エチオピア/ティグライ情勢

2026年08月04日


髙橋 史

8月1日、エチオピア北部のティグライ州西部で、同州を実質的に自治している政党・「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」関連の武装組織と、エチオピア国防軍(ENDF)との間で武力衝突が生じた。各種報道によると、数百人の住人が隣国のスーダンに避難したとみられている。TPLFは、「ENDFが大規模な歩兵攻勢を開始した」と非難している。

2020~2022年の間にティグライ州でのTPLFとENDFとの衝突により、約60万人の死者が生じた(ティグライ紛争)。結果的に戦局を有利に進めたエチオピア政府側が、TPLFに飲ませる形で「プレトリア和平合意」の署名に導き、停戦が実現した。しかし、ティグライ州の広範な自治権を求めるTPLF内の急進派と、中央集権化を強めようとする連邦政府との間の摩擦が強まり、7月にTPLFは「プレトリア和平合意は事実上死んだ」と発言する中での今回の武力衝突となった。
 
現時点で事態は一旦沈静化したとみられているが、米国の非営利団体「ACLED」などは今回戦闘が発生したティグライ州西部は、ティグライ州の中でも隣接するアムハラ州の民兵やENDFが支配している地域であるため、TPLFが奪還を試みようとしている地域だと以前から指摘している。TPLFが同地域を武力制圧しようとすれば、ENDFはそれを「一線」と捉えるため、再び全面的な戦闘が引き起こされる可能性が高いとの見方を示している。
 
また、ACLEDはこの衝突が「代理戦争」として地域内で拡大する恐れがあると指摘。内戦状態にある隣国スーダンの国軍政府は、アラブ首長国連邦(UAE)を通じてエチオピアがスーダンの反政府勢力「即応支援部隊(RSF)」を支援していると非難している。また、ティグライ州に隣接するエリトリアは、ティグライ紛争時にはENDFを支援していたが、近年、エチオピアのアビィ首相が紅海の港(エリトリアのアッサブ港)を「確保」したいとする発言に強い警戒感を示している。エリトリアはすでにTPLF関連武装組織への軍事協力を行っているとみられ、スーダン国軍もスーダン・エチオピア国境に駐留しているTPLF傘下の武装部隊「第70軍」を支援する可能性もあり、戦闘が拡大していく恐れがある。
 
TPLFは政党登録を抹消されたことにより6月に実施された国民議会選に参加できなかった。また、治安上の理由からティグライ州では同選挙の投票自体が見送られるなど、ティグライ州・TPLFは制度的にも阻害されている状況が続く。政府は民族間の問題解消のために7月15日に「国民対話」を開始したが、TPLFは参加を拒むなど、事態打開に向けた糸口が見えない状況が続く。(国際部 髙橋史)

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