「西サハラ問題で揺れるモロッコ・スペイン・アルジェリア」中東フラッシュレポート(2022年4月前半号)

2022年04月22日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2022年4月18日執筆

1. 西サハラ問題でモロッコ支持に方針転換するスペインと反発するアルジェリア

 4月7日、スペインのサンチェス首相はモロッコを訪問しムハンマド6世国王と会談した。両国の関係は、2021年5月に西サハラの独立を目指すポリサリオ戦線(PF)の指導者がスペインで新型コロナの治療を受けたことから、それ以降悪化していた。だが、2022年3月にスペイン政府は西サハラに関する従来の方針を転換し「モロッコの主権下で西サハラの自治を認めるというモロッコの提案を支持する」と表明し、今回のサンチェス首相のモロッコ訪問につながった。

 

 モロッコ南部に位置する西サハラでは、独立を目指すPFと同地の主権を主張するモロッコの間で今も緊張が続いている。多くの国は国連による仲介(住民投票で同地の帰属を決める)を支持し西サハラにおけるモロッコの領有権を認めてこなかったが、今回スペインはモロッコ寄りに方針を転換した。しかし、長年PFを支持してきた隣国アルジェリアは、スペイン政府の方針転換に強く反発。駐スペイン・アルジェリア大使を本国に呼び戻し、スペインに対するガス販売価格の引き上げも示唆している(2月のスペインのガス輸入の約23%はアルジェリアから)。

 

2. 2022年のハッジは上限100万人

 4月9日、サウジアラビア巡礼省は、7月に行われるイスラム教徒による聖地メッカへの大巡礼(ハッジ)に関し、参加人数の上限を100万人(国外から85万人)とすることを明らかにした。

 コロナ禍前の2019年には250万人が参加していたハッジだが、2020年はサウジ在住者1,000人、2021年も在住者6万人の参加に限定された。参加者100万人は全盛期の半分に満たないが、ポストコロナに向けて着実に動き始めている。

 

3. トルコ:3月のインフレ率は61%を超えるも金利据え置き、1-2月の経常赤字は前年の3倍に

 2022年3月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比で61%を超え、2002年3月以来の20年ぶりの高水準となった。エルドアン大統領の低金利を志向する経済政策や、2021年のトルコリラの大幅下落、ロシアによるウクライナ侵攻に起因するエネルギー・商品価格の高騰など、複合的な要因が考えられる。4月14日に行われた金融政策決定会合でも、政策金利(14%)は4会合連続で据え置かれた。2月の経常赤字額は51.5億ドルに上り、2022年1-2月の累計経常赤字額は121億ドルと前年同期比で3倍に。リラ安やエネルギー・商品高で輸入額が大幅に上昇していることや、米国連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めによる資金の国外流出なども影響しているとみられる。

 

4. イエメン:ハーディー大統領がPLCに権限を委譲

 4月7日、イエメンのハーディー大統領が、新たに作られた大統領評議会(PLC)に権限を委譲することを発表した(同時に副大統領も解任)。PLCは、サーレハ前大統領の甥やイエメン南部の独立を目指す南部暫定評議会(STC)のリーダーなどイエメンの異なる政治・軍事リーダー8人で構成され、アリーミー元副首相が議長を務める。国連の仲介で4月2日から開始している停戦は今も継続しているが、今後PLCの8人がそれぞれの利害に固執せずにまとまることができるのか、サウジ/UAEがPLCにどの程度の影響力を保持するのか、PLCの存在を認めていないアンサール・アッラー(通称フーシ派)との交渉を行えるのかなど課題は多い。

 

5. イスラエル/パレスチナ:イスラエル国内で相次ぐテロ事件とエルサレム旧市街での衝突の発生

 イスラエルでは3月下旬以降に4件のテロ事件で計14人のイスラエル人が殺害され、同期間にパレスチナ自治区ではイスラエル治安部隊との衝突などでパレスチナ人22人が死亡した。4月15日にはエルサレム旧市街にあるイスラム教の聖地アルアクサー・モスクの周辺で(すぐ横にはユダヤ教の聖地である嘆きの壁がある)、158人が負傷、300人以上が逮捕される大規模な衝突が発生した。イスラム教の断食月であるラマダンと、ユダヤ教の過越の祭、キリスト教のイースター(復活祭)が重なったせいで、それぞれの教徒の宗教心が高まり、また宗教上の理由で人々が集まる機会も多く、同地では緊張が高まっている。2021年5月にも、エルサレムでの衝突からイスラエルーガザ戦争が勃発した。

 

6. リビア情勢

  • 4月9日、リビアの代表議会(HoR)は憲法修正の詳細を話し合う国連仲介の会議に参加する代表団12人を選出した。既に3月に選出されていた国家高等評議会(HCS)の代表団12人とともに、13日に隣国エジプトのカイロで開始された会議に参加した。

 

  • 3月のリビアの原油生産量は日量110万バレル(bpd)で、前月より6万bpd減少。4月16日、ドゥベイバ政権の退場とバシャガ政権への権限移譲およびサナッラー国営石油会社(NOC)会長の辞任を求める抗議集団がEl-Feel油田に侵入し生産活動を停止させたため、NOCは翌17日にメリタ港からの原油輸出に関し不可抗力(フォース・マジュール)を宣言。先立つ4月9日には、停戦後の治安安定に貢献してきた「5+5合同軍事委員会(JMC)」にリビアの東部勢力を代表して参加しているメンバーが一時的な参加停止を発表し、原油生産・輸出を止める可能性を示唆していた。

 

  • 4月11日、チュニジア政府は国内での野菜・果物不足や値上がりを抑えるため、市場が落ち着くまで野菜・果物の輸出を停止すると発表、輸出の6割を占めるリビアへの影響が懸念される。イスラム世界では、ラマダン(断食月)中は無料の食事を提供したり大勢で食事する機会が増えたりして、食料消費が増加することが知られている。

 

  • エジプト航空は、リビア東部におけるエジプト人労働者の増加や今後の二国間貿易の拡大を見込んで(2021年の両国の貿易額は前年に比べて60%増加している)、4月18日から11年ぶりにカイロ-ベンガジ間の1日1便の直行便運航を開始した。外国航空会社によるリビア便の再開は、チュニジア航空に次いで2社目。

 

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

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