コモディティ市場の現在地:③制約だらけのサプライチェーン

2026年06月04日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

概要

  • 「重要鉱物」だけでなく、銅・アルミ・肥料など身近な資源でも供給制約が強まる
  • 資源制約は鉱山だけでなく、製錬・電力・副産物にも広がっている
  • 豊富で安価な資源の時代から、制約への適応を求められる時代へ

 

 前回、地政学的緊張や化石燃料に対するリスク認識の高まりが、再生可能エネルギーなど国産エネルギーへのシフトを促す可能性があると述べました。再エネだけでなく、AIデータセンター、防衛装備など、2020年代に拡大する分野はいずれも大量の金属や鉱物資源が不可欠です。電化・デジタル化の時代であっても、それは「脱コモディティ」を意味しません。
 最終回は、金属・鉱物資源の「現在地」についてみていきます。

 

制約だらけのサプライチェーン

 ホルムズ海峡危機では原油だけでなく、精製能力や石油製品供給にボトルネックが生じましたが、金属・鉱物資源も似た構造を抱えています。金属も鉱石を掘り出したままでは使えず、製錬・加工などの複数の工程を経て初めて消費可能な形態となるからです。多くの鉱種では資源や製錬能力が特定国に偏在しており、副産物・連産品制約やエネルギー供給制約など、サプライチェーンのそこかしこにボトルネックが存在します。生産集中はレアアースなど特定鉱物の問題として語られがちですが、実際には銅やアルミ、肥料など、身近な資源においても何らかの制約を抱えています。

 

銅:資源制約、製錬集中、国策需要

 最も顕著な事例が銅でしょうか。銅は電化に不可欠の素材で、再エネ・EVのほか近年ではAIデータセンターや国防など政策的に重要な分野での需要が高まっています。一方、鉱山生産を大幅に増やすのは容易ではありません。既存鉱床は資源量が減少して生産コストがかさみ、新規鉱山は地理的・地質的な困難や環境問題・社会的反発などから開発に10年単位の時間がかかることが珍しくありません。このため、政情不安で開発が停滞していたサブサハラ諸国などとの活発な資源外交、地質データ・衛星画像のAI分析を使った探鉱、低品位鉱から銅を抽出する新技術の活用など、あの手この手で資源確保の取り組みが進められていますが、なお将来的な需要拡大に供給が追い付けないという不安がくすぶっています。

 

 銅の場合、上流制約に加えて、製錬段階のボトルネックが極まっています。例えるなら、ごはんの販売価格が先に決まるのに、コメが逼迫していて確保が難しく、コメ代だけでごはんの売値を超えてしまうような状況です。銅市場では、これが製錬所にとっての原料(銅精鉱)の調達状況です。銅製錬能力は世界の半分弱が中国に集中し、なお拡大を続けているほか、鉱山生産で上位のインドネシアやコンゴ民主共和国なども国内製錬を強化しています。銅市場は慣行上、地金価格は市場で決まり、これをベースに鉱山会社と製錬会社の間で精錬加工費(TC/RC)を交渉することで製錬原料の銅精鉱の調達価格が決まりますが、調達環境は極めて厳しく、TC/RCがゼロやマイナスで取引される事態に陥っています。
 このことは、世界の銅製錬業の存続を脅かしています。それでもなお中国製錬が拡大している要因は、採算性だけでは説明できない政策的な後押しがあります。さらに、銅一次製錬の約2割を占める湿式製錬では「硫酸」を大量消費しますが、硫黄や硫酸の供給が世界的に逼迫しており、中国が硫酸輸出を制限していることも新たな制約を生んでいます。
 戦略的に極めて重要な鉱物の中流で中国が圧倒的シェアを掌握している点は、他の多くのレアメタルとも共通します。

 

アルミ:「電気の缶詰」

 アルミの場合は、原料となるボーキサイトの供給は銅に比べると豊富です。最大生産国のギニアがボーキサイト供給管理を強める動きを見せていますが、最大の制約はやはり製錬段階にあります。
 アルミは「電気の缶詰」と呼ばれるほど製錬に大量の電力を消費します。このため生産能力は、豊富で安価な電力を持つ地域に集中しやすい傾向があります。中国は石炭火力発電を背景に圧倒的な生産能力を築く一方、電気代の高い欧米などの製錬能力は縮小しましたが、グローバル化の時代は近隣国から調達することで安定供給体制を整えてきました。
 しかしその後、中国の生産拡大は供給過剰と貿易摩擦を生み、また脱炭素化の進展やロシア制裁も重なって、アルミ市場では「どこで、どんな電力で作られたか」も重要になりました。このため近年は、米国がトランプ政権下で関税政策による生産能力の自国回帰を図り、EUは炭素国境調整措置を本格施行して低炭素化の取り組みを進めています。
 こうした状況下、中東地域は安くて豊富な天然ガスを活用してアルミ製錬業を拡大し、西側にとっても、中東産アルミは石炭火力よりCO2排出量が少なく、政治リスクも低い重要な供給源となっていました。このため、今般のイランの紛争とホルムズ海峡危機は、中東産アルミ供給の大幅減少につながり、市場の不安を強めています。
 近年は、データセンターとの間で電力供給の争奪戦も起きています。米国では関税コストも加わって国内価格が高騰しているにもかかわらず、大手アルミメーカーが休止中の製錬所の再稼働を断念し、電力インフラ付き不動産として製錬所を売却する例すら出ています。また、ユーザーの間でもCO2排出量が少ない「グリーンアルミ」に対する需要が高まり、西側の一次製錬が縮小する中で、二次精錬(リサイクル)が拡大し、原料となるアルミスクラップの供給も逼迫しています。ボーキサイト・電力制約に対する適応を進める中で、新たなボトルネックが浮上しているともいえるかもしれません。

 

肥料:食卓にも地政学の影響

 肥料も「地政学」の影響を強く受ける資源のひとつです。植物の三大栄養素は「NPK」、つまり「窒素(Nitrogen)」「リン酸(Phosphorus)」「カリウム(Potassium)」で、窒素は「葉肥」・リンは「実肥」・カリは「根肥」と呼ばれるようにそれぞれが重要な役割を果たしています。一方、窒素肥料の多くは天然ガスを原料として生産されており、その価格や供給は天然ガスの価格や供給状況と直結します。また、リンは肥料のほか、最近だとリン酸鉄リチウムイオン電池などの分野でも需要が拡大する一方、リン鉱石の資源量はモロッコに集中、生産量では中国が世界最大で、リン鉱石の処理に硫酸を使うこと、中国が輸出規制を実施していることも供給制約となっています。カリはカナダ・ロシア・ベラルーシ・中国が主要生産国で、2021~22年にはベラルーシ・ロシアに対する経済制裁が供給逼迫と価格高騰の大きな要因となりました。また、中東地域は肥料の一大産地であるため、2026年のホルムズ海峡危機は供給不安を一段と増幅しました。
 つまり、我々が普段口にしている農産物も、その生産は肥料に大きく依存し、エネルギーや鉱物資源と同様の供給制約にさらされています。肥料が不足すれば、施肥量の多い作物が敬遠されたり、施肥量が減少して単収が上がりにくくなったりして、最終的には農産物供給に影響します。ただ、通年生産されるエネルギーや鉱物とは異なり、農産物は収穫期が年に1回ないし数回しかないため、農産物需給への影響が顕在化するまでタイムラグが生じます。肥料の供給不安が強まっている現在、収穫済みの2025年度産需給が比較的安定していても、2026年以降に栽培される作物の供給減少が不安視されているところです。

 

まとめ:余剰から不足への適応の時代に

 鉱物資源は品目数が多く、個々の商品がおかれた需給環境を把握することは煩雑な作業になります。むしろ、各商品がどのような段階を経て生産され、サプライチェーンのどの部分が制約を受けやすいのかを知っておくと、供給リスクの所在を直感的に把握しやすいかもしれません。

 

 「重要鉱物」の定義は、国によって異なります。ただ、銅・アルミ・銀など、従来は一般的なコモディティとみなされていた商品や、一部では肥料原料までも戦略資源として扱う国も出てきました。市場からの調達が必ずしも保証されない、市場原理に任せていても自然に供給は増えないとの認識から、各国は国策として国内生産を促す動きや、友好国間での供給網構築、備蓄構築など、さまざまな取り組みを急いでいます。

 

 そして、誰もが欲しがる資源を保有している国は、国益最大化のためにその資源を活用します。既にお話しした、国内精製、輸出管理などもその一例です。最近ではコンゴ民主共和国がコバルト輸出を割当制度に変更したり、インドネシアが石炭・ニッケルの2026年の採掘割当量を大幅に削減したり、石炭・パーム油・フェロアロイの輸出を国営機関経由に一元化することを発表したりと、「安売りしない」姿勢を明確に示しています。そして、そうした政策が世界の価格形成への影響力を強める場面は増えています。

 

 地政学的リスク・環境問題・資源ナショナリズムや、電力・鉱物・水資源・人材など数々の「不足」に直面している現在、豊富で安価な資源の時代は過去のものになりつつあるのかもしれません。だからといって、それは必ずしも「足りない=右肩上がりの価格上昇」を意味しません。効率化・グローバル化が進んだフェーズ、2010年代後半の供給過剰フェーズ、2020年半ばまでのショック多発フェーズを経て、2020年代後半から2030年代にかけては、いかに資源への「アクセス」を得るか、そして限られた資源をどう使うか、ないものをやりくりする能力が問われるフェーズになるのかもしれません。

以上

 

<バックナンバー>
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