サッカー・ワールドカップから見るアフリカ
コラム
2026年07月15日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
髙橋 史
アフリカから最多の10カ国が出場
連日の熱戦が続くFIFAワールドカップ北中米大会。今回は出場国数が32から48に拡大したことに伴い、アフリカ大陸からは過去最多の10カ国が出場した。52年ぶりの出場を果たしたコンゴ民主共和国(DRC、旧ザイール)では、ワールドカップ出場が決定した日は祝日となった。人口わずか50万の島国・カーボベルデのゴールキーパー・ヴォジーニャ選手(40歳)のスーパーセーブの数々は世界中を感動の渦に巻き込むなど、アフリカ勢は様々な形で注目を集め、大会を盛り上げた。
「欧州の植民地」としての共通の歴史を持つアフリカだが、今回出場した10カ国は、旧英国植民地(エジプト、ガーナ)、旧フランス植民地(セネガル、モロッコ等)、旧ベルギー植民地のDRC、旧ポルトガル植民地のカーボベルデなど、概ね分散していた点もアフリカの多様性を示していた(図表①参照)。同時に、フランスのエムバペ選手(カメルーン系)やデンベレ選手(マリ・モーリタニア系)、スペインのヤマル選手(赤道ギニア・モロッコ系)、ベルギーのルカク選手(DRC系)、などアフリカにルーツを持つ欧州のトップ選手の活躍も目立った。これも植民地時代からのアフリカと欧州との歴史的なつながりが現在も深いことを示す証左であると共に、サッカー界におけるアフリカの存在感を印象付ける契機となっただろう。

- アフリカにおけるサッカー
普段から多様なアフリカ54か国を「一括り」にしないよう留意している筆者だが、サッカーに関しては「アフリカで最も人気なスポーツ」、と単純化せざるを得ない。アフリカサッカー連盟(CAF)は、2年ごとにAfrica Cup of Nationsを開催しているが、まさに国家の威信をかけた戦いは毎回大きな盛り上がりを見せる。前回2025年大会開催国で、決勝でセネガルを破ったモロッコは、今回のワールドカップでもアフリカ勢で唯一ベスト8入りした実力国に成長した。
アフリカ全体でサッカーが人気な理由は、なんといってもプレイの初期投資が小さくて済むことだろう。正規のサッカーボールやゴールポストがなくとも、空き地さえあれば誰でもゲームを楽しんだり技術を競ったりできる。また、スポーツバーでは、英国のプレミアリーグやブラジルのプロリーグなどを観戦する大人たちで盛り上がる。これらはアフリカの至る所で日常的にみられる光景だ。これもまたサッカー文化が根付く欧州とのつながりがもたらしたものだ。
実際に、FIFAもアフリカでのサッカー人口をさらに拡大させるために、「FIFA Forward Program」等を通じて、少年少女達がサッカーや教育機会に参画できるよう支援している。アフリカは今後世界で最も人口が増加していく地域だけに、FIFAとして将来的な「市場」として捉えている側面もあるだろう。もちろんアフリカの子供たちにとっても、才能あるサッカー選手として目に留まれば、欧州の有名チームへの道が開け、収入を大幅に増やせることもインセンティブになる。こうした需要と供給の両方の側面からアフリカでのサッカー人気は維持されていくだろう。
- かつては分断の象徴だったサッカー
筆者が約6年弱にわたり駐在・学生生活を送った南アフリカ(以下、南ア)でもサッカーは人気だ。しかし、その趣きは他のアフリカ諸国とは少し異なり、現地では主に黒人(注)に人気なスポーツとして捉えられている。かつて少数の白人が政権を担っていた「アパルトヘイト(人種隔離政策)」時代、黒人はインフラが未整備で過密な「黒人居住区(タウンシップ)」内での居住に制限されていた。そのため、前述の理由の通り、当時からサッカーは黒人の間で最も手軽なスポーツであり娯楽でもあった。現在でもヨハネスブルグ最大のタウンシップ・ソウェトに拠点を持つ2チームの戦いは「ソウェト・ダービー」と呼ばれ、大きな盛り上がりを見せる。
アパルトヘイト終了直後の南アを描いた映画「インビクタス」では、緑が眩しい整備されたラグビー場に集まる白人少年たちと柵を隔てて、貧しい黒人の少年達が土埃をあげながらサッカーに興じる対照的な光景が冒頭に描かれる。つまり南アではサッカー自体が、かつては「分断」の象徴でもあったのだ。
それから30年以上の月日を経て、南アラグビー界では白人・黒人の混成化など着実に変革が進んだが、依然としてラグビーは白人に人気のスポーツという側面が強い。対照的に、アフリカで初めてFIFAワールドカップを主催した2010年以来初の出場となった南アサッカー代表チーム「Bafana Bafana(ズールー語で“少年達”)」のメンバーのほとんどが引き続き黒人選手で占められていたことは、南アの中で静かに続く分断を個人的に再認識する機会ともなった。
- 分断の「中心」で行われたワールドカップ
世界中で「分断」の世と叫ばれ、また分断を煽るような動きも見せる米国も開催国となった今回のワールドカップだが、希望の兆しも目にした。大会初戦のメキシコ・南ア戦での開幕式では、南ア出身のグラミー賞アーティスト・Tyla氏が南ア国歌「Nkosi Sikelel' iAfrika(神よアフリカに祝福を)」を斉唱。アパルトヘイト終了後の南アの人種間を超えた団結のために制定された同国歌は、コサ語、ズールー語、ソト語、アフリカーンス語、英語の順で歌われる(いずれも南アの公用語)。その歌声は、南アをはじめとするアフリカ出場10か国へのエールであったのみならず、分断を乗り越えようとの世界全体に向けたメッセージにも感じた。
他方で、今回のワールドカップでも米国の対応が物議を醸す点はいくつもみられた。アフリカにまつわるものだけでも、ソマリア人公式審判の米国入国拒否、エボラ出血熱対策のためのDRCチームの隔離措置のほか、米国のエースストライカー・バログン選手(ナイジェリア系)の出場停止期間を1年間猶予するFIFAの特例措置などがあった。なかでも特例措置についてはトランプ大統領自らの働きかけがあったことがFIFAの意思決定に影響したとみられ、欧州サッカー連盟(UEFA)などはスポーツへの政治介入に強い疑義を示している。
少し先に目を向ければ、次回4年後のワールドカップは、モロッコ、ポルトガル、スペインの3カ国の共催となり、2010年ぶりにアフリカでワールドカップが開催される。また、2027年には今回のワールドカップでは出場機会のなかった東アフリカのケニア・タンザニア・ウガンダ3カ国共同開催でAfrica Cup of Nationsが開催される予定であることから、ますますアフリカ全体でサッカー熱が盛り上がっていくだろう。分断する世界の中で、サッカーがどのように世界中の国々を結び付けていくか、今後もその動きをアフリカを中心に観察していきたい。
(注)南アでは現在も公式統計で黒人(Black)、白人(White)、混血(Colored)といった呼称が使用されている。
<執筆者・アーカイブ>
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緊迫続くイラン情勢とアフリカへの影響:(2)南部アフリカ(2026年4月23日)
緊迫続くイラン情勢とアフリカへの影響:(1)東アフリカ(2026年4月9日)
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