タイ経済:インフレ加速、8月利上げ観測高まる(マンスリーレポート7月号)
2022年07月12日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子
経済概況・先行き・注目点:回復に向かっている。2022年第1四半期の実質GDP成長率は前年同期比+2.2%と、前期の同+1.8%の伸びを上回った。COVID-19の規制緩和、景気刺激策、国内外の旅行者数の増加などが寄与した。支出別では、個人消費が同+3.9%と前期の同+0.4%から増大した。総固定資本形成は同+0.8%(前期同▲0.2%)、モノの輸出は同+12%(前期同+17.6%)だった。先行きについては、内需拡大、好調な輸出に加え、観光業の回復が支援材料となり回復が続く。入国制限の緩和により外国人旅行客数(2022年政府見通しは700万~1,000万人)の増加が見込まれる。外国人旅行者による支出は、COVID-19以前はGDP比10%だった。ただしインフレが高水準で続き、家計・企業への重石となるだろう。国家経済社会開発委員会(NESDC)による2022年の実質GDP成長率の見通しは+2.5~3.5%。IMF、世界銀行による同見通しはそれぞれ+3.3%(4月時点)、+2.9%(6月時点)、ADBは+3.0%(4月時点)。注目点は、インフレの加速を抑制するため、8月に利上げを開始するかだ。
個人消費:回復しつつある。4月の小売売上高は前年同月比+10.69%と3月の同+3.74%より伸びが拡大。COVID-19の規制緩和を受け消費が旺盛になったようだ。先行きは、5月の外国人観光客数が前月比+77%と大幅に増加しており、今後も観光業の回復が続き小売売上高を押し上げるとみられる。一方、家計債務の拡大とインフレ高進が、消費者の購買意欲を抑制する可能性がある。
生産:下落している。5月の鉱工業生産は前年同月比▲2.11%と4月の同+0.0%から伸びがマイナスに転じた。中国のロックダウンにより自動車や電子分野での中間財などの輸入が滞ったことが響いた。先行きは、同ロックダウン解除により持ち直すとみられる。
貿易:堅調に推移している。5月の輸出額は前年同月比+10.5%の255.0億ドルと15か月連続で前年同月を上回った。ウクライナ情勢を背景に、農産物・同加工品の需要が高まり、大幅な増加が続いている(同+25.8%)。今後も、引き続き欧米や日本を中心に主要工業製品の需要が高まることに加え、ウクライナ情勢を背景に農産物の輸出が増加すると見込まれる。5月の輸入額は同+24.2%の273.8億ドル。内需の回復に伴い、輸入は拡大している。価格が高騰しているLNGの輸入は制限している。5月の貿易収支は18.7億ドルの赤字になった。赤字は2か月連続。引き続き資源価格の高騰により輸入物価上昇圧力が強まり、赤字が継続する可能性がある。
物価:上昇ペースが加速している。6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+7.7%と5月の同+7.1%を上回り、2008年9月の同+9.1%に次ぐ高水準となった。肉などの生鮮食品やエネルギー価格の上昇に起因している。先行きは、入国制限の緩和、資源価格の高騰、サプライチェーンの混乱、通貨安を背景に、物価上昇が続くとみられる。
金融政策:緩和を維持している。2020年5月以降政策金利は過去最低水準である0.5%を維持。米国との金利差が広がっており、バーツ安が進んでいる上、CPIがインフレ目標である+1~3%を大幅に上回っているため、8月に利上げする可能性が高まっている。
財政政策:景気刺激策を続けている。2022年度(2021年10月~2022年9月)の一般財政収支はGDP比▲6.1%の見通し(IMF、2022年4月時点)。公的債務は政府設定の上限であるGDP比70%を超えていないものの、51.1%(2021年9月末時点)から2022年3月末には同60.6%まで急増している。今後さらに公的債務は拡大するとみられる。
為替: 下落している。ドル売りバーツ買い介入を実施しているものの下落が進み、7月初旬には1ドル36バーツを超え、過去5年間で最も下落した。先行きは、米国との金利格差などを起因とした下落圧力から、中央銀行はドル売りバーツ買い介入を引き続き実施するとみられ、観光業復興への期待感もあり、緩やかな下落にとどまると予想する。
株価:下落している。2021年は世界的に大幅な資金余剰であったため株高が進行し、タイでも上昇していた。3月以降、ウクライナ情勢や米国の金融引き締めに対する懸念が高まり下落。今後は、インフレ加速、世界経済の減速、スタグフレーションが懸念事項となっているが、観光業復興への期待があり上昇基調に転じる可能性がある。
以上
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