デイリー・アップデート

2025年11月26日 (水)

[ナイジェリア/米国] 

11月17~21日にかけて、北西部ケッビ州、クワラ州、ナイジャー州で学校やキリスト教会などを対象とした3件の集団誘拐事件が発生し、計350人以上の学生・教師・信者らが拉致された。各種報道によると、これまでにうち100人前後が誘拐犯らから解放されたと報じられているが(11月25日付、英Reuter紙等)、ナイジャー州のキリスト教系学校の誘拐事件ではまだ250人前後の安否が不明となっている。ナイジェリアでは、2014年にイスラム系過激派組織のひとつ「ボコハラム」が北東部ボルノ州で276人の女子学生(大半はキリスト教徒)の誘拐事件が世界中の耳目を集めた。ナイジェリアの治安部隊によるボコハラムの一掃作戦と、ボコハラムの内部分裂(ボコハラムとイスラム国西アフリカ州(ISWAP)に分裂)によりボコハラムによる誘拐事件は減少した。しかし、身代金要求を目的とした「誘拐産業」は、治安の悪化や、宗教対立、貧困、遊牧民と農民との衝突などさまざまな理由を背景に北部全体に拡大。アムネスティ・インターナショナルによると、2014年以降、学生の集団拉致事件は17件発生し、1,700人以上が拉致されたと報告している(11月25日付、米WSJ紙)。

 

このようにナイジェリアでは大量誘拐事件は珍しいことではないが、この「タイミング」が対米関係をより複雑なものとしている。11月2日に米・トランプ大統領は自身のSNS上で「ナイジェリアでキリスト教徒がイスラム過激派組織に殺害されている」と主張。同氏は米軍の派遣も辞さない意向を示したほか、米国務省もナイジェリアが「深刻な宗教的な侵害」に関与しているとして「特に懸念すべき国(CPC)」に指定したばかりだ。ティヌブ大統領は、ナイジェリアの人口(約2億3,000万)のうち、イスラム教徒とキリスト教徒がほぼ半々であること、また、実際にイスラム系過激派や誘拐組織の被害に遭っているのは北部で多数派を占めるイスラム教徒の方が多い状況をふまえ、米政府の主張に反論してきた。しかし、まさにそうした状況の中での大規模な(キリスト教系学校含む)誘拐事件の発生は、特に保守系キリスト教徒(福音派/ペンテコステ派)の強い支持を受けているトランプ政権の主張を勢いづけることになりうる。ティヌブ氏自身もイスラム教徒だが、南西部出身(ヨルバ族)のため北部(ハウサ族が多数派)の支持は比較的弱い。また、米国のキリスト系保守派がナイジェリアでも急拡大するペンテコステ派の信者らとのネットワークを通じてティヌブ政権にさらなる圧力をかければ、全国のキリスト教徒らの投票活動にも影響し、2027年の大統領選でのティヌブ氏の再選は安泰ではなくなる恐れもある。こうした事態を想定してか、ティヌブ大統領は誘拐事件を受けて国内問題への対処の必要性から、11月22~23日に南アフリカで開催されたG20サミットを欠席した。

 

米国との関係改善のためにナイジェリア政府はリバドゥ国家安全保障顧問をトップとしたチームを米国に派遣し、11月20日にヘグセス国防長官と安全保障に関する対話を実施。米国防省はイスラム系過激派のテロ活動を弱体化させ、キリスト教徒に対する暴力を止めるためにナイジェリアと協働するとの声明を出した(11月20日付、米国防省)。他方でその同日の米・下院外交委員会の公聴会では、共和党議員を中心にCPC指定に加えて、グローバル・マグニツキー法に基づくナイジェリアの個人・団体に対する制裁措置を実施すべきとの議論も行われており、米・ナ関係は不安定な状況が続いている。

 

他方で、11月25日に国連食糧計画(WFP)は、ナイジェリア北部での武装勢力による攻撃増加を受けて、2026年には約3,500万人が「深刻な食料不安に陥る」と発表。WFPは「資金不足」により食料等の支援の供給力が低下しており、これがさらなる食料不安や飢餓人口を拡大させる恐れがあると警鐘を鳴らしている。しかし、WFPによるナイジェリア北東部での年間予算は2億ドルで、その半数は米国が拠出していたが、トランプ政権による対外援助の削減がWFPの食糧支援の活動を大幅に低下させているとの指摘もある(11月25日付、NYT紙)。米国の援助政策の見直しにより、北部での農業生産および食料状況がさらに悪化すれば、治安悪化のみならず「金銭的な誘惑」からさらに誘拐事件が増加し、その結果、キリスト教徒を含めた被害者の増加をまねく恐れがある。

[ロシア/キルギス] 

11月25日から27日にかけて、プーチン大統領はキルギスを訪問し、ジャパロフ大統領との首脳会談などを行う予定。今回、プーチン大統領と一緒にロシア政府の閣僚やビジネス関係者などが同行する予定で、ロシア・キルギスは二国間の政治・経済関係について更なる強化を進めるもよう。また、11月27日に首都ビシュケクで実施されるCSTO(集団安全保障条約機構)集団安全保障理事会に、プーチン大統領が参加予定。

 

ロシアはキルギスとタジキスタンに軍事基地を持っており、安全保障面で同地域を非常に重視している。また、ロシアの原子力大手ロスアトム社は同国における小型原発の建設も促進している。再生可能エネルギーの開発も注目を集めており、両国は既に5.2GWの投資契約を締結している。

[EU] 

11月25日、欧州議会は玩具に含まれる有害な化学物質の使用を禁止する新たな規則を採択した。現行の規則では、発がん性物質、突然変異誘発性物質および生殖毒性物質の使用が禁止されていたが、使用禁止対象が内分泌かく乱物質、呼吸器系に有害な物質、皮膚及びその他の臓器に毒性のある化学物質等、特に子どもに有害な化学物質に拡大されることとなり、4年半の移行期間が設けられる。

 

具体的には、新たな規則ではペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)、並びに最も危険な種類のビスフェノール類の意図的使用も禁止される。3歳未満の子ども向け玩具および口に入れることを想定した玩具においては、香料アレルゲンの使用も禁止される。

 

新たな規制では、EU基準に準拠していない玩具の数を減らすため、すべての玩具に関連する安全規則を遵守していることを示すデジタル製品パスポートを表示しなければならないとされている。EUによると、これにより、違法商品の取り締まりや輸入時の検査の効率化につながるとともに、消費者も製品に添付されたQRコード等を通じて安全情報にアクセスしやすくなるとのこと。

 

玩具の製造業者は化学的、物理的、機械的、電気的なあらゆる潜在的な危険について安全評価を行う必要があり、玩具の輸入業者は、商品にリスクを認めた場合、製造者や市場監視当局に通知する必要があるとされている。また、オンライン販売業者はさらにCEマークやデジタル製品パスポートへのリンク等を適切に表示できるようにプラットフォームを整備し、顧客が購入完了前に確認できるようにする必要がある。

 

2021年の統計によれば、同年EU域内に輸入された玩具の総額は約71億ユーロであり、そのうち80%は中国から輸入されていた。

[米国] 

商務省によると、9月の小売売上高は前月比+0.2%となり、市場予想(+0.4%)を下回った。8月(+0.6%)からも減速した。インフレ抑制法(IRA)のEV購入時の税額控除が9月末に廃止されたため、その駆け込み需要の反動減の影響が表れたようだ。実際、自動車・部品(▲0.3%)は8月(+0.6%)から減少に転じた。また、無店舗・オンライン販売(▲0.7%)も、8月(+1.6%)から減少した。小売売上高の中で唯一計上されているサービスである飲食サービス(+0.7%)は、8月(+1.0%)からやや減速した。全体として小売売上高は勢いを欠いたと言える。

 

全米小売業協会(NRF)は、感謝祭(11/27)からサイバーマンデーまでの5日間の来客者数を1.8億人前後と、過去最高になると予想した。ただし、関税の影響などから値下げ品が少なくなり、値下げ幅も限られる可能性がある上、小売店が年末商戦を前倒しで実施していることもあり、年末商戦の売上高は市場初めて1兆ドルを超える一方で、伸び率(3.7~4.2%)は2024年(4.8%)から鈍化すると見込まれている。

 

また、労働省によると、9月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比+2.7%であり、8月と同じ水準であり、市場予想と一致した。前月比の上昇率は+0.3%と、8月(▲0.1%)からプラスに転じた。内訳を見ると、財(前月比+0.9%)が上昇のけん引役だった。特に、エネルギー(+3.5%)の上昇が目立った。川上の物価上昇ペースが市場予想を超えるような加速をしていなかったと言える。

 

勢いを欠いた小売売上高や年末商戦の予想などから個人消費には強さが見られない一方で、生産者物価指数が想定以上に加速していなかったことなどから、市場では12月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げが実施されるという見方が強まったようだ。

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