ロシア、対トルコ経済制裁を発動

2015年12月21日

国際部
アントン ゴロシニコフ

概要

 ロシア政府は、トルコ軍によるロシア機撃墜に対する報復措置として、2016年1月からトルコ産の農産品の輸入を禁止することを決めた。トルコ人を対象としたビザ免除措置の撤回や、ロシア人のトルコへの渡航禁止などの制裁措置も決定した。また、ロシア国防省は2015年12月2日、シリアやイラクで活動する過激派組織「イスラム国(IS)」による石油密輸にトルコのエルドアン大統領の子息が関与していると指摘しており、ロシア・トルコ間の政治・経済関係は急速に悪化している。

 

1. トルコ産農産品の一部輸入禁止

 プーチン露大統領は2015年11月28日、トルコ産の商品の輸入やトルコへの渡航の制限などを盛り込んだ大統領令に署名し、それに基づいてロシア政府は12月1日、トルコ産品の輸入禁止リストを発表した。制裁対象になったのは主にトルコ産の野菜や果物。

 

図表① トルコ産品の輸入禁止リスト

トルコ産品の輸入禁止リスト
(出所:ロシア政府のHPより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 これらの品目の輸入は2016年1月1日から禁止となり、ロシアはエジプト、イラン、アゼルバイジャンなどから代替を輸入できるよう交渉を始めている。品目別で、特にトルコへの依存度が高いのは、トマト(輸入品のうち4割以上)、ブドウ(同約4割)、キュウリ(同約3割)、ネギ(同約1割)である。ロシアではウクライナ危機に伴う対露制裁の報復措置として、2014年8月に欧米からの農水産物の輸入禁止を決めているので、既に食品の一部に値上がりが起きている。今回のトルコ産の野菜と果物の輸入停止はロシア国内における物価上昇にさらに拍車を掛けると懸念されている。

 

2. 観光業、ビザなしの交流に打撃

 一方、制裁の一環としてロシア政府はトルコへのチャーター便の運航を停止し、ロシア外務省はロシア国民にトルコ訪問を控えるよう勧告した。政府方針に従い、ロシアの旅行会社は相次いでトルコ行きツアーの販売中止を決めた。年間400万人以上のロシア人が観光でトルコを訪れており、ロシア人観光客による売上高は2014年には約27億米国ドル(対GDP比0.3%)に達していたので、トルコにおいて、ロシアの輸入規制に加え、このようなサービス分野の減収などによる悪影響が懸念される。また、2016年1月からトルコ人に対する査証(ビザ)免除措置が停止されることも決まった。また、特定業種においてロシア国内でのトルコ人の新規雇用を禁じる大統領令も発令された。いろいろな局面で両国間の交流が停滞する可能性がある。

 

3. トルコ・ストリームの交渉停止、アックユ原発の未来も不透明

 今回の制裁措置には盛り込まれていなかったが、両国間で2014年12月に基本合意していたロシア産天然ガスの新パイプライン「トルコ・ストリーム」の建設計画を凍結する方針をロシア政府が発表した。トルコはロシアの天然ガスの大口顧客の一つであり、ドイツに次いで2番目に大きい輸出市場である。既存の「ブルー・ストリーム」パイプライン経由のロシア産天然ガスについては今回の制裁による影響はないと思われるが、もしトルコ市場を失うことになれば、ロシアにとって大きな損失になるはずである。トルコは今回の凍結方針を受け、アゼルバイジャンからの天然ガスを欧州に輸送するアナトリア横断パイプライン(TANAP)プロジェクトを加速させることでアゼルバイジャン政府と合意した。

 一方、トルコ南部ではロシアによる原発建設計画(アックユ原発)が進んでいるが、トルコがこれを凍結するとの報道もある(ロシアは否定)。

 ロシア統計局のデータによるとトルコは6番目に大きな貿易相手国である。一方、トルコの輸入相手国としてはロシアが1番目であり、国内のガス需要の6割近くをロシア産天然ガスに依存している。2014年の両国の貿易額は310億ドル(約 3兆7,200億円、前年比+4.9%)であった。2015年は9か月間で181億ドル(約2兆1,720億円)となっている。

 

以上

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