循環経済は「廃棄物対策」から「資源戦略」へ

2026年04月22日

住友商事グローバルリサーチ 経済部 戦略調査チーム シニアアナリスト
宮之原 正道

 

 循環経済(サーキュラーエコノミー)は、これまで廃棄物削減や環境負荷低減の文脈で語られることが多かったが、近年ではその意味合いは広がりつつある。脱炭素化やデジタル化の進展に伴い、蓄電池や電気自動車、再生可能エネルギー設備、電子機器などに用いられる重要鉱物の需要拡大が見込まれるなか、資源制約や供給網の偏在への関心が高まっているためである。循環経済は、環境対応にとどまらず、資源の安定確保や供給網の強靱化を支える取り組みとして捉える必要性を増している。

 

 こうした問題意識は、欧州とわが国の政策動向にも表れている。欧州のCritical Raw Materials Act(CRMA)は、重要原材料の供給能力強化や依存低減、供給網の持続可能性と循環性向上を掲げ、2030年までに欧州の年間需要に対して、欧州域内で採掘10%、加工40%、リサイクル25%を担う目標を示している[1]。加えて、欧州委員会が2026年採択を目指して準備を進めるCircular Economy Actでも、二次原材料市場の整備や高品質な再生材の供給拡大を通じて、強靭性(レジリエンス)や競争力の向上が図られようとしている[2]。わが国でも、使用済み電池由来のブラックマスからニッケル、コバルト、リチウムを回収・精製する実証案件が進められているなど、資源調達を新規鉱山開発のみに依存せず、回収・再資源化を組み合わせる発想が重要度を増してきている[3]

 

 ただし、重要鉱物の安定確保に向けて二次資源の活用を広げるには、単に回収量を増やすだけでは十分ではない。なぜなら製品の設計段階から再資源化を見据えることが、将来の資源回収効率を左右するためである。欧州のEcodesign for Sustainable Products Regulation(ESPR)は、製品の循環性、耐久性、修理可能性などを視野に入れた要件設定の枠組みであり、製品の素材や環境性能、修理・再資源化に関する情報をデジタルで管理・共有する仕組みであるDigital Product Passport(DPP)の整備も進められている[4]。こうした動きは、回収・再資源化だけでなく、設計、情報、調達を含むサプライチェーン全体で循環経済を捉える必要性を示している。他方、日本でも資源有効利用促進法の下で、設計段階での3R(リデュース、リユース、リサイクル)配慮や識別表示、自主回収などが求められているが、欧州のように設計や情報、市場形成を横断的に束ねる包括的な枠組みとはなお性格を異にする[5]

 

 無論、循環経済が直ちにすべての資源制約を解消するわけではない。それでも、資源制約が意識される時代において、これを「廃棄物対策」としてのみ捉えるのは十分ではないだろう。重要鉱物の安定確保を考えるうえでは、設計・調達・回収を一体で見る視点が大切になってくる。こうした考え方は、日本で従来から共有されてきた「もったいない」という価値観とも通じる面がある。限りある資源を有効に活用するという発想を、資源戦略としてどう具体化していくかが、今後一層重要になるといえよう。

 


 

参考リンク
[1] European Commission “European Critical Raw Materials Act”
https://commission.europa.eu/topics/competitiveness/green-deal-industrial-plan/european-critical-raw-materials-act_en

[2] European Commission “Commission launches consultation for upcoming Circular Economy Act”
https://environment.ec.europa.eu/news/commission-launches-consultation-upcoming-circular-economy-act-2025-08-01_en

[3] 経済産業省「重要鉱物の安定供給の確保」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/metal/index.html

[4] EUR-Lex “Ecodesign for Sustainable Products Regulation (EU) 2024/1781”
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/1781/oj/eng

[5] 経済産業省「3R政策(資源有効利用促進法)」
https://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/admin_info/law/02/

 

 

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