2025年11月20日 (木)
[コロンビア]
2026年3月8日、コロンビアでは議会選挙が行われる。5月31日に大統領選挙の第1回投票、さらに過半数を得る候補が出なければ6月21日に決選投票が実施される予定。
現職のグスタボ・ペトロ大統領は、憲法上再選はできないものの、自身が支持する候補へ大きな影響を与えるとみられている。ペトロ大統領の支持率は約37%と低下していることから、彼の支持は候補者にとって吉とでるか凶とでるかはわからない。
2026年は政治の分極化と不安が一層深まると予想されている。国内の治安や和平交渉の進展、さらにベネズエラや米国との関係など地政学的要因が選挙に影響を与える。経済は緩やかな成長が続く見込みだが、次期政権は財政赤字への対応として緊縮策を迫られる可能性が高い。議会構成は複雑で、現在39もの政党が存在するものの、イデオロギー的な差異は曖昧で、超党派連合の構築が現実的な選択肢となる。失敗すれば、現ペトロ政権のように、議会との対立により政治的混乱が再び起きることになる。
大統領選には現在75人もの候補者が名乗りを上げており、党内の分裂が深刻化している。予備選を前に候補者の数は減る見込みだが、混迷を極める。左派は比較的組織的で、バレラス氏と、キンテロ氏が注目される。中道はファハルド氏とロペス氏が有力。右派は前回も出馬した中道右派のグティエレス氏が有力であるが、依然として分裂している。
選挙を左右する主要な争点は三つある。第一にペトロの選挙関与で、公務員の政治活動を制限する法律違反の疑いが指摘されている。第二に治安の悪化で、政府は9つの武装勢力と停戦交渉を進めるが、暗殺事件や暴力のリスクは高い。第三に米国との関係で、トランプ大統領が野党候補を支持すれば選挙戦に影響を与える可能性がある。ただし、トランプ氏がコロンビア国民に不人気なことから、その支持は逆効果になる恐れもある。
経済面では、IMFは2026年のGDP成長率を2.3%、中央銀行は3.0%と予測している。インフレ率は低下傾向にあるが、中央銀行の目標である3.0%達成は2026年末以降になる見込みだ。最大の課題は財政赤字で、2025年の推計値7.1%は楽観的とされる。新政権は税制改革や支出削減を迫られるが、政治的反発や議会のこう着、街頭デモのリスクが高い。
[デンマーク]
デンマークの地方選挙で、フレデリクセン首相率いる社会民主党(SD)は議席を減らした。得票率は23.2%で第一党を維持したものの、2021年の28.4%から大きく低下した。特に、首都では103年ぶりに支配権を失い、緑の左派候補シセ・マリー・ウェリングがフレデリクセン首相の側近であるペルニレ・ローゼンクランツ・タイルを破った。また、グラザクセ、ホルステブロ、フレデリクスハウン、コーゲ、フレデリシアなどの拠点でも支持を失っている。
次の総選挙は遅くとも2026年10月までに実施される予定だ。全国世論調査では、SDが依然として他党を大きくリードしており、勝利の有力候補である。ロシアからの安全保障上の脅威が高まっていることや、フレデリクセン首相が移民問題をほぼ封じ込めたことは、有権者が変化よりも安定を重視していることを示している。しかし、手頃な住宅の不足に不満を持つ左派勢力からの挑戦は強まっており、社会経済政策で左寄りに転じれば、中道連立のパートナーとの関係に緊張が生じる可能性がある。
[ケニア]
11月19日、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、ケニアにおいて反政府抗議活動を行う若者ら(Z世代、Gen-Z)が、ケニア当局からテクノロジーを介した暴力を受けているとの報告書を発表した。ケニアでは、2024年6月に増税に反対するZ世代の大規模抗議デモが全国で発生。警察の過剰な武力行使により60人以上が死亡した。2025年6月には、2024年の反政府デモを弾圧した政府に対する補償や説明責任を求める声が高まっていた中で、著名な反政府インフルエンサーが逮捕され、拘置所内で死亡したことを受けて抗議活動がさらにエスカレート。7月までに少なくとも50人以上が死亡する事態となり、国内外の人権団体からケニア政府に対する批判の声が高まっていた。アムネスティ・インターナショナルは、2024年の抗議デモ以降、少なくとも3,000人の抗議関係者らが恣意的に逮捕され、83人が強制失踪(拉致)されたとして大規模かつ組織的な人権侵害を非難している。
今回の報告書では、こうした「物理的」な暴力行為に加えて、政府はテクノロジーを悪用し、X(旧ツイッター)やTikTok、WhatsAppなどのSNS上で抗議活動を呼びかけている若者や、人権擁護者らを標的としたオンライン上での嫌がらせを行っていると指摘している。具体的には、抗議者の個人情報の意図的な流出や、偽の生成AI画像の拡散、個人の家族を含めた脅迫メッセージの送信などを通じて、抗議者の信頼力を低下させて抗議活動への動員を阻み、さらには心理的危険性を増長させて自己検閲を促そうとしていること。また、抗議活動の過熱化にあわせて、政府は意図的にインターネットを遮断して情報統制を強め、暴力行為のみならず、個人の表現の自由をも侵害していると批判している。
また、アムネスティ・インターナショナルは、偽情報の拡散や情報操作を目的として、政府から報奨金を受け取っていた「トロール・ファーム」の元メンバーにもインタビューを実施している。抗議者がX上で「#rutomustgo(ルト大統領は去れ)」といった反政府的な発言の拡散を抑え込むために、数十人のグループで組織されたトロール・ファームが「#rutomustgoon(ルト大統領は続けるべきだ)」といった親政府的なハッシュタグをつけたメッセージの拡散で応酬。Xのトップ5入りするようアルゴリズムを操作して反政府的メッセージを抑え込み、その対価として政府ないしは親政府の組織から1日あたり200~400ドルの報酬を受けていたとの供述を得ている。また、ケニア当局は国内最大の通信事業者・サファリコム(ケニア政府が35%の株式を所有)が所有する個人情報や通話・メッセージ記録などに違法で無制限にアクセスし、抗議参加者の追跡、逮捕、オンライン上での嫌がらせに活用したとして、サファリコムにも人権デューデリジェンスの強化を求めている(サファリコム側は同主張を否定)。
サブサハラ・アフリカでは2024年以降、ケニアのみならず、マダガスカルやタンザニアなどでも同様のデジタル・プラットフォームを通じたZ世代らの抗議デモが活発化しているだけに、政府によるオンライン上での監視の強化、言論の弾圧や暴力の動向、そして企業の説明責任についても今後関心が高まりそうだ。
さらに、アムネスティ・インターナショナルは、ケニアの人権擁護家に対するオンライン上での嫌がらせは、特に女性や性的マイノリティ(LGBTQ)コミュニティを標的にしていると指摘。ケニアは人口の約85%がキリスト教徒で、うち約20%は伝統的な家族観を重んじ、同性愛や中絶などに反対するプロテスタント・福音派(ペンテコステ派含む)である。敬虔な福音派教徒として知られ、「reborn(生まれ変わった)」と公言するルト大統領は、2022年の選挙で福音派からの支持を集めたことにより、故ライラ・オディンガ氏に接戦で勝利したとの見方もある(フランス国際問題研究所(IFRI))。かねてからLGBTQに批判的なルト氏は、保守派からの支持をさらに強固にするために、反政府抗議活動の抑え込みと同時に、国内でのLGBTQらの活動も抑制したい意図を持っている可能性もある。アムネスティ・インターナショナルは、ケニアのみならず東アフリカではウガンダやタンザニアでも同様に反LGBTQに対する取り締まりが強化されていると指摘。IFRIは福音派がこうした国々で急速に拡大し、政治的な発言力を強めていることから、反LGBTQの動きと相関がある可能性がある。
なお、サブサハラではルト大統領のほか、エチオピアのアビィ首相やコンゴ民主共和国(DRC)のチセケディ大統領が敬虔なペンテコステ派信者として知られ、ナイジェリアのティヌブ大統領の夫人もペンテコステ派の牧師である。福音派/ペンテコステ派は米国のトランプ大統領の国内の支持基盤でもあり、世界的なネットワークを構築している。
[米国]
11月19日、連邦準備制度理事会(FRB)は10月28~29日に開催した連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨を公表した。 大半の参加者が、時間をかけて利下げを継続することに賛同しているものの、次回対応を巡って意見が割れた。多くの参加者が、少なくとも12月会合まで政策金利を据え置くことを支持していた。それに対して、何人かの参加者が次回会合での利下げを支持すると述べていた。物価の上振れリスクを懸念する参加者と、労働市場の軟化を警戒する参加者で見方が分かれている。
10月の会合では、政策金利は0.25%引き下げられたものの、ミランFRB理事は0.5%利下げを支持した一方で、シュミッド・カンザスシティー地区連銀総裁は据え置きを支持するなど、意見が割れていた。FOMC議事要旨から、シュミッド氏以外にも、投票権がない参加者が利下げに反対していたことも明らかになった。
これまでの発表された経済指標や今回のFOMC議事要旨などを受けて、市場では、12月会合では政策金利が据え置かれるという見方が広がりつつある。
[米国/ロシア/ウクライナ]
複数の欧米メディアによると、米国とロシア両政府が新たな計画案の協議を水面下で進めていると報じた。米国はウィトコフ中東担当特使、ロシア側はドミトリエフ大統領特別代表が協議を担当。和平案は28項目で、①戦闘が続くウクライナ東部ドンバス地域(ルハンスク、ドネツク両州)の割譲、②ウクライナ軍の規模半減、③米国の軍事支援縮小、④主要な兵器の放棄、⑤ロシア語の公用語化―などをウクライナに要求。ロシアの要求が色濃く反映された内容で、関係者はウクライナにとっては主権の放棄に等しいと指摘した。
一部の報道によると、ウィトコフ特使が、訪米したウクライナのウメロフ国家安全保障・国防会議書記に和平案を提示したもよう。また、11月19日、米国はロシアとの和平交渉を復活させるため、ウクライナに米陸軍のトップ2人を派遣したとの報道のとおり、ドリスコル陸軍長官とランディ・ジョージ陸軍参謀総長は、ウクライナのゼレンスキー大統領、上級司令官、議員らと会談する予定という。ドリスコル氏はその後、複数のロシア政府高官とも会談する予定となっている。
派遣の目的についてはトランプ政権のある高官は「ドリスコル長官は現地の状況を把握するためウクライナを訪問する。長官はウクライナでの会議に参加し、その結果をホワイトハウスに報告する予定だ」と述べた。また、複数の別の高官によると、ドリスコル氏の任務は、トランプ氏の代理として和平交渉を再開することにあるとのこと。
[ドイツ]
11月19日、連邦政府は、同国初となる国家宇宙安全保障戦略を閣議決定した。
同戦略は、2022年にウクライナ侵略を開始した際、まずロシアが衛星通信網を攻撃したことに象徴されるように、将来の紛争が実際に宇宙空間でも展開され得ることや、通信からナビゲーション技術に至るまで、社会や経済が宇宙を利用したサービスに大きく依存しているという状況認識に基づき策定されたもの。
同戦略では、以下の3つの戦略的行動分野を特定している。
①危険・脅威の認識 同盟国やパートナーと共に、危険や脅威を早期に特定し、それに応じて共同宇宙インフラを保護・防衛する。
②国際協力と宇宙における持続可能な秩序の促進 一部の国はすでに潜在的な敵対国が他国の宇宙利用を阻害する能力を開発しているため、国際法に基づき宇宙における責任ある行動の基準と原則を遵守することが重要であり、独政府はこれにコミットする。
③抑止力の構築及びレジリエンスの強化 同盟国やパートナーとの緊密な協力を基盤に宇宙での脅威や課題に対応し、自国の能力を構築する。
政府によれば、今後は「統合安全保障」の考えに基づき、関係する全ての省庁と民間・軍事関係者の関与を得て、宇宙国家安全保障の構築に取り組むとのこと。ピストリウス国防相は、連邦軍は国家宇宙安全保障構造の中核であり、宇宙における作戦遂行能力から衛星等のインフラの保護までを担うとし、国防省だけで今後数年間で宇宙分野に約350億ユーロを投入する予定であると発言した。
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