デイリー・アップデート

2025年11月19日 (水)

[米国/サウジアラビア] 

11月18日、サウジアラビアの実力者であるムハンマド皇太子兼首相がホワイトハウスを訪問し、トランプ大統領と会談した。ムハンマド皇太子のホワイトハウス訪問は、2018年3月以来、7年半ぶりとなる。会談の後には夕食会が開かれ、翌19日にはビジネスフォーラムに出席する予定である。夕食会には、Nvidiaのジェンスン・ファンCEO、イーロン・マスク氏、サウジのサッカークラブに所属するクリスティアーノ・ロナウド選手らも出席した。

 

会談の冒頭40分間は記者団に公開され、いくつかの興味深いやり取りがあった。まず、2025年5月のトランプ大統領のサウジ訪問時にサウジが約束した6,000億ドル規模の対米投資について、ムハンマド皇太子はこれを1兆ドルへ拡大すると発表し、トランプ大統領を大いに喜ばせた。

 

また、最新型ステルス戦闘機F-35のサウジ購入をめぐり、トランプ大統領はサウジが「イスラエルが取得しているF-35とほぼ同等のバージョンを入手することになる」と述べた。米国は中東におけるイスラエルの質的軍事優位性(QME)を維持するため、これまでイスラエル以外の地域諸国へ最新型F-35戦闘機の供給を控えてきた。そのため、今回のサウジへの供給方針について、イスラエルのメディアはQMEが損なわれる可能性を懸念している。またトランプ大統領は、サウジアラビアを非NATO主要同盟国(MNNA)に指定する方針も明らかにした。

 

さらに、サウジとイスラエルの国交正常化をめぐっては、ムハンマド皇太子が「中東各国との良好な関係構築は重要であり、我々もアブラハム合意への参加を望んでいる。しかし、その前に二国家解決への明確な道筋を示す必要がある」と述べ、即時の正常化には否定的な姿勢を示した。イスラエルはパレスチナ国家樹立に強く反対している。

 

そのほか、シリア制裁の解除についてムハンマド皇太子やトルコのエルドアン大統領が強く要請したこと、AI分野の投資、民生用原子力開発、イラン問題、カショギ事件、さらにはエプスタイン事件に関する質疑など、記者団とのやり取りは多岐にわたった。

[EU] 

11月18日、ベルリンにおいて独仏政府の共催により欧州デジタル主権サミットが開催され、27のEU加盟国及び欧州の関連機関から900人以上の行政官、業界関係者、投資家、研究者等が参加した。

 

今次会議は独仏政府がこれまで実施してきた政府間協議での議論の延長で開催されたものであるが、背景にある問題意識は、①デジタル技術分野で米中に比べて欧州が遅れている、②米中依存を下げ、リスクを低減したい、という2点が主に挙げられる。独仏を中心とする欧州は、今次会議でマクロン大統領が発言しているとおり、約4億5,000万人の消費者を抱える単一市場や多くの専門家や科学機関が存在しているという点を活用してデジタル分野での欧州の競争力を上げていきたいと考えている。

 

会議のポイントは投資と規制緩和であり、さまざまな欧州企業が総額120億ユーロを超える投資およびイノベーションパートナーシップに合意したとのこと。また、会議の前日には、Schwarzグループが110億ユーロを投じて建設予定のデータセンターの起工式が行われた。

 

会議に参加したヴィルクネン欧州委員会執行副委員長も述べているとおり、規制がイノベーションを妨げているとの認識も広がっている。欧州委員会としても、欧州一般データ保護規則やAI規制等を整理し、規制緩和していきたいとの考えを有しており、現地時間11月19日に欧州委員会は「デジタル・オムニバス」と呼ばれる新たな規制枠組みを発表する予定。

[米国] 

労働省によると、10月18日までの1週間の新規失業保険申請件数は23.2万人だった。連邦政府機関の一部閉鎖前の9月20日(21.9万人)から増加した。また、2024年同時期(22.8万人)に比べるとやや多い傾向が続いている。

 

また、10月18日までの失業保険継続受給者数は195.7万人であり、前週から1.0万人増加した。政府閉鎖前の9月13日(191.6万人)に比べても増加となった。2024年同時期(185.5万人)に比べると、やや多い傾向に変わりはない。

 

9月下旬から3週間分の統計は公表されていないものの、その間の雇用環境に大きな変化はなかったようだ。つまり、雇用環境は2024年に比べると、悪化する方向にあるものの、9月下旬から足元にかけて大幅に悪化したわけではない。失業保険総受給者数(原系列)は10月25日の週で176.8万人となり、9月下旬からおおむね横ばい圏を推移していることからも、裏付けられるだろう。

[モザンビーク/欧州] 

11月18日、ベルリンに拠点を置く人権団体「欧州憲法・人権センター(ECCHR)」は、仏・資源大手トタル・エナジーズがモザンビークでの戦争犯罪(war crime)、民間人の拷問や強制失踪への共犯に関与したとして刑事告訴を提出したと発表した。同告訴は、トタルが率いるモザンビーク北部の液化天然ガス(LNG)開発プロジェクトサイトの警備にあたっていた「合同任務部隊(joint task force、モザンビーク軍で構成)が、2021年7月~9月にかけて数十人の民間人を拘束、拷問、殺害したとの疑惑に基づくものだ。2024年9月に米・政治誌ポリティコが告発していた。

 

2021年3~4月に、同プロジェクトサイト近隣のパルマ市にアルシャバブ系イスラム過激派組織(2022年に「イスラム国モザンビーク(ISM)」に改名)が襲撃し、英国人を含む数十名が犠牲になった。この治安悪化を受けてトタルは直ちに「不可抗力」を宣言し、プロジェクトを中断した。しかし、パルマ周辺での過激派組織による襲撃から避難した住民らが、安全を求めて合同任務部隊が工事中断後も施設の警備を続けていたプロジェクトサイトに逃れようとした際に、同部隊による大規模な人権侵害が行われたとみられている。トタルは一貫してこの人権侵害を否定している。しかし、仏ル・モンド紙らもトタルの内部資料から同社が同部隊への食料や宿泊施設、報奨金などの資金提供を行うなど間接的に協力していたことは明らかだとし、ポリティコや人権団体フレンズ・オブ・ジ・アース(FoE)らに追随する形で「共犯」だと非難していた(11月18日付、仏ル・モンド紙)。ポリティコらの報道後、英国輸出金融公社(UKEF)とオランダのアトラディウス信用保険会社が調査を開始。トタルらに対する総額20億ドル前後の公的資金供与の見通しは立っていない。

 

ECCHRは、国際犯罪の調査権限を有するフランスのテロ対策検察庁(PNAT)に告訴を提出したと述べている。同団体は仏セメント大手・ラファージュに対しても、同社がシリアでイスラム国(ISIS)にテロ資金を供与したと刑事責任を問う起訴を行っている。米国の裁判所はラファージュに対して約7億8千万ドルの罰金を科す判決を下していることから、ECCHRはすでに同様の訴訟で「実績」を有している存在だ。

 

トタルはモザンビーク軍・ルワンダ軍の合同治安維持作戦を受けて、10月24日に2021年から続いていた不可抗力宣言を解除した(10月27日デイリー・アップデート参照)。同社は、プロジェクトの遅延により発生した45億ドルの追加コストを、10年間の権益保有期間延長により補填すべく、修正した事業計画をモザンビーク政府に提出。現在は政府の承認を待っている状況だ。ISMの人員は2021年の3,000人から、現在では500人程度に減少したものの、小規模分散化してカーボ・デルガド州南部を中心に民間人らへの襲撃を続けている。同州の全面的な治安改善の見通しは立たないものの、トタルらはプロジェクト関係者約2,000人を要塞化したサイト内に駐留させて安全を確保する「封じ込め方式(containment mode)」を用いてプロジェクト再開に備えている。トタルらと同じくアフンギ半島で別のLNGプロジェクト開発(注)の計画を有する米・エクソン・モービルらが2026年に最終投資決定(FID)を行うかにも注目が集まっており、エクソンらもトタルらの工事再開を注視している状況だ。低迷するモザンビーク経済の明暗を分ける大型LNGプロジェクトの進展が、ECCHRの刑事告訴によりどのような影響を及ぼしていくかは今後も関心を集めそうだ。

 

(注)トタルが率いる「モザンビークLNGプロジェクト」の想定年間LNG生産量は1,300万トン前後。エクソンが率いる「ロブマLNGプロジェクト」は1,800万トン/年の計画。伊・ENIらが率いる洋上LNGプロジェクト(コーラルFLNG)は一部操業・輸出が開始されている(約300万トン/年、将来は700万トン程度)。

[ウクライナ] 

11月16~18日の日程で、ゼレンスキー大統領はロシアとの和平交渉の膠着状態打開に向け、ギリシャやフランスおよびスペインを訪問し、パートナーの国々に新たな「解決策」を提案する意向を示した。また、11月19日にもトルコを訪問し、戦争終結に向けたロシアとの交渉を再開するため、トルコのエルドアン大統領と会談する。「解決策」の詳細についてゼレンスキー大統領は明らかにしていないが、「いかなる手段を用いても戦争を終結させることがウクライナの最優先事項だ。捕虜交換の再開にも取り組んでいる」と自身のSNSに投稿した。訪問先のスペインで11月18日に開いた記者会見でも「(和平への)外交努力を強化する」と語った。一方で、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「ウクライナからは交渉再開に向けた連絡を何も受け取っていない」と、協議に否定的な姿勢を示している。

[中国] 

11月18日、米ウィリアム・アンド・メアリー大学の研究機関AidDataは、中国が2000-2023年に217カ国へ供与した総額2.2兆ドル規模の海外融資・贈与に関するレポートを発表した。中国の海外融資・贈与は従来推計の2~4倍に達し、全体の4分の3以上が高所得国・中所得国向けであることが最大の発見とされている。

 

レポートの主な内容は以下の通り:

 

・高所得国向け融資の急増:最大の受益国は米国で、総額約2,000億ドル、約2,500件に上る。対象にはLNG施設、空港ターミナル、データセンター、主要パイプライン、さらにアマゾン、GM、ボーイングなど大企業向け信用供与も含まれる。EU、日本、豪州への融資も拡大しており、EUではドイツ、フランス、イタリア、ポルトガル、オランダが主要な受益国となっている。

 

・融資目的の変化:「援助」から国家安全保障目的へシフトし、戦略物資・重要インフラ・ハイテク資産の獲得が中心となっている。「中国製造2025」以降、M&A融資の88%が半導体、AI、量子技術、生物工学など先端産業に集中している。

 

・中国の公的債権国としての地位:2023年時点で海外貸付は約1,400億ドルに達し、米国の2倍以上、世界銀行を500億ドル上回っている。

 

・「一帯一路」融資の縮小:インフラ融資は減少し、流動性支援や企業向け信用供与が中心になっている。対外援助は急速に縮小し、商業融資が大半を占めるようになった。純粋なODA(狭義の援助額)は年間約57億ドルでイタリア並みであり、2023年度は過去20年で最低の19億ドルにとどまった。

 

・欧米の援助モデルの変化:近年、欧米も「中国型モデル」に倣い、援助機関の予算縮小や国家安全保障名目の融資、重要インフラ・鉱物資源の国策買収支援を進めている。

 

・透明性の低下:中国は意図的に融資の透明性を低下させており、中国の海外融資に関する公式情報は過去10年で62%減少した。

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