インド経済:製造業・サービス業とも回復基調鮮明に(マンスリーレポート8月号)

2022年08月09日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:回復が続いている。2021/22年度第4四半期(2022年1~3月)の実質GDP成長率は、第3四半期の前年同期比+5.40%から同+4.09%に鈍化したが、足元では、ウクライナ情勢の影響などで加速していたインフレ圧力がやや鈍化傾向にあり、ホテル・レストランなどのサービス業や製造業の回復が続いている。先行きについては、コモディティ価格の高止まり、通貨安、利上げなどが逆風となり消費・投資が抑制される懸念はあるものの、回復は続くとみられる。インド準備銀行(RBI、中央銀行)による2022/23年度の実質GDP成長率の見通しは前年度比+7.2%。IMF、世界銀行、ADBによる同見通しはそれぞれ同+7.4%、同+7.5%、同+7.2%。注目点は、自動車の半導体不足が改善に向かっており、生産台数の引き上げが可能になったことから販売台数が増加傾向にあり、11月中旬のヒンドゥー教の大祭「ディワリ(灯明祭)」の特需に向けて、8~11月に好調な販売が期待される点だ。

 

    経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成    

 

生産:回復ペースが加速している。5月の鉱工業生産は前年同月比+19.6%と4月の同+6.7%から伸びが大幅に拡大。伸びは2022年1月以降で最も大きかった。特に耐久消費財と資本財がそれぞれ同+58.5%(4月同+7.4%)、同+54.0%(4月同+13.3%)と大幅に伸びが加速した。今後については、外需の鈍化、金融引き締めなどが生産活動の足かせになることが懸念されるが、政府による資本財への支出が増加していること、自動車や、猛暑による冷蔵庫やエアコンなどの耐久消費財の需要の高まりなどで、生産活動はしばらく堅調に続くと予想する。

 

貿易:輸入が急増、貿易収支が悪化している。輸出は6月が前年同月比+23.5%の401億ドルと5月の同+20.6%の389億ドルを上回り好調を維持。石油製品の伸びが同+119.0%の86億ドルと最も大きかった。先行きについては、7月1日に政府によって、価格が高止まりしている石油製品に課す超過利潤税などが引き上げられたことにより(その後品目によって廃止や引き下げも実施されたが)、輸出が減速すると予想する。輸入は、6月が同+57.6%の663億ドルと5月の同+62.8%の632億ドルから増加。特に石油・原油・関連製品の伸びが同+99.5%の213億ドルと目立った。6月の貿易収支は▲310億ドルと5月の▲243億ドルから赤字幅が拡大し、2か月連続で過去最大を更新した。今後、上述の通り輸出が減速し輸入は内需拡大により増加する可能性があり、貿易赤字がさらに拡大するとみられる。

 

    主要経済指標(出所)インド中央統計局、インド商業統計局よりSCGR作成    

 

物価:高水準だがやや鈍化傾向にある。6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+7.01%と5月の同+7.04%からほぼ横ばいとなったが、上昇ペースが鈍化した。インフレ目標である+2~6%を6か月連続で上回っている。6月の卸売物価指数(PPI)は同+15.18%と5月の同+15.88%からやや鈍化したものの+10%台で高止まりしており、企業収益を悪化させている。今後、燃料・食料品価格の高騰は一服するものの高水準が継続し、年内はインフレ目標を上回るだろう。

 

金融政策:RBIは、インフレの加速に対応し、5月4日の臨時会合で政策金利を0.4%pt引き上げ4.40%とし、その後6月8日の会合では0.5%pt引き上げ4.90%、8月5日の会合では0.5%pt引き上げ5.4%とした。3会合連続の引き上げ。今後もインフレや米国の利上げに伴い、追加利上げが実施されるとみられる。

 

財政政策:財政赤字の拡大が懸念されている。税収については、7月から石油製品の輸出で利益を得ている企業に対し超過利潤税を課していることに加え、一部品目の物品・サービス税(GST、日本の消費税に相当)の引き上げなどにより増加している。一方、支出では肥料などへの補助金、ガソリンやディーゼルに対する減税などインフレ対策の費用が増大していることに加え、公共投資(予算案では前年度比+24.5%)などの景気対策も実施されている。政府は2022/23年度の財政収支(連邦政府)のGDP比を▲6.4%に縮小することを目指しているが、現地シンクタンクは達成できないとし、▲6.5%と予測(8月時点)している。2021/22年度は▲6.7%だった。

 

    物価(出所)インド中央統計局よりSCGR作成    

 

為替:下落している。7月、1ドル80ルピー近辺と史上最安値を更新。ただし、7月は上昇する場面もあった。年内は米国による利上げや財政・経常赤字の拡大などを背景に嫌気されドル買いルピー売りの動きが続き下落基調が続くとみられるが、他のアジア諸国と比較し緩やかな下落になると予想する。

 

株価:上昇している。6月中旬以降、経済指標の改善が支援材料となり上昇。特に自動車販売台数がCOVID-19拡大以前の水準に回復したこともあり自動車株を中心に買いが入った。世界的なリスクオフで2021年末から2022年6月中旬までで約9%下落していた。今後は、新興国の中でも経済成長率が高水準を維持すると見込まれるため、しばらく上昇基調が続くと予想する。

 

為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

 

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