デイリー・アップデート

2026年7月29日 (水)

[米国・イスラエル/首脳会談の実施] 

イスラエルのネタニヤフ首相はワシントンを訪問し、28日午前、トランプ米大統領とホワイトハウスで非公開会談を行った。両首脳の会談は、第2期トランプ政権発足以降、今回で8回目となる。訪米の名目は故リンゼー・グラム上院議員の葬儀への参列だったが、実際にはトランプ氏との直接会談が最大の目的とみられている。首相は異例の秘密裏の出発を行い、同行記者を認めず、会談日程も公表しないなど、透明性を欠く対応が目立った。 会談後、ホワイトハウスは「前向きで実り多い内容だった」と発表したものの、両首脳の間には依然として重要な意見の隔たりが存在する。最大の焦点はイラン問題で、ネタニヤフ氏は米国による対イラン圧力や軍事関与の強化を求めている一方、トランプ氏は「状況は十分把握している」と述べ、首相から説明を受ける必要はないとの認識を示した。また、トルコへのF-35戦闘機売却問題でも、トランプ氏はイスラエルの反対に不快感を示し、ネタニヤフ氏の対米影響力の低下をうかがわせた。 一方で、両者の関係が決定的に悪化したわけではない。トランプ氏は中東政策や自身の政治戦略においてイスラエルとの連携を重視しており、ネタニヤフ氏も10月末に国内選挙を控える中、米国の強力な後ろ盾を必要としている。双方とも政治的利益のために協力関係を維持する必要があり、相互依存の構図は続いている。 しかし、ネタニヤフ氏への逆風も強まっている。ホワイトハウス前ではイスラエル人やユダヤ系米国人による抗議活動が行われ、今週発表された米国の世論調査では、約半数が同氏の米国内での逮捕を支持し、過半数が同氏に否定的な印象を持っていることが明らかになった。民主党議員からは、ICC(国際刑事裁判所)の逮捕状を理由に、「ホワイトハウスにいるべきではない」との厳しい批判も上がっている。 ネタニヤフ氏の前回2月の訪米後には、米イスラエルによる共同の対イラン軍事作戦が開始された経緯がある。今回の会談でも具体的な協議内容は明らかになっておらず、今後のイラン情勢にどのような影響を及ぼすのか注目される。

[フィリピン/施政方針演説] 

7月27日、マルコス大統領は施政方針演説を行った。演説の中で、治水事業の汚職に関与した請負業者や政府高官を起訴したことを報告するなど昨年来政治問題となってきた汚職スキャンダルの対応について触れたほか、LPG・灯油など石油製品の物品税停止、公共交通や高速道路の料金引き下げ、ジプニーなど公共交通事業者向け支援の実施などの成果を紹介した。 フィリピンでは大統領の再選は禁止されているため(任期6年)、マルコス大統領は続投できない。2028年に実施される次期大統領選挙には、マルコス氏と対立するサラ・ドゥテルテ副大統領が出馬するとの観測が高まっている。そのため、マルコス氏の任期の残り2年間は、雇用創出・インフレ対策・汚職取り締まりなど国民に幅広く支持される政策を加速させると考えられる。フィリピンでは日本と異なり下院の優越が存在せず、法案成立には下院・上院両院での過半数の可決が必要となる。下院はマルコス氏を支持するマルコス派が過半数を占める一方で、上院ではドゥテルテ氏を支持するドゥテルテ派が一定割合を占める。今回の演説の中では、個人所得税の非課税対象を現在の年収25万ペソ(約66万円)以下から35万ペソ以下に拡大、小規模零細企業を最低法人所得税の適用対象から除外することや、電気料金の引き下げなど、イラン情勢を受けたインフレ対策が複数言及されている。またニュークラークシティーで計画されている先端産業拠点「パックス・シリカ産業ハブ」を軸に質の高い雇用を創出すると言及している。これらの政策はマルコス派・ドゥテルテ派双方より支持を得やすいと考えられる。世論調査機関OCTAリサーチによる6月・7月の調査では、マルコス氏の支持率は47%と前回3月から8ポイント低下した。治水事業を巡る汚職スキャンダルやイラン情勢を受けたインフレ高騰などを背景に国民からの逆風が強まる中で、上記政策を通じて、マルコス氏はレガシー作りに注力すると考えられる。 他方で、上記政策を実施するための財源が確保できているか疑問視する声もある。フィリピンは2024年・2025年の財政赤字GDP比が5.7%・5.6%とASEAN5諸国の中で最も高い水準を記録している。公的債務GDP比も過去3年間は上昇傾向にある(2025年は65%)。上記政策により財政赤字・公的債務が拡大することで利払負担が増加し、ひいては経済政策の自由度が失われかねない。

[中国/過剰生産能力に反論] 

7月28日、中国商務部は「いわゆる『過剰生産能力』問題に関する中国の立場」と題する1万字以上の文書を公表した。欧米の「過剰生産能力」批判に全面的に反論する内容となっている。 文書では、①「過剰生産能力」は市場経済では一般的な現象であり、WTOやIMFにも統一的な定義は存在しない、②産業補助金や貿易黒字は過剰生産能力を意味せず、補助金は欧米も広く活用している、③中国の競争力は補助金ではなく技術革新や巨大市場、激しい競争によって形成された、④中国は「中国ショック2.0」ではなく「中国機会2.0」を世界にもたらしており、保護主義ではなく自由貿易を維持すべきだ、と主張している。 この文書が公表された背景には、中国製EVや太陽光パネルなどをめぐる欧米との摩擦の激化がある。EUは中国製EVへの追加関税や外国補助金規則(FSR)を導入し、中国の産業政策への警戒を強めている。また、中国とEUは新たな中欧経済貿易協議の枠組みで補助金や貿易不均衡について議論を始めており、中国としては交渉を有利に進めるため、「過剰生産能力」という批判自体に理論的な反論を提示する意図がある。文書は、欧米の対中規制を「保護主義」「経済問題の政治化」と位置付け、中国の産業政策の正当性を国際社会に訴える狙いがある。 もっとも、中国の主張には反論も多い。①「過剰生産能力」という用語の定義に注目することで、中国経済の構造問題から論点をずらそうとしている、②中国では地方政府や国有銀行が企業への支援を続けるため、市場原理による設備縮小や市場からの退出が十分に機能せず、供給能力が維持・拡大されやすい、③中国はGDPに占める家計消費の比率が低く、投資を優先する成長モデルを続けてきた結果、国内で吸収できない供給が輸出に向かい、巨額の貿易黒字を生み出している、等の批判がある。欧米が問題視しているのは個々の補助金や競争力そのものではなく、国家主導の投資と消費不足が生み出す構造的な供給過剰だが、中国の認識との隔たりが近い将来に縮まる可能性は小さい。

[アルゼンチン/IMFは評価] 

2026年7月、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事がアルゼンチンを訪れ、ミレイ政権による経済改革の成果を確認した。かつてIMFとアルゼンチンの関係は危機対応と追加融資の繰り返しであったが、自立への期待が高まっている。 アルゼンチン経済は改善傾向を示しており、インフレ率はミレイ政権発足直後の約300%から大幅に低下し、国債価格も上昇した。中央銀行の外貨準備高は回復しつつあり、経済成長も再開している。また、バカ・ムエルタのシェールオイル・ガス開発が進展し、多額の海外投資が流入していることも追い風となっており、これをIMFも評価したかたちだ。IMFは、2025年に追加で締結した総額200億ドルの支援プログラムの下で改革を支援している。ゲオルギエワ理事は、アルゼンチンが2027年の大統領選挙まで追加融資を必要としない可能性が高いとの見方を示した。これは、長年にわたりIMF支援に依存してきたアルゼンチンにとって大きな前進となる。 ただし、アルゼンチンは2026年9月からIMFへの元本返済を開始する予定であり、2026年後半だけで利息を含めた支払額は最大30億ドルに達する見込みとなっている。現在の融資残高は500~600億ドル億ドルとみられ、2027年には返済負担が倍増し、2028年から2031年にかけては年間95億ドル以上の支払いが発生するとされる。返済計画は2042年まで続くため、財政運営の安定性が重要な課題となる。 アルゼンチンは過去70年余りの間に23回ものIMFプログラムを利用してきた。2018年には過去最大規模となる570億米ドルの支援枠が設定されたが、その後も経済危機が続き、2022年には借り換えを目的とした新たな合意が締結された。ミレイ政権発足以前には、三桁インフレや景気後退、外貨不足が深刻化しており、IMF支援の効果に対する懐疑的な見方も根強かった。 アルゼンチンがIMF依存から脱却できるかどうかは、今後数年間の政策継続性にかかっている。財政規律の維持、構造改革の継続、外貨準備の積み上げに加え、2027年の選挙後も改革路線が維持されるかが重要な焦点となる。仮に改革が中断されたり、経済成長が鈍化したりすれば、再びIMFの支援が必要になる可能性も否定できない。 もう一つの課題は国際金融市場への本格復帰である。IMFはアルゼンチンが海外市場での資金調達能力を回復することを期待しているが、ミレイ政権は現時点で新たな海外借り入れに慎重な姿勢を取っている。また、改革の成果だけでなく、将来の政権交代によって政策が転換するリスクを警戒する声も根強い。現在の改善が一時的なものではなく、中長期的な改革成果として定着するかを投資家は注視している。アルゼンチンは確かに長年の債務依存サイクルから脱却しつつあるが、完全な自立を達成したとはまだ言い切れない。今後数年間が、その成否を決定づける重要な期間となる。

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