「これでいいのだろうか」と思ったときに ―20代、30代の自分に伝えたい3つのこと
今回は、いつもの調査テーマから少し離れて、「キャリア」について書いてみたいと思います。きっかけは、若い世代と話す機会が増えたことでした。そうした対話を通じて、自分自身の20代、30代を振り返ることも増えました。
「自分は、これでいいのだろうか」。
私自身、20代、30代の頃、何度もそんなことを考えました。
自分が将来どんな仕事をしていたいのか、はっきりした答えを持っていたわけではありません。目の前の仕事には一生懸命取り組んでいても、この先もこのままでいいのだろうか、と考える。周りが自分より先に進んでいるように見えて、焦ることもありました。今振り返れば、そうした迷いも含めて、自分のキャリアだったのだと思います。
私はいま、本業のかたわら、国家資格キャリアコンサルタントとして若い世代と接する機会をいただいています。高校生に向けたキャリア教育の授業「Mirai School」に登壇したり、海外へ交換留学する大学生に伴走する「TOMODACHI住友商事奨学金プログラム」のメンターを務めたりしています。そうした中で、例えば、講演が終わった後、大勢の前では聞けなかったことを、そっと打ち明けに来てくれる生徒さんもいます。
「将来のことを、どう考えたらいいのか分からない」
もちろん、私がその人の答えを持っているわけではありません。それでも話をしているうちに、自分が何を大切にしたいのかに気づいたり、次にやってみたいことが少し見えてきたりして、表情がふっと明るくなる瞬間があります。
人は、誰かから正解を教えてもらわなくても、対話を通じて自分なりの次の一歩を見つけていける。むしろ私の方が、若い人たちからそのことを教わっています。
自分自身の歩みを振り返ってみても、若い頃に今の姿を予想することはできませんでした。振り返れば、資源・エネルギーに関わる仕事、行政機関への出向経験、投資家向け広報、そして現在のリサーチと、仕事内容も少しずつ変わってきました。その一つひとつが、当時から今につながると分かっていたわけではありません。
さらに、そのかたわらでキャリアコンサルタントの資格を取り、高校生や大学生のキャリアに関わることになるとは、まったく想像していませんでした。
その時々には別々に見えた経験が、後になって思いがけない形でつながることがあります。そんな実感から、20代、30代だった頃の自分にも伝えるつもりで、これからのキャリアを考える皆さんに3つだけ書いてみたいと思います。
1つ目は、キャリアは一本道ではないということです。
最初に選んだ道を、ずっと歩き続けなければならないわけではありません。途中で興味が変わることもあれば、思っていた仕事と実際の仕事が違うこともあります。やってみたからこそ、「こちらではない」と分かることもあります。もちろん、年齢や家庭、経済的な事情などによって、いつでも自由に選べるわけではありません。それでも、一度選んだ道だけが唯一の正解だと思い込む必要はない。できる範囲で方向を調整したり、新しい選択肢を探したりする余地はあります。一度の選択で、人生の正解を当てる必要はないのだと思います。
2つ目は、いま無駄に思える経験も、後になって力になることがあるということです。
仕事でも、勉強でも、趣味でも、人との出会いでも、その時点では将来とどうつながるのか分からないことがあります。けれど何年かたって振り返ると、「あの経験が、ここで役に立つとは思わなかった」と気づくことがあります。私自身もそうでした。一つひとつの経験は、その時にはただの「点」に見えても、後になって自分なりの「線」になっていくことがあります。だから、目の前の経験を「将来役に立つかどうか」だけで判断しなくてもいい。面白そうだと思ったことや、少し心が動いたことに、一歩踏み出してみる価値はあると思います。
3つ目は、自分の意志を、言葉にしてみることです。
言葉にする、といっても、誰かに話すことだけではありません。私自身、日記をつけていて、後から読み返すと思いがけないヒントを得ることがあります。
「こんなことをやってみたい」
「こちらの方向に進んでみたい」
「まだよく分からないけれど、何となく気になる」
そのくらい曖昧でも構いません。
自分の中だけで考えていると、ぐるぐると同じところを回ってしまうことがあります。でも、誰かに話してみることで、自分が何を大切にしているのかに気づいたり、思いがけない情報を教えてもらったりすることがあります。言葉にしたからといって、すぐに道が開けるわけではありません。それでも、自分の考えが少しずつ形になり、次に何をすればよいかが見えてくることがあります。大きな決意でなくても、それは十分な一歩です。
20代、30代には、仕事、転職、昇進、結婚、子育てなど、人によってさまざまな選択が重なることがあります。同年代の活躍を見て、「自分だけ遅れているのではないか」と焦ることもあるでしょう。私自身、そう感じたことが何度もありました。
でも、キャリアには全員共通のゴールも、同じ時刻表もありません。誰かと同じ速さで進む必要もありません。立ち止まる。考える。試してみる。違えば少し方向を変える。そしてまた進む。そうした繰り返しの中で、自分なりの道ができていくのだと思います。
「自分は、これでいいのだろうか」。そんな問いが浮かぶこと自体は、必ずしも悪いことではありません。自分のこれからを考え直す、一つのきっかけになることもあります。そして、一人で考えて行き詰まったら、誰かに話してみてください。自分でもまだうまく言葉にできないことを聴きながら、「それ、面白そうですね」と一緒に考えてくれる人がいるだけで、自分の考えが少し整理されることがあります。
こうした一人ひとりが、自分なりのキャリアを考え、試行錯誤できる環境をどうつくっていくかは、個人だけでなく、企業や社会にとっても問われているのだと思います。私自身も、これから若い世代との対話を重ねながら、その一歩を少しでも後押しし、同時に多くのことを学んでいきたいと思っています。
答えがすぐに見つからなくても構いません。
誰かに話し、少し調べ、小さく試してみる。
その繰り返しの中で、自分なりの次の一歩が見えてくるのだと思います。
(以上)
<執筆者・アーカイブ>宮之原 正道
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