2025年11月25日 (火)
[G20/南アフリカ(南ア)]
11月22~23日にアフリカで初めてとなるG20サミットが南ア・ヨハネスブルグで開催され、最終日に「首脳宣言」が発表された。米・トランプ大統領による米国の参加ボイコット発言を受けて、米政府は不参加となったほか、アルゼンチン代表として参加したキルノ外相も首脳宣言の不支持を表明。しかし、残りの加盟国の全会一致を受けて、当初「議長声明」に留まるとみられていた首脳宣言(11月21日デイリーアップデート参照)が採択された。議長国を務めた南アのラマポーザ大統領は、同宣言の採択は「困難な時代にあっても、より良い世界を目指すために結束する能力を示した」と閉会宣言で述べ、多国間の協調の重要性とG20の存在価値を強調した。
「連帯、持続可能な成長、平等の促進」がテーマとして掲げられた今回のG20サミットでは、グローバルサウスの意見を南アが代表する形で、アフリカをはじめとする開発途上国の債務持続性の評価の見直しや、気候変動対策に向けたクリーンエネルギー調達促進などが宣言に盛り込まれた。また、重要鉱物の利用促進や、アフリカの工業化・人工知能(AI)活用による雇用創出や、不平等の是正なども明記された。その他にも、紛争が続くスーダン、コンゴ民主共和国(DRC)、「占領下の」パレスチナ地域、ウクライナにおける公正かつ永続的な平和の希求について合意がなされた。
2026年の議長国となる米国は、今回のサミットには参加しない一方で、在南ア米国大使館の臨時代理大使に議長職を引き継ぐよう南ア側に要請していたが、南ア政府は「外交上の儀礼違反」だと強く反発。後日、両政府の同格の高官同士で引き継ぐ見込みだと報じられている(11月23日付、英The Guardian紙等)。米政府は南ア側の対応に憤っているとみられ、ホワイトハウスからの公式発表はまだ行われていないものの、米国主宰のG20の会合に南ア政府を招待しない見込みとの見方もある(11月24日付、英Reuter紙等)。そうした背景もあってか、首脳宣言の最後の部分において、「南アは米国が議長を務めるG20に協力する(working together)」と表現する一方で、2027年、2028年にそれぞれ議長国を務める英国と韓国が開催するG20での会合を「約束する(meeting again)」との文言が明記されている。
トランプ2.0下での多国間主義や気候変動政策等の見直しに加え、南アとの二国間の関係悪化によりはじめて米国が参加をボイコットした今回のG20は、その存在意義自体を問う声も少なくなかった。しかし、米国抜きで首脳宣言が採択されたことを受けて、多国間主義が依然として一定の機能を果たしていることを示したと好意的に評価する声が多い。中国を代表して出席した李強首相はG20の結束の強化を訴えたほか、ドイツのメルツ首相は「米国が欠席したことは良い判断ではないが、それは米国自身が判断すべきだ」と米国に対して否定的なコメントもしている。世界最大の経済大国である米国自身がG20に対する圧力をかけている中で開催された今回のG20サミットは、米国不在の中での新たな国際協調の姿を示しているとも言える。
[英国]
11月の速報PMIは経済活動の鈍化を示している。生産指数は前月の52.2から50.5に低下した。サービス業活動指数は1.8pt下落し50.5、製造業生産指数も1pt下落し50.6となった。ただし、新規受注の増加(+2.9ptで50.3)が生産減少を一部相殺した。
雇用指標も悪化している。PMI雇用指数は総合で4pt低下し45.3となった。特にサービス業が大きく縮小し44.9まで下落したほか、製造業も、47.2まで下落している。さらに、産出物価指数は3.6pt低下し50.4となった一方、投入物価指数は1.2pt上昇し62.2となっており、企業の利益率の圧迫もみられる。
また、10月の小売売上高は前月比で1.1%減少し、予想を下回った。11月の消費者信頼感も悪化し、▲19となった。これは、個人の財務状況や経済見通し、大型購入意欲の低下を反映しており、消費動向の弱さが確認されたかたちだ。
インフレについては、10月のCPIは3.6%と前月から0.2pt低下し、コアインフレ率も3.4%に減速した。経済活動の鈍化とインフレの落ち着きは、12月のイングランド銀行(BoE)による利下げを支持する材料となっている。12月のMPC会合では、25bptの利下げが行われる可能性が高い。
[米国/ウクライナ]
11月23日、米国がウクライナに示した和平案を巡り、両国高官がスイス・ジュネーブで協議した。ウクライナ側は、ロシア寄りとされた米案に修正を求め、領土割譲や軍規模の削減など「レッドライン(譲れない一線)」を訴えた。米国側は和平案の一部修正に応じたようで、結果として、今回米ウ協議に参加したウクライナのキスリツァ外務第1副大臣によると、和平案は大きく書き換えられ、「元の案から残っているものはごくわずか」だと彼が話している。キスリツァ氏によると、「米国とウクライナは19項目からなる新たな和平案を起草した」と説明した。詳細は明らかになっていないが、兵力の制限などでウクライナの主権に配慮したとみられる。
11月24日、ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオ演説で「(和平案の)項目数は28項目から減り、多くの正しい内容が盛り込まれた」と言及した。まだ「非常に難しい」課題が残っているが、今後トランプ米大統領と協議すると述べた。一部の報道では、ゼレンスキー大統領が早ければ2025年11月末までに訪米し、ロシアとの紛争終結に向けた計画についてトランプ大統領と直接協議する可能性がある。
[中国/米国]
11月24日、中国の習近平国家主席はトランプ米大統領と電話会談を行い、台湾問題を中心に議論した。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、この会談は中国側の働きかけで実現したという。習氏から米中首脳電話会談を提案するのは珍しく、中国が台湾情勢を最優先課題として位置付けていることを示している。
背景には、台湾をめぐる日中間の摩擦が続いていることがあり、中国は日本への圧力を強化すると同時に、トランプ氏が日本を支援しないよう誘導したい思惑があったとみられる。習氏は電話で「台湾の中国への帰属は戦後国際秩序の重要要素だ」と強調し、歴史的根拠を基に米国の立場変更を促した。さらに、第二次世界大戦で「反ファシズム協力」として米中が共に戦ったとの歴史を引き合いに出し、台湾統一への理解を求めたという。
中国側の発表によれば、トランプ氏は習氏のリーダーシップや最近の米中関係について肯定的に述べた上で、「台湾問題が中国にとって重要であることを理解している」と語ったとなっている。一方、トランプ氏がSNSに投稿したメッセージでは、台湾や日中摩擦への言及はなく、ウクライナ和平問題について議論したとなっており、これは、米・ウクライナ和平交渉やロシア戦争終結における中国の役割を意識した対応とみられる。他には、トランプ氏はフェンタニルや大豆購入における(中国の協力を引き出した)成果を強調している。
また、トランプ氏は習氏からの訪中招請を受け、2026年4月に訪中予定であり、習氏も2026年米国を訪問するとの見通しを示した。トランプ氏が自身の訪中まで米中関係の安定を維持したい意向は明白であり、日本や台湾への言及がないことは同盟国に懸念を呼んでいる。ただし、現時点では安全保障面で中国の望むような譲歩的発言も行っていない。中国は、4月のトランプ訪中時に「米国は台湾の独立に反対する」等の有利な発言を引き出すため、トランプ大統領への働きかけを強めるとみられる。
中国がどれくらい本気であるかは、米政府関係者が言うとおり、「今後2週間以内に中国が米国産の大豆を購入して、米国農家を助ける」ことを実施するかが一つの指標になろう。
[レバノン/イスラエル]
11月24日、イスラエルはレバノンの首都ベイルート南部ダーヒエ地区を空爆し、ヒズボラ軍事部門トップであるタバタバイ氏を殺害した。タバタバイ氏が滞在していたアパートには2発のミサイルが撃ち込まれ、同氏を含む5人が死亡、28人が負傷したほか、車両や周辺建物に甚大な被害が生じた。タバタバイ氏は、2024年11月にイスラエルとヒズボラ間で停戦が開始されて以来、イスラエルによって殺害されたヒズボラ側の最高位の司令官である。
イスラエル軍は、これまでもタバタバイ氏を標的とした暗殺作戦を繰り返しており、今回の攻撃で同氏を「排除した」と発表した。一方、レバノンのアウン大統領はイスラエルによる空爆を非難。また、ヒズボラ高官は今回の空爆について「レッドラインを超えた」と非難し、組織指導部が対応を現在検討中であると述べている。
イスラエルとヒズボラは、表向きは停戦中であるが、イスラエルはレバノンへの攻撃を継続しており、ちょうど1年前に両者が停戦に合意して以降、レバノンではイスラエル軍の攻撃により300人以上が殺害されている(うち3分の1は民間人とされる)。また、停戦協定ではイスラエル軍がレバノン領内から撤退することが定められているにもかかわらず、イスラエル軍はレバノン南部の少なくとも5か所の戦略拠点を引き続き占拠している。
レバノン政府は年内にヒズボラの武装解除を完了させる方針を示しているが(ヒズボラは拒否)、イスラエルはこれを信用しておらず、ヒズボラがレバノン南部で軍事能力の再構築を進めていると主張している。このため、イスラエルはレバノン南部での占拠を継続するとともに、レバノン全土への攻撃も続けている。
[ボスニア・ヘルツェゴビナ]
11月23日、ボスニア・ヘルツェゴビナを構成するセルビア人共和国で大統領選が実施された。選挙管理委員会が発表した暫定結果によると、民族主義的主張の与党、独立社会民主同盟(SNSD)所属のカラン氏の当選が確実となった(任期は、2026年10月に実施される総選挙までの1年弱)。
2025年8月、ボスニア和平履行会議のシュミット上級代表の決定に従わなかったとして、ドディック前大統領に有罪判決が確定。判決で6年間、大統領職に就くことが禁止されたことに伴い、ドディック氏は大統領職を解任され、今回の選挙が実施された。カラン氏はドディック政権下で科学大臣および内務大臣を務めており、ドディック氏の右腕とみなされていた。
ドディック氏は選挙後、不公平なプロセスでドディックを倒そうとし、今や二人のドディックを手に入れた旨述べた。ドディック氏はセルビア民族主義的立場をとり、近年は分離主義活動及び親露的政策を進めていた。
野党側は投票の不正を主張し、再実施を要求するなど、引き続き政治情勢が混乱することが懸念される。
[ドイツ]
ifo経済研究所によると、11月の企業景況感指数(2015年=100)は88.1(▲0.3pt)と10月から低下した。また、市場予想(88.5)を下回った。これは現状の評価がやや持ち直した一方で、先行きの見通しがやや悪化した影響が相対的に大きかったため。
内訳を見ると、足元の状況を表す現況指数は85.6(+0.3pt)へ4か月ぶりに上昇した。それに対して、先行きを表す期待指数は90.6(▲1.0pt)へ2か月ぶりに低下した。
産業ごとの景況感指数(DI、2015年平均で基準化)を見ると、製造業は▲13.7(▲1.8pt)へ低下した。受注残は低水準であるものの、現状はやや持ち直したものの、製造業企業が先行きに懐疑的な見方を強めた。サービス業は+0.5(+0.5pt)へ上昇した。このため、2か月連続でマイナスではなくなり(10月は0.0)、6月以降おおむねプラス圏を推移している。観光関連業の景況感が改善した一方で、輸送・物流関連業が戻していた。商業は▲22.6(▲1.1pt)へ低下した。現状と先行き見方がともにやや悪化したため。特に、小売業でクリスマスシーズンの初動に失望が広がった影響が見られた。建設業は▲16.2(▲0.9pt)へ低下した。現状はやや上向きであったものの、需要の弱さなどから、先行きに悲観的な見方が強まった。
ifoは近い将来の景気の回復期待がほとんどなくなったと総括した。ドイツ連邦銀行が公表した月報でも、2025年第4四半期のドイツ経済の成長は緩やかなものに留まるという見通しを示していた。個人消費の増加などからサービス業がけん引役になる一方で、コスト高や米国の関税措置の影響などから製造業の低迷が続くと予想されている。インフラや防衛費の拡大などが期待されるものの、それが実体経済に影響を及ぼすのは2026年以降になるとみられている。
[ブラジル]
ボルソナロ元大統領は、11月22日未明に足首の電子モニターを外そうとしたとして、自宅から連邦警察署へ拘留された。息子のフラビオ・ボルソナロ上院議員が自宅前で集会を呼びかけたことも、連邦最高裁判所は脱走の虞と判断した。政治関係者や投資家、そしてボルソナロ陣営は、彼が2026年までに投獄され立候補できなくなることをすでに織り込んではいたが、一部の支持者の間でボルソナロ元大統領のイメージを損ない、右派の後継者選びに不安定さをもたらしている。
本人は薬による幻覚により足首モニターを壊そうとしたと主張している。この説明の真偽はわからないものの、健康状態が悪化していることは広く認識されており、ボルソナロ元大統領の健康状態の悪化や判断力の低下が懸念されている。拘留による外部との接触の制限により、2026年の選挙でだれを後継者にするかの決定は遅れる可能性が高く、有力候補のフレイタス知事にとってはリスクとなる。逮捕前のシナリオでは、2025年末までに条件交渉を終え、2026年1月頃にフレイタス氏を正式に支持する見込みだった。彼はボルソナロ元大統領の明確な支持を得てのみ出馬する方針であるが、出馬の場合は4月までに知事を辞任する必要もあり、ボルソナロ元大統領の後継者決定が2026年第1四半期以降にずれ込めば、体制を整える時間が限られてくる。
一方で、今回息子のフラビオ氏が集会を呼び掛けたことで、彼自身も法的責任を問われるリスクが高まったことは、フレイタス氏が右派にとって最も現実的な選択肢であるという印象を強めたともいえる。
今回のニュースは、今年ブラジルでもっとも閲覧されたニュースの一つとなったことが明らかになっており、国民の関心の高さを物語っている。オンラインでの投稿では、約42%が逮捕に反対し、35%が支持、23%が中立であり、国民の意見も深く分かれている。最高裁は、ボルソナロ元大統領への態度を硬化させており、今回の予防的な拘留は長期間続くとの指摘がある。しかし、政治的にはある程度の自由度がある自宅軟禁ではなく、連邦捜査官が監視する隔離され管理された環境となったことは、ソーシャルメディア上でも、制度、正義、民主主義をめぐる激しい議論が続いている。
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