アルメニア総選挙が示す「東西はざま」の現実
コラム
2026年06月25日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
アントン ゴロシニコフ

2026年6月7日、旧ソ連諸国アルメニアで議会選挙が実施され、ニコル・パシニャン首相率いる与党「市民契約」が勝利した。得票率は約49.9%と単独過半数を確保し、同首相は引き続き政権を担う見通しである。一方で議席は前回比で減少し、改憲に必要な3分の2の多数を失う結果となった。
今回の選挙で注目されるのは、親ロシア系野党の躍進である。新興勢力「強いアルメニア」が約23%の得票で第2勢力となり、従来の保守派に代わる受け皿として支持を拡大した。背景には、ナゴルノ・カラバフ喪失や対ロ関係の悪化に対する不安、さらには宗教・伝統価値を重視する層の支持がある。
同時に、選挙の過程ではロシアの影響力行使も指摘された。輸入制限などの経済圧力に加え、親ロシア派勢力への支援や情報面での働きかけが行われたとされる。ただし、こうした圧力は必ずしも親ロシア派の一方的優位をもたらしたわけではなく、むしろ一部では反発を招き、欧米接近を志向する世論の強化にもつながった点が特徴的である。パシニャン政権が勝利した要因としては、「消去法的選択」という側面が大きい。野党は政権交代後の明確なビジョンを示せず分裂したままで、有権者にとって現実的な代替案とはなり得なかった。また、インフラ整備や社会政策など、足元の生活改善も支持層固めに寄与した。もっとも、今後の政権運営は一段と難しさを増す。最大の争点は、アゼルバイジャンとの和平を進める上で不可欠とされる憲法改正であるが、与党単独では実現できず、野党との合意形成が不可欠となる。また、安全保障面ではロシア依存からの脱却を模索しているものの、経済面ではエネルギー輸入や通商関係を通じた対ロシア依存が残り、ロシアの圧力にさらされ続ける構図にある。ロシアとの関係を大きく見直すことの難しさは、今後も政権運営上の大きな制約となろう。総じて今回の選挙は、アルメニアが欧米接近を志向しつつも、東西の狭間にあって、依然としてロシアの影響圏に組み込まれている現実を浮き彫りにした。政権基盤が相対的に弱まる中、外交・安全保障・国内改革を同時に進める難題に直面するパシニャン政権の舵取りは、今後の地域情勢を左右する重要な試金石となろう。
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