「米・イラン高官協議と米・イスラエルによる対イラン攻撃の開始」 中東フラッシュレポート(2026年2月号)

2026年04月02日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

 

2026年3月18日執筆

 

1.米国/イラン/イスラエル:3回にわたって行われた米・イラン高官協議と米・イスラエルによる対イラン攻撃の開始

 米国とイランは、2025年6月以来約8か月ぶりの両政府高官による核問題の間接協議を、2月6日にオマーンの首都マスカットで実施した。参加したのは、イラン政府からアラグチ外相、米政府からはウィトコフ中東特使およびトランプ大統領の娘婿のクシュナー氏。その後、2月17日にスイス・ジュネーブで第2回協議、2月26日に同じくジュネーブで第3回協議が行われた。次回は3月2日にオーストリアのウィーンで技術協議を行う予定と発表されていた。しかし、予定されていた協議の2日前に、米国とイスラエルが共同作戦としてイランに対する軍事攻撃を突如開始した。なお、2025年6月の「12日間戦争」も、予定されていた協議の2日前にイスラエルが突如イランを攻撃したことで始まった。

 

 2月28日午前に行われたイスラエルによる最初の攻撃では、テヘランにあるハメネイ最高指導者の邸宅(当時、高官が集まり会議が行われていた)に対して大規模爆撃が実施された。この攻撃により、ハメネイ師や妻、娘、孫などの一族に加え、最高指導者顧問のシャムハニ氏、ナシルザデ国防軍需相、モサヴィ軍参謀総長、パクプール革命防衛隊司令官など政権・軍の指導層40人以上が一度に殺害されたとされている。イランによる報復攻撃は迅速に行われ、イランからのミサイルが同日正午までにイスラエルに到達したと報じられている。その後、イランからペルシャ湾を挟んだ湾岸諸国にある米軍基地やインフラ施設などがイランからのミサイル・ドローン攻撃の標的となり、米兵、民間人含め多くの死傷者が発生している。

 

 3月2日には、レバノンのヒズボラがイスラエルに対してロケット砲による攻撃を実施した。これに対しイスラエルは、首都ベイルートへの大規模空爆などで応じ、さらにレバノン南部への地上侵攻を開始した。イラクでも、米軍と親イラン民兵組織の間で攻撃の応酬が始まっており、戦争は瞬く間に地域全体へ拡大しつつある。

 

2.米国/イスラエル:1年で7回の首脳会談

 2月11日、トランプ米大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が、米ワシントンのホワイトハウスで会談した。第2次トランプ政権下で両者はすでに7回にわたって直接会談をしており、関係の緊密さが改めて示された。今回の会談はすべて非公開で行われ、イラン問題などが協議されたとされる。ネタニヤフ首相は、米国がイランと核問題のみの合意を結ぶことを警戒し、弾道ミサイル計画や地域の代理勢力支援停止も含めた包括的圧力の維持を求めたとされる。会談後、トランプ大統領は2月6日から開始したイランとの交渉の継続を支持し、合意の成立が望ましいとの考えを示したが、同時に合意に応じなければ厳しい結果を招く可能性も示唆した。

 

3.米国/中東:「平和評議会」の初の首脳会合開催

 2月19日、米ワシントンの「ドナルド・J・トランプ平和研究所」で、トランプ大統領主導の「平和評議会(Board of Peace)」の初の首脳級会合が開催された。会議では、ガザ停戦後の統治移行、治安安定化、復興支援の枠組みなどが協議され、イスラエルや中東諸国を含む多数の国が参加した。米国は同構想への資金として約100億ドルの拠出を表明し、他の複数の参加国も計70億ドル超の資金を拠出する方針を示した。また、治安維持のために派遣される予定の国際安定化部隊(ISF)については、インドネシアやモロッコ、カザフスタンなどが数千人規模の部隊の派遣を発表しており(2万人の動員が目標)、エジプトやヨルダンが警察官1.2万人の訓練を担う。一方で、ハマスの武装解除の実現性や国際的合意の不足(EUや日本などは正式参加を留保中)など課題も残る。

 

4.米国/シリア:駐シリア米軍の撤退・縮小

 米中央軍(CENTCOM)は、シリア、イラク、ヨルダンの国境地帯にある戦略拠点アル・タンフ基地からの撤退とシリア暫定政府軍への引き渡しを認め、シリア国防省も同基地を軍が掌握したと発表した。同基地は2014年以降、米軍がクルド人主体のシリア民主軍(SDF)と協力し、「イスラム国(IS)」掃討作戦の拠点として使用してきた。IS壊滅後もイランの影響力拡大を抑制する拠点とみなされていたが、旧アサド政権の崩壊や暫定政府の支配拡大、SDFの政府機関への統合が進んだことで米軍駐留の意義は低下した。撤退時点の米軍規模は約900~1,000人とみられ、一部部隊はイラク北部クルド自治区のエルビルやヨルダンへ移転したと報じられている。ISは領土支配を失った後も地下組織として活動を続けており、シリアの治安は依然として不安定である。残存勢力や国内統治の課題が残る中、政府の治安維持能力と国際社会との連携が今後の焦点となる。

 

5.イラク情勢

  • 2月13日、米中央軍(CENTCOM)は、シリアからイラクの拘束施設へ60以上の国籍にわたる5,700人以上のIS(イスラム国)戦闘員(成人男性)の移送を完了したと発表した。被拘禁者はイラク当局の司法管理下に置かれ、現在初期尋問が進められている。イラク政府は容疑者の出身国政府に対し、自国民の引き取りと自国での起訴を求めている。
  • 2月27日、議会選挙後の新政権樹立が難航していることを受け、バラック米大統領特使が首都バグダッドを訪問し、マリキ元首相ら主要政治指導者と会談した。議会最大会派の「シーア派調整枠組み(SCF)」が推すマリキ氏の首相再任に対し、米国は「マリキ氏が選出されれば米国によるイラク支援を見直す」として強い懸念と反対を伝えている。SCFの一部にはマリキ氏への支持撤回を検討する動きも出ているが、マリキ氏本人は立候補の意向を堅持しており、引き続き情勢注視が必要である。
  • 2月28日、米国・イスラエルによる対イラン攻撃の開始を受け、イラク国内の親イラン民兵組織(PMF)基地への空爆が相次いだ。これに対しPMFも、イラク国内の米軍施設やエルビルの米領事館へドローンやロケット弾で反撃しており、急激にイラク国内情勢が悪化している。また、ホルムズ海峡封鎖の影響でイラクの原油生産量が激減し(生産しても輸出できない→貯蔵施設にも限りがある→生産を停止せざるを得ない)、原油生産時の随伴ガス供給が途絶することによるイラク全土での停電も発生している。
  • 米国制裁で撤退したロシアのLukoilに代わり、米Chevronが西クルナ2油田の管理を引き継ぎ、またナシリヤ油田などの開発にも携わる予備合意が署名された。イラク石油部門で米企業の存在感が再び高まっている。
  • 1月の原油輸出詳細:輸出額 64.9億ドル、輸出量 日量 347.1万バレル、平均単価 60.27ドル/バレル

     

6.リビア情勢

  • 2月3日、リビアの元指導者ムアンマル・カダフィの著名な次男で、次期大統領選の有力候補とされていたサイフ・アル=イスラーム・カダフィが、首都トリポリ南西部ジンタンの自宅で武装集団により殺害された(享年53歳)。同氏は2015年に裁判所から死刑を言い渡されたが、2017年に恩赦で釈放。その後潜伏生活を送っていたが、2021年の大統領選実施の機運が高まった際に立候補を表明し、政界復帰を画策していた。事件は国内政治の緊張を高めることとなり、選挙をめぐる政治的不安定化への懸念がさらに強まった。
  • 2月11日、リビア政府は2007年以来初めて複数の外国企業に石油探鉱・生産ライセンスを付与した。提示されたブロック20区画のうち5区画が落札され、米Chevron、伊Eni、西Repsolのほかトルコ、ナイジェリアの企業などが取得した。リビアは2030年までに、現状の原油生産量日量140万バレルから200万バレルへの増産を目指している。エネルギー分野への外国投資再開として経済面で重要な動きと評価されている。
  • 2026年に入って以降、すでに560人以上がリビアから欧州を目指す地中海航路で死亡または行方不明になったと、国際機関が報告している。2011年のカダフィ政権崩壊以降、紛争や貧困から逃れるため、毎年多くの移民・難民がリビアから地中海を渡り欧州へ向かう危険な航海を試みている。リビアは現在、サハラ以南アフリカなどから欧州へ向かう主要移動ルートの一つとなっている。

     

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