資源戦略としての循環経済-リチウム・レアアースを中心に:企業対応編
2026年09月18日
住友商事グローバルリサーチ 経済部 戦略調査チーム シニアアナリスト
宮之原 正道
1.はじめに:問題意識と対象範囲
前回レポート「資源戦略としての循環経済―リチウム・レアアースを中心に」では、循環経済が廃棄物削減や環境負荷低減にとどまらず、重要鉱物の供給を補完する資源戦略として位置付けられつつあることを、EU、米国、中国、日本の政策・制度から整理した。
本レポートでは、分析の焦点を企業対応に移す。企業による循環供給網の構築は、政策・制度のみならず、需要家の要請、採算性、資源確保、技術等の複数の要因に左右される。このため、本レポートでは、個別の企業行動を特定の政策・制度の直接的な結果として捉えるのではなく、政策・制度を供給網設計に影響する外部条件の一つとして位置付ける。その上で、個別の再資源化技術だけでなく、発生源から需要家までの循環供給網を構成する各機能と、その接続に着目して企業の取り組みを整理する。
対象は前回と同様、リチウムとレアアースとし、リチウムについてはリチウムイオン電池・製造スクラップ・ブラックマス等、レアアースについてはネオジム磁石等のレアアース磁石とその製造スクラップ・使用済み製品を中心に取り上げ、両分野の共通点と相違点から企業への示唆を整理する。
2.政策・制度変化と企業実務上の主な論点
重要鉱物の資源循環をめぐる政策・制度の変化は、企業の調達・投資・取引・情報管理といった事業判断に影響する重要な外部条件となる。図表1は、各国・地域の主な政策・制度の動きと、それに伴う企業実務上の主な論点をまとめたものである。主要国・地域の政策は異なるが、企業実務上は、再資源化の原料をどこから確保し、どのルートで再資源化し、どの市場・政策要件に適合する供給網を構築し、その適合をどう証明するかという論点に整理できる。
地域別にみると、EUでは再生材利用や情報開示等を製品規制に組み込み、企業に対応を求める動きが先行している。米国では、税制支援や補助金、適格性要件等を通じ、国内での加工・生産や供給網強化を促す政策が中心となる。中国では、使用済み製品の回収・再資源化ルートやトレーサビリティの管理を強化する一方、一部のレアアース関連品目では輸出管理も実施している。日本では、資源有効利用促進法の改正等により、再生材利用や回収・再資源化、静脈物流等を促進するとともに、蓄電池では欧州規制への対応も企業実務上の論点となる。このように政策手段や重点は地域によって異なるが、企業実務上は、再資源化原料をどこから確保し、どのルートで再資源化し、どの市場・政策要件に適合する供給網を構築するかという視点が共通して重要となる。
3.企業対応における5つの機能― 循環供給網をどの機能で捉えるか
企業による資源循環・供給網上の取り組みは、①発生源確保、②回収・静脈物流、③再資源化・材料化、④市場アクセス・地域要件対応、⑤情報証明・トレーサビリティの5つの機能に整理できる。図表2は、これら5つの機能と循環供給網との関係を示したものである。
以下、図表2の①~⑤について概説する。
① 発生源確保は、使用済み製品や製造スクラップ等を再資源化の原料として確保する機能である。
② 回収・静脈物流は、それらを回収・輸送・集約・前処理し、再資源化工程へつなぐ機能である。
③ 再資源化・材料化は、回収した資源を、需要家が利用できる材料・製品まで戻す機能である。
④ 市場アクセス・地域要件対応は、どの市場で販売し、どの市場・政策要件を満たすかを踏まえて供給網全体を設計
する機能である。
⑤ 情報証明・トレーサビリティは、原料由来、処理履歴、再生材含有率、カーボンフットプリント等を供給網に沿って追跡
し、市場・政策要件への適合を支える機能である。
以上の5つの機能を共通の軸として、以下では両分野の企業対応をみていく。
4.リチウムイオン電池・ブラックマスをめぐる企業対応
4-1. リチウムイオン電池の循環フローと特徴
リチウムイオン電池の資源循環では、電池製造時に発生する製造スクラップと、電気自動車等から回収される使用済み電池が主な発生源となる。これらは回収・輸送後、必要な放電、解体、破砕・選別等の前処理を経てブラックマス(リチウム、ニッケル等を含む粉状の中間原料)となる。その後、金属回収・精製等の再資源化を経て材料化され、再び電池材料として供給網に戻る。図表3は、この主な流れを示したものである。
この循環フローを見る際には、まず製造スクラップと使用済み電池で、発生・回収の条件が異なる点に注意が必要である。製造スクラップは工場等から比較的まとまって発生する一方、使用済み電池は製品寿命を経て発生するため、発生時期や場所が分散し、電池の種類や使用状態も異なる。
また使用済みリチウムイオン電池では、安全な回収・保管・輸送と前処理が必要となる。損傷した電池等には発火リスクもある為、単に回収量を確保するだけでなく、安全に再資源化工程までつなぐ静脈物流が循環供給網の重要な一部となる。
さらに、ブラックマス化自体が循環の終点ではない。そこから金属を回収・精製し、需要家が利用できる品質・形態の電池材料まで戻せるかによって、再生資源としての利用可能性や付加価値は異なる。また、ニッケルやコバルトを比較的多く含む三元系電池とリン酸鉄リチウム電池では、含有する有価金属の構成が異なるため、回収物の価値や採算性にも違いが生じる点にも留意が必要である。
4-2. 5つの機能でみるリチウムイオン電池の代表事例
図表4では、第3章で示した5つの機能ごとに、リチウムイオン電池分野における代表的な企業事例と、それぞれが担う主な機能を整理する。
図表4では、各事例を主たる機能に位置付けているが、実際の企業の取り組みは複数の機能にまたがる。例えば、Redwood Materialsとトヨタは、①発生源確保と③再資源化・材料化をつなぎ、その先に再生材の需要先を確保している。DHL Supply ChainとFortumは、②回収・静脈物流と③再資源化・材料化を接続している。また、Nth Cycleは③再資源化・材料化を④市場アクセス・地域要件対応と組み合わせ、Volvo CarsとCirculorは⑤情報証明・トレーサビリティを通じて④市場アクセス・地域要件対応を支えている。一方、BASFは③再資源化・材料化の中で、ブラックマス化から金属回収・精製、正極活物質製造までの工程を一体化している。このように、リチウムイオン電池の循環供給網では、各機能を個別に確保するだけでなく、複数の機能を企業間連携によって接続したり、一つの機能の中の複数工程を一体化したりする動きがみられる。
4-3. リチウムイオン電池循環の事業性上の論点
前節の企業事例を踏まえると、リチウムイオン電池の循環では、原料の供給量や処理能力だけでは事業性は判断できない。使用済み電池と製造スクラップでは、発生時期、電池種類・組成、所有・引取条件が異なる。また、安全な輸送・保管、放電・解体・前処理にはコストがかかり、使用済み電池を有償で買い取るのか、無償で引き取るのか、処理費を受け取るのかによって採算も変わる。
さらに、ブラックマス化で止めるのか、リチウム、ニッケル、コバルト等を回収・精製するのか、正極活物質まで材料化するのかによって、必要な設備・技術、コスト、得られる製品価値は異なる。三元系電池とリン酸鉄リチウム電池のような組成の違いも採算性に影響するため、どの原料をどの条件で確保し、どの材料として誰に販売できるかまで見る必要がある。このため、リチウムイオン電池の循環事業では、原料の入口、処理・材料化の工程、販売先を一体で捉え、それぞれの条件がコストと収益にどう影響するかを見ながら、事業性を判断することが重要となる。
5.レアアース磁石をめぐる企業対応
5-1. レアアース磁石の循環フローと特徴
レアアース磁石の資源循環では、磁石製造時に発生する製造スクラップのほか、ハードディスクドライブ、自動車部品、風力発電設備等の使用済み製品が主な発生源となる。使用済み製品の場合は、代表的には製品を回収・解体し、内部に組み込まれた磁石を分離した上で、再資源化につなげる。
図表5は、磁石製造スクラップや使用済み製品からレアアース磁石を回収し、再び磁石材料・磁石として供給網に戻すまでの主な流れを示したものである。
この循環フローを見る際には、まず発生源によって原料の集めやすさが大きく異なる点に注意が必要である。磁石製造時のスクラップは特定工場で比較的まとまって発生する一方、使用済み磁石は多様な製品の内部に組み込まれている。このため、使用済み製品では製品そのものを集めるだけでなく、磁石を分離・選別し、再資源化の工程が必要となる。
また、レアアース磁石の再資源化の方法には、回収した磁石からレアアースを分離・精製し、酸化物等を経て再び磁石材料に戻す方法と、レアアースを酸化物等まで分離・精製せず、使用済み磁石を磁石材料として直接再生し、新たな磁石へ戻す方法がある。どの方法を選択するかによって、必要な工程や設備、コスト、求められる原料の状態や品質が異なる。
このように、レアアース磁石の循環では、発生源や再資源化ルートによって、企業が担う機能や必要な工程が異なる。加えて、市場・政策要件や、再生材の由来等に関する情報証明も、循環供給網の設計に影響する。
5-2. 5つの機能でみるレアアース磁石の代表事例
図表6では、第3章で示した5つの機能に沿って、レアアース磁石分野における代表的な企業事例と、それぞれが担う主な機能を整理する。
図表6の事例からは、レアアース磁石の循環でも、各機能を契約や企業間連携、工程の一体化等によってつなぐ動きがみられる。例えば、VACUUMSCHMELZEとCyclic Materialsは長期契約によって製造スクラップの発生源と再資源化をつなぎ、HyProMag USAとILSは分散する使用済み製品の集荷・前処理と再資源化拠点をつないでいる。また、MP Materialsは政府支援と需要家との長期契約を組み合わせて米国内供給網の構築を進め、CirculorとCyclic Materialsは再生材に関する情報を需要家が確認できる仕組みを構築している。このように、レアアース磁石では、原料を確保・集約し、適切な再資源化ルートを経て需要家につなぐまでの機能を、複数の企業や仕組みによって組み合わせる動きがみられる。
5-3. レアアース磁石循環の事業性上の論点
レアアース磁石の循環事業では、再資源化技術やレアアース回収率だけでは事業性を判断できない。発生源へのアクセス、使用済み製品の集荷・前処理、再資源化ルートの選択、市場環境や需要家の要求が事業性に影響する。製造スクラップと使用済み磁石では、発生形態や集約のしやすさが異なるため、確保できる量や条件も異なる。
使用済み製品では、内部の磁石を分離・選別し、再資源化工程へ継続的に供給できる状態にする必要がある。また、レアアースを酸化物等まで戻すルートと、磁石材料として直接再生するルートのいずれが適するかは、回収原料の状態・組成、必要品質、工程・コスト、需要家の要求によって異なる。さらに、需要家の調達要件や原料由来等の情報証明も供給網形成に影響するため、どの発生源からどの条件で磁石を確保し、どのルートで誰が利用できる材料・磁石まで戻すかを見る必要がある。このため、レアアース磁石の循環事業では、原料の入口、集荷・前処理、再資源化ルート、需要先、情報証明を一体で見ながら、事業性を判断することが重要となる。
6.まとめ
6-1. リチウムイオン電池とレアアース磁石の共通点・相違点
図表7は、第3章で示した5つの機能を軸に、第4・5章でみた両分野の共通点と相違点を整理したものである。
図表7からは、両分野はいずれも同じ5つの機能で捉えられる一方、供給網全体の成立を制約し得る工程や接続点、すなわちボトルネックとなり得る箇所は異なることが分かる。リチウムイオン電池では、使用済み電池を安全に回収・輸送することに加え、ブラックマスから金属や正極活物質等、需要家が利用できる材料まで戻す工程がボトルネックとなり得る。一方、レアアース磁石では、多様な製品に組み込まれた磁石を分離・選別して再資源化拠点へ集約することや、原料の状態や需要家の要求に適した再資源化ルートへの接続がボトルネックとなり得る。
また、個別事例をみると、供給網上の各機能は単独で完結するのではなく、長期契約、物流連携、工程の一体化、情報連携等によって相互に接続されている。接続の方法は案件によって異なり、一企業が複数工程を一体化する場合もあれば、複数企業の連携によって機能をつなぐ場合もある。その違いは、各機能に必要な設備・技術、原料の発生・集約形態、既存事業との接点、需要家との関係等によって生じる。自社の既存設備・技術や事業基盤を活用できる場合には複数工程を一体化しやすい一方、回収・物流や原料確保、再資源化等で異なる能力が必要となる場合には、外部企業との連携によって機能を補完する形が取りやすい。
例えば、一社内で工程を一体化する事例として、BASFはブラックマス化から金属回収・精製、正極活物質製造までの複数工程を同一拠点に配置している。一方、複数企業の連携では、DHL Supply ChainとFortum、HyProMag USAとILSが回収・物流・前処理と再資源化を補完し、VACUUMSCHMELZEとCyclic Materialsは長期契約によって発生源と再資源化をつないでいる。また、Redwood Materialsとトヨタは使用済み電池の発生源と再生材の需要先をつなぎ、Volvo CarsとCirculorは情報面で供給網を補完している。
したがって、循環供給網を見る際には、必要な機能が存在するかだけでなく、どの工程・接続点が供給網全体を制約し得るのか、また、その機能間を自社内外でどのようにつないでいるかを見ることが重要となる。
6-2. 企業への示唆 ―循環経済を資源戦略として捉える
以上を踏まえると企業への示唆は、以下4点に整理できる。
- 発生源確保という「入口」から再生材の需要先という「出口」まで供給網全体を捉え、どこにボトルネックが生じ得るかを見極めることが重要である。個別の工程だけでなく、回収した資源が最終的に需要家に利用されるところまでを一体で捉える必要がある。
- 特定したボトルネックに対し、自社が担う機能と、契約・提携等によって補完する機能を見極める必要がある。循環供給網のすべてを自前で持つことが重要なのではなく、自社の強みや既存事業との接点を踏まえながら、必要な機能を自社内外でどのようにつなぐかという視点が重要となる。
- 供給網を構築できても、それが事業として成立するとは限らない。実際の事業判断では、処理量やリサイクル率だけでなく、原料確保、回収・物流・前処理、設備稼働率、歩留まり、品質、金属価格、販売価格等が採算に影響する点を確認する必要がある。
- 政策・制度や市場要件は、加工地、調達先、投資地、提携相手等の選択だけでなく、求められる情報証明にも影響し得る。このため、政策・制度や市場要件と、それに伴う情報証明を、供給網設計の初期段階から設計条件として織り込むことが重要である。
重要鉱物の循環を資源戦略として考える際には、使用済み製品や製造スクラップが存在しても、そのすべてを経済的に回収・再資源化できるわけではなく、利用可能な量や発生時期、品質・組成、回収・前処理コスト、需要等によって、実際に供給源として利用できる範囲は異なる。
一方、再生資源は、一次資源と組み合わせることで、調達源の多様化や特定国・地域への依存低減に寄与し得る。また、再生材利用等の市場・政策要件への対応を支える供給源にもなり得る。
したがって、本レポートが示すのは、循環経済を資源戦略として機能させるには、供給網上のボトルネックを見極め、必要な機能間を自社内外でつなぎ、市場・政策要件や情報証明を織り込みながら、再生資源を実際に利用可能な供給源として供給網に組み込むことが重要であるという点である。
<執筆者・アーカイブ>宮之原 正道
コラム これでいいのだろうか」と思ったときに ―20代、30代の自分に伝えたい3つのこと(2026/9/2)
調査レポート 世界のカーボンプライシングの動向 -世界銀行・ICAPレポートから見る主要国・地域の制度変化と企業への示唆(2026/8/7)
調査レポート 資源戦略としての循環経済-リチウム・レアアースを中心に(2026/7/1)
コラム 循環経済は「廃棄物対策」から「資源戦略」へ(2026/4/22)
コラム 阿武隈の風が紡ぐ、再エネと復興の未来(2025/11/19)
記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。
レポート・コラム
SCGRランキング
- 2026年10月29日(木)
15:00~17:00、新社会システム総合研究所主催『SSKセミナー』で当社シニアアナリスト 宮之原 正道が講演いたします。会場・オンラインのハイブリッド開催。 - 2026年10月2日(金)
『日本貿易会月報』2026年9・10月号(No.836)に、当社チーフエコノミスト 鈴木 将之が登壇した日本貿易会ゼミナール特別企画について掲載されました。 - 2026年10月1日(木)
一般社団法人 日本経済調査協議会より、当社経済部長 本間 隆行が委員として参画した「第二次地政学委員会」の報告書が公表されました。 - 2026年9月29日(火)
『日本経済新聞』に、当社経済部長 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2026年9月28日(月)
毎日新聞出版『週刊エコノミスト』2026年10月6日号に、当社チーフマーケットアナリスト 鈴木 直美が寄稿しました。







