ザクセン=アンハルト州議会選挙の結果と今後の展望
2026年09月09日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
濱嵜 隆吏
1.選挙結果概要
2026年9月6日に実施されたザクセン=アンハルト州議会選挙について、州選挙管理委員長が公表した暫定確定結果は以下のとおりである。全83議席のうち、極右「独のための選択肢(AfD)」が39議席(前回23議席)を占め最多となった。過半数は42議席であり、AfDは単独では過半数に達しない。一方、これまで州首相ポストを取っていた中道右派「キリスト教民主同盟(CDU)」は前回40議席から15議席へと激減した。5%条項(比例代表での得票率が5%未満の政党は議席を得ることができないという規定)により議席獲得が危ぶまれていた環境政党「緑の党」、中道左派「社会民主党(SPD)」、左派系新興政党「ザラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)」は議席獲得をした一方、中道自由主義「自由民主党(FDP)」は5%条項を割り込み(2.6%)、全議席を失った。特に、後述のとおり、2024年結党のBSWは新たに5議席を獲得し、キャスティングボートを握る重要な位置を占めている。
全41小選挙区中、AfDが38区を制すなど、その支持拡大は顕著である(2021年はCDUが40区、AfDは1区)。左派党は都市部3区を獲得した。シュルツェ現職州首相(CDU)自身も、立候補した小選挙区で敗れ、直接選出を逃した。
なお、投票率は77.8%(前回2021年比+17.5ポイント)と大幅に上昇し、同州の州議会選挙として過去最高となった(従来の最高は1998年の71.7%)。
2. 選挙結果の注目点
2.1 AfDの躍進
2.1.1 選挙結果
ドイツでは近年極右の支持が拡大しており、特にAfDは東独諸州での支持を大きく伸ばしており、今回の選挙ではどこまで支持を拡大できるか、そして州首相を輩出できるかが大きく注目されていた。
結果、AfDは43.8%という突出した得票率を記録し、第2党CDU(17.2%)に約26.6ポイントの大差をつけた。なお、AfDが州選挙において第1党となること自体は今回が初ではない。2024年9月のチューリンゲン州議会選挙において、AfDは約32.8%を得て既に第1党となっている。ただし43.8%という得票率は、AfDの州議会選挙における過去最高の得票率である。
より重要な点は、ザクセン=アンハルト州憲法擁護庁(Landesverfassungsschutz)が「確実な極右過激主義(gesichert rechtsextremistisch)」と分類している政党が、実際に州政府を主導しうる政治的状況が初めて生じた点にある。(なお、今回獲得した39議席は過半数(42議席)に及ばず、AfD単独での政権樹立はできない)。
2.1.2 (参考)AfD支持拡大の背景
AfDは2015年以降の難民流入などを契機に移民批判の受け皿として支持を拡大し、2025年連邦議会選挙では20.8%を獲得した。支持拡大の背景には、移民への懸念に加え、産業・雇用構造の変化によって、仕事を通じて得てきた社会的評価、職業上の誇りや地位を失うことへの不安等があるとされている(詳細については事前分析(「ドイツ極右AfDの台頭と東独諸州議会選挙」)をご参照ください)。
東独諸州では、AfDへの支持が特に拡大しており、その支持率が連邦・州選挙ともに西独の約2倍に達する状況となっている。東独諸州で特に支持が高い背景としては、地域GDPや失業率などの客観的経済指標よりも、自らが不利に扱われているとの主観的認識との関連が強いと指摘されており、高齢者が多く、将来への悲観や経済状況への不満が強い地域ほど高い。さらに、統一後の急激な産業再編に伴う失業や所得減少、技能、職業上の誇り、社会的地位の喪失経験があり、現在の産業・エネルギー転換が、同様の喪失が再び起きるとの「二度目の変容」への不安に結び付いているとされている。
2.2 CDUの歴史的敗北
CDUは17.2%という結果にとどまり、選挙前の各種世論調査(おおむね22%前後)を約5ポイント下回る結果となり、議席数も前回の40議席から15議席へと激減した。これは、1990年の再統一以降、同州のCDUにとって最低の得票率である。
加えて、小選挙区の結果を見てみると、CDUは全ての選挙区で直接選出(Direktmandat)を一議席も獲得できなかった(シュルツェ州首相自身も自身の選挙区で落選している)。比例票の減少にとどまらず、各選挙区において候補者が最多得票を得られなかったという事実は、CDUの地域レベルでの支持が壊滅的であることを意味しており、極めて難しい結果となった。
2.3 AfDの単独過半数阻止、BSWはキャスティングボートを握ることに
事前分析(「ドイツ極右AfDの台頭と東独諸州議会選挙」)において、「BSW・緑の党・SPDが5%条項を突破できるかが今回の最大の焦点」と指摘していたが、3党全てが議席を獲得したこともあり、AfDの過半数議席獲得は阻止された。
しかし、実際には前述のとおりCDUの得票が事前世論調査(22%)を大きく下回る17.2%と低迷したことに加え、AfDの獲得議席と、CDU・SPD・緑の党・左派党の獲得議席が39と拮抗する極めて政治的に難しい選挙結果となった。今後のあり得べき州政権の構成については下記3.1にて検討するが、AfD主導の政権もCDU主導の代替連立もいずれのシナリオも政治的なハードルが高い状況となっている。そのような中で注目すべきは、選挙前には5%条項の突破自体が危ぶまれていたBSWが、5議席を得てキャスティングボートを握る位置に立った点である。
3. 今後
3.1 ありうべきシナリオ
5つのシナリオを基に、それぞれの実現可能性を検討する。なお、本分析は9月9日時点の情勢をもとにしており、今後逐次情勢が変動する点に留意が必要。
【シナリオ1】AfD+BSWによる連立政権
AfDとBSWを合わせると44議席となり、過半数(42議席)を上回る。もっとも、BSWの州筆頭候補ヴィティヒ氏は、AfDが9月8日に州議会の全会派に呼びかけた協議に対し、事前に参加を断る姿勢を示している。連邦レベルでも、モハメド・アリBSW共同党首は選挙前の8月時点で、AfDの綱領及び党内の極右的潮流を理由に同党との連立を明確に排除し、あわせてCDUとの連立も否定していたが、同共同党首は選挙後の9月8日にも改めて、エネルギー政策以外について、BSWとAfDの政策に共通点が乏しいと発言している。したがって、正式な連立が成立するハードルは現状では高い。
他方でBSWは、個別の政策課題についてAfDと協議すること自体は否定しておらず、AfDとも政策分野ごとの協力等について協議する意向を表明している。
【シナリオ2】AfDによる単独少数政権
AfDが単独で少数政権を担うシナリオ(BSWが第3回投票で棄権することにより、相対多数でAfDの州首相が選出される形。手続きの詳細は下記4参照)。もっともBSWは、選挙後、AfD候補の州首相選出を「支持しない」と明言している。モハメド・アリBSW共同党首は、9月8日、州首相指名投票において、AfDもCDUも支持しない方針を再度明らかにしたうえで、他方で第3回投票においては棄権する用意がある旨発言している。ただし後述のとおり、AfDが39票を投じBSWの5名が棄権しても、残る39名が反対に回れば39対39の同数となり、選出には至らず膠着状態に陥る可能性がある。
【シナリオ3】反AfD連合(CDU+SPD+緑の党+左派党)
CDU・SPD・緑の党・左派党の4党は合計39議席にとどまり、絶対多数(42議席)に届かないうえ、AfD単独の議席数と同数である(これが今回特有の政治的難しさを生んでいる)。CDUは、AfDのみならず左派党との連立及びこれに準ずる協力も排除している。加えてCDU内の内紛*も交渉力を奪っており、反AfD連合成立に向けた政治的ハードルは高い状況である。(*シュルツェ州首相は9月7日、CDUに政権担当の付託はなく野党に回るとの認識を示し、政権形成の主体となる意思を早期に放棄する一方、党内の主導権をめぐる動きが並行して進んでおり、これが交渉力を一層制約している。)
なお、AfDを除く5党(CDU・SPD・緑の党・左派党・BSW)の合計は44議席であり、数字上は過半数を上回っており、これはAfDを含まない唯一の多数派の組合せである。もっとも、前述のとおりCDUは連邦党大会決議により左派党との協力を排除していることに加え、BSWはCDU州首相の交代を掲げて選挙戦を戦った経緯もある。5党間の理念的距離と相互の排除関係に照らせば、この組合せが正式な連立として成立する可能性は、現時点では低い。
【シナリオ4】超党派州首相(BSW提案)
BSWは、超党派候補を州首相に選出し、案件ごとに変動する多数派に依拠して統治させる構想を掲げる。
もっとも同構想は複数の疑問を惹起している。第一に、議席数で最小の会派による提案に、他会派が乗るインセンティブは乏しく、第二に、極右とも協働する政権に緑の党や左派党が参画する理由は見出しがたい。さらに第三に、明確な選挙の勝者であるAfDとしては同案に乗る動機は乏しく、あくまで自党からの州首相輩出を主張している。
したがって、本提案については、AfDもその他諸政党としても賛成する状況は現時点では想定しがたい。
【シナリオ5】政治的混乱の長期化
独シュピーゲル誌は「混乱(Chaos)が現時点で最も可能性の高い帰結」と評している(Der Spiegel、Peter Maxwill、2026年9月7日)。上記の事情が重なり、安定した政権形成は当面困難とみられる。加えて、後述のとおり州憲法は第3回投票が同数となった場合の処理を明文で定めておらず、膠着が長期化し得る制度的な余地が残されている。その間、シュルツェCDU州首相の現政権が職務執行内閣として在任し続けることとなる。
【補足】:CDU議員のAfD会派への鞍替え
AfDのジグムント氏は、会派単位のみならず個々の議員とも協議する意向を公言しており、CDU議員の会派移動に期待しているとも報じられている。少なくとも3名が合流すれば絶対多数に達するが、この可能性は「現時点では排除できない」とも評されている(Der Spiegel、Fabian Hillebrand、2026年9月7日)。事前分析で詳述のとおり、選挙後に議員が所属会派・政党を変えること(造反=Überläufer)は自由委任の原則の下で制度上可能である。また、州首相の選出は討論を行わず秘密投票で実施されるため(州憲法第65条)、会派移動を伴わない個々の議員の投票行動を外形的に確認することはできない。
ただし、AfDは同党の中核方針、とりわけ移民政策及び治安政策について「100%実施される」ことを多数派形成の前提として公言し、後日の離反を招く「小細工」的な対応を望まないとしている点に留意が必要である。CDU側は、9月8日、新会派代表シュルツェ氏が「15名全員、CDUの側からAfDとのいかなる協議も行わない」と明言し、自会派からの離反を重ねて否定している。
3.2 連邦政治への影響
今回の選挙結果は州内政治にとどまらず、連邦政治に多面的な波紋を広げている。
3.2.1 連立与党の求心力と改革路線
今回はあくまで州議会選挙であったが、連邦与党であるCDU・SPD双方の求心力への影響という観点も重要である。特に今回は、連邦政府の与党であるCDUとSPDが揃って苦戦したことから、両党内では敗因を連邦政府の政策、とりわけ社会保障改革に求める議論も生じている。クリングバイル副首相兼SPD党首は、有権者の約45%が極右政党に投票した事実について「無関心ではいられない」と述べ、なかでも「年金をめぐる議論が国内の多くの人々を不安にさせた」と明言した。また同副首相は、今回の選挙結果を「ベルリンへのシグナル」と受け止め、「社会保障改革を国民に敵対する形で進めてはならない」と述べたうえで、政府内でどの点に修正が必要かを協議する方針を示した。これに対しメルツ首相は、改革路線について「議論の余地はない」との姿勢を崩しておらず、連邦政府内の摩擦が生じている。年金・医療・介護など秋に決着が予定される改革案件は、いずれも連立政権内の争点であり、州選挙の結果はこれらの調整を一段と難しくしている。
3.2.2 CDUの指導力と「防火壁」
CDUの州支部代表兼州首相のシュルツェ氏は州執行部の改選を表明し自らの党首再選を目指さない意向を示す一方、9月8日には州議会のCDU会派の代表に僅差で選出され、州支部代表・州首相・会派代表を兼ねることとなった。他方、ミュラー連邦議会議員が州支部代表選への立候補を表明しており、党内の路線・人事をめぐる調整は続いている。
ここでの争点は、AfDに対する「防火壁」(極右政党などの過激派勢力に対し、既存の主要政党が連立政権の樹立や協力、妥協を一切行わないとする不文律)を維持しつつ流出した支持をいかに取り戻すかという路線問題であり、事前分析で整理した「厳格化による対抗」と「穏健化による中道固め」の間の緊張が、今回の敗北を契機に党内で顕在化した形である。メルツ首相の党内基盤にも影響が及んでおり、連邦レベルの政策運営における首相の指導力は当面試されることとなる。
4. 参考:選挙後の議会招集及び州首相指名に関する手続き規則等
今後の政権形成に関わる手続き上の主要なポイントを以下に整理する。
4.1 新議会の第1回会合
州憲法の定めにより、新議会は選挙後30日以内、すなわち遅くとも2026年10月6日までに招集される。招集は前議会の議長が行い、初回会合では議事規則の議決及び新議長の選出等が行われる。
4.2 州首相選出手続き
第1回投票:州首相は、討論を行わず秘密投票により選出される(州憲法第65条)。当選には全議員83名の絶対多数(42票以上)を要する。
第2回投票:第1回で選出に至らない場合、7日以内に第2回投票が行われる。要件は同じく絶対多数である。
任期の早期終了に関する議決:第2回投票でも絶対多数に達しない場合、議会はさらに14日以内に、任期を早期に終了させるか否かを議決する。この議決には全議員の絶対多数を要し、成立しない場合は直ちに第3回投票に移る。
第3回投票:投じられた票の多数(相対多数)で足りる。棄権は投じられなかった票として扱われる(州憲法第51条)。ただし、AfDが39票を投じ、BSWの5名が棄権し、残る39名が反対に回った場合には39対39の同数となり、誰も選出されない膠着状態に陥ることとなる。州憲法は、この場合の処理を明文で定めていない。
その後の自己解散:会期の開始から6か月を経過した後は、全議員の4分の1以上の発議に基づき、3分の2以上(56名以上)の賛成によって議会が自ら解散することができる。要件は高く、膠着が長期化する可能性がある。
4.3 新政権発足まで
シュルツェCDU首相の現州政府は、新政府が成立するまで職務執行内閣(geschäftsführende Regierung)として在任する。
5. 参考文献
CDU-Fraktion im Landtag von Sachsen-Anhalt. (2026, September 8). CDU-Fraktion konstituiert sich für 9. Wahlperiode – Sven Schulze ist neuer Fraktionsvorsitzender [Pressemitteilung]. https://www.cdufraktion.de/2026/cdu-fraktion-konstituiert-sich-fuer-9-wahlperiode-sven-schulze-ist-neuer-fraktionsvorsitzender/
Fischer, S., Lehmann, T., & Röhlig, M. (2026, September 7). Und plötzlich ist Sahra Wagenknecht wieder ein Machtfaktor. Der Spiegel.
Landtag von Sachsen-Anhalt. (2026). Terminübersichten: Landtagssitzungstermine 2026. https://www.landtag.sachsen-anhalt.de/service/terminuebersichten/
Lehmann, T., & Maxwill, P. (2026, September 8). Wie in der CDU Sachsen-Anhalt der Machtkampf eskaliert. Der Spiegel.
Maxwill, P. (2026, September 7). Das sind fünf Szenarien nach dem Dammbruch von Magdeburg. Der Spiegel.
Statistisches Landesamt Sachsen-Anhalt / Landeswahlleiterin. (2026). Landtagswahl Sachsen-Anhalt 2026: Ergebnisse Landesebene [Vorläufiges amtliches Endergebnis]. https://wahlergebnisse.sachsen-anhalt.de/wahlen/lt26/erg_land.html
Statistisches Landesamt Sachsen-Anhalt / Landeswahlleiterin. (2026). Landtagswahl Sachsen-Anhalt 2026: Sitzverteilung. https://wahlergebnisse.sachsen-anhalt.de/wahlen/lt26/sitze.html
Verfassung des Landes Sachsen-Anhalt. (1992). Art. 51, Art. 65.
Welt. (2026, September 8). Nach Sachsen-Anhalt-Wahl: SPD will laut Bericht mehrere Reformen stoppen – „Keine Diskussionen", betont Merz. https://www.welt.de/politik/deutschland/article6a9f9a88240b302c8a83cea3/nach-sachsen-anhalt-wahl-spd-will-laut-bericht-mehrere-reformen-stoppen-keine-diskussionen-betont-merz.html
Zeit Online. (2026, September 7). Sepp Müller strebt CDU-Vorsitz in Sachsen-Anhalt an. https://www.zeit.de/politik/deutschland/2026-09/sepp-mueller-will-sich-fuer-cdu-vorsitz-in-sachsen-anhalt-bewerben
Zeit Online. (2026, September 8). AfD lädt alle Parteien in Sachsen-Anhalt zu Gesprächen ein. https://www.zeit.de/politik/deutschland/2026-09/afd-sachsen-anhalt-sondierungsgespraeche-parteien-tobias-rausch-gxe
以上
<執筆者・アーカイブ>濱嵜 隆吏
調査レポート ドイツ極右AfDの台頭と東独諸州議会選挙(2026/9/4)
コラム 知られざるドイツの味、土地の記憶(2026/8/21)
コラム 欧州今昔物語(2026/7/29)
調査レポート 英国バーナム新政権の政策展望(2026/7/22)
政経イベントコラム NATO首脳会合の「成功」――欧州・トルコ・ウクライナの思惑(2026/7/10)
調査レポート 日欧関係強化の戦略的意義(2026/5/15)
コラム ハロウィンと魔女、そして冷戦の残影──ブロッケン山から見たドイツ社会(2025/12/10)
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