エチオピア/ティグライ情勢

2026年08月29日


髙橋 史

8月27日、欧州連合(EU)のエチオピア代表部は、カナダ、ノルウェー、英国大使館との共同声明において、「エチオピア北部における情勢の推移を深い懸念を持って注視している」と発表したうえで、全ての紛争当事者に対し、「恒久的敵対行為停止協定(CoHA)」を遵守するよう促した。


エチオピア北部のティグライ州では8月に入ってから、エチオピア国防軍(ENDF)と「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」関連武装勢力とみられる勢力との間で攻撃が続いている。8月1日には、TPLFが2020~2022年の「ティグライ紛争」時に連邦政府やアムハラ民兵などに「占領された」と主張する西ティグライで軍事衝突が起きたほか、8月10日、18日、20日にはENDFによるものとみられるドローン攻撃がティグライ州の州都メケレなどで発生した。緊張が高まる中、8月21日にTPLFは戦闘再燃を防ぐため、「国際社会による緊急の外交的介入」を求める声明を出していた。


こうした状況を受けて、2022年にティグライ紛争の停戦を定めたTPLFと連邦政府間の「プレトリア合意」を導いたアフリカ連合(AU)・「アフリカの角」担当上級代表を務めるオバサンジョ元ナイジェリア大統領が、調停のため8月24日にメケレを訪問し、TPLF幹部と協議を実施。EUらは今回の共同声明において、オバサンジョ氏のティグライ訪問を支持・歓迎するとともに、再び軍事衝突が起きれば同地域の住民に壊滅的な打撃を与えると警鐘を鳴らしている。また、プレトリア合意の仲介を行った米国も、駐エチオピア大使やAU米国代表部を通じてオバサンジョ氏の訪問を称賛するなど、紛争当事者双方に自制を求める外交的な動きを示している。


一方、TPLFは6月にオバサンジョ氏とメケレで協議した際、連邦政府との対話に向けた五つの課題が検討の糸口として特定されていたにもかかわらず、有意義なフォローアップがなかったと失望の意を表明した。TPLF側は①経済封鎖の解除、②軍事包囲の解除、③占領下にある領土の返還(西ティグライ)、④③の地域から避難した数十万人の国内避難民の帰還促進、⑤TPLFの法的・政治的地位の回復を求めていると報じらている(8月26日、Addis Standard)。


プレトリア合意で定められたCoHAの遵守や、TPLF系戦闘員の武装解除・社会復帰(DDR)などは、事実上反故にされた状況が続いている。2025年に連邦政府はTPLFを公式政党から登録抹消した。しかし、TPLFはプレトリア合意の当事者であることが政党存続の根拠と主張するなど、両者の食い違いが直接交渉を複雑化させている。


ドイツ国際政治安全保障研究所(SWP)は、国内少数派でありながら2018年まで約30年にわたり連邦政府の中枢を担っていたTPLFエリートにとって、自分たちが周辺に追いやられたことは「到底受け入れられない」ことであり、連邦政府の「陰謀」について絶えず警告を発することで自らの存在を正統化していると指摘。両者はティグライ紛争時のような壊滅的な事態が繰り返されるリスクを冒したくないが、自らの利益のために軍事力を行使する用意はあるとの見方を示している。(国際部 髙橋史)

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