IMF世界経済見通しの参照予測
2026年04月21日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之
参照予測とは?
国際通貨基金(IMF)が公表した「世界経済見通し」では、通常のベースラインとは異なる「参照予測」という位置づけになった。参照予測が発表されるのは、相互関税が発表された直後の2025年4月の見通し以来のことだった。これは、今後の中東情勢の展開が全く分からず、蓋然性のある見通しを作ることができなかったためだ。
仮に、中東紛争が比較的短期間で収束した後、段階的に回復し、経済活動が2026年末にかけて正常化していくことを前提条件として置いた場合に、世界経済がどのように推移すると考えられるのかを示したものが参照予測である。例えば、原油価格(平均)は2026年に1バレル約82ドル、2027年に約76ドルと設定され、財政・金融政策、貿易政策などについても現状からの延長線上の動きが想定されている。
参照予測によると、2026年の世界経済成長率は3.1%となり、前回2026年1月時点の見通しから▲0.2ポイントの下方修正になった。2027年については、前回から据え置きの3.2%であり、3%台前半の低成長が継続する。これが、世界経済の先行きを考える上での出発点となる。
また、注目されるのは、中東紛争が発生する前には、世界経済成長率が上方修正される予定だったことだ。2025年末から2026年のはじめにかけて、世界経済が底堅く推移していたことを踏まえて、世界経済成長率が1月時点の見通しから0.1ポイント上方修正された3.4%になるはずだった。しかし、2月末の中東紛争の発生によって、事態は一変した。中東紛争前には0.1ポイント上方修正され、中東紛争後に1月時点からの▲0.2ポイントの下方修正だったことを踏まえると、中東紛争による下方修正幅は▲0.3ポイントになる。
こうした中で、今回の中東紛争の影響は、国・地域によって大きく異なることも注目される。2026年と2027年の経済成長率について、1月時点の見通しからの累積修正幅を見ると、紛争地やその近隣である中東・北アフリカの下方修正幅(▲2.0ポイント)が最も大きい。それに次いで、エネルギー輸入国の下方修正幅が大きい中で特に低所得・発展途上国(▲0.5ポイント)の下方修正の大きさが目立っている。実際、それに比べると、先進国(▲0.2ポイント)や新興国(▲0.1ポイント)の修正幅の方が小さい。また、エネルギー輸出国の中でも、低所得・発展途上国(▲0.0ポイント)の下げ幅が新興国(+0.2ポイント)よりも大きかった。これは、エネルギー依存度や備蓄制度、経済政策などの相違を反映しており、コロナ禍の時と同じように、外的なショックに脆弱な国・地域ほど悪影響が大きく長引く傾向があり、それが結果的に社会不安などにつながりやすい点にも注意が必要だ。
米国の関税政策を巡る期限に要注意
また、世界経済見通しでは、米国の関税政策を巡る先行き不透明感が継続していることにも言及されていた。これは、中東紛争が始まる前まで、世界経済の最大のリスク要因の1つだった。特に、2026年7月にかけて、下振れリスクが高まりやすい点が懸念されている。
1つ目は、現在の10%関税の期限が7月下旬に設定されていることだ。2月に最高裁の判決によって、国際緊急経済権限法に基づく相互関税とフェンタニル関税が廃止され、1974年通商法122条に基づく10%関税が適用された。ただし、それは150日間、つまり7月下旬までの期限付きのものであるため、米政権は301条に基づく関税に切り替え、実質的に相互関税並みの状態を維持したい考えとみられている。しかし、実際、どのように適用されるかなど、不透明な部分が多く残っている。
2つ目は、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の見直し期限も7月に迫っていることだ。3か国が合意すれば、2042年までこの枠組みは延長される。しかし、合意できなければ、継続協議となり、仮に最終的な合意に達しなければ2036年に失効する。このUSMCAの見直しについても不透明な部分が残ったままだ。
そのほか、関税や貿易という点では、米国と中国の貿易協議も課題として残っており、世界経済にとって引き続き下振れリスクになる。場合によっては、関税政策リスクと中東紛争リスクが同時に高まるという恐れもある。
今後を見通す上の目安
今回の見通しでは、「悪化シナリオ」と「深刻シナリオ」という2つのシナリオが示された。これは、一定の前提条件を置いて試算したものだ。そのようになるという蓋然性が高い予想というよりも、IMFの経済見通しであることもあり、今後の世界経済を見る上での1つのコンセンサスになっている。
悪化シナリオは、例えば、原油価格が2026年に1バレル100ドル、2027年に75ドルで推移することなどの前提条件を置いたものだ。世界経済成長率は2026年に2.5%まで下振れ、2027年も3%と低成長が継続すると試算された。また、物価上昇率は2026年に5.4%と、参照予測から1ポイント上振れる姿になっている。
また、深刻シナリオは、例えば、原油価格が2026年に1バレル110ドル、2027年に125ドルで推移するなどの前提条件を置いたものだ。この場合、世界経済成長率は2026年に2%まで下振れ、2027年も2%台前半と、低成長が継続する。仮に2%を下回ると、直近では世界金融危機の影響があった2009年(▲0.4%)やコロナ禍の2020年(▲2.7%)に次ぐような世界経済の停滞となる恐れがある。また、物価上昇率は2026年に5.8%へ、2027年に6.1%へさらに拡大し、2022年(8.7%)や2023年(6.7%)に近づくと試算されている。これらの場合には、景気後退と物価高騰が同時に生じる「スタグフレーション」に世界経済が陥る可能性がある。
これらのシナリオは、頭の体操の材料と言える。なぜなら、今後の実際の外部環境が前提条件からどの程度、改善または悪化するのかによって、今後の経済・物価がこれらのシナリオから上振れまたは下振れするのかを考えるからだ。これから実現していく外部環境がシナリオの前提条件とどの程度異なるのかによって、例えば、実際の経済成長率が参照予測と悪化シナリオの間を推移したり、または悪化シナリオと深刻シナリオの間になったり、もしくは深刻シナリオよりも下振れたりする。そのときに、各国・地域に、各産業に、各ビジネスにどのような影響が及ぼされるのかを考えておくことが重要になる。
以上
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