揺れる世界の中で、静かに見つめる日本のかたち

2025年06月23日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
横濱 雅彦

 

ウクライナ情勢は出口の見えないまま長期化し、中東でも従前緊張が続いており、情勢はさらに不透明さを増しています。先週のG7カナナスキスサミット(6月12~13日)では先進国の結束にかげりも見え、経済や安全保障の枠組みが静かに、形を変えつつあることを感じます。アジア太平洋でも各国の海洋活動が活発化し、国境やルールのあり方がより複雑な問題となっています。こうしたなか、「この世界をどこから、どのように見つめるか」という視点の重要性を改めて認識しています。

 

先日、地球儀を衝動買いしました。平面の地図アプリにすっかり慣れてしまった固い頭をほぐそうと思い立ったものです。直径20センチメートルと小さいものですが、手に持っていろいろな角度から見られることで、すっかりはまっています。日本列島がどんな海に囲まれているか、視点を変えて眺めることで新しい気づきも多く、さまざまな国との距離感や位置関係を、より立体的に実感できます。

 

 

 

 

 

 

 

真北から見た地球。視点を変えると、見え方も……。

 

日本の面積は世界60位と中規模ですが、排他的経済水域(EEZ)は447万平方キロメートルで世界第6位になり、更に海の深さを考慮した海水の体積に換算すると世界4位となる、いわば「海洋大国」というまったく違う姿が浮かび上がります。深い海は、そして急峻な海底の地形に囲まれ、外部からの接近が容易ではない、まるで「天然の要塞」と捉えることもできます。

 

 

日本が第二次世界大戦後の一時的な占領を除き、他国の支配を受けることなく独立を保ってきた背景には、地理的な隔絶性や、列島としての構造が大きく関係しています。他国と陸続きではないために侵攻されにくく、同時に外界と向き合いながらも、自律的な政治体制を築いてきたのは、偶然ではなく「地勢がもたらした必然」とも言われます。第二次世界大戦後、日本人は国内で「戦争のない」時代を80年過ごしてきました。このことは、平和を愛する国民として胸を張るべき歴史ですが、同時に、戦争や紛争が日常の隣にあるという感覚はほぼ失われています。一方、世界各地では、紛争や軍事衝突が今も現実のものとして存在し、続いており、日常的に「自国のかたち」や「生存の条件」について考えている当事国、関係国の人々も多くいる現実があります。それに比べ、私たち日本人は、自国の地理的特性や、地政学的な立ち位置について、意識する機会が少ないかもしれません。しかし、だからこそ改めて地球儀を回してみることに、大きな意味があると感じます。

 

激動する世界において、日本という国がどんな位置にあり、何を強みとし、どのような環境に置かれているのか? それを知ることは、決して軍事力を誇るためでも、他国との比較を煽ることでもありません。むしろ、冷静に世界と向き合い、対話し、平和的な秩序を守るために、自らを正しく理解するという必携の「知」なのだろうと思います。

 

私と同様に、学校の教室で見て以来、地球儀を触っていないかたも多いと思いますが、機会があれば、ぜひ地球儀に触れてください。見慣れた世界が少し違って見えるかもしれません。もしも新たな気づきや、疑問を持たれたら、私たちSCGRにもお気軽にお声がけください。

 

なお、6月22日に発生した米国によるイラン核施設への空爆を受けて、中東地域をはじめとする世界情勢はさらに流動性を増しています。多くの国々が抑制と対話を求めているにもかかわらず、先行きは依然として不透明です。こうした現実を前に、私たちは冷静に、かつ多面的に世界を見つめなおす姿勢が一層求められると感じます。

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