静かに進行する国内食料生産の危機
コラム
2026年04月15日
住友商事グローバルリサーチ 経済部 戦略調査チーム アナリスト
真鍋 舞

農産品の価格高騰の要因としては、よく気候変動や高温や渇水といった異常気象があげられる。物流の問題や燃料・資材の高騰について聞くことも増えた。しかし、それらに比べて国内の生産基盤の弱体化は、その深刻度があまり広く認識されていないのではないだろうか。
2026年3月31日に農林水産省は農林業センサスの結果(確定値)を公表した。表の通り、2025年時点の農業経営体数は、2020年比で108万経営体から84万経営体へと22.3%減少し、ふだん仕事として自営農業に携わっている基幹的農業従事者数は134万人から104万人へと24.0%減少している。これらの減少率は、同期間の日本の総人口の減少率を大きく上回っている(人口は1億2,615万人から1億2,322万人へと2.3%減少)。基幹的農業従事者の7割が65歳以上であることをふまえれば、今後も生産者の減少は避けられない。
もちろん、経営体や従事者数の減少が、そのまま農業生産の減少に反映されるわけではない。表の団体経営体数が4.9%、経営体当たり耕地面積が16.1%それぞれ増加しているように、農地の集約、経営規模の拡大、効率化も進んでいる。しかし、日本は耕地の4割が中山間地域であり、コメや麦など機械化が進んだ土地利用型作物の栽培省力化にも限度がある。人手頼みの作業が多い野菜や果樹の規模拡大はより一層難しい。
実際に主要な生産品目でも作付面積は減っている。例えば、指定野菜は14品目全てにおいて2024年の作付面積が2019年比で人口の減少率以上に減っていた(人口減1.9%に対し、最も減少幅が小さいタマネギで3.5%、最大のサトイモで16.6%減)[※]。スーパーなど店頭で日々目にする農産品は国産が主体だが、冷凍食品や加工食品、外食の原料は、既に多くが輸入品になっている。
生産能力が低下する中で国産にこだわり続けたければ、消費者は相応の値上げや生産・消費支援のための増税を受け入れるしかない。令和のコメ騒動ではコメの価格が2倍になった。それでもコメは「主食」であり、現時点ではコメの消費量全体が大きく減る結果にはなっていない。しかし、果物などで同じことが起きればどうだろうか。当該品目の消費は急減するだろう。そして高価格・低需要の状況が続けば、生産減が恒久化し、生産者の減少に拍車をかけることになりかねない。単独で短期間での価格高騰といったショックイベントとして表出しない分、話題にはなりにくいが、足元で進行している生産基盤の弱体化は非常に深刻な問題なのである。
※指定野菜:国がその重要性から安定供給を目指している野菜。野菜の作付面積の約7割、出荷量の約8割、購入量の約7割を占める。2026年4月からブロッコリーが加わり15品目になった。数字は作物統計調査より取得。
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