ウズベク投資ファンド、ロンドンIPOへ
2026年05月13日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
アントン ゴロシニコフ
2026年5月1日執筆
概要
ウズベキスタン国民投資基金(UzNIF)は2026年4月29日、総額約19.5億ドル規模の新規株式公開(IPO)を開始した。申込期限は5月12日で、ロンドンおよびタシュケントの証券取引所に同時上場(デュアル上場)する予定である。国内向けには機関投資家・個人投資家を対象に株式を提供し、海外向けにはGDR(グローバル預託証券)を通じて国際機関投資家に提供する。GDRはロンドン証券取引所(LSE)への上場が予定されている。本件は、同国の資本市場への国際投資家のアクセス拡大と、ガバナンス・開示の国際水準への接近に向けた取り組みとして位置付けられる。
1.UzNIFの設立目的とIPOスキーム
ウズベキスタン国民投資基金(UzNIF:National Investment Fund of the Republic of Uzbekistan)は、同国の持続的な経済成長と市場経済化を目的として、2024年8月27日の大統領令に基づき設立された政府系投資ファンドである。ポートフォリオには、運輸(ウズベキスタン航空など)、エネルギー、通信、銀行など、国内の戦略的に重要な国有企業(SOE)13〜15社の少数株式(25〜40%)を保有している。現在、基金の唯一の株主である経済財務省が今回のIPOを通じて、発行済株式の約30%を売り出す予定である。政府の考えでは、IPOを通じた調達資金はUzNIFには残らず、直接国家予算に充てられる。
本件は、将来的な金鉱山企業の公開に向けた試金石としても注目されている。世界第4位の金生産量を誇るウズベキスタンのナヴォイ鉱山・冶金会社も近い将来の国際上場を検討しており、投資家の間ではその評価額は200億ドル以上に達する可能性があるとみられている。
UzNIFを運営するのは、米大手の資産運用会社グループ Franklin Templeton で、同社が信託管理人として、これら企業の収益性向上とガバナンス強化を指揮し、今回のIPOの準備も支援している。2025年5月1日にUzNIFの運用者および受託者(Manager and Trustee)として公式に就任したFranklin Templetonは、以下の3つの柱に注力している。
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- IPOの準備: 厳選された13社の上場。これら各企業の個別上場に向けたアドバイザー選定等の準備を加速させている。
- 企業の変革: 非効率な国有企業の経営を、透明性と収益性重視の民間モデルへ転換する。これには、国際的な財務報告制度の導入と、現場レベルでの経営文化の刷新が含まれる。
- ガバナンスの改善: 政府は国際基準への適合を掲げており、Franklin Templetonの投資チームが対象企業の取締役会に参画する。これにより、意思決定の透明性向上と、市場原理に沿った経営の定着が図られる。
Franklin Templetonは今回、UzNIFのIPOモデルとして、2015年にロンドン証券取引所に上場した、ルーマニアの投資ファンド「Fondul Proprietatea」をモデルにしている。Fondul Proprietatea(フォンドゥル・プロプリエタテア)は、ルーマニア政府によって2005年に設立された投資ファンドで、共産主義政権下に没収された資産の再民営化と運用を通じて価値回復を図ってきた。Franklin Templetonは運用を担い、株価を約10倍に引き上げ、ドル建て総還元率600%以上という実績を残した。ウズベキスタン政府はこの「成功の方程式」を自国に適用し、国家資産の価値最大化を狙っている。さらに、資産の現金化だけでなく、国際的なプロフェッショナルによる「統治(ガバナンス)の外部委託」を通じた経済構造の近代化も狙う。有力な国際投資家の参加も注目される。国際的な資産運用会社(機関投資家)であるBlackRockやFranklin Resourcesなどがアンカー投資家として総額約3億ドル相当の購入を確約しており、UzNIFのIPOに対する国際投資家の関心の高さを示している。
2.民営化の進展と残るボトルネック
ウズベキスタンでは、経済構造改革の一環として国有企業の民営化が進展しており、過去数年間で国有資産の売却が進んだとされる。国有企業数の減少や国有部門の経済比重の低下など、一定の成果も報告されている。主な民営化案件の例は以下のとおりである。
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- 2021年には、トルコのCoca‑Cola İçecek社が政府保有分57%を約2.52億ドルで取得し、Coca‑Cola Bottlers Uzbekistanを完全支配下に置いた。
- 2022年12月、ハンガリーのOTP銀行は政府との間でIpoteka銀行の政府持分75%取得契約に署名し、売却手続きを2023年に完了した。 その他にも、店舗やサービス事業、倉庫・物流施設、不動産など、数千件の中小規模資産が民営化(売却)の対象となったとされている。
一方、インフラや公益事業、運送関連など一部領域では民営化の進展が限定的とされる。UzNIFの上場は、こうした分野を含む国有企業改革や資本市場整備の取り組みを後押しする材料として注目される。国際機関は近年、国有資産改革と民営化の加速、国有企業のガバナンス強化、国際的な財務報告・監査基準の導入などを提言している。また、国有企業の経営判断における財政規律の確保や、競争環境の整備(独占の是正を含む)が民間投資の拡大に重要とされる。
UzNIFの上場は、国内市場での流通株式の拡大にもつながる可能性がある。ウズベキスタンの上場株式の時価総額はGDP比で相対的に小さく、上場銘柄数や取引規模も限定的とされる。UzNIFの国内上場に関しては、国内個人投資家向けに一定の価格ディスカウントを設ける方針が示されており、投資家層の拡大と市場流動性の向上を狙う施策と位置付けられる。
3.総括
ウズベキスタンの国有企業や銀行は従来、欧米市場では主に債券発行を通じて資金調達を行ってきた。これに対し、UzNIFの株式公開は、同国として国際株式市場の活用を進める取り組みの一つとなる。ロンドンでのGDR上場により、国際資本市場へのアクセス拡大や、開示・ガバナンスの国際水準への対応が促される可能性がある。加えて、民営化や個別企業のIPOに向けた体制整備、株式の流動性向上、対外的な市場認知の向上といった効果が期待される。なお、ウズベキスタンは2026年6月16~19日に第5回タシケント国際投資フォーラム(TIIF 2026)の開催を予定している。
以上
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