万博を歩いて思ったこと ~1970年と2025年、それぞれのお土産
2025年05月26日
住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
横濱 雅彦
4月に大阪・関西万博が開幕してから、あっという間に一か月半が経ちました。SNSなどで体験談が共有され、来場者も増えてにぎわいが出てきたので、梅雨入り前に夢洲を訪れてみました。準備のために情報を集める中で、1970年の大阪万博の映像や記事にもあらためて触れる機会がありました。あの時代の記録を見ていると、戦後の奇跡的な復興を経て高度経済成長の真っただ中にあった日本が、国を挙げて未来を見せ、世界とつながろうとする熱気にあふれていたことが伝わってきます。パビリオンがひしめく巨大な会場は、まさに「未来」のショーケースでした。
私も実際に行きましたが、まだ小学校に上がったばかりだったため、パビリオンの中身の記憶はあまりありません。鮮明に覚えているのは、「太陽の塔」の圧倒的な存在感と「エキスポランド」という遊園地の魅力的なアトラクション(でも身長制限のためにローラーコースターに乗れなかった悔しさ)、そして何より、あんなにたくさんの外国人を一度に見たのは初めてだったということです。各国の民族衣装、パビリオンの装飾、流れる音楽……どれも新鮮でした。確証はないのですが、「将来は海外で働いてみたい」という想いの種は、その時に私の心の中に芽生えたような気がしています。
今では、街を歩けば外国人の旅行者や働く人たちを見かけるのは日常の風景です。空港はもちろん電車や商業施設でも英語、中国語、韓国語の表示やアナウンスに触れますし、日本人の髪や目の色も多様になりました。もはや「異文化」との出会いに対する驚きは、少なくなってしまったかもしれません。
それでも、2025年の万博にはまた違う種類の楽しさと感動がありました。
今回のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。最初は少し抽象的にも思えましたが、実際に会場を歩いてみて、その言葉の意味が少しずつ実感として伝わってきました。たとえば「大阪ヘルスケアパビリオン」では、25年後の等身大の自分の姿が目の前に現れます。そのリアルさに思わず見入ってしまい、少しちゅうちょもありましたが、なぜか親しみも感じ、「未来の自分」と対話しているような、不思議な感覚になりました。
私たち住友グループが出展する「住友館」も、まさにテーマを体現するような空間でした。未来の森の中を歩き、森からのメッセージを受け取る体験は、言葉での説明以上に、自然と人間の共生や「いのちを未来につなぐこと」の大切さを感じさせてくれました。
そのほかの国のパビリオンでも、VR映像や音響、匂い、触覚などの五感を通じて自然からの問いかけを体験する展示が印象的でした。「あなたはどうしたい?」「どんな社会をつくりたい?」といった問いが心に残り、会場を離れた帰りのバスの中でもその余韻が続いていました。
1970年の万博が「より大きく、より速く、より便利に」という、夢のような未来を見せてくれる場所だったとすれば、2025年の万博は、子どもだけでなく、大人もシニアも、それぞれの世代でハッとするような気づきを得られる、「未来について一緒に考える場所」になっていると感じました。
地球に生きるひとつの「いのち」として、自然との共生を見つめ直すこと。「健康」や「環境」、「包摂性」などの大切さをあらためて感じること。それが、今回の万博でもらった大きな「お土産」でした。
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