デイリー・アップデート

2026年6月10日 (水)

[ベネズエラ/民主的移行は困難] 

5月下旬、ベネズエラ野党の有力指導者であるマリア・コリーナ・マチャドらは、パナマで野党勢力の会合を行い、「パナマ宣言」を発表した。この宣言は、同国における「民主的移行」に向けた具体的なロードマップを示すものであり、米国の関与のもとで現政権との直接交渉の場を設け、独裁的な統治体制から民主主義体制へ平和的に移行するための手順を提案したものである。

 

宣言の中心的な内容は、現政権との協議を通じて最終的に公正で自由な大統領選挙を実施することである。野党側にとってこの宣言は、国内外で高い支持を維持するマチャドの政治的正当性を改めて示す意味を持つ。実際、マチャドは世論調査で約55%の支持を得ており、現体制に不満を抱く幅広い層の支持を集めている。

 

しかし、6月8日、ベネズエラ政府(デルシー・ロドリゲス副大統領ら現政権)は、この「パナマ宣言」に基づく交渉の可能性を明確に否定した。政権側は、仮に将来的に交渉を完全に回避できない場合でも、新たな選挙の実施を可能な限り先延ばしにし、権力基盤の維持を優先する姿勢を示しているとみられる。このため、政権内部の時間稼ぎ戦略が働き、迅速な民主化の実現は事実上困難な状況となっている。

 

本来、こうした交渉を前進させるためには、米国による強い政治的関与と圧力が不可欠と考えられていた。しかし、米国の対応には大きな誤算が生じている。トランプ政権は、ベネズエラの民主化やマチャドの政権獲得支援よりも、自国の経済やエネルギー安全保障を優先する現実主義的な姿勢をとっている。その結果、ベネズエラのエネルギー・鉱業など主要セクターの市場開放を容認し、さらに同国の対外債務の再編プロセスも進めている。

 

加えて、米国とベネズエラ政府の間には、原油供給を中心とした実利的な関係が形成されている。中東情勢の不安定化や世界的なエネルギー需要の高まりを背景に、地理的に近いベネズエラから安定的に原油を確保することは、米国の国益に直結する。このため米国にとって「パナマ宣言」は、既に進行している経済的利益を損なってまで全面的に支持する価値のある外交カードとは位置付けられていない。

 

その結果、マチャドら野党が狙った米国の強力な後押しは限定的となり、「パナマ宣言」に基づく政治交渉は現時点では前進の見通しが立っていない。ベネズエラの民主的移行は、国内政治の停滞に加え、国際環境の制約にも直面している状況である。

[日本/景気ウォッチャー調査(5月)] 

6月8日、内閣府は5月の景気ウォッチャー調査を発表した。3か月前と比較した足元の景気に関する現状判断指数(DI、季節調整値)は、43.6となった。2月の48.9から、中東情勢を受けて3月に42.2、4月に40.8へと低下したが、5月は4月比2.8ポイント上昇とやや持ち直した。ただし、景気の良し悪しの基準となる50を引き続き下回っている。地域別では、前月と比較すると全国12地域すべてで上昇した。

 

基調判断は「景気は、中東情勢によるマインド面の下押しを中心に、このところ持ち直しの動きに弱さがみられる。先行きについては、中東情勢による不透明感がみられる。」と、3・4月の調査結果から据え置かれた。

 

現状判断のプラスの理由としては、5月はゴールデンウィークがあり「旅行や外出を控える傾向もなく、消費者は活発に動いていた」(北陸のレストラン)という意見や、「エアコンの新たな省エネ基準に加え、5月にもかかわらず夏日の日が出てきたことで、エアコンの販売が急拡大している」(近畿の家電量販店)という意見がみられた。マイナスの理由としては、物価高による消費者の買い控え、中東情勢に伴う原材料供給不足による悪影響が多く挙げられた。

 

一方、2~3か月先の景気の先行きに対する判断指数は40.7と、前月比で1.3ポイント上昇したものの、こちらも基準の50を下回っている。地域別では、前月と比較すると全国12地域中、9地域で上昇、3地域で低下した。

 

先行き判断のプラスの理由として、「これから夏に向けて、様々なイベントが開催されるため、客の購買意欲が上向くと期待している」(北海道の百貨店)という意見や、「夏に向けて暑気払い等の宴会が動くのではないかと予想している」(北関東のレストラン)という意見、マイナスの理由として、「中東情勢の影響により更に不景気になり、買い控えに拍車が掛かる」(四国の一般小売店)、「資材調達の見通しが不透明であることに加え、価格上昇基調がやむを得ない状況であり、今までのように受注を確保することは困難とみている」(北陸の建設業)という意見もみられた。

[原油/クウェート原油のアジア向け輸出] 

5月下旬から6月初旬にかけて、クウェート原油を計400万バレル積載した超大型タンカー(VLCC)2隻がホルムズ海峡を通過して中国・韓国に向かったことが確認されたと、各種メディアが報じている。事実なら、海峡の実質封鎖以来、クウェートにとって初の大口輸出となる。

 

クウェートは湾岸産油国の中でも、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)のようなホルムズ海峡迂回ルートを持たず、原油生産・輸出が大幅に制約されてきた。今回の2隻はAIS信号を停止した状態で海峡を通過したとみられる。Kplerによれば、輸出再開に伴い、5月29日~6月4日にクウェートの原油在庫が700万バレル超減少した。また、6月3日、クウェート石油公社(KPC)は、海峡再開後6~8週間で石油生産の約7割を復旧できるとの見通しを示したと報じられている。

 

中東地域の紛争開始から100日以上が経過したが、ホルムズ海峡の通航制約は続き、タンカー往来は統計上、平時の10分の1程度にとどまる。しかし、電子信号を遮断するなどして通航する手段も取られているという。Vortexaによれば、5月に湾岸を出航した積載船の約65%がAISを停止して航行。ロイターは自社データおよびKplerの推定を基に、洋上原油在庫が3月22日以降に日量50万バレルのペースで減少し、5月初頭以降は流量が徐々に増えているとの見方を示している。このため、市場では実際の供給量や需給環境の把握が難しくなっている。

 

ただし、正常化にはなお距離がある。保険料の高止まりや船舶拘束リスクへの警戒は続いており、仮に海峡が再開されても、従来の安定的な物流環境に戻る保証はない。こうした中、湾岸諸国は迂回輸送能力の増強を進めている。クウェートもパイプライン整備の可能性を「友好国と」協議しており、今回の危機を通じて大規模貯蔵能力の必要性を認識したとも述べている。

[ロシア/VAT課税基準引下げを凍結へ] 

6月9日、ロシア政府は、中小企業に対する付加価値税(VAT)適用基準の引き下げを延期する法案を国会に提出した。現行では、簡易課税制度(USN)適用企業のうち、年間売上が2,000万ルーブル(約3,000万円)を超えるとVAT納付義務が発生するが、本法案では同基準を2027~28年も維持し、引き下げ開始を2029年以降に先送りする。

 

当初計画では、同基準を段階的に1,500万ルーブル(2027年)、1,000万ルーブル(2028年)へ引き下げる予定であり、課税対象の拡大が見込まれていた。しかし、急激な税負担増が中小企業の経営を圧迫するとの懸念が強まり、プーチン大統領が2026年6月のサンクトペテルブルク国際経済フォーラムにおいて据え置きを指示した経緯がある。本措置により、約36万の中小企業が引き続きVAT負担を免れる見通しであり、短期的には企業活動の安定化に寄与するとみられる。

 

背景には、地政学リスクや経済不透明性の高まりの中で税制の予見可能性を確保し、企業の適応期間を延長する狙いがある。加えて、2026年9月の議会選挙を控え、プーチン政権の与党「統一ロシア」が政治基盤の安定化を図る意図もあるとみられる。中小企業層は雇用吸収力が高く政策の影響を受けやすいため、負担軽減策を通じて支持維持を図る側面が指摘される。また、当局としても企業分割による課税回避への対応を進めつつ、制度運用を慎重に検証する時間を確保する必要がある。

[EUの新対露制裁パッケージ発表] 

6月8日、欧州委員長は、第21次対露制裁パッケージを発表。対露制裁はロシア経済に効果的に打撃を与えている(高いインフレ率(約6%)、金利上昇(14.5%)、増税)とし、今回のパッケージは、エネルギー、金融・暗号資産、貿易(初めて水産業を含む)、および個人の入国制限を対象としている。提案されている制裁に関する各分野の内容は以下のとおり。

 

【エネルギー分野の制裁強化】

・EUはロシア産原油に対して価格上限(プライスキャップ)を導入しているが、上限算出における市場連動の調整メカニズムを来年1月まで一時停止する(中東情勢を受け原油価格が高騰しているため)。

・制裁逃れに利用される「影の船団」対策として、新たに30隻を制裁対象に追加(計662隻)。

・制裁逃れに利用される影の船団を支援する船舶も対象とするほか、ロシア産石油の取引や加工に関わる港湾、空港、精製所などの重要インフラも対象に追加。

・さらに、LNGタンカーのロシアへの販売も制限。

 

【金融および暗号資産(仮想通貨)に対する制裁】

・新たにロシアの31の銀行に取引禁止措置を拡大。

・制裁対象のロシア企業や個人を支援し、制裁の迂回に加担している第三国の20の銀行、暗号資産プラットフォーム、石油トレーダーも対象に含める。

・今回、制裁逃れを助長する第三国の暗号資産サービスに対して全面的な禁止措置を導入する可能性を提示。

 

【貿易制限と水産業への拡大】

・輸出面では、ロシアの軍需産業で利用される品目や技術への制限を強化。具体的には、航空宇宙・防衛分野向けの金属や合金、ドローン用の地上支援設備や妨害・発射システムなどの輸出が禁止。

・輸入面では、ロシア依存からの脱却を固定化するため、特定の金属、金属鉱石、自動車部品など約6,000万ユーロ相当の新たな輸入禁止を提案。さらに、これまで制裁対象外だった「水産業」に初めて踏み込み、タラなどの完全な禁輸を含む、一部水産物の大幅な輸入制限を提案した。

・また、ベラルーシが貿易の「抜け道」となるのを防ぐため、同国への貿易制限もロシアと同等に調整。

 

【ロシア軍従軍者の入国禁止】

・重要な新要素として、ウクライナ侵攻開始以降にロシア軍で従軍したすべての人物に対し、EUへの入国を禁止することを提案。

[米国・イラン/米軍ヘリ墜落を受け米軍が報復空爆] 

6月9日、ホルムズ海峡をパトロール中だった米軍のAH-64アパッチ攻撃ヘリコプターがオマーン沖で墜落した。米当局の調査によれば、イランのドローンがヘリコプターに衝突したことが原因とみられているが、意図的な攻撃だったのか、あるいは事故だったのかは現時点で判明していない。米中央軍(CENTCOM)によると、墜落から約2時間後に米海軍の無人艇などによる捜索活動が行われ、乗員2人は救助され、容体は安定しているという。

 

トランプ大統領は当初、「乗員は無事であり大きな問題ではない」と事態の沈静化を図る姿勢を示していた。しかしその後、米政府はヘリ墜落への対応として軍事行動に踏み切った。米軍は6月10日、ホルムズ海峡周辺のイランの防空システムやレーダー施設に対する空爆を開始し、その後も追加攻撃を実施した。米政府はこれを「相応の反撃」あるいは「自衛措置」と位置付けており、トランプ大統領も「米国は必然的に対応せざるを得なかった」と説明した。イラン国営メディアは、ホルムズ海峡に面するホルモズガン州やケシュム島周辺で爆発が発生したと報じている。

 

これに対し、イランのアラグチ外相はXへの投稿で、「外国軍がイラン周辺に駐留していること自体が危険の原因だ」と主張し、「リスクを軽減するには、この地域から撤退するのが最善の解決策である」と述べた。また、「我々の軍隊は、いかなる攻撃や脅威にも断固として応戦する」と警告し、米軍の空爆を強く非難した。

 

今回の事件は、トランプ大統領がイスラエルとイランの停戦を仲介したわずか1日後の出来事であり、緊張緩和ムードに冷や水を浴びせる形となった。現時点では、ドローン衝突が事故だったのか意図的な行動だったのかは不明である。しかし、軍事的緊張が続く状況では、このような偶発的な衝突であっても報復の連鎖を招き、より大きな軍事衝突へ発展する危険性がある。今後は、今回の米軍空爆に対するイラン側の対応と、米イラン交渉への影響が最大の注目点となる。

[南アフリカ/GDP・格付け] 

6月9日、南アフリカ(南ア)統計庁(Stats SA)は2026年第1四半期(1~3月)の実質GDP成長率は+0.5%だったと発表した(前期比、季節調整済み)。プラス成長は6期連続となった。

 

産業別では、GDPの3割弱を占める金融・保険・不動産業・企業サービスが+0.9%となり、最大の寄与度(0.2pt)となった。金融仲介業が特に好調だった。また、農業は畑作・園芸作物の生産拡大により+3.9%だった。プラチナをはじめとする白金族金属(PGM)と金の生産増により鉱業も+0.7%となった。そのほか、卸・小売・飲食・宿泊業、電気・ガス・水道などほぼすべての項目でプラス成長となったが、製造業は二期連続のマイナス成長となる▲0.8%だった。電力料金の高騰などを背景に製造業の不振が続いている。

 

需要項目別では、GDPの7割弱を占める民間最終消費支出が+0.1%成長で、0.1ptの寄与度となった。政府最終消費支出も+0.6%で、鉱物・植物製品などの輸出が好調であることを受け、輸出も+0.6%となったが、総固定資本形成は▲1.1%だった。国内外の先行きの不透明性の高まりから企業が投資控えをしたとみられている。多くのアナリストはイラン情勢の緊迫化によるエネルギー価格の上昇やインフレ加速に伴う経済の減速は第2四半期以降に顕著になると予測している。

 

他方で、格付け大手フィッチ・レーティングスは6月5日、南アの長期発行体デフォルト格付けを「BB-」から「BB」に引き上げた。同社による南ア格付けの格上げは20年ぶりとなる。同社はエネルギー価格高騰によるインフレは政府の燃料税引き下げにより抑制されていると指摘。燃料税引き下げによる国庫収入の減少分は、PMG・金価格の高騰による法人所得税や鉱物ロイヤルティ収入の増加と相殺されると予測している。

[インドネシア/警察法改正] 

6月9日、インドネシア国会は警察法の改正案を可決した。改正により、現役の警察官が省庁・政府機関のポストを兼務できるようになった。

 

プラボウォ政権下では、自身の出身母体である国軍をはじめとした治安当局の政治登用を目指した動きが加速している。2025年3月には全政党の賛成により国軍法が改正された。これにより、国軍の現役軍人が新たに検察庁や災害対策庁など合計14の省庁・政府機関のポストを兼務できるようになった。それまでは兼務可能なポストは9に限られていた。こうした動きの背景には、プラボウォ氏は国軍の特殊部隊出身であることや、大統領補佐官を務めるテディ氏が国軍出身であることなどがあると考えられる。今回の法改正も、政府による治安当局の政治的関与を強める動きの一環としてみられている。

 

警察法は、議会の作業部会にて審議が開始されてから5日間という短期間で本会議にて可決されるなど、短期間で改正に至った。国軍法改正も審議開始から2週間程度で可決されている。短期間で法改正が成立した背景には、野党の存在感低下が挙げられる。8つの主要政党のうち与党連合には現在7政党が参加しており、議会の議席の約8割を抑えている。今回の法案も、議会の満場一致にて可決されている。

 

プラボウォ政権の下では、大統領が関連省庁との十分な事前協議なく政策を変更する事例が相次いでいる。5月20日に公表されたコモディティ輸出の管理構想も、鉱物省やエネルギー省との事前協議がなされないまま発表されたもよう。法改正など議会の承認が必要な政策についても、与党連合の下で議会が無力化されている中ではブレーキ役を期待できない。海外投資家が、これらを政策の予見可能性低下・不確実性上昇と捉えた場合は、国債・株式などルピア資産売りが継続し、ひいてはルピア安を加速させかねない。

[内陸とトンキン湾を結ぶ新水路・平陸運河が全線通水] 

中国南部の広西チワン族自治区で建設が進む平陸運河が、2026年6月に全区間で通水し、9月の開通に向けた最終調整に入った。全長134.2km、総投資額700億元(約1兆6,000億円)超の大型インフラで、中国南西部の内陸河川とトンキン湾(中国名・北部湾)沿岸を直接結ぶ新たな水運ルートとなる。

 

運河は広西チワン族自治区の中心都市・南寧市の近郊を起点に南下し、トンキン湾沿岸の欽州港に至る。完成後は5,000トン級の船舶が航行できるようになり、中国南西部と海上輸送網との接続が大きく改善する見通しだ。

 

これまで広西、貴州、雲南など中国南西部の貨物は、西江水系を通って広東省方面へ運ばれ、広州港などから海外へ輸出されるのが一般的だった。平陸運河が開通すれば、欽州港や防城港などトンキン湾沿岸の港を直接利用できるようになり、内陸水路の航程は従来ルートより560km以上短くなるという。中国側の試算では、物流コストを年間52億元(約1,200億円)以上削減できると見込む。

 

建設の背景には、広西が海に面しているにもかかわらず、主要な河川の多くが東へ流れるため、沿岸の港を十分に生かしにくいという地理的な事情がある。西江流域では貨物輸送量の増加で一部区間の混雑が慢性化しており、新たな輸送ルートの整備が課題となっていた。

 

中国政府は平陸運河を、西部地域と東南アジアを結ぶ物流網整備の一環と位置づける。沿線の自治体も運河を生かした産業振興に動いており、南寧市は物流拠点化、欽州市は港湾機能の強化、自動車産業が集まる柳州市は輸出競争力の向上をそれぞれ目指す。

 

ただ、運河の開通がただちに地域経済の発展につながるとの見方には慎重論もある。中国南西部にはすでに中欧班列(欧州向けの貨物列車)、中国・ラオス鉄道、中国とベトナムを結ぶ陸路など複数の物流ルートが存在し、運河の出口にあたるトンキン湾沿岸は、広東省の珠江デルタほど大きな産業集積を抱えていない。物流インフラが整っても、製造業や関連産業の集積が進まなければ、期待される経済効果は限られる可能性がある。ただし、鉱産物や原材料といった大量輸送に向く貨物の輸送にとっては、平陸運河の意義は大きいとの見方もある。

 

今後の焦点は運河そのものの完成ではなく、輸送上の利便性を新たな投資や産業立地にどこまで結びつけられるかに移る。

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