「IMFが中東・北アフリカ地域の2026年の成長予測を大幅に下方修正」 中東フラッシュレポート(2026年4月前半号)

2026年05月13日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

 

2026年4月28日執筆

 

1.IMF:中東・北アフリカ地域の2026年の成長予測を大幅に下方修正

 4月16日、国際通貨基金(IMF)は地域経済見通しを発表し、2026年の中東・北アフリカ(MENA)地域の成長率見通しを大幅に下方修正した。実質GDP成長率は、1月時点の予測から2.8ポイント引き下げられ、1.1%にとどまる見込みとされた。

 

 紛争の影響により、LNG施設が損傷したカタールはマイナス8.6%、当事国のイランはマイナス6.1%、イラクもマイナス6.8%と、大幅な落ち込みが見込まれる。一方、ホルムズ海峡への依存度が低いオマーンや、代替輸出ルートを有するサウジアラビア、UAEへの影響は限定的とされる。

 

 影響はエネルギー分野にとどまらず、化学製品、肥料、観光業にも波及する見通しであり、今後は貿易ルートの多角化や地域統合の強化など、経済のレジリエンス向上に向けた投資の重要性が指摘された。湾岸諸国では短期的な財政悪化が懸念されるものの、エネルギー価格の上昇を背景に、衝突収束後は徐々に回復に向かうと見込まれる。また、レバノンについては、安定回復が最優先課題であり、長期的には改革の継続が不可欠であると強調された。

 

2.米国/イスラエル/イラン:停戦合意と交渉の行方

 米国とイランは、日本時間4月8日午前9時からの2週間の停戦に合意した。トランプ米大統領は、自身のSNSで、「イランがホルムズ海峡の完全な開放に同意することを条件に、2週間にわたりイランへの爆撃および攻撃を停止する」と発表した。これを受け、イランのアラグチ外相も、最高国家安全保障会議を代表する形で声明を発表し、イランへの攻撃が停止されれば同国も攻撃を中止すること、さらに停戦期間中はイラン軍との調整を通じてホルムズ海峡の安全な通航を確保する方針を、自身のXに投稿した。

 

 トランプ大統領は、イラン側から提示された10項目の提案を交渉の基盤とする考えを示しており、アラグチ外相も、同大統領がこの枠組みを受け入れたことを踏まえた決定であるとしている。なお、この提案には、対イラン再攻撃の禁止保証、レバノンにおけるイスラエルの空爆停止、米国による対イラン制裁の全面解除、ホルムズ海峡通過船舶からの通行料徴収などが含まれるとされる。

 

 停戦合意を受け、最終合意に向けたさらなる交渉として、4月11~12日にパキスタンの首都イスラマバードで米国とイランによる協議が行われた。米側はバンス副大統領が率い、イラン側からはガリバフ国会議長が出席し、約21時間に及ぶ交渉が行われたが、最終合意には至らなかった。その後、停戦期限は経過したものの、トランプ大統領は一方的に期限を延長し、停戦自体は継続している。

 

3.米国/イラン:イラン領内での米軍兵士救出作戦

 4月2日、イラン領内で、今回の戦争で初めて米軍のF-15戦闘機が撃墜され、乗員2人の救出作戦が実施された。ヘグセス米国防長官およびケイン統合参謀本部議長の記者会見によれば、1人目は4月3日午後、激しい砲火の中で米軍ヘリにより救出された。

 

 もう1人の負傷兵は、イラン側の捜索を逃れつつ険しい山岳地帯を約48時間にわたり逃避した。位置特定のリスクから通信を制限していたが、CIAが所在の特定に成功し、偽装情報などでイラン側を攪乱。最終的に空爆により周辺の脅威を排除し、救出に成功した。作戦には数百人規模の部隊と155機の航空機が投入されたとされる。なお、この空爆により少なくとも9人が死亡したと報じられている。

 

4.イスラエル/レバノン:停戦発効と残る不安定要因

 トランプ米大統領は、イスラエルとレバノン間の10日間の停戦合意を仲介し、レバノン時間4月17日午前0時に発効すると発表した。これに先立ち、4月14日にはルビオ米国務長官がワシントンで両国の駐米大使との三者会談を実施している。

 

 ただし、この合意には紛争当事者であるヒズボラが含まれていないこと、イスラエルが自衛権を留保していること、さらにイスラエルのネタニヤフ首相がレバノン南部への部隊駐留の方針を示しているなど、不安定要因は多い。実際、現地ではヒズボラとイスラエルの間で抑制的ながら攻撃の応酬が続いている。

 

 また、イスラエル国内でも停戦に対する批判は強く、野党のみならず与党内からも「北部住民への裏切り」との声が上がるなど、首相は政治的圧力に直面している。

 

5.イラク情勢

  • 4月5日、イラクのフセイン外相は駐イラク・イラン大使と会談し、イラク産原油を積載したタンカーのホルムズ海峡通過をイランが許可したことに謝意を表明した。
  • 4月5日、追加的な自主減産を実施しているOPECプラス加盟8か国によるオンライン会合が開催され、2023年4月に合意された日量165万バレルの追加減産について、20.6万バレル分の減産縮小を決定した。本調整は2026年5月に実施予定で、これにより同月のイラクの生産枠は日量432.6万バレルとなる見込み。次回会合は5月3日に予定されている。
  • 4月7日、3月31日に首都バグダッドで民兵組織カターイブ・ヒズボラにより拉致された米国人フリージャーナリストが、約1週間後に解放された。同氏はイラクおよびシリアで長年活動してきた49歳の女性。情報筋によれば、解放の条件として、シリア国内の米軍基地攻撃への関与が疑われイラク当局に拘束されていた同組織メンバー数名が釈放された可能性がある。
  • 4月11日、国民議会はニザール・アミディ氏(58歳)を大統領に選出した。憲法上は新議会初会期から30日以内(1月末まで)の選出が求められていたが、クルド系政党間の対立により遅延していた。大統領選出には議会の3分の2の賛成が必要であるが、第1回投票では必要票数に達せず、決選投票で当選した。2003年の体制転換以降6人目の大統領となる。同氏はクルディスタン愛国連合(PUK)の幹部で、歴代大統領の補佐官や秘書を歴任するなど、大統領府中枢で経験を積んできた実務家である。バグダッドとクルド地域双方にまたがる経歴を持ち、対立勢力間の調整役として評価されてきた。就任後は「イラク第一」を掲げ、国内の安定と協調を重視する姿勢を示している。今後の焦点は首相選出であり、宗派間の権力分担制度の下、首相はシーア派から選出される。マリキ元首相の再登板を巡る駆け引きや米国の影響もあり、複数の有力候補が競合している。
  • 4月27日、議会最大会派であるシーア派「調整枠組み」はアリ・アル=ザイディ氏を次期首相候補に指名し、大統領は同氏に組閣を要請した。同氏は南部ジカール県出身の40歳で、民間部門でキャリアを築いた実業家。持株会社アル・ワタニアの会長を務めるほか、銀行、大学、医療機関、テレビ局、小売チェーンなど多様な分野で経営に関与してきた。30日以内(5月28日まで)に閣僚を選出し、議会の信任を得る必要がある。
  • 3月の原油輸出詳細:輸出額19.6億ドル、輸出量は日量60.0万バレル、平均単価は105.19ドル/バレル

     

6.リビア情勢

  • 4月1日から9日にかけて、リビア中央銀行(CBL)とIMFによるいわゆる「第4条協議」がチュニジアで実施された。IMFは声明で、リビアの財政運営は巨額の赤字と債務の急増により持続可能ではなく、早急な財政調整が必要であると指摘した。また、原油高による一時的収入は支出拡大ではなく貯蓄に充て、改革を加速すべきと提言した。加えて、エネルギー補助金や人件費の削減といった財政再建に加え、ガバナンス強化や中央銀行の独立性向上などの構造改革が不可欠であり、石油依存からの脱却と民間主導の成長が求められるとした。
  • 4月11日、政治的に対立するリビア西部と東部の両政権は、2026年度国家予算を承認した(統一予算の承認は2013年以来)。CBLは、本予算が財政の持続可能性を支え、地域間の均衡ある発展を促進するとともに、為替の安定性向上およびリビア・ディナールの価値強化に寄与すると評価した。また、支出規律の強化による財政の歪み是正を通じて、経済に前向きな効果をもたらすとの見方を示した。さらに、合意成立に向けた仲介を支援した米国の役割を高く評価した。

     

    以上

    OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

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