクラホマ州の4つのガソリンスタンドで1ガロン1.99ドルだった。
[英国]
英国の財務大臣レイチェル・リーブスは、過去最高水準の税負担を目指す予算案を提出した。この予算は、労働者や富裕層、企業に対して増税を行い、その財源で福祉支出を拡大した。これにより、29/30年度までに現行予算を均衡させるという財政規則に対して予想以上の余裕(217億ポンド、GDPの0.6%)を実現した。
前回、リーブス氏は約400億ポンドの増税を実施したが、今回さらに260億ポンドの増税を発表した。これにより、税負担がGDPの38%に達する見込みとなっている。リーブス氏は「今後も増税の可能性を否定しない」と明言している。
今回の予算案は、所得税の基準額凍結を2030/31年度まで続け、127億ポンドの追加歳入を見込む。また、年金拠出に対する税負担軽減のスキームを制限、さらに、200万ポンド以上の住宅に対する新たな地方税や、配当課税の引き上げも導入される予定だ。一方で、支出面も増額し、子ども手当上限を撤廃するなど福祉拡充を進める方針。財政研究所は「今使って後で払う構造」と指摘している。
一方で、予算責任局(OBR)は成長率、家計の可処分所得の予測を下方修正し、インフレ率は上方修正した。2025年の成長率は1.5%としたものの、2026年の成長予測を1.9%から1.4%に、2027年を1.8%から1.5%に、2028年を1.7%から1.5%に、2029年を1.8%から1.5%に引き下げている。成長の弱さの大きな要因は、生産性向上の下方修正で、平均で約0.3%引き下げている。2025年の年率0.7%から、2030年には1.0%と試算している。また、家計の可処分所得は年平均0.5%の伸びにとどまり、1950年代以来で2番目に低い水準になるとされる。一方、インフレ率は2025年には3.5%、2026年には2.5%とし、リーブス大臣はイングランド銀行による追加利下げに期待を示した。
市場の反応は、政府の財政バッファーを拡大する方針が債券(ギルト)市場を押し上げ、10年物国債の利回りは4.42%に低下した。資産運用会社も英国市場への投資を強化する姿勢を示した。ただし、OBRが生産性や成長率を引き下げ、税収減少も予測しており、英国経済の課題は依然として残ることから、株式市場や為替市場はやや軟調に推移した。
[ホンジュラス]
ホンジュラスでは、11月30日の総選挙まで残り1週間となり、中道右派自由党のナスララ氏が大統領選の有力候補として優位に立っている。世論調査によると、ナスララ氏(37%)がリードし、保守系国民党のアスフラ氏が(29%)、現大統領カストロ氏が後継者として推す左派のモンカダ氏(27%)が追う構図となっている。ナスララ氏は、3候補の中で最も「変革」を象徴する人物と見られている。
しかし、国民党はナスララ氏の自由党よりも強固な組織力を持ち、特に農村部での有権者動員に優れている。ホンジュラスでは投票が義務ではないため、この組織力は選挙結果に大きな影響を与える可能性がある。そのため、アスフラ氏が逆転勝利する可能性も残されている。
一方、モンカダ氏の劣勢は、与党が不正行為に踏み切るとの懸念を高めている。政府は、勝率差を広げるために投票用紙の配達遅延などの戦術を取る可能性がある。また、選挙の公正性に疑問を投げかけることで投票率を下げ、結果に異議を唱えるための土台を作ろうとしているとみられる。こうした動きに対し、トランプ政権は不正に対して厳しく対応する姿勢を示しており、EUや米州機構などの国際監視団も選挙過程を注視している。野党は投票所で独自に集計を行う準備を進めている。
また、選挙後の移行期は不安定になる可能性が高い。与党は結果に異議を唱え、再集計を要求し、選挙管理委員会の認証を遅らせる戦術を取る可能性がある。
こうした状況から、選挙当日に複数の候補者が勝利を宣言する可能性が高く、社会的混乱や長期的な不確実性のリスクが高まっている。米国は不正や混乱があれば強硬に対応する構えであり、制裁は個人に焦点を当てる可能性が高いが、事態が悪化すればより広範な措置に発展する恐れもある。米国はホンジュラスにパルメローラ空軍基地を維持しており、同国との協力関係は戦略的にも重視している。
経済面では、誰が勝ってもIMFとの協力は継続される見込みで、2026年8月に終了する現行プログラムの後継策が検討されるとみられる。一方で、ナスララ氏やアスフラ氏が勝てば、民間セクターとの関係強化や投資誘致を重視する可能性が高い。一方、カストロ政権は2024年に世界銀行の仲裁機関を脱退しており、再加盟の是非も議論されるとみられる。また、ホンジュラスは2023年に台湾と断交し、親中路線へと舵を切ったが、ナスララ氏アスフラ氏が勝利すれば、台湾との外交復活を目指すとみられ、対米関係の立て直しも期待されている。
[ミャンマー/米国]
米議会の超党派グループ(下院外交委員会のブライアン・マスト議員、グレゴリー・ミークス議員、上院外交委員会のジム・リッシュ議員、ジーン・シャヒーン議員)は、ミャンマー軍政が12月から1月に予定している選挙について、「中国の支援を受けた軍政が正統性を装うための茶番」であり、米国はこの選挙を承認すべきではないと強く批判していると香港紙『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』が報じている。
一方、米国土安全保障省(DHS)は同じ週に、ミャンマーの「統治と安定の進展」を理由に、ミャンマー市民に付与していた一時保護資格(TPS)を終了すると発表した。これにより、約4,000人の保護対象者は2026年1月26日に資格を失効する。ミャンマー軍政側はこれを「前向きな動き」と歓迎している。
DHSは、「国家非常事態の終了」「自由で公正な選挙の計画」「停戦合意や地方行政の改善」などをTPS終了の根拠として挙げた。しかし、国連や国際社会は、反対派政党の禁止やアウンサンスーチー氏の拘束が続く状況では、自由で公正な選挙は不可能だと強調している。
中国による軍事政権への支援は、人権団体や民主派の政治家から強い批判を受けている。11月に開かれた米下院外交委員会の公聴会では、専門家が「中国は選挙の最大の後押し役であるだけでなく、ASEAN諸国に選挙を承認するよう圧力をかけている」と証言した。
米国務省の最新の人権報告(2025年8月)は、DHSの「(ミャンマー情勢の)安定化」という評価とは対照的に、軍政による空爆・砲撃の増加、恣意的拘束、野党指導者の死亡など、人権状況がさらに悪化していると指摘している。
[バチカン/トルコ/レバノン]
ローマ教皇レオ14世は、教皇選出後初の外国訪問としてトルコとレバノンを訪れる。まず11月27日から30日にかけてトルコを訪問し、その後12月2日までレバノンを訪問する予定である。イスラム教徒が多数を占める2か国を訪れ、宗教間対話などを行う見通し。ベイルートに対しては、イスラエルによる空爆から約1週間後の訪問となる。また、アメリカ出身として初の教皇であるレオ14世は、ちょうど米国の祝日である感謝祭の日に旅程を開始するほか、すべての演説をイタリア語ではなく英語とフランス語で行う予定だという。
トルコ訪問では、27日の到着後にエルドアン大統領との非公開会談を行い、その後演説を行う。翌28日には、バルトロメオス総主教ら教会指導者とともにニケア(現イズニク)を訪れ、第1回公会議1700周年の記念行事に参加する。29日にはイスタンブールで約4000人を前にミサを執り行い、30日にレバノンへ移動する予定である。また、イスタンブール滞在中にはブルーモスクも訪問する。
レバノンでは、大統領、首相、国会議長、宗教指導者らとの会談に加え、若者との交流イベントも予定されている。訪問最終日の12月2日には、2020年に218人の死者と7000人以上の負傷者を出したベイルート港湾爆発事故の現場で追悼ミサを行い、その後ローマへ帰還する。
トルコは人口の大半がイスラム教徒で、キリスト教徒はわずか0.5%と言われているが、東方正教会の精神的指導者であるバルトロメオス総主教がイスタンブールを本拠としている。約1000年前にキリスト教は東方と西方に分裂したが、その溝を埋める努力は続けられており、過去にも多くのローマ教皇がトルコを訪問している。一方、レバノンでは人口の約3分の1がキリスト教徒で、同国には12のキリスト教宗派の共同体が存在する。レオ教皇の前任であるフランシスコ教皇も、亡くなる前に両国への訪問を予定していたが、健康上の理由で実現していなかった。
[フランス/中国]
11月26日、仏政府はマクロン大統領が12月3日から5日の日程で中国を訪問すると発表した。北京、次いで成都を訪問する予定。マクロン大統領の訪中は4回目であり、2023年4月以来となる。
訪問中には習近平主席との会談が予定されており、経済・貿易分野における協力・均衡の議題が取り上げられる予定とのこと。同議題は2026年にG7議長国を務める仏の重要アジェンダとなっている。また、会談では仏中の戦略的パートナーシップ、地球規模課題、重要な国際問題等について議論されるもよう。
今回の訪問では、ウクライナ和平案や欧州と中国の貿易緊張関係をめぐってどのようなやり取りがされるかが注目される。
また、ブルームバーグによると、マクロン大統領は、2025年のG7サミットに習近平主席を招待することを検討しているとのこと。この構想についてフランス当局はドイツ側にもすでに打診しており、ドイツ側はおおむね支持姿勢を示していると報じられているが、習主席がG7サミットへの招待を受け入れるかどうか、米国をはじめほかのG7メンバー国がどう反応するかをめぐって、今後緊迫した議論が行われることも見込まれる。
[米国]
11月26日、連邦準備理事会(FRB)は「地区連銀経済報告(ベージュブック)」を公表した。米国の経済活動は前回報告から「ほとんど変わらなかった」と総括された。12地区のうち2地区が緩慢に低下し、1地区(リッチモンド)が緩慢に成長したと報告された。
個人消費はさらに縮小した。しかし、高価格帯の支出は堅調さを維持した。政府閉鎖の悪影響が消費にも見られた。また、EV税額控除の廃止に伴い、販売額が減少した。なお、裁量的支出の減少を警戒する声があったものの、観光・旅行はほとんど変化がなかった。製造業の活動は、関税措置やその不確実性が向かい風として残っている中でも、大半の地区でやや増加した。いくつかの地区から、住宅建設が減少した一方で、2~3の地区から、オフィス市場の回復が継続していると報告された。見通しはおおむね変わっていない。来月にも経済が減速する可能性があるという声があった一方で、製造業から楽観的な見通しも見られた。
労働市場は弱い労働需要のために、約半数の地区からわずかに縮小していると報告された。レイオフ発表などが増加しているものの、多くの地区でレイオフよりも採用凍結、補充採用に限定、自然減による調整が行われている。複数の雇用主は、労働者数ではなく、労働時間を調整していると述べていた。また、AIの活用によって、初級職が代替されたり、既存の労働者の生産性向上が新規採用を抑制したりしたという報告もあった。
物価は、緩やかに上昇している。原材料価格の上昇が、関税引き上げに伴う製造業が小売業で広がっている。原材料価格から販売価格への転嫁はまちまちで、需要や競争力、消費者の価格感応度などに依存している。先行きについて、原材料価格の上昇が継続すると予想されているものの、近い将来の価格引き上げについては意見が分かれた。
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