中東の危機と世界の経済

2026年04月01日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
本間 隆行

 

 

中東の混迷が長期化しており、石油や金属の供給には厳しい制約が生じていることで、価格高騰要因となっている。例えば、2月末に1バレルあたり72ドル台半ばで取引されていた北海ブレント原油先物は、3月末には115ドル台へと急騰した。石油製品や化学品の現物指標の一部として採用されているドバイ原油はブレント以上に価格は上昇している。原油価格の上昇が世界のインフレの原因になるのは過去からの教訓だが、今回の問題の本質は価格上昇ではなくてモノがないことだろう。その上、ドバイ原油など生産量の少ない、ややニッチな油種が現物指標と使われていることでは、供給が不安定な対象物を消費地で値決めに利用するのは適切なのか、といった課題も浮き上がってきた。

 

 

売買が成立しない以上代金決済は起きないし、資金も動かない。そして、モノがないこと、つまり投入する原料がないので製品の生産も覚束ない。そして、関連するサービスも当然のことながら打撃を受けることになる。生産量が縮小する一方で、価格は上昇しやすいことからマクロ経済では「スタグフレーション」が懸念されている状況だ。

 

 

こうした中であるがゆえ、原油・石油製品は供給が細っており、在庫でなんとか賄っている状態だが、通常の状態へと回復する見通しは立っていない。入るより出るほうが多いので、このままだと、いずれ在庫は尽きることになる。「250日分の在庫量がある」とされるが、各製品レベルの輸出入や国内在庫を念頭においたグロス集計ではなく、ごくシンプルな1日あたり使用量に基づく数字なので、製品によってはこれより長くなる可能性もあるだろうし、早々に在庫が尽きてしまう製品もあることだろう。

 

 

ホルムズ海峡を通過する船舶が時折あると、「他の国はうまくやっている」といった議論も高まるが、問題はペルシャ湾岸地域へ貨物を受け取りに戻れるのか、という点に尽きる。保険の条件が変わっていることが物流を阻害しているのかもしれないが、船主や荷主、運航企業の立場からは乗員から荷物までの安全が確保されない地域に保有船舶を向かわせることができるのか、という根本的な問題もある。空路による輸送も同様で、目的地に飛んで行ってもジェット燃料が高ければ採算が合わないことにもなるし、帰りの燃料が無ければ戻って来ることもできない。机上の計算と現実が合わない例と言えるし、これがリスクの本質とも言えそうだ。マーケットで使われるリスクオン・オフなんて、株や債券とキャッシュ比率程度を表す表現にすぎない。

 

 

ラフスケッチにはなるが、これが「現在地」といったところだろうか。しかし、いくつのかの疑問も残る。まず、常識的に考えれば新たに代金支払いが起きないのであれば、価格が高くなったところで決済の資金需要は生じない。それにもかかわらず、ドルが強いことだろう。この強さが原油価格上昇を起点とするものではなく「有事のドル買い」ということなら、この動きは正当化される面もありそうだ。それでも、当事国通貨であり経常収支赤字国でもあるので、強さの持続性については不安もくすぶる。産油国では売り上げが立たないこともあって借り入れ需要が強いという一面もあるのかもしれない。

 

 

輸出による外貨収入が減少すれば財政負担が増えるだろうし、経常収支はマイナスのほうに振れが大きくなるなど財政や国際収支の構造変化が起きて、その影響も考えておく必要がありそうだ。長期化することになったらドルとペッグされている通貨が切り下げられることも想定されるだろうし、そうなった場合はそれまでの外貨建て債務が(自国通貨建てに換算すると)膨らんでしまうリスクも考えておいたほうがよいのかもしれない。そうなる前にはもちろん外貨建て資産の処分があるだろうし、実際のところ昨今の金や株式の下落は、そうした背景にあるとの指摘もある。

 

 

なお、産油国では、これまで生産調整してきことで収入は伸びていない点にも留意が必要だ。米エネルギー情報局の試算によると2018年に7,360億ドルあった石油輸出収入は2026年には4,110億ドルへ落ち込むとされた。この混乱でさらに減少することが懸念されている。そして、我々が石油在庫を取り崩しながら経済活動を送っているように、彼らもまた、蓄えを取り崩しながら経済を運営していると考えられる。

 

 

石油や化学品、金融面での懸念が強まっているが、ソフトパワーの強化や産業多角化を目指して、産油国はスポーツエンターテインメントの世界でも重要な役割を担うようになってきた。しかし、多くのスポーツ活動が中止に追い込まれており、各国で投資の見直しが行われているのであれば、可能性としてはスポーツのオーナシップやスポンサーからの離脱などもありえる。

 

 

停戦が実現しても、元に戻ると考えるには無理がありそうだ。むしろ新しいものを作り上げていくくらいで考えたほうが良さそうだ。石油などの化石燃料の大切さを痛感したいま、石油を使わないこともよりも、使いながらも環境を守る技術がやはり重視されていくのだろう。

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