2026年7月6日 (月)
[中国軍、上将2人を新たに任命]
7月3日、習近平・中国共産党総書記兼中央軍事委員会主席は、人民解放軍の張曙光中将と王剛中将を最高階級である上将に昇格させた。張曙光氏は中央軍事委員会規律検査委員会書記および中央軍事委員会監察委員会主任に就任し、2017年から軍の反腐敗部門を率いてきた張升民氏(現中央軍事委員会副主席)の後任となった。王剛氏は空軍司令員に就任した。
今回の人事は、習氏が進める大規模な軍内部の反腐敗運動により、人民解放軍の最高指導部に多数の空席が生じる中で行われた。2023年以降、軍高官に対する調査が相次ぎ、元国防相の李尚福氏と魏鳳和氏には執行猶予付き死刑判決が言い渡された。また、複数の中央軍事委員会委員が公の場から姿を消すなど、軍上層部では異例の人事混乱が続いている。一部報道によれば、2023年以降に26人の将官が調査対象となり、12人が公の場から姿を消したとされる。
新たに空軍トップとなった王剛氏(61歳)は元パイロットで、2012年に空軍司令部の軍事訓練部門責任者に就任した後、2016年に少将、2022年に中将へ昇格し、空軍参謀長や副司令員などを歴任した。張曙光氏(62歳)は長年にわたり軍の規律検査・反腐敗部門に携わってきた人物で、今後は習氏による軍の綱紀粛正を担うことになる。
習氏は汚職摘発と並行して軍への政治的統制も強化している。2026年初めには人民解放軍の高級幹部を対象に10週間の政治教育を実施し、習近平氏の思想学習や自己批判を通じて忠誠心の徹底を求めた。こうした粛清は短期的には軍の即応能力に影響を与える可能性がある一方、習氏はより忠実で規律ある軍の構築を優先しているとの見方がある。
上将への昇格は中央軍事委員会入りの前提条件とされる。2027年8月1日には人民解放軍創設100周年の記念行事が予定されており、今回の人事は、相次ぐ粛清後の軍指導体制再建と次世代幹部の選抜に向けた布石とみられている。
[ブラジル/国家鉱業計画]
ブラジル政府は2026年7月、2050年を見据えた国家鉱業計画を承認した。この計画は、大統領府の諮問機関である国家エネルギー政策委員会によって決定されたものであり、今後約25年間にわたる投資方針、規制の方向性、地質調査の強化、そして持続可能性のルールを示す指針となっている。
この計画の中心的な目標は、2050年までにブラジルの重要鉱物の世界生産シェアを現在の約8.3%から12.2%へと引き上げること、経済における鉱業の比率を3.3%から4.8%に増やすこと、鉱業の雇用を200万人から280万人に増やすことなどが含まれる。重要鉱物分野での競争は激化しており、ブラジルは資源国としての地位を強化しようとしている。
現在、米国、欧州、日本といった主要国が、特に中国への依存を減らすために重要鉱物の確保を急いでいる状況にある。ブラジルは豊富な資源を持ちながら、これまで十分に生産に結びつけられてこなかった。その典型例が希土類であり、ブラジルは世界埋蔵量の約4分の1を保有しているにもかかわらず、実際の生産量は世界の1%未満にとどまっており、埋蔵量と生産量のギャップを埋めることが計画の大きな狙いとなっている。
さらに、ブラジルは世界のリチウム資源の約8%を有し、ニオブに関しては世界供給の90%以上を占めている。ニオブは鋼の強度を高める重要な金属であり、産業用途が広い。このような資源優位を持ちながら、付加価値の高い産業に十分活かせていない現状が課題となっている。政府はこうした状況を踏まえ、単に原材料を海外に輸出するのではなく、国内で加工し、産業と雇用を育てる方針を強調し、資源輸出国から製造や加工も担う産業国への移行を目指している。
具体的な施策として、鉱山開発プロジェクトの承認期間を大幅に短縮することが挙げられる。現在は平均で約1,563日、つまり4年以上かかっているが、これを780日程度、約半分に短縮することを目標としている。また、鉱物探査への投資を増やし、鉱業が国内経済に占める割合を高める方針も示されている。
加えて、この計画には食料安全保障の側面もある。ブラジルは農業大国であるが、肥料に必要なカリウムやリンの多くを輸入に頼っている。計画では、これらの資源の国内生産を強化し、外部依存を減らすことを目指している。IEAが示すように、低炭素技術の普及に伴い重要鉱物の需要は急増する見通しがあり、ブラジルは水力発電を中心とした比較的クリーンな電力構成を持つため、他国よりも低い炭素排出で鉱物を生産できる点を強みとしている。この低炭素な資源供給を、環境規制が厳しくなる中での競争力としたい考えだ。
ただし、この計画は法的拘束力を持つ法律ではなく、あくまで政策指針である。また、専用の予算も確保されていないため、実際にどこまで実行されるかは今後の政策運営に依存する。許認可の迅速化や探査投資の拡大が実現するかどうかが成果を左右することになる。
[韓国/AI半導体ブーム、国家成長戦略へ]
韓国ではAI半導体ブームが国家戦略へと発展しつつある。中心にいるのはHBM(高帯域幅メモリー)で世界首位を走るSKハイニックスだ。HBMはNVIDIA製GPUなどAIサーバーの性能を左右する重要部材であり、サムスン電子や米国のマイクロン・テクノロジーとの競争の中でSKハイニックスは競争を優位に進めている。AIデータセンター需要の急拡大を背景に同社は韓国を代表する企業となり、関連ETFには巨額資金が流入している。世界最大級となったSKハイニックス連動レバレッジETFは約130億ドル規模まで膨張し、一部では同社株売買の過半を占めるなど、株価だけでなく韓国市場全体の値動きを増幅させているとの懸念の高まりも伝えられている。
半導体特需を受け、韓国政府は税収増を原資とする「未来対応基金」の創設を検討していると報じられている。AIや先端製造業への投資に加え、住宅・雇用など若年層支援に充てる構想で、半導体景気による利益を恒久的な国家資産へ転換しようという試みといえる。
さらにSKテレコムは最大15GW規模のAIデータセンター構想を発表した。まず2029年までに5GW、その後15GWへ拡張する計画で、韓国をアジアのAIインフラ拠点にするという野心的な構想だ。(なお、電力と不可欠な施設であることから最近ではGWで規模感が表現されることが多い。柏崎刈羽が全基フル稼働するとおおむね8.2GWとなる。)その実現にはGPUやHBMの供給能力に加え、こうした電力・送電網・資金調達・顧客確保といった複数のボトルネックが待ち構えている。韓国はAIブームを国家成長戦略へ昇華しようとしているが、過熱した資金流入や将来の供給過剰リスクにも注意が必要だろう。
[ナイジェリア/UAE融資]
6月26日、ナイジェリア政府はアラブ首長国連邦(UAE)のファースト・アブダビ銀行(FAB)との間で「トータル・リターン・スワップ」取引に基づき、15億ドルを調達したが、この金融取引が「不透明」だとして国際通貨基金(IMF)や大手格付け会社らが懸念を示している。
同取引は、ナイラ建ての国債を担保に、FABからドル現金を調達するもので、ナイジェリア政府は総額50億ドルの融資枠の設定を4月に閣議承認した。融資額の133.3%のナイラ建て国債が担保としてFABに提供され、ドル金利は担保付翌日物調達金利(SOFR)に400bps前後のマージンを乗せたものだと報じられている。2027年に大統領選を控えるナイジェリアでは歳出圧力が高まっており、政府としては資金調達の多様化、財政赤字の補填、高速道路などのインフラ整備、そして既存の高金利の債務の借り換えを進めたい意向だ。
しかし、IMFや格付け大手フィッチ・レーティングスらは、このトータル・リターン・スワップは仮に国債価格が暴落して担保価値が低下した場合、マージンコール(貸し手(金融機関)が借り手に不足金を要求すること)によって現金担保を積ませるリスクを負う可能性があると指摘。また、こうしたマージンコールなどの二者間にとって重大な契約内容が対外的には不透明であることが、国債の格付けの引き下げ圧力となり、それによって貸し手が国債を大量売却すればさらに担保価値が低下する恐れがあると懸念を示している(7月5日、FT)。トータル・リターン・スワップは過去にもアンゴラやセネガルといった国際的な金融市場での資金調達が難しかった国での実績はある。しかし、ナイジェリアは原油収入の拡大に伴うマクロ経済の安定化していることから、IMFは、ナイジェリア政府はユーロ債(外貨建て国債)の発行が可能なはずだと疑問を呈している。IMFはナイジェリアとFAB間のトータル・リターン・スワップを全て公的債務として計上するとして、不透明な金融取引の慣行化に水を差す意向を示している。ナイジェリアの公的債務対GDP比は36.1%(2025年、IMF)とサブサハラの他の国々と比較しても低い水準にある。しかし、原油収入以外の税収基盤に乏しいことから、歳入に対する利払いの割合は53.2%(2025年)と極めて高い。一部の債務はコストの高い原油担保ローンで償還していることから、政府としては債務返済を急ぎたい意図があるとみられる。
[インド/日印首脳会談]
7月1日から3日にかけて、高市首相はデリーを訪問し、2日にモディ首相との会談を実施した。会談の主なポイントは以下のとおり。
1.防衛・安全保障面:艦艇搭載用アンテナ「UNICORN」の移転に向けた民間企業間協力文書の大枠合意、防衛装備品の共同開発・生産や整備・修理・オーバーホール(MRO)分野での協力、2+2会合の年内開催を指示
2.経済・エネルギー面:優先5分野(半導体、重要鉱物、情報通信技術、クリーンエネルギー、医薬品)の諸プロジェクト推進、原油・石油の備蓄に関する対話枠組みを設置、バイオガスプラント設立のファイナンス面での支援
3.投資・イノベーション面:ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道でのE10系導入、LLMの共同研究開発、AI人材の交流・育成
経済・エネルギー面では、特にエネルギー・重要鉱物面での協力に重点が置かれた。具体的には、インドの戦略的備蓄拡充に日本側が協力するほか、日本政府がインドのIEAへの参加を支持することを表明した。重要鉱物分野では、JOGMECがインド地質調査所との間で重要鉱物の探査に関するMoCを締結した。インドの石油備蓄能力は約74日分と他のアジア新興国に比べて高い水準にはあるが、政府の戦略備蓄は約10日分と少ない。日本政府はこれまで、今年4月に発表したパワー・アジアの枠組みの下でバングラデシュ向けに円借款を提供したほか、インド同様に石油備蓄が十分でないフィリピンの戦略備蓄インフラ新設の支援に向けて合意している。今回の合意でも、フィリピン同様に日本側が戦略備蓄インフラを建設・ファイナンス・技術面で支援すると考えられる。重要鉱物に関し、インド政府は今年度の予算にて軽希土類の豊富な南東部4州を「レアアース回廊」に指定し、同地域でのレアアース探査・採掘に注力すると発表している。日本政府としては、レアアースの中国への輸入依存脱却を目指していると考えられる。
今回の会談では、日本側はインドを「自由で開かれたインド太平洋」の枠組みに取り込み、中国に地政学的に対抗することを狙っている。他方でロイター通信によると、インド政府は本会談の1日後に同国に工場を構える中国系電力機器メーカー4社に対し電力プロジェクトに関する入札への参加を許可した(ロイター通信、2026年7月3日付記事)。インド政府は2026年3月に、2020年の国境紛争以降に実施してきた中国からのFDI規制の一部を緩和している。中国系企業の政府入札への参加許可やFDI規制緩和は一義的には国内の製造業育成や電力インフラ拡充を企図しているものの、中国との外交関係が改善していることを示しているとの見方も多い。そのため、インド政府が日本政府の意図に沿って中国への地政学的な対抗姿勢を強めるか不透明である。なお本会談後、中国外務省の郭報道官は記者会見にて重要鉱物分野での日印間の協力に関し質問された際に、「協力がいかなる第三国を標的としたり、利益を損なうべきでない」と発言するなど、牽制する姿勢を示している。
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